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【2022年夏特集】⑥福島県広野町で始まったバナナ栽培における地中熱利用~産業技術総合研究所、広野町振興公社、福島県地中熱協同組合

2022.07.19 01:47

◆ハウス栽培に適した地中熱システムの開発・実証◆


開発・実証してきた地中熱技術を実際の現場で普及させる段階に――。こう語るのは、国立研究開発法人産業技術総合研究所再生可能エネルギー研究センターで地中熱技術開発を進める内田洋平地中熱チーム長(記事中写真)です。同研究センターでは、東日本大震災からの復興に向け、被災地企業等再生可能エネルギー技術シーズ開発・支援化事業により、様々な再生可能エネルギー技術の開発・実証を支援しており、地中熱技術もその1つです。こうした中、2021年度から新規コンソーシアム型シーズ支援事業として福島県広野町において「ハウス栽培に適した地中熱システムの開発・実証」を実施。実際にバナナをハウス栽培している農場において開発した地中熱利用技術を導入し、地中熱技術の導入効果や生産性向上に向けた検証が進められています。これまでの技術開発支援から開発した技術の社会実装へとステージが変わりゆく取り組みを取材しました。

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◆技術開発支援から農業分野への進出◆

「ハウス栽培に適した地中熱システムの開発・実証」は、広野町振興公社を代表法人とし、福島県地中熱協同組合が連携して実施しているものです。


代表法人の広野町振興公社は、福島県内で唯一バナナのハウス栽培・販売に成功した栽培技術を有しています。皮ごと食べられる高収益のバナナを栽培していますが、ハウス栽培では燃料(灯油)を多く消費し、生産コストが高くなるため、燃料使用量の削減により利益率を向上させることが大きな課題となっています。


連携して取り組む福島県地中熱協同組合は、多様な高効率熱交換器の選定や施工技術を有しており、これまでに会員企業が産総研・地中熱チームとシーズ事業で技術開発を行ってきました。


この2者と産総研・地中熱チームが共同でシーズ事業に取り組むことで、①地中熱を利用し、ハウス内の温度管理費用の低減による高収益化とビジネスの拡大、②地中熱を利用した高付加価値果実・植物栽培による被災地の復興、③得られたノウハウによる他の亜熱帯植物栽培への展開、④新方式熱応答試験を用いた農業分野における地中熱システム設計・施工事業への展開――を目指すとしています。


産総研・地中熱チームの内田チーム長は「これまで技術開発を支援する取り組みを行ってきましたが、次のステップとして農業分野へと進出することとしました」と述べ、開発してきた技術を社会実装させ、設備を導入した事業者の収益性向上などに意欲を示します。


◆シーズ事業で開発した「地下水移流型熱交換器」、「タンク式熱交換器」を導入◆


「ハウス栽培に適した地中熱システムの開発・実証」では、熱源として一般的なクローズドループ(ボアホール50m)と、シーズ事業で福島県地中熱協同組合会員の福島地下開発、ジオシステムが産総研・地中熱チームと開発した「地下水移流型熱交換器」及びジオシステムが産総研・地中熱チームと開発した「タンク式熱交換器」を導入しています。

「地下水移流型熱交換器」は、水井戸(スリット入りケーシング)内にUチューブを設置するもので、地下水流れによる高い熱移流効果が高い点、不飽和部にモルタルを充填して熱交換効率低下を抑制できる点、ボアホール式に比べて井戸本数を縮減できる点などが特長です。


「タンク式熱交換器」は、シート状の熱交換器を地下水等で満たされたタンク内に丸めて設置するもので、タンク内には地下水や湧水が定期的に供給されるため、安定した熱交換ができ、設置コストが安価な点が特長です。


実証を行っているハウスでは、ハウス内を従来の灯油燃料加温器の区画、地中熱と灯油燃料加温器を併用するハイブリッド式の区画に分けて比較。ハイブリッド式区画には、クローズドループ、地下水移流型熱交換器、タンク式熱交換器それぞれに10kWのヒートポンプ、30kW相当の灯油燃料加温器を導入しています。


◆2021年度は灯油燃料加温器のみ区画に比べ灯油の使用量40%削減◆


バナナ栽培に適する15℃~36℃で管理・運営した2021年度の結果によると、灯油燃料加温器のみの区画と比べ、「地中熱と灯油燃料加温器の区画は、灯油の使用量40%、CO2排出量47%の削減を達成しました」としています。この結果は、燃料費高騰が経営を逼迫しているハウス栽培において大きな効果が期待できるものです。内田氏は「昨年度の成果を踏まえ、地中熱システムをより効果的にチューニングすれば、50%以上の削減も可能だと考えています」と述べ、さらなる省エネ化、省CO2化が望めそうです。なお、ハイブリッド区画では、灯油燃料加温器は補助的な役割となっており、地中熱システムをメインとした稼働となっています。


肝心のバナナの生育についても「(広野町振興公社から)十分に生育していると聞いています」とし、果実の生育面でも問題がないことがうかがえます。


なお、「地下水移流型熱交換器」と「タンク式熱交換器」は、いずれも地下水を熱源とするもので、土壌からUチューブ内に充填した水や不凍液を介して熱交換するクローズドループ方式に比べて熱交換効率が高い点がポイントですが、今回の実証でもクローズドループに比べて「地下水移流型熱交換器」、「タンク式熱交換器」の方が消費する電力量を削減できたことが明らかになっているとしています。


◆2022年度は農業専門家のアドバイス受け、性質に合わせた加温方法を試験◆


この実証では、農業の専門家が参加する外部有識者会議を設けている点もポイントです。加温の仕方などのアドバイスを受けながら、栽培に適した地中熱システムの運転管理の検討等も進めています。


こうしたアドバイスを踏まえたこれからの取り組み方針を聞くと、「2021年度はハウス内全体を温める形で検証しましたが、植物の性質に合わせた加温方法を適用する予定です」と述べ、消費エネルギーのさらなる削減が期待できる方法を試すとしており、その成果も注目されます。


地中熱利用システムは初期コストの回収が課題とされ、10年以内に回収できることが1つの目安となっていますが、この点についても「灯油燃料加温器のみの区画に比べて灯油使用量を40%削減できたことから地中熱システムの導入コスト回収は10年を切れる状況となっており、地中熱システムを導入するメリットは高いと思っています」と内田氏は語っています。


原油や天然ガスの価格高騰が続く一方で、2050ゼロカーボンの目標やSDGsの達成など脱炭素化が求められる中、この成果は、ハウス栽培におけるエネルギー使用の今後のあり方を示しており、その展開が一層注目を集めそうです。


※この成果は、本年6月7日に開かれた「2022年度福島再生可能エネルギー研究所 研究成果報告会~脱炭素社会に向けた最新研究と企業連携~」においても発表され、関心を集めています。(動画配信は6月30日で終了しています)


※記事中の内田氏写真はECO SEED撮影。その他写真や図は産総研提供。

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