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紅く色づく季節

私が煙草を嫌いだったのは

2022.07.25 06:32

【詳細】

比率:女1

現代・ラブストーリー

時間:約5分


【あらすじ】

元々煙草が嫌いだった私。

あの出来事でもっと煙草が嫌いになった。

でも、今は……

*こちらは、『私が煙草を嫌いなのは』の小宮蓉子の物語です。

こちら単体でもお読みいただけます。


【登場人物】

小宮 蓉子:(こみや ようこ)

      二十代。

      仕事が出来るしっかりとした女性。

      煙草が嫌い。


蓉子:

私は煙草が嫌いだ


元々生まれつき気管支が強いわけではなく、幼い頃から煙草の煙やにおいが苦手だったというのもある

でも、それは「苦手だな」くらいの感覚で嫌悪感は抱いていなかった


私が煙草を吸う人に嫌悪感を抱くようになったのは、以前お付き合いをしていた人がきっかけだった

元カレと出会ったのは大学三年生の時

たまたま取った講義が一緒で彼から話しかけられた

確か、私がペンを落としたのを拾ってくれたのがきっかけだったかな

そのまま何故か毎週隣で講義を受けるようになった

彼はとても明るくて、笑顔が素敵で、自分の夢に一直線で……

それが当時の私にはまぶしくて、応援したくなった


彼の夢は自分のお店を持つことだった

「小さい個人のお店を持って、食べに来てくれた人を笑顔にしたい!」

彼はいつも目を輝かせながら話してくれた

大学を卒業後、私と彼はそれぞれの夢に向かって進んだ

とは言っても、私はやりたいことなんて特になくて、普通の会社に入って普通に仕事していた

今思えば、あの時の私は「彼を隣で支える」なんて可愛い少女のような夢を見ていたのだろう


この頃から、ちょっとずつ彼が変わっていった

何かが急激に変わったのではなくて、日に日に、少しずつ変わっていった

職場の人間関係のストレスからなのか、元々嗜む程度だった酒の量が増え、吸っていなかった煙草も吸うようになった


お酒の量に関しても煙草の本数に関しても、私は何度も彼を止めた

その度に彼は、「ごめん、そうだよね」って言って謝った


でも、数日後には元に戻る。この繰り返しだった


いつの頃からか、私は彼に注意するのをやめてしまった

「これはストレスからくるものだから仕方ない」という諦めの気持ちと、注意した時に私を見る彼の視線が怖くなってしまったのだ

苛立ちを隠しきれていない彼の冷たい視線に……


本当なら、この時に彼とは決別すべきだったのだと、今の私にならわかる

でも、当時の私は逃げた。現実から……

好きだから、嫌われたくないから、話し合いの道ではなく、自分が我慢する道へと


それからは、全てが空気のように過ぎていった

そして、気が付けば……私は彼から呼び出しを受けていた


彼の家に行くと、彼の隣には大人な女性がいた

その人は私とはまるで正反対で、凄く綺麗で大人で……

直感的に、これは私が捨てられるんだと感じた

そして案の定、私は彼に別れを告げられた

いつも彼が吸っていた煙草を吸われながら

「仕事しか取り柄の無いお前よりも彼女の方が魅力的だ」

「お前といるといつも見下されているみたいで息が詰まった」

そんな捨て台詞と共に……


だから、私は煙草が嫌いだった

いい思い出なんて一つもなかったから


……でも、今はちょっとだけ煙草の匂いが愛おしいと思える自分がいる

もちろん、煙草自体は嫌いだけれど……

それは、今私の隣にいてくれる人から微かに香る「彼の匂い」だからだ


彼に捨てられた数日後、仕事に没頭していた私は定時が過ぎたオフィスで倒れた

それを助けてくれたのは同じ部署の先輩だった

私が新人の頃から何かと面倒を見てくれていた人

その人に慰められ、励まされ、私はやっと立ち直ることが出来た


元カレに否定された私のダメな部分も全て受け止めてくれた

先輩がいてくれたから元カレのことなんて忘れられた

我ながら現金な話だが、恋で傷ついた心は次の新しい恋が癒してくれるという先人の言葉を身をもって知った


そして、私は今、その先輩の部屋に来ている

倒れたときに伝えられた先輩の気持ち、それにきちんと返事をするために

久々に心臓がどきどきする

苦しいけど、どこか心地いい

あぁ、そうだ。これが恋のどきどきだ……

長く感じることが出来なかったこのどきどき……

早く先輩に伝えたい


「先輩。お話があるんです。聞いてくれますか?」



―幕―



2021.01.12  ボイコネにて投稿

2022.07.25 加筆修正・HP投稿

お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)