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空想都市一番街

『僕』とレナ② ※一部性的表現あり

2022.07.13 13:25

僕とレナさんは、それからよく会うようになった。


レナさんが大学が終わった後にカフェに行ったり、散歩をしたり、ショッピングをしたり。


レナさんに言わせると僕は「私服がダサい」そうで、ちゃんとすればかっこいいのに、と言って服を選んでもらったこともあった。


僕らの仲はどんどん深まっていった。


ある日ショッピングのあと二人で居酒屋に入った。

一緒にお酒飲むのは初めてだった。嬉しいけどなんだか緊張する。


「僕くん何飲む?」

「うーん、お酒飲むの久しぶりだなあ。ビールにしようかな」

「ふふ、私も久しぶりなんだ。同じビールにする」


僕たちは生ビールを頼んで乾杯をした。

「ぷはー!美味しい!やっぱり冷えた生ビールは美味しいね。しかも、僕くんと飲むビール。」


レナさんはリラックスしているようで、そんなことを言う。表情もいつもより柔らかい。


「僕と飲むビールおいしい?」

ドキドキしながら笑って聞き返すと、レナさんはえくぼのあるあの笑顔になった。


「すごく美味しい。なんだか、嬉しくってさ。僕くんとずっと飲みたかったから。」


何でそんなこと言うんだろう。

僕はうれしいのに泣きそうになった。何で僕に、そんなこと言ってくれるの?


「僕くん?大丈夫?ほら、好きなもの食べようよ」


レナさんにメニューを見せられながら顔を覗き込まれてハッと我にかえる。

まったく、レナさんといるとこんなこと繰り返してばかりいる。


そんなこんなで僕たちは大いに飲んで、好きなおつまみを食べて、本当に楽しく一緒に過ごした。


そろそろ帰る時間になったころ。


「僕くん、今日も帰る家はないんでしょ?海辺で寝るの?」

「うん、今日は浜辺のテントで寝るよ」

「ねぇ…それならさ、その…」


珍しくレナさんがモジモジして顔を赤らめている。


「うちに来ない?今日家族出かけてて一人なの」


お酒でぼんやりする頭にレナさんのセリフがエコーがかって響いた。

う ち に こ な い ?


「変な意味じゃないからねっ…!たまには家でゆっくり寝てもいいんじゃないかなって…い、嫌ならいいから!」


僕は夢でも見てるんじゃないか。

目の前で照れてふてくされたように唇を尖らすレナさん。

僕を、家に誘ってくれてる…

酔っ払ってる力も借りて、僕はいつもより何倍も気が大きくなってる。


「嫌じゃないよ。すごく嬉しい。レナさんの家にお邪魔させてもらうよ」


僕は手を伸ばして、向かい合ったレナさんの頭を撫でた。


「ありがとう」


普段こんなことできないくせに。…お酒のせいだ。


撫でられたレナさんは潤んだ目を細めた。

例えようのないくらい色っぽくてかわいい。僕はもう、彼女を抱きしめたくて堪らなかった。


きっとそんな気持ちが顔に出ていただろう。どんな浅ましい顔してるかとたまらなく恥ずかしかったけど、どうしようもなかった。


店を出ると僕は抱きしめてキスをしたいのを堪えて、レナさんの手を握って歩いた。

暖かくて柔らかい手。ずっと繋ぎたかった手。僕の大切なレナさんの手。


「ねぇ僕くん」

「なあに?」

「私たち、きっと出会ったことがあるんだよね。初めて会った気がしないの。もし前世があるなら、きっと…」


ザァァ…と風が木の葉を撫でていった。


「うん…」


僕は彼女を抱きしめていた。

愛しいから。それに…怖かった。


「レナさん、僕のレナさん、もう二度とあなたを苦しめたくない…」


僕は無意識に呟いた。

小さな声は風にまぎれてレナさんには届いていない。


「僕くん。好きだよ。ずっと一緒にいて」

「僕もレナさんが大好き。ずっと一緒にいたい」


そしてまた手を繋いでレナさんの家に帰った。



それから。僕はたちは同じベッドで眠った。


僕は愛しいレナさんの体に触れ、その甘い声を聞き、温かい体温を感じた。


頭の中で、「馬鹿だな、馬鹿だな」と言う声が警報のように響いていた。

僕の声だ。

僕は馬鹿なことをしているのだ。分かってる。


だけど愛しさに敗れて夢中で彼女を愛してしまった。


僕の体は作り物だ。人間じゃない自分の入れものにすぎない。

なのに彼女は気付かないようだった。

それどころか愛おしそうに僕の胸を撫でた。


「僕くんの体、あったかい」

「僕で満足?」

「うん。当たり前じゃない。」

「男じゃないのに」

「そんなの、何にも関係無い」


僕は作り物の体で何度も彼女を抱きしめた。愛おしさで頭がどうかしてしまいそうだった。


僕の思惑も決意も全てが、敗北した瞬間だった。