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経絡治療からみたむくみの治療と病因病理

2018.01.27 15:49

ある男性患者の術前術後のモアレ画像です。

1枚目の写真に比べて2枚目の写真の方がシュッと引き締まってスリムになっていると思いませんか?


並べてみるとこんな感じです。

左術前、右術後↑

上術前、下術後↓

足のむくみが気になるということで治療しましたが、足だけでなく全身がむくんでいたことがよく分かります。


診察診断治療は以下の通りです。


症例

☑経絡腹診

肝虚、腎虚、肺実、脾実、心平。

☑奇経腹診

陰蹻脉と陽蹻脉。

☑脉状診

浮・遅・実。

☑比較脉診

肝虚、腎虚、肺実、脾実、心平。

☑証決定

肝虚証。

☑適応側

男性であることから本来は左側が適応側となるが、左足の動脈硬化が著しいとのことで右側の方が生気が残存していると考え、男性ではあるが右側を適応側とした。

仰るように大腿動脈の拍動が左側が弱い。

また間欠性跛行があり、復活するのに2時間かかるとのこと。

間欠性跛行の原因として腰部脊柱管狭窄症があげられますが休憩して再び歩き出せるまでに要する時間はかかったとしてせいぜい20分以内であり、それ以上かかる場合は閉塞性動脈硬化症の可能性があります。


◎治療

☑本治法

銀鍼1寸3分1番鍼にて右水泉に補法。続けざまに右曲泉に補法。

→検脉すると肝は充実した。腎が依然虚しているので右陰谷に補法。

→検脉すると腎が充実した。相剋する肺と脾の実は治まっている。陽経を診ると右関上胃の脉位に実邪を触れるのでコバルト鍼1寸3分2番鍼にて胃経を切経して最も邪が客している左豊隆に浮実に応ずる瀉法。

→検脉すると邪がとれ陰陽が調和したので最後に左水泉に補法。

本治法を終え次に移る。

☑補助療法

✅宮脇奇経治療

左照海-右列缺と右申脈-左後谿に金銀粒貼付。

☑標治法

✅腎兪と膀胱兪に知熱灸3壮。

✅先程補った水泉に銀粒貼付。


◎経過

写真の通り。


むくみの病因病理

『病機十九条』に諸々の腫れたり満つる病は湿邪が病因で、脾に原因がありますよとあります。


摂取した飲食物から抽出した栄養分(気血)と水分(津液)を毛細現象を使って、雨が降って大地に染み込んだ地下の湧き水が(昇清)山々を伝い河川を形成し最終的に海に流れ込むように(運化)、全身至るところへ余すことなく網の目ように巡らしています。

また送り出す際の圧力に耐えうるように毛細血管に強さを与えています(統血)。

この一連の働きを脾臓とします。


水分は循環しているうちは津液としてあらゆる細胞・組織・器官・臓腑経絡・四肢・百骸を潤し養い活動力を与えていますが、何らかの原因で津液が滞ると湿となります。

病的な水分ですので湿邪とします。

湿邪が煮詰まると痰を形成するので合わせて湿痰とします。

この病理産物はあらゆる働きからサラサラを奪ってネバネバさせます。

口の中が粘る・ネバッとした汗をかく・小便が泡立つ・大便が便器にこびりつくetc.

そして循環しなくなった水液が皮下に停滞すると膨張してむくみます。

本症例でも術後の写真と比べると術前の写真は膨張しています。

湿痰という病因が腫満をもたらし、湿痰が発生するのは脾が変動したからです。

ですのでむくみの治療はこの病理状態を解決することに主眼を置きます。


むくみの鍼灸治療

◎本質治療

☑本治法

脾の虚実を弁えて補瀉調整します。

経絡治療学では、脾虚か脾実です。

脾虚があるのは、

✅脾と心が虚している脾虚証(難経六十九難型単一主証)。

✅肺と脾が虚している肺虚証(難経六十九型単一主証)。

脾実があるのは、

✅腎と肺が虚して脾が実している腎虚脾実証(難経八十一難型賊邪証)

✅肝と腎が虚して脾が実している肝虚脾実証(難経六十九難型実証)

✅肝心が虚して脾肺が実している肝虚脾実証(難経七十五難型微邪証)

※( )内は難しいのでサラッと流してください。

などの証に従って本治法をします。

脾は水液の運化を主り、肺は水の上源水道を通調し、腎は臍下腎間の陽気を発動して水液を燻蒸し別使である三焦の原気をあまねく巡らし津液を推動し清水の貯溜と濁水の排泄を決定する水の下源であり、肝は発散して気血水を疏泄しています。

ということで各証には、これらの生理が失調して脾が変動した病理状態を解決する策がきちんとあるようになっています。


◎対症療法

☑補助療法

✅宮脇奇経治療

陽蹻脉を主に必要あれば陰蹻脉をプラス。

☑標治法

✅本治法の前後に水泉を補い最後に銀粒を貼付。

✅腎兪と膀胱兪に知熱灸3壮。

✅足の三焦経の阻滞を疏通する。

古医書に古医書に下肢の膀胱経と胆経の間を足の三焦経が流れるとあります。

同じく「三焦は決瀆 ( けっとく ) の官水道これより出ず」とありますが、決は切り開く通じさせる、瀆は溝、官は役人などを指し、溝を切り開いて水を流す役人のような働きが三焦というわけです。

この足の三焦経の下合穴が委陽というツボです。

委陽~崑崙にかけて現れている硬結を緩めていきます。

これが1行線。

2行線は委中~女膝。

3行線は陰谷~大鐘・水泉。

臨床的には足の三焦経は1~3行まであります。

溝こがきれいなれば水の循環がよくなります。


もちろん全部をする必要はありません。

必要に応じて取捨選択してください。

むくみの場合は如何なる証であっても合水穴を選穴します。

合水穴には大根に塩を振りかけると水分が抜けてしなっとなるのと同じ作用があります。


また本治法の最初と最後に水泉を補います。

適応側→非適応側の順に。

やはりどの証であってもです。

そして銀粒を貼付して帰すと効果が持続します。


むくみは湿邪が停滞している現れです。

邪気は生気を蝕み体力を奪っていきます。

長らくの湿邪の停滞は生命力を枯渇させ、むくみにとどまらず疾病を引き起こします。

正に未だ病まざるを治すの大事です。

客観性をもたせるために、足のどこでもいいので、左右同じところで周径を計り、患者と効果を共有するといいでしょう。

正治であれば必ず良くなります。