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とある冒険者の手記

A.蝶の解放

2022.04.22 02:05

バルデシオン分館のナップ·ルームが並ぶ廊下。

ガウラの居る部屋へと足を進めるルナの姿があった。

途中、グ·ラハとすれ違った時に、ガウラが部屋にいることが確認できた。

目的の部屋の扉に辿り着きノックをすると、扉が開き、ガウラが顔を出した。


「ルナ…か。随分早かったね」

「うむ。ちょうど集落の方に用のある者が来たのでな。直ぐに話が付いた」


そのまま2人は部屋に入り、情報をやり取りする。

そして、ルナはガウラに尋ねた。


「そうだ。お前さん、ヴァルという者を呼び出せるか?」

「呼べば出てくると思うけど、何故?」

「枷の話と、伝言を頼まれてな」


それだけで理解したガウラは、開け放たれた窓に向かって声をかけた。


「ヴァル。居るんだろ?」


すると、窓から忍装束姿のヴァルが部屋に入ってきた。


「事情は聞いていたろ?」

「あぁ」


ヴァルはルナの方を見る。

そして、跪いた。


「カ·ルナ様。ご要件を」

「あいや!そんなに畏まらずとも良い!私の血を濃く受け継ぐ者達は皆こうなのか??」


ルナはそう言って苦笑する。

その言葉に、顔を見合わせるヴァルとガウラ。

軽く頭を掻きながら、ルナは口を開いた。


「まあよい。要件を言おう」


そして、真剣な顔付きに変わる。


「ヴァルよ。お前さんは枷を外したいと思うか?」


その問いに、ヴァルはルナを真っ直ぐ見つめて答えた。


「外す事が出来るのなら外したい」

「では、外して得た魔力をどう使う?」


2つ目の質問に、ヴァルは一瞬だが、目線だけでガウラを見た。

そして、静かに言った。


「ガウラを護る為に使いたい。戦闘になれば嫌でも怪我をする。彼女が魔法を使えるようになっていても、状況によっては己の回復に手が回らない時がある。そういう時に、魔力が使えない事で歯がゆい思いをするのは御免だ」


ヴァルは目を伏せ、ガウラが音信不通になった事件の事を思い出していた。


「武力はあっても、怪我に対しては薬を使った応急処置しか出来ない。魔法の様に怪我を一瞬で治すことは出来ない」

「ふむ、なるほどな。では、もうひとつ。お前さんの母親からの伝言だ。一族の掟と使命は廃止されたとの事だ。それでもなお、ガウラを護りたいと申すか?」

「それは、本当か!?」


驚くヴァルに、ルナは"本当だ"と頷く。

すると、ヴァルはペンダントを握りしめ、力強く答えた。


「掟や使命が無かろうと、ガウラが傍に居ることを許してくれる限り、あたいは彼女を護り続けるっ!」


嘘偽りない真っ直ぐな瞳に、ルナはニッ笑った。


「よかろう!では、少しお前さんの身体を視る事にしよう」

「は?視る?」


戸惑うヴァルには構わず、ルナは目を閉じた。

そして、ヴァルに手をかざす。

ヴァルは直感的に動いては行けないと悟り、じっとしている。

5分程でルナは目を開けた。


「ふむ。お前さん、純血か?」

「あ、あぁ。あたいはカ·ルナ様の直系に当たります」

「なるほど。して、この身体の主は?」

「アリスは、母上の弟の子。あたいの従弟です」

「そうか…」

「それがなにか?」

「いや、なぜお前さんではなく、アリスの中で目覚めたのかと思ってな」


ルナの疑問に、ヴァルはアリスの母親がルナの故郷の出身であることを説明した。

すると、ルナは納得したようだった。


「なるほどな。兄の家系の者が母なのか…。なんとも面白い偶然よ」


そう言って、少し懐かしそうに微笑んだ。

だが、直ぐに話を元に戻した。


「ところで、ヴァル。お前さん、詩の書かれた書物を持っていないか?」

「それなら、ヴァルに渡されて私が持っている」


ルナの質問にガウラが答え、荷物の中から書物を取り出し、ルナに渡す。


「おお!ありがたい!」


書物を受け取り、パラパラと捲り始める。

そして、あるページで手を止めた。

そこに書かれていた詩は、正しくアリスの父が記憶していた詩の場所だった。

そのページを開いたまま床に置くと、刀を抜き、書物にかざした。


白き月は白き蕾

黒き蝶は夢を見る

蕾が開く その時を

夢が叶う時

蝶を縛る 黒き茨は綻び

蝶は白く染まるであろう


ルナが唱えた術式は、書かれていたモノに一部が付け足されていた。

唱え終わると、書物が光り、それに呼応するかのように刀の刃の部分に白い光を纏わせた。

すると、ルナはヴァルに向き直った。


「ヴァル、お前さんの痣はどこにある?」

「…右の内腿だ…」

「わかった。動くでないぞ」


ルナは居合切りの構えをとった。

そして、ヴァルの太腿の辺りを一閃。

その光景に、ガウラはギョッとするが、ヴァルに外傷はなかった。


「今、お前さんの枷の一部を斬った。少しずつ枷は外れ、痣が白く染まりきる頃には身体も魔力に慣れるであろう」


呆然とするヴァルとガウラ。

その様子に小さく笑うルナ。


「一気に外してしまうと、身体が魔力に慣れぬからな」

「あ、ありがとうございます」

「あぁ、それと、一族に伝わる子守唄は唄わぬようにな。また枷が付いてしまう」

「承知しました」


ルナは刀を鞘に収めると、晴れやかな顔をした。


「これで私の役目は終わった。愛しい我が子達よ。自身の赴くまま、自由に生きよ!では、達者でな!」


そう言って目を閉じた。

その一瞬でルナの気配は消え、再び目が開いた時には、いつものアリスに戻っていた。


「おかえり、アリス」

「義姉さん、ただいまです!それにヴァルさんも!」

「……ふんっ」


アリスに戻った途端、ヴァルの態度の変わりように、思わず小さく笑うガウラ。


「ところで、黒き一族の枷の外し方は分かったが、白き一族の枷の外し方はどうなんだ?」


ヴァルの言葉にアリスは答えた。


「それは、カ·ルナさんから聞いてます。枷を外したい人がいれば、対応できます」


その言葉に、ヴァルは"そうか"と一言だけで答える。

1つの問題が解決し、3人同時に溜め息を吐いた。

その後、ルナが枷をつけた理由をガウラが訪ね、アリスが答え。

一通りの情報を共有した後、珍しくヴァルからアリスに頼みがあると言われ、2人はガウラを残して部屋を出たのだった。