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日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄 第二章 日の陰り 9

2022.07.23 22:12

日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄

第二章 日の陰り 9

「奉天苑の陳と大沢と、左翼の松原が組んだってのか」

 嵯峨朝彦は京都で青田博俊から報告を受けていた。このようにネットを使っての通信は、全て青田は行っていた。総務省のサイバーセキュリティの外郭団体「情報総合研究所」にいるのであるから、最も安全な通信手段を提供できる立場にあった。その為に、何かあった場合も、緊急の場合以外、または本人がそこまでの緊急性を必要としていない場合以外は、青田が全ての報告を行い、セキュリティの高い通信手段で通信している。

 あまりインターネットなどに詳しくない嵯峨朝彦も、さすがにやり方を教えられて、それらの内容にアクセスできるようになっていた。もちろん、老眼のために文字が大きめである。

「そういうことですか」

 横に座っていた今田陽子も、自身の端末からその内容を見ていた。

「しかし、これだけでは関西の様子はわからないだろう」

「いえ、松原や陳とつながっているということになれば、間違いなく徐虎光と吉川学でしょう」

「なるほど」

「一見、この二人は別々な組織に繋がっているように見えます。しかし、その上部組織がつながっているということになれば、当然に、その指示でこの二人がこちらで協力するということになるのです。こちらはどちらか一つの団体を追いかけるようにしておいて、本当は二つまたは三つの団体が協力して一つの事を役割分担しているということになる。それでしっぽをつかませないようにしながらことを成し遂げるということになるんです。」

 今田は、自分に言い聞かせるというか、わざわざ言葉にして話すことによって、自分の頭の中を整理しているように、言葉にしていた。

「ではその団体は」

「一つは日本紅旗革命団であることは間違いがありません。もう一つは陳の持っている在日中国人の団体でしょう。」

「在日中国人の団体はよくわからないが」

「はい、でもそれは調べようがあるのではないかと思います。そしてもう一つが大沢の立憲新生党のなかで過激な思考を持つ者たちということになります。そこまでいかなくても、何かしたいと思っている人や、犯人をかくまうなどの話が出てくるのではないかと思うのです」

 嵯峨は、深いため息をついた。

 日本を守る、のはこんなに難しいことなのか。自分の国を守ること、そんな当たり前のことができない人がこの日本のはこんなにいるのか、そしてそれがこの日本の中にこんなに隠れているのか。何か暗澹たる気持ちのなり、深いため息となってそれが出てきた。

 周辺を見回せば、今田と嵯峨が泊るホテルの朝食会場の食堂である。普段は1階のメインカフェとしてして使われているのであろうか。食事をするには少しゆっくりしたようなソファに、身体が沈む。もちろん食べにくいというのではない。食事だけではなく「くつろぐ」という感覚も混ざって、少し優雅な気持ちになれる場所である。ある意味で、普段自宅で迎える朝よりも、少し良い感じになるのであるが、しかし、今の今田の言葉から、周辺に座る人々が全て「反日の徒」に見えてしまう。時分の一日の始まりが、日本で最も汚いものに汚されてしまったような気がする。しかし、それは目の前にいる今田が悪いわけではない。

 全てを壊して大声で叫びたい気分を必死に抑え、大声が出ないように、目の前のトーストを口の中にいれた。

「殿下、いかがなされましたか」

「いや」

 それ以上言葉が出なかった。何を言っていいかわからないだけではなく、声を出さないように口の中に入れたトーストが口の中で大きな問題になっていたのである。

「本日は京都で会議です。その会議には徐虎光と、吉川学が出てきます」

「うむ」

「いっぺんにこの二人の背景を探ることはできません。」

「平木を使え」

「右府のマスターですね。しかし、あの店はすでに昨日どの勢力かわかりませんが、相手が入ってきています」

 今田は少し懸念を持った。昨日のよる、あの店から尾行されたばかりである。つまり、右府そのものが既に相手に注目されているということに他ならないのである。

「確かにそうだ。しかし、そのことを持ってもあいつしか頼ることは出来まい」

「はい、いや、石田教授などを使おうと思います」

 石田清。今回の「古代京都環境研究会発起委員会」の主催者である。京都国際環境大学の名誉教授であり、なおかつ、その中において、中心的な人物であり徐や吉川を招聘した人物に他ならない。

「要するに、石田氏になぜあの二人が入ったかを聞くということだな」

 今田は頷いた。

 嵯峨は、少し落ち着いて、頷くと、そのまま席を立った。どうしても何か落ち着かないので、部屋に戻った。今田は、その背中を見送りながら、京都国際環境大学の方に向かった。