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源法律研修所

獅子身中の虫と国籍法

2022.07.11 09:10

 昨日、参議院通常選挙の事務をご担当なさった職員のみなさん、お疲れ様でした。

 夜、テレビは、開票速報一色だったので、ちょっとネットサーフィンをしてみたら、「アメリカでは国会議員に立候補する場合、家系と血統、宗教を公表することが義務で、違反すると禁固刑になります。特に家系は両親の祖父母までさかのぼり公表しなくてはなりません。」という書き込みを偶然見つけて、びっくり仰天した。

 こんな話を見聞きしたことがなかったので、真偽の程を確かめるべく検索したら、やはり嘘だった。


 

 さて、以前、アメリカ合衆国の市民権を取得する(帰化する)ためのハードルが高いことを述べ、帰化市民は、大統領になることができず、大統領になるためには、アメリカ生まれのアメリカ市民であること、または、海外で生まれても両親がアメリカ市民であることが必要だと述べた。


 上下連邦議会の議員には、アメリカの市民権を取得した者(帰化市民)もなることができるが、帰化して直ぐに立候補できない仕組みになっている

 すなわち、連邦下院議員の候補者は、米国市民となって7年以上経過しており、選出される州の合法的居住者でなければならない。

 また、上院議員候補は、米国市民となって9年以上経過しており、選出される州の合法的居住者でなければならない。

*「出生による米国市民」とは、出生時に米国市民となり、米国籍取得の必要がない者を指す。


 戦前の我が国も、旧国籍法第16条により、帰化人等の権利を制限していた。

 すなわち、帰化人等は、「国務大臣」、「枢密院の議長、副議長又は顧問官」、「宮内勅任官」、「特命全権公使」、「陸海軍の将官」、「大審院長、会計検査院長又は行政裁判所長官」、「帝国議会の議員」には、第17条の例外に当たる場合を除き、原則として就任権がなかった。


cf.國籍法(明治三十二年法律第六十六號)

第十一條 日本ニ特別ノ功勞アル外國人ハ第七條第二項ノ規定ニ拘ハラス内務大臣勅裁ヲ經テ其歸化ヲ許可スルコトヲ得

第十六條 歸化人、歸化人ノ子ニシテ日本ノ國籍ヲ取得シタル者及ヒ日本人ノ養子又ハ入夫ト爲リタル者ハ左ニ掲ケタル權利ヲ有セス

一 國務大臣ト爲ルコト

二 樞密院ノ議長、副議長又ハ顧問官ト爲ルコト

 三 宮内勅任官ト爲ルコト

四 特命全權公使ト爲ルコト

五 陸海軍ノ將官ト爲ルコト

六 大審院長、會計檢査院長又ハ行政裁判所長官ト爲ルコト

七 帝國議會ノ議員ト爲ルコト

第十七條 前條ニ定メタル制限ハ第十一條ノ規定ニ依リテ歸化ヲ許可シタル者ニ付テハ國籍取得ノ時ヨリ五年ノ後其他ノ者ニ付テハ十年ノ後内務大臣勅裁ヲ經テ之ヲ解除スルコトヲ得

 帰化人等が国務大臣や帝国議会の議員などの公職に就任できない理由について、明治32年3月の『国籍法案参考書』は、「直ちに本条に列挙する如き権利の享有を許すは危険なりとの理由に基づくものなり」と説明している。

 どのような「危険」があるのかについては、上記『国籍法案参考書』では明らかにされていないが、例えば、三輪富十・岩崎徂堂 著『国籍法註釈』(榊原文盛堂、明治32年4月)は、「大抵各国何れの国においてもこれらの帰化人に対してその重要なる権利を択んで附与せざるを常則とせり。」と説明した上で、「もしこれらの帰化人に向って何等の条件を要せずこれを与うるものとせば真にその国を慕って帰化するの意なきもの一時偶然我が国に帰化し国務大臣となりあるいは帝国議会の議員とならんが以って我が国の国益を阻害し己の本国を利するの徒続々跡を断たざるに至るや明らかなり又実に立法の精神に反するものと云わざるを得ず」と述べている。

 この点、昭和59年8月2日参議院法務委員会の答弁に立った政府委員の枇杷田泰助法務省民事局長は、「旧国籍法の十六条にただいま御指摘のような条文があるわけでございますが、これは国の重要な意思決定あるいは国権の重要な作用を担当する者につきましては、かつて外国人であったという方については適当でないということを考えてこういう規定を設けただろうと思います。そのようなかつて外国人であった者については適当でないという考え方は、まだ十分に日本人になり切っていないのではないかという危惧がある、そういう者が国の意思を決める重要な地位に立つというふうなことは若干危険ではないかというような発想からこのような規定が設けられたというふうに古い書物などには書いておるところでございます。私どももそういうことで置かれた規定であろうというふうに想像いたしております。」と回答している。


 戦前と戦後で帰化人等のかかる危険性に変化があったわけではないのに、戦後、国籍法が全部改正されて、現行の国籍法(昭和二十五年法律第百四十七号)には、旧国籍法第16条に相当する規定が置かれていない。したがって、日本に帰化したその年に国会議員に立候補することができる。


 私の調べ方が悪いのかも知れないが、国籍法の改正にあたって帰化人等の公職就任権の制限について国会で議論された形跡が見つからなかった。


 この点、昭和59年8月2日参議院法務委員会の答弁に立った政府委員の枇杷田泰助法務省民事局長は、「旧国籍法にはただいま御指摘のような規定がございましたけれども、現在の国籍法にはそのような規定は設けられておりません。さらに二重国籍がふえることになるであろうというふうな予想をしておりますこのたびの改正法におきましても、このような規定を設けることをしておらないわけでございます。それは旧国籍法のようなそういう危惧の念というものをこれは持つ必要はないだろう、殊に非常に民主主義というものが強く打ち出されました新憲法下におきましては、そのようなもし他国籍もあわせ持つ者とか、あるいはかつて外国人であった方であっても、これは要するに国民の意思、そういうようなものによって重要な国権の作用を果たす者が選ばれていくということでありますから、そういうところで実質的にチェックできるであろうというふうなことも考慮されているところだと思いますが、現在ではそういうような危惧を法律上とる必要はないという立場にあるものと考えております。」と回答している。

 民主主義と国家安全保障とは別次元の問題であって、前述したように、移民の国であるアメリカ合衆国ですら一定の制限を加えているというのに、お人好しというか、平和ボケというか、頭がお花畑になっているのではないかと思わざるを得ない。


 例えば、蓮舫氏は、ご自身の二重国籍問題については、きちんと説明責任を果たされていないのに、今回の参議院通常選挙で4回目の当選を果たしているが、これで「実質的にチェック」できていると言えるのだろうか。

 しかも、なんでもかんでも「ヘイトだ!」、「差別主義者だ!」とレッテルを貼って自由な言論を抑圧する世の風潮において、民主政の過程によって「実質的にチェック」することが果たして可能なのだろうか。甚だ疑問だ。


 「獅子身中の虫」とは、「獅子の体内に寄生して、ついには獅子を死に至らせる虫の意」をいう(『デジタル大辞泉』小学館)。

 国籍法を改正して、せめてアメリカ並みに、獅子身中の虫が容易に公職に就けない仕組みを作ってもらいたいものだ。