旅のチカラ、旅のカケラ

空に唄えば

2008.11.12 14:00


エチオピアは南部に行くほど、

人が悪くなっていく…。


バスの荷物代、勝手にガイド、強気な物乞い。

ハローのふた言目には「マネー」だもの、

苦笑いがつづく。

気さくに話しかけてくれるのはいいけど、

8割がたお金目当てだから、

もう誰を信じていいのやら…。



シャシャマネという町を1泊で切り抜け、

「アルバミンチ」を目指す。

バスは午前6時発で、

36.5ブル(約365円)だった。

狭い3人掛けシートは、

ひとり30センチ幅のスペースしかなく、

身動きはほとんどとれない。

揺れに身をあずけて、眠るしかない。

ある意味泣き寝入りってやつ。


「iPod、交換しませんか?」

新メンバーのヒロくんからそう提案があった。

旅立ってまもなく9ヶ月。

バス移動の心強い相棒っど(iPod)は、

すでに全曲聞き終わり、鮮度はガタ落ち…。


大崎善男の『パイロットフィッシュ』に出てくる

「音楽や本は、好きなものが少しあればそれでいい」

というフレーズが好きだったが、

そんなカッコイイ台詞も呟けないほど

聞き飽きてしまった。



「しよう、しよう」

お互いのiPodを交換し、

カラカラと親指でリストをめくった。

GReeeeN、いいね♪

湘南乃風かぁ、いいよ、いいよ。

おっ、ケツノポリス5もあるじゃん☆

長渕剛ベストもシブイな。

Kiroroって懐かしい(笑

ひとのiPodは楽しい。


普段なら頭の2、3曲で

夢の中へと堕ちるのに、

流れる景色をPVに見立てて

歌詞の世界へと入っていった。



9時間後、

アルバミンチに到着するまで

ずっと空に唄っていた。


旅が長くなるにつれ、

日本の匂いが薄れていく。

その中で音楽は、日本へと思いを馳せるために

とても重要なアイテムである。

歌詞を追いかけながら、

その当時の自分を回想していく。



“思い出ソング”なんて大それたものじゃないが、

特に学生時代の記憶が甦ってくるもので、

あぁ、ずいぶん時間が経ったな、と

過ぎ去った時の重さに驚かされる。

濃い時間ほど、曲はたくさんの記憶を紡いでくれる。

そうか、この旅もまた同じだ。

浮かれ気分で始まった旅は

アジア、中近東を抜け、

憧れだったアフリカ大陸まで進んだ。

今、こうして聞いている曲たちもまた

新たな記憶と意味を持って

ずっと先の未来へつながっていくのだろう。



その未来で、

あぁ、あのときは…なんて、

空に唄っている自分がいるはずだ。