台本/地獄の先まで末永く(男1:女1)
〇作品概要説明
主要人物2人。ト書き含めて約5000字。夜の森で死体を埋めるカップルの話。
〇登場人物
双葉:名家のお嬢さん。宗介の恋人兼ストーカー。婚約者がいた。22歳。
宗介:バンドマン。双葉の恋人。28歳。アルバイト暮らし。
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作者:七枝
本文
〇深夜。ランタンの灯しかない山奥にて。双葉と宗介、穴を埋めている。
宗介:(荒い息遣い)
双葉:(押し殺した呼吸音)
宗介:……うっあー!あちぃー!
双葉:水のみますか?
宗介:いいよ。双葉先飲めよ。
双葉:私そんなに疲れてませんから。
宗介:マジか。どんな体力してんの。
双葉:ふふふ。バンドマンの宗介さんとは鍛え方が違うんです。
宗介:いいとこのお嬢さんとバンドマンなら、普通バンドマンのが、鍛えてると思うけどね。じゃあ、くれ。
双葉:はい、どうぞ。
宗介:(みずをのむ)ぷっはー!美味い!
双葉:よかった。私にも一口ください。
宗介:え、さっきいらないって。
双葉:事情が変わりました。
宗介:……ああ、そういうこと。あんた、ホント俺のこと好きね。
双葉:ご存じでしょう?
宗介:まぁね。んじゃ、ほら。
双葉:(みずをのむ)ふふ、甘露(かんろ)です。
宗介:あっそ。
双葉:宗介さんも、もう一度飲みます?
宗介:いいよいいよ。俺さっき飲んだし、いらねぇよ。
双葉:あら……ざんねん。
宗介:本当に残念そうに言うなよ。変態め。
双葉:えへへへ。あ、そうだ。宗介さん。
宗介:なんだよ。
双葉:私と結婚してください。
〇数秒の間。
宗介:やだよ。
双葉:なぜですか。
宗介:いやだからいやだ。ってかさ、
双葉:はい。
宗介:今それいう?
双葉:今言わなきゃ、逃げそうだったので。
宗介:あー……そうね。まぁ、そうだろうね。
双葉:結婚してください。
宗介:やだって言ったよね?
双葉:なぜですか。私達恋人でしょう?
宗介:そうだね。
双葉:私22。貴方28。
宗介:うん。
双葉:付き合って3年目。
宗介:そうだね。
双葉:頃合いでしょう?いいじゃないですか、結婚しましょう。
宗介:いやだ。
双葉:なぜですか。
宗介:や、だからさぁ~……あ~…
双葉:……………
宗介:うーん、そうだな。まず俺は家事のひとつもできない女と結婚できない。
双葉:できますよ、やらないだけで。
宗介:いつも使用人にやらせてるくせに?
双葉:それが彼らの仕事ですから。バレンタインデーにあげたチョコ、覚えてますか?
宗介:あのうまかったやつ!
双葉:あれ、私の手作りです。
宗介:うそ!
双葉:嘘じゃないです。
宗介:マジで!?嘘だろ、店のロゴがはいってたぞ!
双葉:自作したんです。サプライズのつもりで。
宗介:いやいやいや、からかうなよ。ちょっと待ってろ。
双葉:はい。
ー宗介、作業の手を止めてスマホを漁る。数秒の間。
宗介:マジだ!?ホントに自作じゃん!なんだよこの「FUTABA」は!
双葉:ええ、3日かけて考え抜いた力作です。
宗介:うっわ~、やっべぇな、あんた。なんで言わないの。
双葉:なにも知らずに私の手作りスイーツを褒める貴方が面白くて。
宗介:性格わるいな~
双葉:先刻ご承知のとおりでしょう?というか、宗介さん。
宗介:なに?
双葉:写真とってくれたのですね。
宗介:あ?……まぁな。
双葉:面倒くさがりな貴方がわざわざ。
宗介:こういうのとっておくと楽なんだよ。
双葉:楽とは?
宗介:ほら、俺女にモテっから。差し入れとか断るのにちょーどいーの。
双葉:あらまあ。私というものがいながら。
宗介:女ども全員無視しろとかいうなよ?俺そーいうめんどくせーの嫌い。
双葉:存じております。むしろ腕がなりますわ。
宗介:ああん?
双葉:宗介さんに誰よりもふさわしいのは私だと、みせつけてやればいい話でしょう?
宗介:いや、だから……はぁ~……
双葉:ね、ですから結婚しましょう?
宗介:やだって。
双葉:いいじゃないですか。毎朝毎晩美味しいごはんつくりますよ?宗介さんの好みは結構塩辛いものが多いですよね。でも出し巻き卵は甘めがお好き。朝はコーヒーじゃなくて紅茶派。
宗介:しつけぇな。いいか、家事ってのは料理とか菓子づくりだけじゃないんだ。掃除とか洗濯とか毎日毎日の積み重ねなんだよ。お嬢様にそんなことができんのか?
双葉:できますよ。
宗介:あんたが?使用人にやらせるとか言うなよ。
双葉:もちろん私ですよ。というか、いつもやってるじゃないですか。
宗介:は?
双葉:あらあら。宗介さんったらご自宅のゴミが勝手に回収されてるとお思いで?そんなサービス、あのボロアパートにはありませんよ。
宗介:ボロいうな。俺はてっきりバンドのやつらがやってくれてるのかと……
双葉:貴方と同レベルの汚部屋に住んでる彼らに、そんな気遣いができるわけないでしょう。
宗介:合鍵は……いいや、やめとく。聞かないでおく。
双葉:何を想像してるんですか?失礼な。宗介さんがくれたんですよ。
宗介:俺が?
双葉:ええ。ひどく酔っていらした時に。
宗介:俺が?
双葉:なぜ2回聞くんです。
宗介:たとえ酔っていたとしても、俺は女に自宅の鍵を渡すような失態を犯したことはない。
双葉:あら、じゃあ私には気をゆるして下さってたのでしょうね。うれしい。
宗介:…………
双葉:疑わしいものを見る目はやめてくださいな。ともかくこれで、私に家事ができるのはわかったでしょう?結婚してください。
宗介:い・や・だ。
双葉:私と結婚すれば巨万の富が貴方のものですよ?
宗介:それで俺が「はい結婚しますー」ったらあんた、むなしくなんねぇの?
双葉:どうして?
宗介:俺まるっきり金目当てじゃん
双葉:やだわ、宗介さんが私を愛してることぐらい知っているもの。
宗介:…………
双葉:私、なにか間違ってます?
宗介:俺、あんたのそーいうとこ嫌い。
双葉:あら、私貴方のそういう照れ隠しも好きですよ。
宗介:…………ってか結婚ってあれだろ?あんたんちのでっかい家継いで、バンドもやめて、会社勤めしなけなんねーんだろ?やだよ、そういうの。
双葉:それは……うーん、そうですね。じゃぁこうしましょう。私が父を説得します。そして家と会社は私が継ぎましょう。どこともしれない馬の骨に任せるより、ずっと会社を手伝ってきた娘が継ぐ方が、心情的にも納得できるでしょう。
宗介:馬の骨って。ひでー
双葉:私にとってはかわいいかわいいお馬さんですよ。
宗介:馬車馬のように働けってか?
双葉:ふふふ。そうですね、貴方の夢を叶えるために、死ぬ気で頑張ってください。いくらでもバックアップはしますから。
宗介:…………いや、それでもやだね。
双葉:なぜです?
宗介:あんたがあの親父さんに勝てると思えねぇ。
双葉:私がどうやって貴方を手に入れたか忘れましたか?
宗介:あー、そうだ。そーだった。あんたはとんでもねー女だった。
双葉:ふふふ。懐かしいですね。
宗介:楽屋におしかけてくる奴は沢山いるけど、毎回待ち伏せしてるのはあんたぐらいだったよ。
双葉:その節はご迷惑を。
宗介:おもってねーくせに。
双葉:本当に悪いことをしたと思ってますよ。スタッフさんもお忙しいのに、私ったら。
宗介:切手のない手紙が家に届いたときはぞっとしたね。
双葉:それでも全て読んでくれたじゃないですか
宗介:なんで知ってんだよ。こえーよ。
双葉:刺激的で魅力的でしょう?
宗介:まーね。よくいえばね。
双葉:ふふふ。ね?私といると退屈しませんよ。
宗介:んー……でもそうだな。なら、尚更結婚はしたくねーな。
双葉:あら?
宗介:結婚して、落ち着いて、家でめし作りながら俺をまってる。そんなつまんない女になったあんたなんて見たくねーもん。俺、あんたとは息もできないぐらいの関係でいたいよ。
双葉:ひどいわ、宗介さんが言い出したのに。
宗介:あんたにないものあげようとしただけだよ。
双葉:有能すぎてごめんなさい。
宗介:本当だよ。有能すぎて逆に手がかかる。あんたといると刺激的すぎて困る。
双葉:今みたいに?
宗介:音楽みたいに。
双葉:ふふふふ。楽しい人、憎らしい人。私を貴方の愛してやまないものにたとえるなんて。絞め殺したいくらい愛してるわ。
宗介:それはどーも。
双葉:どうかよそ見はしないでくださいね。
宗介:あ~……背後には気をつけるわ。
双葉:私が見張っておきましょうか?
宗介:あんたが一番こえーんだよ。さて、
一拍おいて、宗介立ち上がる。
宗介:そろそろ行くか。これぐらい深く埋めたら大丈夫だろ。
双葉:ええ。
宗介:しっかし、怖い女だな。婚約者を殺しちまうとは。
双葉:あの人が襲ってきたのですよ。抵抗したら殴られて、つい。
宗介:「つい」で懐(ふところ)からナイフが出てくるのがあんただよな。
双葉:名家の令嬢らしく銀の燭台(しょくだい)で殴っておくべきでしたね。
宗介:え、そんなんあんの?
双葉:はい。
宗介:うっわ~金持ちって感じ。
双葉:磨かないとすぐくすむ欠陥品です。
宗介:どうせ磨くのはあんたら親子じゃないんだろ。
双葉:そうですね、使用人が。
宗介:金持ちの発言だな~俺はいいや。百均の食器でいい。
双葉:百均は嫌ですけど……貴方がいうなら量販店の食器でいいですよ。
宗介:なんで俺の食器にあんたが口出すんだよ
双葉:やだわ、「おれたちの」でしょう?
宗介:いやだってんだろ。
双葉:うふふ。
宗介:(ためいき)ほら、行くぞ。
双葉:ええ。あ、宗介さん。
宗介:なんだよ。
双葉:これ、忘れものですよ。
宗介:あ?なんも落としてねー……それは。
双葉:だめじゃないですか。免許証なんておとしちゃ。
宗介:…………
双葉:しかもあの人のすぐ横に、なんて。もし死体がみつかったらどうするんです?すぐ犯人だと思われちゃいますよ。
宗介:……ひろったのか。
双葉:ええ。
宗介:そっか。悪かったな、(助かった)
双葉:(かぶせて)ねぇ、宗介さん。貴方のファンの女性ならもうついてきてませんよ。
宗介:……っ!?おまえ、まさか!
双葉:やだ、違いますよ。私を殺人鬼にしないでください。
宗介:………あんたなら、やりかねないからな。
双葉:恋人に向かってなんて言い草ですか。傷つきました。しくしく。
宗介:思ってもねーくせに。
双葉:ええ、『息もつけない』女で面白いでしょう?
宗介:心臓に悪すぎるんだよ。
双葉:それはなにより。今、宗介さんの脳内は私でいっぱいってことですね。
宗介:違いねーな。
双葉:あの女性はうちの者が処理しました。ご安心下さい。ちゃんと五体満足でご自宅に送りましたよ。
宗介:そ、っか。それはよかった。……ん?
双葉:はい?
宗介:いま、うちの者って……
双葉:家の者ではないですよ。私個人の手駒(てごま)です。
宗介:は?あんた俺に電話してきたとき言ったよな?「あなたしか頼れない」って!
双葉:言いましたね。
宗介:どうしようどうしようってめっちゃ焦ってたじゃん!
双葉:まあ、そう聞こえました?
宗介:聞こえたんじゃなくて、そうだったろ!はあ?なんだよ、俺がどんなつもりでっ……!だーっ!くそっ!
双葉:やだ、怒らないでください。貴方しか頼れなかったんです。本当です。
宗介:じゃあなんだよ、手駒って!
双葉:命令するのとお願いするのとじゃ大違いでしょう?私の共犯は貴方しかいません。私には宗介さんだけなんです。
宗介:誰にでもいってるんじゃないだろうな!
双葉:そんなわけないでしょう!
宗介:くそ、なんなんだよ、あんた。なんのつもりでこんな………
双葉:…………
宗介:俺めっちゃ焦って。ない頭で知恵振り絞って。俺がやったことにするしかないって……なのに、なんだよ、あんた。なんで……俺なんかに……あんたひとりでもできたんだろ……
双葉:……宗介さんは、
宗介:…………
双葉:宗介さんは、私の為に罪をかぶろうとしてくれたんですよね。その為にわざと免許証を落として。よく付き纏ってくる女の子をひっかけて。私の為に。私が、つかまらないように。
宗介:ちゃちな仕掛けでわらえたか?
双葉:いいえ。嬉しかったです。宗介さんがそれほどまで私のことを考えてくれて。私のためにここまでしてくれて。本当にほんとうに嬉しかったです。
宗介:…………
双葉:心配してくれてありがとうございます、宗介さん。でも大丈夫です。目撃者はいません。この山は私の所有物です。誰にもみつかりません。
宗介:……どうせ、こんなことすぐバレる。今うまく隠したところで、いつかはバレる。そういうもんだろ。
双葉:いいえ。
宗介:…………
双葉:いいえ。ばれません。私を誰だと思ってるんですか?
宗介:世間知らずのやっべー女。
双葉:そうです、貴方のかわいい恋人です。
宗介:いってねーけど。
双葉:心の声が聞こえました。いいですか、宗介さん。『私がどうやって貴方を手に入れた忘れましたか?』
宗介:(沈黙、そして深いためいき)……くそっ、ここまできたら地獄まで付き合うよ。
双葉:ふふ、ふふふふ、あははははは!
宗介:な、なんだよ。
双葉:やった!言質とりました!
宗介:は?
双葉:地獄ってことは『やめるときもすこやかなるときも』ってことでしょう?
宗介:おまえ、まさか俺をわざわざ巻き込んだのは……
双葉:ね、宗介さん。私と結婚しましょうね。『死がふたりを分かつとも』貴方と私、いっしょです。
宗介:………そこは『死がふたりを分かつまで』じゃなかったか?
双葉:いいえ。違います、私と貴方に限っていえば。
宗介:………ホントお前、俺のこと好きだよな。
双葉:ええ。ご存じでしょう?
宗介:嫌というくらい知ってるよ、双葉。
双葉:よかった。不束者ですが、これからも末永くよろしくお願いします、宗介さん。
〇おしまい。