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男女の比較:シドニーオリンピックでの調査

2018.02.05 04:53

棒高跳において、競技者の性別は技術指導をする際に1つ気になるポイントです。

2017年より女子棒高跳がインターハイ種目に加わり、ますます女性競技者を指導する機会が増えることでしょう。

今回は、競技者の跳躍を性別の観点から比較した「Comparison of the men's and the women's pole vault at the 2000 Sydney Olympic Games」(Scade et al., 2004)を題材にして、男女の技術の違いについて紹介します。


【女子棒高跳の幕開け】

女子棒高跳の世界記録はWikipediaによると、1910年アメリカのRuth Spencerが記録した1m44が最古のもののようです。そして、1992年から国際陸上競技連盟(IAAF)により女子棒高跳が認められました。当時の世界記録は中国のSun Caiyunが記録した4m05でした。


そして、2000年のシドニーオリンピックから正式種目となりました!

つまり、女子棒高跳は日本だけでなく世界的に見ても、まだまだ新しい種目だといえます。


これまで行われてきた研究においても多くが男性競技者を対象にしており、女性競技者を対象としたものは非常に少ないです。また、体力の違いなどからも男性競技者を対象にして得られた研究結果を、そのまま女性競技者に当てはめることには議論が必要です。


【いざ調査へ!!】

シドニーオリンピックでは、決勝に進出した男女それぞれ10名を対象にした調査を行いました。

今回の調査では、当時の世界トップレベルである競技者のエネルギーの様子を分析することで、性別による技術の違いを明らかにしようとしました。


そこで分析には「エネルギー注目型モデル」を用いました!

(モデルについては「Mechanics of pole vaulting -棒高跳を”モデル化”する-」をご覧ください!)


【調査によりわかったこと!!】

シドニーオリンピック決勝での男女競技者の結果(最大重心高)

男子:5m77-6m05

女子:4m45-4m71


エネルギー変化の様子

①基本

・最大湾曲までに、運動エネルギーと運動エネルギーが減少

・最大重心高到達まで、位置エネルギーが上昇を続ける


②応用

・男性の方がエネルギーが大きい

・男性の方がエネルギーの減少率と増加量が大きい

☆ポールを離した後に男女間の違いが見られた!

☆男性の方がポールが伸展して最大重心高に到達するまでの時間が長い!


運動の様子

☆女性選手は踏切後すぐと、跳躍後半にかけて角運動量が大きい。

(=体の角度変化が大きい。)


【男女の違いとは!?】

この調査で明らかになった性別による跳躍の違いとは、

「(助走速度や体重の影響を加味したとしても、)

女性競技者は柔らかいポールを使用している!」

ということでした。


この結果を生み出す2つの動きの違いが見えてきました!!

①スイング動作の違い

☆女性選手は踏切後すぐの角運動量が大きい。

女性競技者は男性競技者に比べて、早くにスイングをしていることがわかりました!

そのためポールに十分に曲げるための力を加えることなく、スイングをしていました。

このことにより、エネルギーの変換が男性競技者に比べ少なかったのです。


②クリアランスの違い

☆女性選手は跳躍後半にかけて角運動量が大きい。

①により十分に硬いポールを使用できていない影響から、女性競技者の多く(10名中7名)はポールから手を離した(PR)後に上昇する局面が無いことが確認されました。

そのため急にクリアランスを行う必要がありました。


当時これらの結果から、まだまだ女性競技者はポールの”弾性”という特徴を上手く使いこなせていないことがわかりました。つまり、「助走で獲得した運動エネルギーを十分にポールに変換することなく跳躍を行っている」ということです。


このような跳躍になる背景としては、上半身(特に肩関節周り)の筋力が弱いことが原因になっているのかもしれません。踏切後に十分にポールに力を加える局面に耐え、その後のスイング動作でもポールに力を加えていくためには、それなりの上半身の筋力が必要です。


2017年2月大阪で講演を行ったSteve Ripponコーチや、かつてRenaud Lavillenieのコーチであり現在中国ナショナルコーチを務めるDamien Inocencioコーチも女性競技者の上半身の筋力不足を指摘していました。


ここ数年の世界の女子棒高跳の競技レベルは急速に上がっています。シドニーオリンピックの優勝記録である4m60は、ここ最近の世界陸上やオリンピックの入賞ラインとなりました。

そのためこのシドニーオリンピックの調査で得られた結果を、そのまま世界トップレベルの女子競技者に当てはめることは難しいです。世界トップレベルの女子競技者(指導者)は、この十数年、確実に技術の進化を遂げていると思います。


しかし!!


日本女子棒高跳の競技レベルは2000年当時の世界トップレベルの競技者にさえ、いまだ追いついているとは言い難い現状です。

日本女子棒高跳の成長へのキーポイントこそ、この調査で得られた「ポールにしっかりと力を伝えること」だと考えられます。