Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

七枝の。

台本/地獄の先まで末永く(男1:女1)

2022.07.25 06:51

〇作品概要説明

主要人物2人。ト書き含めて約5000字。夜の森で死体を埋めるカップルの話。


〇登場人物

双葉:名家のお嬢さん。宗介の恋人兼ストーカー。婚約者がいた。22歳。

宗介:バンドマン。双葉の恋人。28歳。アルバイト暮らし。


〇ご利用前に注意事項の確認をよろしくお願いいたします。

https://natume552.amebaownd.com/pages/6056494/menu

作者:七枝


本文




〇深夜。ランタンの灯しかない山奥にて。双葉と宗介、穴を埋めている。

宗介:(荒い息遣い)

双葉:(押し殺した呼吸音)


宗介:……うっあー!あちぃー!

双葉:水のみますか?

宗介:いいよ。双葉先飲めよ。

双葉:私そんなに疲れてませんから。

宗介:マジか。どんな体力してんの。

双葉:ふふふ。バンドマンの宗介さんとは鍛え方が違うんです。

宗介:いいとこのお嬢さんとバンドマンなら、普通バンドマンのが、鍛えてると思うけどね。じゃあ、くれ。

双葉:はい、どうぞ。

宗介:(みずをのむ)ぷっはー!美味い!

双葉:よかった。私にも一口ください。

宗介:え、さっきいらないって。

双葉:事情が変わりました。

宗介:……ああ、そういうこと。あんた、ホント俺のこと好きね。

双葉:ご存じでしょう?

宗介:まぁね。んじゃ、ほら。

双葉:(みずをのむ)ふふ、甘露(かんろ)です。

宗介:あっそ。

双葉:宗介さんも、もう一度飲みます?

宗介:いいよいいよ。俺さっき飲んだし、いらねぇよ。

双葉:あら……ざんねん。

宗介:本当に残念そうに言うなよ。変態め。

双葉:えへへへ。あ、そうだ。宗介さん。

宗介:なんだよ。

双葉:私と結婚してください。


〇数秒の間。


宗介:やだよ。

双葉:なぜですか。

宗介:いやだからいやだ。ってかさ、

双葉:はい。

宗介:今それいう?

双葉:今言わなきゃ、逃げそうだったので。

宗介:あー……そうね。まぁ、そうだろうね。

双葉:結婚してください。

宗介:やだって言ったよね?

双葉:なぜですか。私達恋人でしょう?

宗介:そうだね。

双葉:私22。貴方28。

宗介:うん。

双葉:付き合って3年目。

宗介:そうだね。

双葉:頃合いでしょう?いいじゃないですか、結婚しましょう。

宗介:いやだ。

双葉:なぜですか。

宗介:や、だからさぁ~……あ~…

双葉:……………

宗介:うーん、そうだな。まず俺は家事のひとつもできない女と結婚できない。

双葉:できますよ、やらないだけで。

宗介:いつも使用人にやらせてるくせに?

双葉:それが彼らの仕事ですから。バレンタインデーにあげたチョコ、覚えてますか?

宗介:あのうまかったやつ!

双葉:あれ、私の手作りです。

宗介:うそ!

双葉:嘘じゃないです。

宗介:マジで!?嘘だろ、店のロゴがはいってたぞ!

双葉:自作したんです。サプライズのつもりで。

宗介:いやいやいや、からかうなよ。ちょっと待ってろ。

双葉:はい。


ー宗介、作業の手を止めてスマホを漁る。数秒の間。


宗介:マジだ!?ホントに自作じゃん!なんだよこの「FUTABA」は!

双葉:ええ、3日かけて考え抜いた力作です。

宗介:うっわ~、やっべぇな、あんた。なんで言わないの。

双葉:なにも知らずに私の手作りスイーツを褒める貴方が面白くて。

宗介:性格わるいな~

双葉:先刻ご承知のとおりでしょう?というか、宗介さん。

宗介:なに?

双葉:写真とってくれたのですね。

宗介:あ?……まぁな。

双葉:面倒くさがりな貴方がわざわざ。

宗介:こういうのとっておくと楽なんだよ。

双葉:楽とは?

宗介:ほら、俺女にモテっから。差し入れとか断るのにちょーどいーの。

双葉:あらまあ。私というものがいながら。

宗介:女ども全員無視しろとかいうなよ?俺そーいうめんどくせーの嫌い。

双葉:存じております。むしろ腕がなりますわ。

宗介:ああん?

双葉:宗介さんに誰よりもふさわしいのは私だと、みせつけてやればいい話でしょう?

宗介:いや、だから……はぁ~……

双葉:ね、ですから結婚しましょう?

宗介:やだって。

双葉:いいじゃないですか。毎朝毎晩美味しいごはんつくりますよ?宗介さんの好みは結構塩辛いものが多いですよね。でも出し巻き卵は甘めがお好き。朝はコーヒーじゃなくて紅茶派。

宗介:しつけぇな。いいか、家事ってのは料理とか菓子づくりだけじゃないんだ。掃除とか洗濯とか毎日毎日の積み重ねなんだよ。お嬢様にそんなことができんのか?

双葉:できますよ。

宗介:あんたが?使用人にやらせるとか言うなよ。

双葉:もちろん私ですよ。というか、いつもやってるじゃないですか。

宗介:は?

双葉:あらあら。宗介さんったらご自宅のゴミが勝手に回収されてるとお思いで?そんなサービス、あのボロアパートにはありませんよ。

宗介:ボロいうな。俺はてっきりバンドのやつらがやってくれてるのかと……

双葉:貴方と同レベルの汚部屋に住んでる彼らに、そんな気遣いができるわけないでしょう。

宗介:合鍵は……いいや、やめとく。聞かないでおく。

双葉:何を想像してるんですか?失礼な。宗介さんがくれたんですよ。

宗介:俺が?

双葉:ええ。ひどく酔っていらした時に。

宗介:俺が?

双葉:なぜ2回聞くんです。

宗介:たとえ酔っていたとしても、俺は女に自宅の鍵を渡すような失態を犯したことはない。

双葉:あら、じゃあ私には気をゆるして下さってたのでしょうね。うれしい。

宗介:…………

双葉:疑わしいものを見る目はやめてくださいな。ともかくこれで、私に家事ができるのはわかったでしょう?結婚してください。

宗介:い・や・だ。

双葉:私と結婚すれば巨万の富が貴方のものですよ?

宗介:それで俺が「はい結婚しますー」ったらあんた、むなしくなんねぇの?

双葉:どうして?

宗介:俺まるっきり金目当てじゃん

双葉:やだわ、宗介さんが私を愛してることぐらい知っているもの。

宗介:…………

双葉:私、なにか間違ってます?

宗介:俺、あんたのそーいうとこ嫌い。

双葉:あら、私貴方のそういう照れ隠しも好きですよ。

宗介:…………ってか結婚ってあれだろ?あんたんちのでっかい家継いで、バンドもやめて、会社勤めしなけなんねーんだろ?やだよ、そういうの。

双葉:それは……うーん、そうですね。じゃぁこうしましょう。私が父を説得します。そして家と会社は私が継ぎましょう。どこともしれない馬の骨に任せるより、ずっと会社を手伝ってきた娘が継ぐ方が、心情的にも納得できるでしょう。

宗介:馬の骨って。ひでー

双葉:私にとってはかわいいかわいいお馬さんですよ。

宗介:馬車馬のように働けってか?

双葉:ふふふ。そうですね、貴方の夢を叶えるために、死ぬ気で頑張ってください。いくらでもバックアップはしますから。

宗介:…………いや、それでもやだね。

双葉:なぜです?

宗介:あんたがあの親父さんに勝てると思えねぇ。

双葉:私がどうやって貴方を手に入れたか忘れましたか?

宗介:あー、そうだ。そーだった。あんたはとんでもねー女だった。

双葉:ふふふ。懐かしいですね。

宗介:楽屋におしかけてくる奴は沢山いるけど、毎回待ち伏せしてるのはあんたぐらいだったよ。

双葉:その節はご迷惑を。

宗介:おもってねーくせに。

双葉:本当に悪いことをしたと思ってますよ。スタッフさんもお忙しいのに、私ったら。

宗介:切手のない手紙が家に届いたときはぞっとしたね。

双葉:それでも全て読んでくれたじゃないですか

宗介:なんで知ってんだよ。こえーよ。

双葉:刺激的で魅力的でしょう?

宗介:まーね。よくいえばね。

双葉:ふふふ。ね?私といると退屈しませんよ。

宗介:んー……でもそうだな。なら、尚更結婚はしたくねーな。

双葉:あら?

宗介:結婚して、落ち着いて、家でめし作りながら俺をまってる。そんなつまんない女になったあんたなんて見たくねーもん。俺、あんたとは息もできないぐらいの関係でいたいよ。

双葉:ひどいわ、宗介さんが言い出したのに。

宗介:あんたにないものあげようとしただけだよ。

双葉:有能すぎてごめんなさい。

宗介:本当だよ。有能すぎて逆に手がかかる。あんたといると刺激的すぎて困る。

双葉:今みたいに?

宗介:音楽みたいに。

双葉:ふふふふ。楽しい人、憎らしい人。私を貴方の愛してやまないものにたとえるなんて。絞め殺したいくらい愛してるわ。

宗介:それはどーも。

双葉:どうかよそ見はしないでくださいね。

宗介:あ~……背後には気をつけるわ。

双葉:私が見張っておきましょうか?

宗介:あんたが一番こえーんだよ。さて、


 一拍おいて、宗介立ち上がる。


宗介:そろそろ行くか。これぐらい深く埋めたら大丈夫だろ。

双葉:ええ。

宗介:しっかし、怖い女だな。婚約者を殺しちまうとは。

双葉:あの人が襲ってきたのですよ。抵抗したら殴られて、つい。

宗介:「つい」で懐(ふところ)からナイフが出てくるのがあんただよな。

双葉:名家の令嬢らしく銀の燭台(しょくだい)で殴っておくべきでしたね。

宗介:え、そんなんあんの?

双葉:はい。

宗介:うっわ~金持ちって感じ。

双葉:磨かないとすぐくすむ欠陥品です。

宗介:どうせ磨くのはあんたら親子じゃないんだろ。

双葉:そうですね、使用人が。

宗介:金持ちの発言だな~俺はいいや。百均の食器でいい。

双葉:百均は嫌ですけど……貴方がいうなら量販店の食器でいいですよ。

宗介:なんで俺の食器にあんたが口出すんだよ

双葉:やだわ、「おれたちの」でしょう?

宗介:いやだってんだろ。

双葉:うふふ。

宗介:(ためいき)ほら、行くぞ。

双葉:ええ。あ、宗介さん。

宗介:なんだよ。

双葉:これ、忘れものですよ。

宗介:あ?なんも落としてねー……それは。

双葉:だめじゃないですか。免許証なんておとしちゃ。

宗介:…………

双葉:しかもあの人のすぐ横に、なんて。もし死体がみつかったらどうするんです?すぐ犯人だと思われちゃいますよ。

宗介:……ひろったのか。

双葉:ええ。

宗介:そっか。悪かったな、(助かった)

双葉:(かぶせて)ねぇ、宗介さん。貴方のファンの女性ならもうついてきてませんよ。

宗介:……っ!?おまえ、まさか!

双葉:やだ、違いますよ。私を殺人鬼にしないでください。

宗介:………あんたなら、やりかねないからな。

双葉:恋人に向かってなんて言い草ですか。傷つきました。しくしく。

宗介:思ってもねーくせに。

双葉:ええ、『息もつけない』女で面白いでしょう?

宗介:心臓に悪すぎるんだよ。

双葉:それはなにより。今、宗介さんの脳内は私でいっぱいってことですね。

宗介:違いねーな。

双葉:あの女性はうちの者が処理しました。ご安心下さい。ちゃんと五体満足でご自宅に送りましたよ。

宗介:そ、っか。それはよかった。……ん?

双葉:はい?

宗介:いま、うちの者って……

双葉:家の者ではないですよ。私個人の手駒(てごま)です。

宗介:は?あんた俺に電話してきたとき言ったよな?「あなたしか頼れない」って!

双葉:言いましたね。

宗介:どうしようどうしようってめっちゃ焦ってたじゃん!

双葉:まあ、そう聞こえました?

宗介:聞こえたんじゃなくて、そうだったろ!はあ?なんだよ、俺がどんなつもりでっ……!だーっ!くそっ!

双葉:やだ、怒らないでください。貴方しか頼れなかったんです。本当です。

宗介:じゃあなんだよ、手駒って!

双葉:命令するのとお願いするのとじゃ大違いでしょう?私の共犯は貴方しかいません。私には宗介さんだけなんです。

宗介:誰にでもいってるんじゃないだろうな!

双葉:そんなわけないでしょう!

宗介:くそ、なんなんだよ、あんた。なんのつもりでこんな………

双葉:…………

宗介:俺めっちゃ焦って。ない頭で知恵振り絞って。俺がやったことにするしかないって……なのに、なんだよ、あんた。なんで……俺なんかに……あんたひとりでもできたんだろ……

双葉:……宗介さんは、

宗介:…………

双葉:宗介さんは、私の為に罪をかぶろうとしてくれたんですよね。その為にわざと免許証を落として。よく付き纏ってくる女の子をひっかけて。私の為に。私が、つかまらないように。

宗介:ちゃちな仕掛けでわらえたか?

双葉:いいえ。嬉しかったです。宗介さんがそれほどまで私のことを考えてくれて。私のためにここまでしてくれて。本当にほんとうに嬉しかったです。

宗介:…………

双葉:心配してくれてありがとうございます、宗介さん。でも大丈夫です。目撃者はいません。この山は私の所有物です。誰にもみつかりません。

宗介:……どうせ、こんなことすぐバレる。今うまく隠したところで、いつかはバレる。そういうもんだろ。

双葉:いいえ。

宗介:…………

双葉:いいえ。ばれません。私を誰だと思ってるんですか?

宗介:世間知らずのやっべー女。

双葉:そうです、貴方のかわいい恋人です。

宗介:いってねーけど。

双葉:心の声が聞こえました。いいですか、宗介さん。『私がどうやって貴方を手に入れた忘れましたか?』

宗介:(沈黙、そして深いためいき)……くそっ、ここまできたら地獄まで付き合うよ。

双葉:ふふ、ふふふふ、あははははは!

宗介:な、なんだよ。

双葉:やった!言質とりました!

宗介:は?

双葉:地獄ってことは『やめるときもすこやかなるときも』ってことでしょう?

宗介:おまえ、まさか俺をわざわざ巻き込んだのは……

双葉:ね、宗介さん。私と結婚しましょうね。『死がふたりを分かつとも』貴方と私、いっしょです。

宗介:………そこは『死がふたりを分かつまで』じゃなかったか?

双葉:いいえ。違います、私と貴方に限っていえば。

宗介:………ホントお前、俺のこと好きだよな。

双葉:ええ。ご存じでしょう?

宗介:嫌というくらい知ってるよ、双葉。

双葉:よかった。不束者ですが、これからも末永くよろしくお願いします、宗介さん。


〇おしまい。