彼女は
2009.03.17 14:39
彼女は僕の斜め前に立っていた。
新宿発の各駅停車で。
読みかけの本の中で
しばらく目を泳がせた後
ふと顔を上げると彼女がいた。
見も知らない女性だ。
ただ、似つかわしくない。
平日の日付が変わる前の電車の中は
世界で一番誰かに無頓着になる時間と言っても過言じゃない。
そう、彼女は泣いていた。
瞳に涙をたたえ
溢れそうになるのを必死で堪えていた。
僕はもちろん同情なんてしないし、
(それはもちろん彼女のことも、その涙の理由も知らないから)
次の駅で降りた彼女を目で追うこともなかった。
美しいものと醜いものを同時に兼ね備えるものが存在すると
ただそれを確認したに過ぎない。
冬の終わりと
春の始まりは
同じものだってことなんだろうな。
知りたいと思わない。
そんなことが最近増えた気がする。
彼女の震える唇は
そんなことを思わせた。