過敏性腸症候群は10人に1人
日本にはどのくらいの過敏性腸症候群の患者さんがいるのか
世界的にみると、先進諸国にとりわけ多いと言われる過敏性腸症候群ですが平均して人口の10-15%を占めるといわれています[1]。
実際、日本においても10-14%の方が一生の内に過敏性腸症候群を経験するとされおり[2]、10人に1人が過敏性腸症候群で悩んでいる計算になります。
また、体質として処理されてしまい、病院や統計に入っていいない人もいると思われるので未だ疫学的な実態がつかめていない可能性もあります。
実際、下痢や便秘、排ガス(おなら)といった人に言いにくい症状と関連していることが多いため、特に若年者では相談できずに悩んでいる方が少なからずいるという印象を受けます。
ただし、過敏性腸症候群(IBS)は、いわゆる労働力人口と呼ばれる20-30歳代をピークに50歳以降では減少するとされています[2]。
なぜ、50歳前後から減少するのかはよく分かっていません。
理由の一つとしては過敏性腸症候群は会議や通勤といった特定の状況が関連していることが考えられます。
退職などに伴い、会議や通勤などの機会が減ることで、そういった状況とお腹の症状が繋がっている人では、頻度は自然と少なくなる可能性があるのではないかと推測されています。
ただし、50歳以降から発症してしまった方や、退職しても改善しない方もいらっしゃるので必ずしもそれだけが原因と言い切ることは難しいと考えます。
また、過敏性腸症候群(IBS)の自然経過では12-38%の患者で症状がいつの間にか落ち着くといわれています。
しかし、一方で30-50%の患者では症状が継続し、2-18%で症状の悪化がみられるという報告もあります[3]。
残念ながら、どんな人が自然に落ち着き、どんな人で悪化しやすいのかなどは未だよくわかっていません。
そういった情報が疫学(えきがく)という観察研究を通して今後分かってくれば、不要な検査や治療を減らし、症状に悩む方に合った治療をいち早く提供することができるようになるのではないかと期待しています。
過敏性腸症候群(IBS)がおきる仕組みや悪循環についてはまた別の項目で述べたいと思います。
おまけ
疫学研究は非常に広い分野で、データと、そのデータを正確に解釈する知識が必要になります。
今はインターネットの普及で世界中の情報に簡単にアクセスすることができるようになっている一方で、その情報の解釈はより複雑になってきています。
例えばこの過敏性腸症候群(IBS)の治療方法にしても病院での処方薬から市販薬、本研究でも扱う心理療法などがインターネットで過敏性腸症候群またはIBSと入れれば何万件と一瞬で検索されます。
こういった玉石混合の情報の中で自分にとって有用な情報を拾い上げる一つのリソースとして、厚生労働省委託事業としてまとめられた、「統合医療」情報発信サイト『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』に情報の見極めるための10か条などを参考にしていただければ幸いです。
非常にわかりやすくまとめてありますのでぜひ、ご参照ください。
本ホームページからは先方事務局に確認の上でリンクを張らせていただいております。
素材
写真:写真AC クリエイター:akizouさん
引用文献
[1]Lovell RM, Ford AC. Global Prevalence of and Risk Factors for Irritable Bowel Syndrome: A Meta-analysis. Clin Gastroenterol Hepatol [Internet]. 2012;10(7):712–21.
[2]Miwa H. Prevalence of irritable bowel syndrome in Japan: Internet survey using Rome III criteria. Patient Prefer Adherence. 2008;2:143-7.
[3]El-Serag HB, Pilgrim P, Schoenfeld P. Systematic review: Natural history of irritable bowel syndrome. Aliment Pharmacol Ther. 2004;19(8):861–70.
2020年3月4日 修正