バイリンガリズムと知能について(4)伝達言語能力BICSと学力言語能力CALP
4.伝達言語能力BICSと学力言語能力CALP(Cummins1984)
1970年代にはこの発展的相互依存仮説にしたがって、表面的な流暢さと、教育から恩恵を受けるのに必要となるより進んだ言語技能との区別が打ち立てられました。子供に単純な伝達技能が備わっているために、教室で認知的・学力的に必要とされる言語能力が相対的に欠けていてもそれが見逃されてしまうこともあります。この結果、伝達言語能力(BICS)と学力言語能力(CALP)という区別が生まれました。(Cummins 1984)
この理論がさらに発展し、2つの座標軸が提唱されました。(Cummins 1981,1983,1984) どちらの座標軸も伝達能力に関わっています。横の座標軸は、子どもが利用できるコンテクストの助けがどれだけあるかに関係します。高コンテクスト・コミュニケーションとはボディランゲージを使えるなど、場面による依存度が高い場合を言います。 一方、場面による依存度が低く、文中の単語のみがてがかりとなるような場合を低コンテクスト・コミュニケーションといいます。縦の座標軸はコミュニケーションにおいて要求される認知的負担の程度に関わります。
認知的負担が大きいコミュニケーションは、レベルの高い多くの情報が迅速に処理されなければならない教室などで起こります。また、認知的負担が小さいコミュニケーションは買い物や街中、スポーツ観戦など、簡単な日常会話でなどの負担の小さい場面でおこります。(Baker 1996をもとに作成) 表面的な流暢さや伝達言語能力(BICS)はAの象限にあたり、場面による依存度が高く、認知的負担が小さい。外国に移住した子どもたちは1,2年で友達と遊んだり、日常生活には支障がないほど言語能力が発達します。それはこのBICSを習得した状態といえます。学校の授業で必要とされるような学力言語能力(CALP)は場面による依存度が低く、認知的負担も大きい。Cumminsによると、この習得には通常5から7年かかるとしています。移住国の言語をすでに流暢に話せるように見える子どもたちが、学校の授業についていくことができないという問題はこのCALPがまだ習得できていない状態で、移住国の言語で授業に参加しなければならないという現状から起こります。そうなると、授業の内容が理解できない、成績が思わしくないなどの問題が起こります。この時期にはまだ、母語での指導やフォローが必要なのです。