コレクションズ
今世紀を代表する作家でありながら日本ではあまり有名ではない作家、ジョナサン・フランゼン。”Great American Novelist” として、2000年のスティーブン・キング以来十年ぶりにタイム誌の表紙を飾ったりしています。(メガネで銀髪で鼻の下が長くて、シャイな感じがとてもキュート。)
『ランバート家の老家長アルフレッドは頑固そのもの。妻イーニッドはなにかと落胆する日々を過ごしている。成人した子供たちの生活も理想通りとはいえない―裕福な銀行員だが妻子と喧嘩ばかりの長男ゲイリー。学生と関係を持ち勤務先の大学をくびになった次男チップ。末っ子の一人娘、才気あふれるシェフのデニースは恋愛がうまくいかない。卓越した筆力で描写される五人の運命とその絆の行方は?全米図書賞受賞の傑作。』
というあらすじなのですが、どこにでもいそうな家族の話を書いているだけなのに、なぜこんなに面白いんだ!? 長いですが、読み始めたら止まらないこと間違いありません。『ザ・アメリカのブレッド・ウィナー』とでも形容したいような旧き良き時代のパトリアーキの父、アルフレッド。優しいけれど偏執狂的で、半分夢の世界に生きているような母、イーニッド。エリート銀行員なのに人間が薄っぺらく、父親のようになりたいと思いながら家族にディスられている長男ゲイリー、いい歳をしてまだ自分探しをしてしまっている、頭がいいのにコンプレックスしかないような次男、チップ、美人でシェフとしての才能を持ち、真面目な努力家で性格もいいにも関わらずどこか残念な長女、デニース。そんな交互に語られる五人の物語は、もの凄いドライビング・フォースを以って、イーニッドの悲願、『家族でクリスマスを過ごしたい!』に収束していくのです。そう、そんな些末といっていいほどの望みが、これほどのスケールで描かれるのもスゴイ!(イリアスとか読んでるようです。)そして家族の問題ってそういうものなんだよな、と。すべての問題を無視してホームドラマのような完璧な家族を演じたい母VSどうせ嫌な思いしかしないし面倒くさいからどうにか回避したい三人の子供たちの戦いはいかに!?
親といる時の独特の恥ずかしさ、優しくしてあげたいのにどうしても苛立ってしまう自分自身に対する嫌悪感、あんな風に育てられたからこうなってしまったと恨んでしまう子供ならでは甘え、などなど、あああああああ、分かる、分かる、分かる、分かる!!!!これ、チャックは私、私、私のことを書いてるの!!!!なんて叫び出したくなること間違いありません。(「お母さん、いらないものは捨てようよ!」)大人になると、親=正義ではないばかりか、完璧からはほど遠い人たちだったんだなと実感することも多々あると思いますが、同時にどれだけの愛を注いで育ててくれたかも理解できてしまうという。かといって、「パパ、ママ、育ててくれてありがとう!」というきれいごとだけでは上手くいかないのが家族というもの。アメリカの一家族のことを描きながら、ここまでユニバーサルな親子関係や家族というものを浮き彫りにさせるのはまさに文学作品ならではといえるでしょう。
面白かったのは、ゲイリーの家族の描き方。物語の中でも一番地味といっていいパートなのだけど、威厳のある父になろうとするゲイリーと、トモダチ感覚で子育てをする妻とのすれ違いが、もう、ヒリヒリするのです。自分がされたことを子供たちにはしたくないと思いながらも、子供は厳格に育てるべきという親から刷り込まれた価値観も捨てきれず、ただただ家族の中で疎外されていくゲイリー。自分の子でありながら、まるで宇宙人のような隔たりを感じているのです。現代の子育て、ってこんな感じなのかな?とか思ったり。昔の躾けって結構イジメだったり嫌がらせだったり価値の押し付けだったりする部分もあったと思うし、そんなことを体験せずに、できるだけコンプレックスを持たないようにと親が気を遣って育てられている現代の子供たちってどんな将来を送るんだろうな、とそろそろ古い世代に属しつつある私は考えたりするわけです。
親や子供や兄弟など、家族に問題がある人も、ない人も(いるのか?)、読んだらちょっと楽になったりするのかなと思います。とにかく読むべき名作なので、amazon の在庫があるうちに買っておきましょう!