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バイリンガリズムと知能について(2)しきい理論

2018.01.30 08:02

2.しきい理論(Thresholds Theory)  

 認知とバイリンガリズム度の関係をある程度まとめた理論のひとつに「しきい理論」とよばれるものがあります。これは最初、Cummins(1976)及びToukomaa&Skutnabb - Kangas (1977)によって考え出されました。子供の言語発達が不十分だと、認知的な発達にマイナスの影響を与えるが、子供が均衡バイリンガル(両言語とも年齢相応に発達した状態)に近づくほど、認知的な優位さが増す可能性が高まっていくという言う考え方です。  

 子供になんらかの変化がみられる2つのしきいを想定し、この理論を説明しています。第1のしきいは子供がバイリンガリズムの負の影響を避けられるようになるレベルです。第2のしきいは子供がバイリンガリズムから恩恵をこうむるために達していなければならないレベルのことです。 この理論では子供がバイリンガリズムから認知能力にも優位さを得ることができることと同時に、バイリンガリズムによって不利な影響を受ける子供がいることも示唆しています。(Baker1996をもとに作成) 

 Cummins&Mulcahy(1978)は、このしきい理論を検証するために、ウクライナ語と英語のバイリンガル教育を受けている小学生を被験者として、言語を分析する能力を調べました。二人は、子どもたちをウクライナ語の能力の高さをもとに、バイリンガル能力の高いグループと低いグループの二つに分け、さらに知能指数、社会経済的地位、性別、年齢などをそろえたモノリンガルのグループを統制群として加え、それぞれの成績を比較しました。その結果、バイリンガル能力の高いグループは、低いグループ、さらにモノリンガルのグループよりも際立って優れていることがわかりました。バイリンガル能力の低いグループとモノリンガルのグループとの間には差がみられませんでした。(山本 1996) 

 この理論は、カナダ等でのイマージョン教育の有効性や、第二言語で学んだ少数派言語の子供たちがしばしば第二言語の能力を十分に発達させることが出来ず、「消極的な」形のバイリンガル教育から恩恵を得られないことに対して、その理由をまとめる手助けとなるという利点があります。一方、バイリンガリズムのマイナスの影響を避け、それが有利に働くためには、子供が獲得すべき言語能力のレベルをどのようにして厳密に規定するか、どの程度の言語の「高さ」で天井が床に変るのかが明らかではない、という問題点もあります。