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とある冒険者の手記

V.名前

2022.04.22 02:10

アーモロートにある創造物管理局。

その局長室に、ヒュトロダエウスとアゼムの姿があった。


「わざわざ来てもらって悪いね」

「いや、いいさ。所で要件は?困っていると聞いたが…」


何故、彼女がここに居るかと言うと、ヒュトロダエウスからのSOSが届いたからだった。


「実はね、遠い親戚の子を一時的に預かっているんだけど、少しやんちゃな女の子なんだ。私もここの仕事があるし、四六時中見てる訳にもいかなくてね。君がもし大丈夫なら、少しの間代わって貰えないかと思ってさ」

「なるほど…僕は別に構わないが…」

「本当かい?!助かるよ!」


ヒュトロダエウスがそう言った瞬間、隣の部屋から大きな物音がした。

その音に、珍しく慌てた顔をして部屋に向かうヒュトロダエウス。

アゼムはそれを追った。

そして、部屋に入るなり、ヒュトロダエウスは嘆いた。


「あちゃ~、これまた盛大にやってくれちゃったねぇ……」


アゼムがヒュトロダエウスの後ろから顔を出し室内を見ると、記録媒介のクリスタルが散乱し、その中で1人の幼い少女が座り込んでいた。


「応接室で待っててって言ったじゃないか」

「……だって、つまんなかったんだもん………」


少し不貞腐れた表情で俯く少女。

ヒュトロダエウスは苦笑いをしていた。


「ここは資料室だから、入っちゃダメだって教えたでしょ?」

「………」


優しく注意されて黙り込む。

その様子を見て、アゼムは少女に歩み寄ると、彼女に目線を合わせた。


「ダメだと言われた場所に入ったんだ。きちんと謝りな?」


アゼムが静かにそう言うと、少女は少し驚いた表情を見せたあと、ヒュトロダエウスの方に顔を向けた。


「おじちゃん………ごめんなさい……」

「うん、いいよ。クリスタルも壊れてないみたいだし…。あとおじちゃんはやめてくれないかなぁ??」

「ふふっ」


小さく笑うアゼムを見て、少女はアゼムの頬に手を伸ばした。


「?なんだい?」

「お姉ちゃん、笑うと可愛いね!」

「へ?」


唐突に言われ、頬をうっすら赤く染める。

ヒュトロダエウスはそれを見て、"おやおやぁ?"と面白そうに笑いながらアゼム顔を覗き込んだのだった。



少女の名前はアテネ。

彼女の両親は植物関係の仕事をしているとの事だった。

両親は仕事の関係で、少し危険が伴う地域に赴いているらしく、子供は連れて行けないと言う理由で、ヒュトロダエウスに預けられたのだという。

両親の帰宅は2~3日後。

それぐらいならと、アゼムはアテネの子守りを引き受けた。

そして今、アゼムとアテネは植物園に来ていた。


様々な植物を見て周り、休憩エリアに着いた時、アテネのテンションが上がった。


「ねーねー!お姉ちゃん!見てみて!すっごい綺麗だよ!」

「これは、凄いな……」


そこは、色とりどりの花が絨毯のように広がっていた。

近くにあるベンチに腰掛けると、そよ風が髪を揺らす。

すると、アゼムの隣にアテネも腰掛けた。


「ねぇ、お姉ちゃん」

「ん?なんだい?」

「お姉ちゃんってお名前なんて言うの?」

「アゼムになる前は、ハイレシスと呼ばれる事が多かったよ」

「えー!異端なんて酷い!お姉ちゃん、とても素敵なのに!」

「ははっ…」


事情を知らないアテネに、苦笑いを返すアゼム。

すると、アテネはいい事を思いついたかのような顔をした。


「お名前がないなら、私が付けてあげる!ハイレシスなんかより、ずっと素敵な名前!」

「へ?そ、そうかい。じゃあ、お願いしようかな?」

「任せて!」


アテネの子供特有の突拍子もない提案に、とりあえず乗ってみる。

どんな名前が良いかと悩んでいるアテネ。

その時、一瞬強い風が吹き、2人のフードが外れた。

風に靡く、白にうっすらピンクが混ざったアゼムの髪を見た瞬間、アテネがボソリと呟いた。


「…ガウラ…」

「え?」

「お姉ちゃんの名前!ガウラにしよう!」


突如決まった名前に、キョトンとする。

すると、アテネは話し始めた。


「あのね!前にお母さんが作ったお花がね、お姉ちゃんの髪の色と同じだったの!とっても可愛いお花なんだよ!」


嬉しそうに語るアテネ。


「その花のお名前なの!お姉ちゃんにピッタリ!」

「そうかい。素敵な名前をありがとう」

「うん!えへへ!」


微笑み合う2人。

その名前は2人だけの秘密の呼び名になったのだった。



**************



バルデシオン分館の近くに生えた木の上で、ヴァルは目を覚ました。

空を見ると、東の空がうっすらと明るくなり始めていた。


「なん…だ?今の夢は……」


そう呟き、ガウラが寝ている部屋の窓に視線を送る。

今見た夢はなんだったのか。

だが、夢に出てきたアゼムとヒュトロダエウスの名前。

それだけで古代の時代の事なのだと推測できた。


「そうか…アテネは、あたいか…」


そう理解した瞬間、古代の時代にガウラと接点があったことが嬉しく感じた。


「ガウラ…か。こんな繋がりがあるなんてな…」


そう呟き、次第に明るくなる空を見つめ続けた。