E'b vol.161
vol.161
愛語を施す
今年五十歳を迎えた私は、この道ひとすじ三十年です。そして三十七歳でブレスを開業
しましたので、現在担当する多くの方々は、この行橋で「はじめまして」と出会ってか
ら、十年以上に渡るお付き合いです。そんなかけがえのないお客様の一人に、たまたま
年齢が同じという理由で、私が珍しくタメ口で気の置けない関係を保つ「つなちゃん」
という男性がいます。彼は法律事務所で働いていますので、相談事でお世話になること
は極力避けたい所ですが、いざとなれば大変頼もしい存在です。そんな彼が先日私に、
次のような言葉を伝えてくれました。「ブレスはいい店になったよね。でもさらに圧倒
的によくなる方法があるよ。俺は十一年お世話になっとるけど、実はここで褒められた
ことが二回しかない。十一年間で二回だけよっ。」とのことでした。彼はそれ以上多く
を語りませんでしたが、私は「おおっ、なるほど」と応えながら、心の中には「はい、
わかりました」「ありがとうございます」という思いが溢れていました。
愛語とは、人に会ったときに、思いやりの心を起こしてやさしい言葉を書ける
ことです。(中略)相手が徳のある人であればほめ、そうでない人であれば哀れ
み深くいたわりなさい。 『正法眼蔵』(道元禅師)
人は年齢を重ねるごとに、「耳に痛いこと」を言ってくれる人が少なくなってくるもの
です。だからこそ見当違いの意見ではなく、本当にこちらのことを思って伝えてくれる
人は、大変ありがたいものです。「つなちゃん」は初対面の人とも、あっという間に親
しく相手との距離を縮める名人です。その様子を観察していると、決して一方的に自分
の思いを伝えるのではなく、相手が喜ぶ言葉を話すことで、ついついこちらは安心して、
気づけばたくさんの話を彼に聴いてもらっているのです。そんな彼が主宰するテニスサ
ークルや大会は、いつも多くの人で溢れています。それは常に人に対して「愛語を施す」
という彼の「思いやり」によるものだと思えてなりません。ありがとうございます。