コロナ禍で走り続けてきた3周年、今がスタートライン(山本)。世の中が動かない時間も、常連さんたちが僕らを応援しつづけてくれた(平林)。「フィエルテ」湘南・鎌倉 シェフ・山本悠太/スーシェフ・平林元気
大好きなシェフの大好きな味に会いに行く。旅のように自由気ままに。その名も、「シェフジャーニー」。見上げるとカモメが気持ちよさそうに空を舞っている鎌倉の空。江ノ島電鉄鎌倉駅すぐ近くの商店街を少し進み小路に入ると、そのお店は現れる。「レストラン フィエルテ」。ずっと行きたかった、ずっと会いたかったフレンチレストラン。2019年6月にオープンしたフィエルテを以前取材したのはコロナ禍真っ只中の2020年8月。2度目の訪問となる今回、お店の扉を開けてシェフの山本さんとスーシェフの平林さんお二人の姿を見た瞬間、この2年で間違いなく進化されてきたことを確信。わくわくした気持ちを抑えながら、山本シェフ、平林スーシェフのお二人にインタビューしてまいりました。(※山本シェフ=「山本」、平林スーシェフ=「平林」で表記)
<山本シェフ(右)と平林スーシェフ(左)二人の距離感が、いい感じ>
お客様が来なくても、ずっと店の明かりを灯しつづけた。
―今こうして、フィエルテに来れてしあわせです(笑)。
山本・平林:そう言ってもらえて、うれしいです。
―今年の6月でオープン3周年を迎えたフィエルテですが、今の心境をお聞きしたいです。
山本:3年目、今がスタートだと思っています。
―今が「スタート」。その心は?
山本:はい。本当に今がスタートだと。2020年、コロナで世の中が静まり帰っている中オープン。そして今やっとコロナが明けつつある。ある意味失われた2年を経て、ここからもう一度、自分たちはスタートするのだ、という気持ちです。ひとことで言うと、うん、やっぱり「スタート」しかないですね。
<3周年、今がスタートと語る山本シェフ>
―わたしもほぼ同じような時期に独立しています。だから「今がスタート」という想い、胸にぐっとくるものがあります。コロナで緊急事態宣言が出て、世の中がストップする中フィエルテはどのような日々を過ごされていましたか?
山本:コロナが始まったとき、正直最初は「テイクアウトなんてやるもんか!」という想いがありました。けど、何もすることもないからとりあえずいろいろ試行錯誤してみたり・・・。
平林:シナモンロールとか、ハンバーガーとか、バゲットとかパンを作ったりもしましたね。一時期パン屋と思われていたほどw
―笑笑。
<フィエルテがInstagramに投稿していた通常メニューではない料理の数々>
山本:あとはカレーとか、パスタとか、自分たちの作りたいものを作りまくっていましたね。何もしないでいるよりは、何かしていよう、ただひたすらそんな気持ちで。
―インスタでいつもいろいろなテイクアウトを作って投稿していましたよね。見ながら「ああ、フィエルテ、頑張ってる(うるうる)」と思っていました。
平林:はい。心では泣きながら、楽しむしかないと思って(笑)。
<商店街の小路を進み階段を昇ると、そこが「フィエルテ」>
どうせゼロなんだから、と開き直って・・・
山本:コロナの中オープンした1年目は、売れないときは売れない、正直傷つきました。だって、それまで自分は暇な店で働いたことがなかったから。どの店もいつも満席で、予約いっぱいで、「人が来ない」なんていう悩みに出くわしたことがなかった。だから、自分の店をオープンして、コロナで緊急事態宣言が出ているからとはいえ、予約が入らない日々が続いたのは、気持ち的にかなりダメージ食らっていました。
―でも、傍目にはすごく前向きに頑張っている様子しか感じなかった。もちろん、いろいろ悩んだり、もがいたり、苦しんだりっていうのはあるんだろうなと思いながらも。
平林:飲食店への給付金も、オープンしたばかりの僕らは前年比なんてなかったから申請すらできなかった。
―それは、、、大変でしたね。
山本:だから笑うしかない、平林と二人で「どうせ給付金もらえないんだったら、ゼロなんだったら、何も動かないでいるよりは、少しでもプラスになる可能性があることにチャレンジしてみようか」と話し合って、いろいろなテイクアウトのメニューに力を入れてみたりしていたんです。
―でも途中でテイクアウトは止められて。それはなぜですか?
<ワインを注ぐ時の平林さんの真剣なまなざし。喋っている時とのギャップがまたいい>
山本:はい。世の中が緊急事態宣言下でも、徐々にぽつぽつと予約が入りはじめて。それを見てテイクアウトは止めて「コースに絞る」という選択をしました。テイクアウトを並行してだと、来てくださっているお客様に迷惑をかけてしまうと感じたので。
平林:そういう決断をした後も、もちろん、まったくお客様が入らない日もありました。だけど、僕らは店の明かりをともし続けていました。近所の人、常連の人たちが店の近くを通りかかったときに、「ああ、フィエルテやってるんだな」と思ってくださるようにと思って。
<コロナ禍、どんなにお客様がいない日でも店の明かりを灯しつづけた>
―お店がやってるんだって思われ続けていること、小さなことだけど大切なことですよね。
平林:はい。まだまだ経済が活発になっていない時でも、常連さんたちは月1回のペースでお店を訪れていてくれました。常連のお客様は毎日1組・2組はいるペースです。僕らのことを「元気してたか?」とか心配してくださった方もいたんです。
―常連さんたちそれぞれが月に1回は来る。それはすごいこと。
山本:そう思います。だからこそ、世の中がコロナでストップしていようが、なんだろうが、僕らは店を閉めることはなかった。と言うより「閉めたらダメだ」という気持ちが強かった。
「元気にしてるか?」と、常連さんたちが僕らを気にかけてくれていた。
―このコロナ禍の中で、逆にうれしかったこともお聞きしたいです。
平林:そうですね。やっぱり常連のお客様が毎月のように来てくださるのがうれしいです。何回も来てくださる方、気にかけてくださる方がいること、それがとても幸せなことだと思っています。
山本:オープン当初から来てくれてる人が今でも来てくれるのがうれしいですね。それがコロナで時間がストップしている中、僕らの気持ちを支えてくれていた。
平林:昼夜満席のとき、全員リピーターのお客様という時もありました。
<二人が頑張っている姿を見にきたくなる常連さんたちも多い>
―すごい。ある意味、このコロナ禍の時期に近隣の常連さんたちと固い絆が育まれたというか、素敵ですね。
平林:ただ、ワインは同じ人に同じものを出さない、例えば「前回この方はこのワインを飲まれたから、今回はこのワインをお出ししよう」という風に、毎回違うものをお出しすることを心がけているのですが、お客様の来店スパンが短いので、新しいワインがどんどん増えていく。まあ、テイスティングがいっぱいできるから僕にとってはうれしい悩みなんですけどね(笑)。
―笑。
山本:一方で、2周年のときにはじめてインスタを見て来たお客様が訪れてくれて、そうやって少しづつ拡がっていって、今では常連さん以外のお客様もだいぶ多くなりました。
<気分は「天国のランチ」!フィエルテのランチコース>
平林:食べログ鎌倉フレンチNo.1や百名店に選ばれたことで店の知名度が上がり、新しいお客様もかなり増えてきました。それはそれでうれしいのですが、顏の見えない人たち故に、ドタキャンされたり、そういう今までにはなかったような悩みが出てきたのも事実で・・・。
―鎌倉フレンチNo.1、すごい!!
山本:あ、それ補足があって(笑)・・・。僕らが1位だったの“一瞬”で、食べログの2022年鎌倉フレンチ部門で一瞬だけ同率1位だったんですが、翌週あっけなく2位(2022年6月末時点)に降格されました(笑)。
平林:一瞬です。一瞬(笑)。
―(笑)。でもすごいこと!結果現在鎌倉フレンチ2位(2022年6月末時点)。数ある鎌倉のフレンチのお店の中で、オープンから3年の若い二人のシェフが切り盛りしているフィエルテが選ばれていること、胸アツです。とは言え、新しいお客様が増えるとそれはそれで今までにはなかったような悩みが、、、難しいですね。
山本:だから、店の名前や存在が知られていくのはうれしいけど、あえてあまり満席にしないようにこころがけています。
―それはどうしてですか?
顔の見えるお客様を大切にしていきたい。
山本:はい。常連のお客様に目が行き届かないようにはしたくない、僕と平林の二人で万全に対応できる範囲でやるのが一番だと思っていて。それこそ、カウンターのあるフレンチは珍しい。でもこうしてカウンターの常連さんたちとのコミュニケーションを楽しみながら料理を提供する僕らのスタイルだから、それをを守っていきたいと思っています。
平林:もちろん「もっと売上が欲しい」、と思ったときもあります。でも、その日の売上より、丁寧で誠実な対応をしつづけることのほうが、お客様に長く通っていただけるものだと今は思っています。
―食べログ鎌倉フレンチ一瞬でもNo.1とそして今現在No.2(2022年6月末時点)、また百名店にも選ばれて、着実に注目度が上がっているフィエルテのこれからの目標をお聞かせください。
山本:飲食店は3年でほとんどが潰れるという定説がありますが、ぼくらはその3周年を迎えることができた。だから次は、5周年、7周年、10周年と、年月を積み重ねていきたいと思っています。まずは20店以上ある神奈川のフレンチレストランの中でNo.1を獲ることが目標です。
平林:地元の方、常連の方に来続けていただけるお店であり続けたい、そう思っています。
山本:フレンチの概念をいい感じに変えてきいきたい。フランス料理って、まだ少し重たいイメージを持たれていると思うんです。そこを変えていきたい。もちろんベースは古典でありながらも、そこから発展させて、自由で軽やかさを楽しめる料理を提供していきたい。僕は南仏マルセイユに留学したので、そこで感じた気さくで開放的な料理の在り方を表現していきたいと思っています。
―山本シェフが南仏に留学されていたころのお話もお聞きしたいです。
山本:僕は湘南生まれで、海がある生活が当たり前という世界にずっといたから、留学先も海がある場所、南がいいなと思い、マルセイユで修業しました。マルセイユはモナコ・イタリアに面していて、移民も多く、さまざまな人種や文化が交差する都市で、つねにスパイスの香りのする街でした。ブイヤベースに代表されるように、魚介をふんだんに豪快使った料理が多く、僕の修業先も港がすぐ目の前だったから、獲れたての魚を生きたまま鍋に入れる、そういう豪快さに衝撃を受けました。
<南仏マルセイユでの修業時代を語る山本シェフ>
―釣れたての魚を生きたままで!
山本:はい。魚介以外にも、撃ったばかりのあったかい兎とかもありました(笑)。自然や生命の凄さを感じて過ごした経験の一つ一つが今の自分の料理に活きていると思います。
―修行先は日本人、ほかにいらっしゃいました?
山本:いいえ、僕一人だけで、街にも日本人は僕一人だけでした。治安もよくない街だったので、強盗に遭ったり、病気になったり、いろいろ大変なこともたくさんありましたが、今となってはよい思い出です。
―山本シェフのお父様もシェフをされていたんですよね。山本:はい。辻堂と湘南台の間で18年、ビストロをやっていました。
―18年。すごいですね。
山本:はい。尊敬しています。料理人として頭が上がらない存在です。
―最後にお二人にそれぞれ言葉をかけるとしたら?
山本・平林:えっ??(照)
平林:じゃ、じゃあ、僕から。オープンするときに「湘南No.1になる!」と言っていた目標をこのコロナ禍で一瞬とはいえ実現した。(山本シェフの)有言実行、その行動力やチャレンジ精神、心からすごいと思っています。同年代でここまでストイックにやる人いないし、結果を出す人見たことなかったので、最初は悔しいという気持ちがあったけど、今では尊敬に変わりました。
―山本さんから平林さんへ一言、お願いします。
山本さん:んーー、、、ないっすねw。
(一同爆笑)
<有言実行の山本シェフに対し、同年代として悔しさから尊敬の気持ちに変わったと語る平林スーシェフ>
山本:(笑)。うそうそ。冗談で。でもまあ、料理もそうですけど、自分はわがままに作ってるので、今のところそれを汲み取ってくれているので、それは彼のいいところ、すごいところだと思います。でも、ありがとうまでは言わないです(笑)。
―めちゃめちゃ阿吽の呼吸ですもんね。二人の距離感がいい感じです。
平林:僕ら本当に飲みにいったりしないんで。この間すごく久しぶりに行って、気まずかったです(笑)。
山本:帰り道、江ノ電まで一緒なんですけど、改札抜けたら一切別行動ですから。僕ら(笑)。
―笑。だからいいんでしょうね。またお二人の掛け合いを見に会いに行きます。ありがとうございました!
聞き手:鬼ヶ島 蘭々(グルメライター)
Photo by 清水伸彦 @shimizu_nobu_
<fiertē(フィエルテ)>
所在地 :〒248-0012 神奈川県鎌倉市御成町 2-14-2 Onari Ever Village(B) 2F
アクセス :各線鎌倉駅より徒歩3分
TEL/FAX :0467-33-5105
営業時間 :12:00-12:30(LO) 18:00-19:00(LO)
定休日 :毎週水曜・月2回ほど休み
Webサイト:https://fierte-kamakura.com/
ご予約:https://www.tablecheck.com/shops/fierte/reserve
Instagram:@restaurant.fierte
山本悠太(やまもとゆうた)/シェフ (写真:右)
2008-2012 Royal Park Hotel
2012-2013 渡仏 Une table au sud
2014-2016 銀座L'écrin
2016-2018 La table de Toriumi
2018-2018 L’orguil
2019- 湘南界隈のレストランを経て6月27日、 Fierte Open
平林元気(ひらばやしげんき)/スーシェフ (写真:左)
2012年リストランテリアル(横浜)
2014年Trattoria Moderea Gatti(横浜)
2016年臥薪(藤沢)
2017年Ristorante Siva(七里ガ浜)
2018年Restaurant Fierté(鎌倉)
「フィエルテ」名前の由来:フランス語で「プライド=誇り」を意味する店名は、その名の通りプライドを持って料理を提供することを信念としている。