えんとつ町のプペル博多弁版
後編
つぎん日、ルビッチはアントニオたちにかこまれてしもうた。
「やい、ルビッチ。デニスがかぜでたおれたくさ。
ゴミ人間からもろうたバイキンが原因やろ?」
「プぺルはちゃんと体ば洗うとーばい。バイキンなんてなか!」
「とんだうそばつきやがる! きのうもあんゴミ人間はくさかったろうが。
おまえん家は親子そろうてうそつきたい」
たしかにプぺルん体はいくら洗うてん、つぎん日にはくさくなっとった。
ルビッチにはかえすことばがなか。
「なんでゴミ人間なんかとあそんでんばい。空気ばよめや。おまえもコッチに来んか」
かえりみち、トボトボとあるくルビッチんもとにプぺルがやってきた。
「ねえ、ルビッチ。あそびにいこうや」
「……またくさくなっとーやんか。そのせいで、ぼくはきょう、学校でイジメられたんや。いくら洗うてんくさくなるキミん体のせいで!」
「ごめんよ、ルビッチ」
「もうキミとは会えんばい。もうキミとはあそばん」
それから、ふたりが会うことはのうなった。
プぺルはルビッチと会わんくなってから体ば洗うことものうなり、
ますますよごれてゆき、ハエがたかり、どんどんきたのう、どんどんくさくなっていきよる。
プぺルん評判はわるうなるいっぽうやった。
もうだれもプぺルにちかづこうとはせん。
あるしずかな夜。
ルビッチのへやの窓がコツコツと鳴った。
窓に目ばやると、そこには、すっかりかわりはてたプぺルん姿があった。
体はドスぐろく、かたほうん腕もなか。
またアントニオたちにやられたんやろう。
ルビッチはあわてて窓ばあけた。
「なん、プぺル? ぼくたちはもう……」
「……イコウ」
「なんばいいよっと?」
「いこう、ルビッチ」
「ちょっとまたんね。どげんしたとか?」
「いそがな。ぼくん命がとられるまえにいかんと」
「どこいくと」
「いそがな、いそがな」
たどりついたんな、ひともよりつかん砂浜。
「いこう、ルビッチ。さあ乗って」
「なんいいよっと、こん船はこわれとーけんすすまんばい」
おかまいなしにプぺルはポケットから大量ん風船ばとりだし、
ふうふうふう、と息ばふきこみ、風船ばふくらましよる。
ふうふうふう、ふうふうふう。
「おいプぺル、なんしよっと?」
ふうふうふう、ふうふうふう。
「いそがな。いそがな。ぼくん命がとられるまえに」
プぺルはふくらませた風船ば、ひとつずつ船にむすびつけていった。
船には数百個ん風船がとりつけられた。
「いくよ、ルビッチ」
「どこね?」
「煙のうえ」
プぺルは船ばとめとったロープばほどいていった。
「ホシばみにいこう」
風船ばつけた船は、ゆっくりと浮かんでいく。
「ちょっとだいじょうぶかい、コレ !?」
こげん高さから町ばみおろすんな、はじめてやった。
町ん夜景はばりきれいやった。
「さあ、息ばとめて。そろそろ煙んなかにはいるばい」
ゴオゴオゴオゴオ。
煙んなかは、なんもみえん。ただただまっくらやった。
ゴオゴオちゅう風ん音にまじって、プぺルのこえが聞こえる。
「しっかりつかまるくさ、ルビッチ」
うえにいけばいくほど、風はどんどんつようなりよった。
「ルビッチ、うえばみてごらん。煙ばぬくるばい! 目ば閉じたらつまらん」
ゴオゴオゴオオオオ。
「……父ちゃんなうそつきじゃなかった」
そこは、かぞえきれんほどん光でうめつくされとった。
しばらくながめ、そして、プぺルがいわした。
「かえりはね、風船ば船からハズせばよか、ばってん、いっぺんにハズしちゃつまらん。
いっぺんにハズすと急に落っこちてしまうけん、ひとつずつ、ひとつずつ……」
「なにいってんばい、プぺル。いっしょにかえるっちゃろ?」
「キミといっしょにいるんは、ここまでばい。
ボクはキミといっしょに『ホシ』ばみることができてほんとうによかったばい」
「なんいいよっとか。いっしょにかえらんね」
「あんね、ルビッチ。キミが失くしたペンダントば、ずっとさがしとったんよ。
あんドブ川んゴミはゴミ処理場にながれつくけん、
きっと、そこにあるとおもったったい」
「ぼく、ゴミ山で生まれたゴミ人間やけん、ゴミばあさることには、なれっこなんや。
あん日から、まいにちゴミんなかばさがしたんやけど、ぜんぜんみつからんで……。
十日もあれば、みつかるとおもったんやけど……」
「プぺル、そのせいでキミん体は……ぼく、あれだけヒドイことばしてしもうたのに」
「よかよか。キミがはじめてボクにはなしかけてくれたとき、
ボクはなにがあってんキミん味方でいようと決めたっちゃん」
ルビッチん目から涙がこぼれた。
「それに、けっきょく、ゴミ処理場にはペンダントはなかった。
ボクはバカやったばい。
キミが『なつかしかニオイがする』ていったときに気づくべきやった」
プぺルは頭んオンボロ傘ばひらいた。
「ずっと、ここにあったとよ」
傘んなかに、銀色んペンダントがぶらさがっとった。
「キミが探しとったペンダントはココにあった。ボクん脳ミソさ。
なつかしかニオイんしょうたいはコレやったんやなあ。
ボクんひだり耳についとったゴミがのうなったとき、ひだり耳が聞こえんくなった。
同じごと、こんペンダントがのうなったら、ボクは動かんくなる。
ばってん、こんペンダントはキミんもんや。キミとすごした時間、
ボクはほんとうにしあわせやったばい。ありがとうルビッチ、バイバイ……」
そういって、プぺルがペンダントばひきちぎろうとしたときやった。
「つまらん!」
ルビッチがプぺルん手ばつようつかんだ。
「なんしよっとか、ルビッチ。こんペンダントはキミんもんや。
それに、こんままボクが持っとっても、そのうちアントニオたちにちぎられて、
こんどこそほんとうにのうなってしまう。
そげえしたらキミは父さんの写真ばみることがでけんごつなる」
「いっしょに逃げればよかやんか」
「バカなこというもんじゃなか。ボクといっしょにおるところばみつかったら、
こんどはルビッチがくらわさるかもしれんぞ」
「かまわんばい。痛みはふたりでわければよか。せっかくふたりいるっちゃろ」
エンディングに続く……