日本に「植民地支配」の贖罪を強制する「統一教会」教理
教団の「独立王国」の地を訪ねてみた
安倍元総理の銃撃殺害事件以来、さまざま話題となっている旧「統一教会」(世界平和統一家庭連合)の韓国における実態はどうなっているのかを見てみたいと思い、教団の本部がある場所を訪ねてみた。
(江原道加平郡、清平湖の対岸に見える教団施設)
ソウル龍山(ヨンサン)駅から江原道春川(チュンチョン)行きのITX(高速鉄道) 京春電鉄線に乗って1時間、加平(カピョン)という駅で降りて、そこからタクシーに乗り、片道1車線の狭い曲がりくねった山道を30分ほど走ると、清平(チョンピョン)湖という湖の対岸、山の中腹に西洋の宮殿を模した巨大な建物が見えてくる。地元のタクシー運転手によると、信者以外は許可がないと本部につながる山道には入れないという。そのため麓から見上げるしかなかったが、丸いドームがある白亜の宮殿風建物が2006年完成の本部棟で、「天正宮博物館」と名づけられている。その下にも宮殿風の白い建物があり、さらにその下には建設中の新たな宮殿「天地鮮鶴苑」という建物もあった。
(教団本部の天正宮博物館(上)と天勝殿(中)、建設中の天地鮮鶴苑(下)
統一教会を感じさせない施設名ばかり
山の麓の一帯には一般の住宅や商店はまったく見られず、教団関連の病院やスタジアム、全寮制の中学・高校・大学、それに湖のほとりには信者の修練・宿泊施設が並んでいる。
韓国では旧統一教会は今も「統一教(トギルギョ)」と呼ばれているが、既存のキリスト教会からは「異端」、カルト扱いされている。そのためか、建物・施設の名前には、かつての統一教会や統一神霊協会を想起させる名前はいっさいなく、キリスト教との関連を伺わせる名前もない。
教団のスタジアムは清心平和ワールドセンター、清心国際病院、清心国際中学・高校など、何れも「清心」という名前がつけられ、唯一「鮮鶴天宙平和大学院大学」だけが、創始者の文鮮明・韓鶴子夫妻の名前をイメージさせるものだった。
信者の修練・宿泊施設は、「HJ天宙天寶修錬苑」など、HJという字が頭に付いている施設が多い。他に「孝情天苑」など「孝情(ヒョジョン)」という言葉が頭につく施設も多い。HJはこの「孝情」のイニシャルだろうか。
いずれにしても、こうした漢字を使った建物名、施設名からはキリスト教の影はいっさいなく、むしろ中国的な思想概念でも持った宗教施設かと思ってしまう。
ここを訪れるのは信者の最大の願い
教団の信者は韓国が公称30万人に対し、日本は60万人、世界では300万人とされているので、日本の信者の存在がいかに大きいか分かる。その日本の信者たちの間では、ここを訪れるのが生涯最大の願いという人が多く、教団のホームページを見ると、日本語や中国語で空港からの詳しい交通手段や行事・儀式日程などが掲載されている。
いずれにしても、山の中腹から湖まで続く山麓一帯、500万坪とも言われる私有地は、教団の信者らが世界中から集まる聖地であり、自ら「天一国」と称して、まさに独立王国を気取っているように見える。
教団のホームページによると、教団の修練施設では、先祖の悪い癖や血統の悪習を7代前までさかのぼって断ち切るという「先祖解怨」、先祖の原罪を清算し元の姿に戻すという「先祖祝福」といった儀式を行っているとある。そうした儀式を受けるためには、あらかじめ「解怨金」などを事前に完納するのが条件だという。
日本が贖罪のために韓国に貢ぐのは当たり前
豪華な教団施設を建設する際には、起工式に大勢の信者を集め、寄付を募る様子が映像でも確認できる。これだけの教団施設を建設、運営するだけでも莫大な資金が必要なはずで、そのためにも日本の信者の役割は大きかった。
創始者の文鮮明氏は、戦前に韓国を「植民地」として支配した日本は堕落した「サタン(悪魔)の国」であり、その罪を償うために「エバの国」=日本が「アダムの国」=韓国に金を貢(みつ)ぐのは当たり前だという贖罪史観を説いていた。
その一方で、韓国で統一教会と言えば財閥の一つと見られているほど、宗教活動より経済活動のほうが有名でもある。その中心となっている企業が高麗人参茶で有名な「一和(イルファ)」だ。高麗人参エキスや高麗人参茶の輸出では韓国の輸出シェアの60%を占め、高麗人参製品では民間最大手の企業だという。
また、日韓の海峡に海底トンネルを作ろうというプロジェクトを呼びかけ、資金を集めたり、中国広東省の恵州市に広大な土地を用意し「バンダモータース」という自動車工場を作り、年間30万台の車を製造するという計画を立ち上げ、信者達から資金や寄付を募った。
どちらの計画も挫折して、日の目を見ることはなかったが、とにかく実現可能性はともかく、大風呂敷を広げて莫大な資金を集めることだけは得意だった。
日本人信徒のための韓国語教育も
また教育事業にも力を入れ、ソウル市内には統一教会が運営する芸術専門の中学、高校があり、進学校としても有名なのだという。また、牙山(アサン)と天安(チョナン)にある鮮文(ソンムン)大学には韓国語教育院があり、そこで学んでいるのは日本の信者の子弟や集団結婚で韓国に嫁いだ日本人女性が多いと言われる。
(ソウル市内にある仙和芸術中・高校)
文鮮明氏は、神に選ばれた民族の国である韓国は、世界に真理を発信するメシアの国であるから、神の国の言葉として韓国語を勉強するのは当然だと説いていた。
そして結婚できない韓国農村の男性には統一教会に入信すれば、日本人女性と結婚できると勧誘するケースが多いと言われる。ここにもエバ(女性)国家=日本は、アダム(男性)国家=韓国に結納金を持参し貢ぐのは当然という教理がある。
植民地史観に永遠に縛られるのか
統一教会は、かつて「国際勝共連合」として反共産主義を掲げ、当時の北朝鮮や中国の脅威を背景に、政治家らの支持を集め、日本に進出する手段として使った。その後も、日本から金を集める手段として戦前の植民地支配を理由に日本人の贖罪意識を刺激し利用した。安倍晋三という政治家が目指したのは、そうした歴史の軛(くびき)から自由になることだったはずだが、皮肉にも、彼らのそうした「植民地史観」の犠牲になったと言えなくもないのでないか。