きものトリビア【履物】その2 鼻緒とすげ替え
和装の際の履き物について その1に続き、その2です。
前回は 履き物の種類についてにそれぞれお伝えしました。
今回は 鼻緒に注目して すげ替えの様子について書きたいと思います。
まず基本から。
鼻緒(花緒)
台につけて 足の指を差し入れるための紐。 台の3箇所の穴に通してすげるもので、布製や皮製、紐など。
足の具合に合わせて 紐を調節することで 快適な履き心地になる。 また織り染めの表地生地と裏地、仕立て方に種類がある。
鼻緒の柄は 台の色や柄と組み合わせてお洒落の見せ所となる。 とくに親指と人差し指の間にくる鼻緒の中心部分『前つぼ』の色は 着物の足元、正面にくるため 通はこだわる。
写真は 鼻緒をすげ替えた下駄2足の写真です。
今回お世話になったのは 北品川の『丸屋履物店』さんです。 街道宿場の風情残る商店街や路地を抜けたところにあり、親子で経営されているお店です。
台と鼻緒が豊富で、それぞれ選んで購入し、その場で調節しながらすげてもらえます。 もちろん、修理も請け負ってくれます。
今回は台を持ち込んで、鼻緒を購入し すげ替えてもらいました。 鼻緒代金とすげ代1000円で二足で 10,500円でした。
鼻緒に焦点をあてながら すげ替えた様子を説明します。
実家より譲られた朱色の津軽塗(青森津軽地方の伝統工芸品)の右近の台+名物裂(?)福林の鼻緒、裏地は本天。
織りの同系色に統一して 大人キレイにまとめてみました。
普段は白い足袋を基本としているので、 台も鼻緒も映えること間違いなしです。
名物裂(?)としたのは 聞き忘れたので・・・。生地の組織は経錦なのと柄ゆきで、名物裂とすることにしました。次回聞いてみます。
六代目がおすすめてくれた紅型の鼻緒も素敵でした。 今後の欲しいものリストに載せました。
こちらは 右近形の台、天に桜の樹皮を漆で加工した樺細工(かばざいく、秋田・角館の伝統工芸品)+燻煙染(くんえんそめ)地福林の鼻緒、裏地はわな。
六代目がおすすめしてくれた鼻緒で、津軽塗よりも少しカジュアルにしたかったので、ちょうど良い感じ。裏地はわなで素足にさっぱりとしていそうです。 赤い『前つぼ』もキュンポイント。大人かっこ優しい風情に。
さすがのチョイスに脱帽です。
鼻緒を選びは 相談しながら 迷いながら 台に当てながら 選びました。
もちろん職人肌の五代目、六代目にもおすすめいただいたりと ここではゆっくりと時間を使いました。
一方、すげ替えは お二人で、 ハサミと千枚通しのような工具で パッパッパ〜と ものの数分。 仕上げに足を入れて調節して出来上がり! よく歩くので 少々キツ目に。
鼻緒も、履き心地も好みに仕上がり、大満足でした。
ネット購入もいいですが、『相談できる&調整できる』は 実店舗の良いところと実感しました。
さて次は『鼻緒』により注目してみます。 素材と仕立て方に違いがあります。
<素材>
表地 様々な素材の生地に染め物や織物、皮製などあり、昔ながらの本天、西陣織や印伝などの工芸品、珍しいホースヘアまで様々。 フォーマルには台と同系統の色で織りやエナメルを。カジュアルな装いには 染めも。
裏地 耐久性の求めて化学繊維、ナイロンが多く、起毛素材や本天(ビロード)やわななど足当たりが良いものが良い。 他に皮製、エナメル製・合成皮革の草履には台と同じ素材でできている場合も多い。
中綿 鼻緒は男性用女性用はなく、 足の大きさによって鼻緒の生地や詰めている中綿の量を調整して、台にすげる。
<仕立て方>
丸鼻緒 裏地なく、表生地をくるっと仕立てたもの。
高原鼻緒 表地、裏地ほぼ半分で仕立てたもの。丸鼻緒同様に表地をたっぷりと見せることができる。
下の写真の白木の下駄の五嶋紐の鼻緒は 高原鼻緒のよう。
内玉鼻緒 表地面やや広く、内裏にもかかる。
福林鼻緒 裏地がぐるっと表両端まで包むように仕立ててある。上2枚の鼻緒は福林。
二石 細い2本仕立ての鼻緒 (写真ビフォーの二足がこれ。)。
極細 細い1本の鼻緒。
他にもまだまだありますが、一般的なもののみご紹介。
仕立て方で、表地の見え方や履き心地に影響することがわかる。
ここからは 主観たっぷり意見・感想。
<まとめ・感想>
表地・裏地、仕立て方の種類はたくさんある。それによって見た目や履き心地に差がある。また好みも然り。
表地の面積が多いと お気に入りやこだわりを大いに発揮できるが、太く見えてしまうことも。
裏地の面積が多い方が足の甲に表地に当たらずに 履き心地が良い。
裏地の素材はナイロンや化学繊維が耐久性があり、起毛やわなで履き心地良いが 裸足で履くのか足袋を履くのかでも、個人の好みが別れそう。
丸鼻緒は 細身の足には ぴったりなんだろうけども・・・私の足には でっぷりと見えそうである。 また脱いだ時に鼻緒の形がキレイではなさそうな予感。
鼻緒の良し悪しは履き心地だけではありません。実は見た目にどうかもとても重要だ。
細い鼻緒の方がほっそりとした足元を演出できるので良いが、 履き心地が・・・。
中を取ったのが福林鼻緒で 裏地がたっぷりで足当たりがよく、 表地が細く見えるので 理想的な鼻緒と言えそうだ。
今回すげ替えた鼻緒は 裏地が白く、白足袋を履くと目立たない。よって表地の幅分が目だつので、 履き心地と細く見えるの両方を手に入れることができそう。
裏地が白でない場合には通用しないが・・・、こういう考え方もあると思う。
よく考えてもみれば、 浴衣に裸足には 昔懐かしやや細い目の本天丸鼻緒が 見た目、履き心地ともに理想なのかもしれない。
今回のすげ替えでは 津軽塗には キチンと大人下駄感の鼻緒、樺細工の下駄には かっこよさと柔らかい風情がある鼻緒鼻緒を選んだ。
さらに裏地の違いを理解して、すげの調整をしてもらい 履き心地に大満足した鼻緒すげ替えであった。
<写真>
ビフォーの二石鼻緒は 細すぎて、しかも硬くて、 素足に履いて 擦り切れ、出血! 長期保存もあって1回使用で鼻緒の表に痛みが出たため、取り換えることに。
ビフォー: 鼻緒すげ替え前の アイタ、タタ〜の鼻緒。 細い紐が2本の『二石鼻緒』
台も細くて 素足に履いたらさぞかし素敵ですが・・・。
歩き方を鍛錬し自信ついた頃 またすげてみたい憧れの鼻緒となった。
五嶋紐の鼻緒、表地面が幅広いので『高原鼻緒』のよう。 表地が映え、裏地も心地よいが 幅広く、かつ台も太めで安定感はあるものの、足が大きく見るのが悩み。
次回は 下駄はどう選ぶか? と お手入れについて 書いてみることにします。
*このブログは 着付け師、講師、きもの文化検定1級の私が、 和装の学びの一片をまとめたものです。
文献や各方面のHP、専門店からいただいた知識をもとにしています。 備忘録でもあり、読んでくださっている和装のエンドユーザーへ 少しでも参考になればと思って公開しています。
感想は全く個人的なものです。 お試しの方は ご自身に照らし合わせ、判断し行ってくださいませ。
より専門知識をお求めの方は 専門店をご相談くださいませ。
<参考>
『丸屋履物店』さんHP
履き物のこと、鼻緒のこともっと詳しくご覧になれます。