伊坂幸太郎さんの棚、展開中です
こんにちは。
本日は投票日ですね。私は毎度投票所の行きやすさもあって期日前投票に行っているのですが、「選挙の日ってうちじゃ何故か投票行って外食するんだ」という歌詞がモーニング娘。「ザ☆ピ~ス!」にもありますように当日ならではの雰囲気、贅沢みたいなものも悪くないですよね。
とはいえ熱いですし、何時間も選挙速報を見続けるのも退屈ですし、こんなときにも読書はおすすめなのでございます。
6月の一週間休みを経て、ポラン堂古書店にはいくつかの棚が増えています。
作家さん特集をやっていきたいですね、という以前からの話もあって、村上春樹さん棚に続いて第二弾、伊坂幸太郎さん棚がつくられました。
伊坂幸太郎さん、数えてみたところ高校時代から17作品読んでいますが、本当に外れのない作家さんです。一冊で完結する長編がほとんどで、どれも一癖ありつつも愛着の持てるキャラクターがいて、謎解きや伏線回収の面白さもさることながら、全てに共通して、動きがあって、手に汗も握って、一つの映画を観たような読後感がある。
今年の5月、伊坂幸太郎の誕生日にはツイッターのハッシュタグでベスト5が盛り上がり、私自身楽しみながら呟きを拝見していましたが、今回はそこにあまり名前が出ていないのではないかな、面白いのにあんまり読まれていないのではないかな3選をやってみたいと思います。勿論、伊坂幸太郎さんコーナーにご用意している作品ですので、新たな出会いのきっかけにしていただければ、です。
『ガソリン生活』
主人公=「僕」は緑のマツダ・デミオ。車目線で進むストーリーですが、子どもっぽいかと思いきやそうでもなく、彼らの人間観察によって語られる本筋は息つく間もなく波乱ばかりとなっていきます。
ただ車同士の会話は可愛らしい。「僕」を「緑デミ」と呼ぶ、隣家のカローラ、ザッパと人間たちのスキャンダルについて、車たちに流れる噂話について話す場面はどう事態が差し迫っていても癒しです。
二か月前の免許を取得したばかりの初心者ドライバーの望月良夫とおしゃべりで頭が切れ過ぎて、会う大人たち皆に驚かれる小学五年生の弟・亨。ひょんなことから、彼らの車(緑デミ)はパパラッチから逃げている大女優を乗せることになりますが、彼女を降ろし、見送ってまもなく、彼女を乗せた浮気相手の車がパパラッチの車に追われた挙句、法定速度を破ってトンネル内を横転してしまい、結果、女優さんは死んでしまいます。意気消沈する良夫たち一家と、法定速度を40キロもオーバーで走らされた上、事故を起こし廃棄された車種も知らない車に同乗する緑デミとザッパ。やがて持ち主兄弟は、その女優を追いかけていたパパラッチに会うことになるわけですが……。
なんてあらすじは前半の前半くらいです。ありていに言えば、ここから息つく間もなく予想顔の展開へ、というやつでございます。
この物語に興味をもってもらうべく、少し言うならば、女優の浮気を追いかけ、追い詰めるパパラッチらしいパパラッチとして登場する玉田憲吾ですが、超人的に聡い小学五年生・望月亨にその本質を見破られ、やがて「玉ちゃん」と呼ばれ、二人はバディのようになっていきます。ほんと良いバディなんです。そこだけは伝えさせてください。
『残り全部バケーション』
父の浮気が原因で解散することになった早坂家。そんな父に、「友達になろうよ。ドライブとか食事とか」というショートメールが届きます。
一方、裏稼業で生計を立てていた岡田は、相方の溝口に稼業を抜けたいと伝えますがその条件として「友達を作れ」と言われます。適当に番号を押し、メールを送り、良い返事がもらえたらおまえは卒業だ、というわけです。
かくしてそんな怪しげなメールは、解散寸前の家族に届き、思い出作りにという理由で早坂家の父、母、娘は揃って誘いに乗ります。岡田を運転手に四人の不思議なドライブが展開される。これがまず一話です。
各話視点人物が変わり、時系列も変わるのでパズルのような作品にもなっています。ただまずこの一話、伊坂幸太郎のすばらしさが詰まりに詰まっていると言っていい。縒りを戻したい父の嘆きや訝しむ娘の視線やさばさばした母の秘密など、それらを興味があるのかないのかわからない飄々とした態度で受け止める岡田がとてもいい。特に、章の最後「レバーをドライブに入れておけば、自然に前に進むから」がかっこよすぎです。
きな臭い裏稼業の話へとストーリーは移っていきますが、それにしたって読後感が良い。読後感が良いでお馴染みの伊坂作品でも1、2を争う良さでございます。読後にもう一度見る爽やかな表紙、何より岡田のセリフ「残り全部バケーション」を味わっていただきたいが為、ぜひ読んでほしいです。
『クジラアタマの王様』
発行された当初、あらゆる本屋にはあの「ハシビロコウ」のポップがでかでかと立てられ、我々界隈ではついに伊坂幸太郎がハシビロコウの小説を書いたと話題になったものでございます。
特にポラン堂古書店の店主は友人からあんた好きやろとハシビロコウのテープカッターを開店祝いにもらったくらいのハシビロコウファンですから、当時は、ついに来ましたね、と人気アイドルがドラマ主演デビューしたくらいのテンションで盛り上がっていたのでした。ちなみに、会計用のテーブルにそのハシビロコウのテープカッターはありますので、よろしければ目を合わせてみてください。
冒頭からハシビロコウ、しかしそのハシビロコウがどう物語に絡んでくるのかというと何だかどうしても一言では表せないのでございます。
主人公は製菓会社のサラリーマン。広報担当なだけあってこの時勢らしいスキャンダルに奔走したり、クレームを処理したりというのが第一話です。
特徴的なのが漫画なのか絵本なのか、ところどころにイラストが挟まれるところです。それらに台詞はなく、ただただ巨大なハリネズミやトラと戦っているらしいということだけがわかります。このイラストが意味を持ち始めるのが、政治家・池野内議員が主人公に接触をしてくるという場面から。彼は以前夢の中で、主人公とあともう一人と三人で、巨大なオオトカゲに挑んだことがあるというのです。
やがてそのイラストが作品内の現実のストーリーとリンクするようになってくるという不思議な展開を迎えます。
この作品のいいところとして、主人公も舞台も変わりませんが時代はなかなか前に進むということ。回想も入れると20年以上の時代を経ていることになるという奥行です。お腹の中にいた娘が成長したり、主人公の社内の立場や社長が誰それに変わっていくという、各話ごとのサプライズもあるわけです。
そして新型インフルエンザの蔓延によってマスク社会になり、世の中に緊張が漂う様子などは本当に2019年出版で合っているのかと何度も疑ってしまいます。伊坂さんの作品が近未来を描いていることは多くあるのですが、これほど示唆するものだとこの楽しいだけじゃない、別の強い力に引き込まれそうになります。
一旦以上です。
本当に作品ごとに思い入れのある作家さんなので、またこのブログにも登場してもらいそうな気がします。
今回、伊坂さんの記事にしようというのは冒頭にも上げました通りコーナーができたことが理由なのですが、一昨日のあのニュースですね、どうでしょう、私みたいに現実逃避も交えた気持ちで、伊坂作品みたいだなぁと思った人はいなかったでしょうか。実際ケネディ大統領暗殺をモチーフにした『ゴールデンスランバー』もありますし、いやでも、それだったら伊坂さんのというより、ケネディ大統領のときのようだ、ですかね。
フィクションならいい、フィクションなら見つめられる。現に、伊坂さんの作品のようだなぁ、と思ったことは少しだけ私の気持ちを軽くしました。事態を軽く見るな、と言われたなら、それはそうなんですが。
ありとあらゆること、あまり根を詰めないようにしてください。
楽しいと思えるものと、楽しいと思える心をこれからも大事にして参りましょう。
それではまた。