ペスカトーレ
パスタが好きだ。
自分でよく作る。
そんなに凝ったものは作れないけど、
一人暮らしを始めてから、少しずつ自分の好みが分かってきた。
パスタ専門店に入っても
「これは自分で作った方が美味いんじゃないか」
と、思うような時もある。
もちろん、舌の好みってものがあるんだろうけど。
いつから好きなんだっけ?
ああ、そうだ。
ちょうど、今ぐらいの時期だ。
当時、宮崎の高校生だった僕が
受験で上京した時に品川プリンスホテルに泊まった。
「なんて贅沢な」と思うだろうが
航空券とパックになっているプランだと
各々単体で購入するより遥かに安い。
チェックインを済ませた僕が
腹ごしらえしようと思っても
ホテルの外は異空間。
好きなうどん屋もラーメン屋も見当たらない。
仕方なくホテル付きのレストランに入って
入り口近くの席に座らせてもらった。
時節柄ってこともあったし
何より僕は学ランを着ていたもんだから
一目で「受験生」と分かる格好。
周りの背広姿の大人に混じって
颯爽とメニューを眺めたもんだ。
「どうせ東京に来たんだから、ちょっといいもん食おう」と思っても
書いてあるものが、どういいのか分からない。
結局、大盛りが無料というのもあって
「ペスカトーレ」にした。
あの当時、我が家にトマトソースの海鮮スパゲティであるペスカトーレが食卓に乗ったことはない。
一日5食を基本とする高校生男子にそんなんじゃ何キロあっても足りない。
パスタ、というよりスパゲティだった。
間もなく運ばれて来たペスカトーレは
実に美味そうで、飛行機に乗って電車を乗り継ぎ
やっとこさ食べ物にありつけた安堵もあってか
かき込むようにほうばった。
美味くて美味くて
皿についたトマトソースも舐め回してしまおうかとも思ったが
なんだかそれはあまりに田舎者な気がしたので
綺麗に綺麗に食べ終えた。
そんなことを思い出していたら
無性にあのレストランのペスカトーレが食べたくなって
先日の水族館の帰りに行って来た。
実に実に美味かった。
あの当時辛くてかけなかったタバスコもかけて
食後に煙草も吸うようになっちゃって
9年前の僕がもしそこにいたら、どう思うだろうな。
僕はなんて声かけるだろうな。
「これから大変だぞー」ぐらい言ってやろうかなw
受験シーズンが近づく度に
ペスカトーレを思い出す。