古都、三姉妹は
続編)
京都は遠く、日本は立ち続ける。そこに誰が何を残すかは、誰もが知る由もなく、香乃は運命に疑問を持ち続けるが、
「なんしてあのひとのことききよるね」
「つきあってるやね」
碧は牡丹のような顔の黒い髪を揺らして目を吊り上げた。
香乃は眼を少し大きくして、緑の顔を見た。
年が25も違うオトコと、碧のような良い家の長女がと、そうとれた
「いいひとんようにみえんよてになあ」
碧は鼻を少しゆがませて
「あんひとのことそういわんといてえな」
夕暮れが来て、連れ立って近くの見物に出た。
道すがら話しは元に戻ったが、どうやら、各所の温泉郷のようなところへ宿泊のたびを繰り返しているらしい
話が仙台の作並のところになり、どうするのかとたずねた
「わかれたわ」
作並での話を聞くとなるほどと思った。
「なあ、うちにきなはれ」
碧は真面目な顔で香乃をみた
翌朝、碧が三千院にでかけたあと、仏光寺の住職に用を済ませたいと出向いた
路地で、広い白帽子の女にでくわした。あの女だった、ワンピース姿であたけれど、髪の色を形ですぐに分かった。
非常に品の良い女に感じた。
「あなた、梨木であったかたじゃ」
そうですというと、屈託のない微笑でこのあたりの事情の話を始めた。京都の人間だった。
代吉が出てきて柄杓で水を打ち出した、香乃は少し鼻白んでいた。
名前は菊池恭子といった。日本舞踊の名取であることで、香乃も多少の心得があったので、その話になった。香乃が初めて稽古を始めたのは、京都の通例に習って、六つの歳の6月6日にはじめたものだったが、一応、京舞の指導を受けてきている。それも、祖母の指導で高校に入るまでずっと続いたものであった。ちなみに最初に習ったのは「門松」であった。紅地の金砂子をきて可愛かったことを覚えている。
結局教えてもらうことになり、恭子の家に9回通った頃、香乃の力量が分かったことで本格的の指導するということになり
しぶしぶというか、承諾した。香乃は週二回恭子の家に通うことになった。
その日、恭子は京舞を見せるといった。5分にわたる舞いが終った。
「これ、わかりますか」
「あんさんは、なにしとりおるねん」
さすがに名のある舞手の舞は美しく端正だった。踊り終えて立ったまま、香乃にいった
香乃がわからないとつげると、今の香乃のたちばのせいという
「きくもさみしきひとりねの」と書いてある軸の前で恭子は座りなおした。
捨てられた芸者が出家して浮世を思うという意味の地唄だった。恭子の言う意味が分かってきた。
緒度一緒に帰りに大原によるというので来ていた枝奈子と碧の見る前で香乃は京踊りを舞った。
「それでいいんや、舞いは心や」
本来、京舞は舞妓、芸子の修行のためのもであったが。恭子はそういう弟子だけでなく一般に人たちにも舞いを勧めて教えていた。都踊りの舞にはあまり弟子が出ることもなく、趣味の舞い教室という感があった。しかし、恭子は石川流の本家でもあり舞いには妥協がなかった。
あたりは、秋の紅葉に山も燃え立つように都を見下ろしていた。
妹の枝奈子が香乃を尊敬することが、また起きた。
「踊りの名取になったやろ」
香乃は、恭子の指導を受けだして、もう一年半、もともと素地があったこと、京舞に翔る意気込み、そして恭子が京都でも一流の舞の名手だったこともあって、わずかの期間で恭子も眼を見張る名手となり名取になった。名取になるまでの一種の段は飛び級のように次々と上がっていたのである。名取扇は黒骨といって、いうまでもなく名取になったときにもらうもので、一本ずつ恭子の名である八千代と署名してあった。
妹の枝奈子は、姉が足袋屋の家業のみで埋もれた行くのに多少不満があったが、日本舞踊の名取になったことで、たいそう喜んでいた。もう彼女にとってのただ一人の身内は姉の香乃だけで、その姉を母のようにして来た5年であった。
碧のことについてはあまり良く思っていないことが香乃にはわかっていた。碧は香乃のすすめで、京都に留まることにして、香乃の足袋屋を手伝っていた。そんなおりの香乃の名取の話は枝奈子にとってうれしい出来事だった。本当なら3年も4年もかかってなるものだったが、香乃は幼い頃祖母に教わっており、その間、10年間まねごとにせよ日本舞踊を習っていたことになる。そのことがわずか半年でこのように称号を得ることができた理由だった。
秀介と香乃はひさしぶりにあっていた。
碧が足袋屋の手伝いをしていることについて、揶揄するように言うので
「そんなこと天神さんかていいよらんに」
と、多少怒っていった。
秀介はそんなに怒ることはないだろうと謝ったのだが、香乃としては親友の碧のことを考えてのことだったので、収まらなかった。
「碧さんはようやってくれてますね」
といって、秀介を睨んだ。
秀介は始末の悪い顔をした。たしかに香乃は軽率に人を雇ったりしないのは確かだったからだ。
碧は香乃に世話になっているということで、見住まいをあらためて、言葉も丁寧になり、最初から仕事のことで面倒を見てもらうという態度は、はっきりしていたので、香乃も碧の扱いについては随分気を使ってしまったが、碧はもともと頭がよく、すぐに仕事を覚えてくれたのは助かった。
香乃は名取をもらえたことと碧が家業の仕事になじんでくれたことで、一つ安堵していた。
また春が来た、碧の男のことは、その間全くなくすんだ。もう、完全に関係なくなったと考えてよかった。
蓬餅の青臭い味を口に砲ばりながら昔のことを思い出していた。父と母とともに春の野で遊んでいたのが思い出された。ふきのとうや薺、芹を摘んだことがあったように思った。どれも青臭い春の香りだった。いっしょに蓬餅を食べていた碧が香乃に茶を入れて持ってきた。礼を言うと、とんでもないと、今では使用人の一人に納まっていた。間違いのないように二人で出納帳を書くことがあったが誤りにきずくのは、いつも碧のほうで、いつの間にか数字のこととなると頼りきりになっていた。そんな香乃を碧は店主はいちいち細かいことにきずかないほうが良いと、いつもいっていた。
碧が仕事を手伝ってくれるようになり、店はうまく回るようになっていた。妹の枝奈子も碧がいてくれて助かっているのだと分かっていた。ただ、碧の男好きの癖がまたでないかと心配だったが、店のことで男にあってもそういうことは全くなかった。よほど作並のことが懲りているようだ。男と女のことは香乃は分かっているようであまり得手でなく、碧もそのことは十分承知していた。しかし、香乃のこういったことに対する言葉には全く逆らわなかった。踊りのときに、ふわっと浮き出るようにでてくる香乃のつま先の動かし方に香乃の思いがでているようだと碧は思っていた。包むように柔らかくそしてしっかりとした足先の前への出方が、一瞬すっと気分を良くするだった。
碧が恭子に自分も踊りを習いたいといって、香乃にそのことを相談した。香乃の考えでその日から碧も恭子の稽古に香乃一緒に通いだした。もらう扇は川上流の決まり扇で、扇の図柄が近衛引-このえびき-になっている。「稽古用」は、白地金砂子に井菱の紋のものだった。
筋がよくめきめき上達し、踊りもすぐ様になってきた。4ヶ月くらいたってから恭子が二人に
「二人で踊ってみなはれ。」
今二人に指導した踊りをやってみてくれないかと言いだした。
碧がしりごみすると
「そんなことないや、良い踊りになてっるよって。」
「いいですか、貴方たちの踊りは静から動への一瞬といわれるもやない。一跳びごとやな。」
菖蒲と杜若、牡丹と芍薬のように交差する二人の女の舞がいにしへの春の都の下に零れ落ちる。静と動の織り成す二人の女は9寸5分を手に、その姿は静に古都を包んでいった。大体舞いは腰から上の身体によって感情を表す舞踊で、踊りとは違う。踊りはもっと原始的に勇躍的であって文字の示すとおり足の活発な動きによるものである舞踊である。京舞は座敷舞を主眼にしたもので、決して大きな舞台で演ずべき性質のものではない。それに発生経過を見ても分かるように、女を中心に、みやびやかな振りをみせるというのが建前である。
有沢が碧が世話になっている今井屋の門をたたいたのは、碧と分かれて一年位してからのこといである。碧との手紙のやり取りで、様子が分かってはいたが、一応落ち着いたということで安堵していたが、自分のほうが碧に会いたくなり、突然やってきてしまった。
あいにく碧は外出していて、店にいた香乃が応対に出た。
「有沢さんのことについては、えろう、伺っております。碧さんちょっと用足しに出ただけやから、すぐ戻りますよってに、なかへおはいりやし」
碧の親友ということは知っていたが、学生時代の友達で、かなり深い親交があったことは有沢は知らなかった。それにしても、綺麗な女だと有沢は思った。
「碧が、えらいお世話になっていたようで、あの、少しどんな様子かと思いまして。随分ご迷惑をおかけしたのでは」
香乃は有沢のことを、よく思うっていたわけもなく、どうしたものかと思い始めてはいたが、顔には出さないでいた。一応気持ちよく応対はしてはいたが、有沢に対してそれなりのことは言うつもりの覚悟のようなものが、心にはあった。
そこへ、碧が帰ってきた。
「香乃さん大白河屋のこと済んだよってに、うもういってくれよりましたね。」
玄関で香乃に声が届くように少し大きな声で碧が報告している。有沢は招かれた座敷から声のする玄関のほうへ行こうとしたが、その前を香乃がすどうりして先に道をふさいでしまった。香乃が有沢が来ていることを話しているうちに、有沢も少しばつが悪そうな様子で、香乃の後ろの鴨居のところにやってきた。
碧は驚いた顔をすることもなしに、ひさしぶりの有沢の顔を明るく見返していた。
「有沢さん、ようこられやしたね、来るんなら、ただ、先に言ってもらわんと、こんな様子で、香乃さんにうらいやっかいかけてるの、ようみられんよってに。」
有沢が碧にとおり一遍の挨拶しかできずにいる様子を、香乃は見て取っていた。一年間、会わなかった恋人というものはこんなものかとも思いながらも、二人の間にあるものには気づいていた。心穏やかに会えるような話ではないのに二人は仲がよく見えた。
「香乃さん、お話ししたことのあると思いますよって、有沢一郎さんです。先に中に入いってしまっているなんて思いよらんやってに、えらいすみませんです。」
香乃は愛想をはじめて崩しかけた、有沢との応対は余り良い気持ちではなかったのは当然で、碧の様子で少し気が晴れてきていた。
「今、有沢さんとお茶を飲んでいたやってに、碧さんももう用は済んだやろう、いっしょに。」
髪をアップにしている香乃は碧と同じ年には見えず、有沢は固くなっていたが碧とのやり取りの快活さに警戒を少し緩ませてはいたが、自分の立場を思うと香乃が良い感情を持つわけもなく、相変わらず硬い表情でいた。香乃はなんとはなく二人に鎌をかけて様子を探ってみる気になっていた。なにしろ一年ほうっておいていきなり会いに来てどうこうというのもおかしな話で、気持ち的にはこのままうまく済んでほしいところっだった。話が少し分かってきて、何故分かれたが分からない気がしたが、険悪な関係とはいえそうにもなかった。あれこれ詮索するのも何かと、世間話に水を向けると、二人は少し居住まいが悪そうにし始めた。そこで、香乃は自分のことについて話し始めた。しかし、いつまでたっても座はしらけ気味でいったい何のつもりで会いにきたか疑いたくなった。連れ戻しにきたのでもなく、より、というのもおかしいかもしれないが何か男と女の話でないような、変な印象を受けたのだった。
「作並ではなかがよろしいおしたんやなあ、なんで」
話を聞くと、一緒にいただけで手も握っていないというのである。こんな話を聞いても仕方がないところであるが、親友のことなので先を聞く気にもなったが、やめてしまった。
二人ともまだ二十四歳であった。世間ずれするには若すぎて、学生時代の夢にいまだに引きずられているほうでもあり、碧がその仙台で一ヶ月そうであったことは事実だったが、事の真実については疑うことはなかった。有沢は大学の理学部の講師だったのだ、趣味で蝶屋まがいのことをしていたのが、同じ大学の講師だったとはへんな思いがしたが、博士号を採って結局、家を継ぐことになってあんなことをしてしまったのだと、聞かされあきれてしまった。金持ちというのは全く常識がないものだとつくづく思った。碧とは学校内で知り合っていたが香乃は気づかなかったことだったが、何故自分に秘密にしていたかは相手の講師という肩書きがさせたのは当然ともいえた。ただ、そう思って話をしているうちに自分の学生時代の話をしてみたり、そこは、なつかしいものでもあるもので、碧と講師と学生の仲でもあり恋人ということもできずにいたのは、当世の学生気質から言えば非常識ともいえたが親友がそういうことであったことは一ヶ月の遊蕩は大きく差っぴくにしても、何か怒る気にはならなかった。有沢は誠実そうな眼をしていた、逆に名家の跡取りの重荷につぶされていく姿が眼に入ってしまっていた。大学の話をすると、気さくな生き方の有沢の人生が見えてきて、遠い学生時代を思いだしていた。淡白でスマートであることはすぐに出てきてしまって、有沢自身苦笑しているが、逆に取っ掛かりがないとも香乃は読み取っていた。グレイのニット姿のファッションセンスにもうかがえた。
「で、碧をどうなさるんです。」
香乃がいうと有沢は真剣な眼をした。
「ここで使ってくださいできうるかぎり、頼みます。私がああいうことで彼女に傷をつけてしまって、本当に魔が差したというか、自分の絶望にかられて・・・・。」
香乃は許す気は最初からなかった。大学の講師で名門の跡取りがすることかとも言いたくなる。碧の負った傷の大きさに本当にきずいているのだろうかと事の次第を反復していた。
「じゃ、なんですね、碧は親に無断で一ヶ月貴方といたわけでしょう。それでは、話にならんなねえ、二十三歳の娘のことや、親にしてみればあんた知られたら敵や、よう考えたたほういわん、大体、いくら手も握ってないいわはかって証拠がない、あんた、ようわかっとんね。」
有沢は思ったとおりのことに、口を結んだ。今は家を継ぐしかないらしく、やることもなくなって気力自体が感じられない有沢に、さらに続けた
「言われなくても碧さんのことはうちで預からせてもらいます。ご心配無用ですね」
有沢が礼を言って帰ろうと思い出したとき。
「すかん、かえっとおくれやす。」
と、香乃は強く出た
「香乃さん、実は・・・。」
「なにね。」
「有沢さん、許婚なのねん。」
香乃はきっとした
「許婚が、一ヶ月放蕩しよったね。金持ちのやることはわからないよってに。」
実は、碧の家は財閥であることは分かっていたが、名門の長男との縁談につき合わされていたことになる。納まらないでいる香乃に碧が言い出した。
「石川さんのほうが幸せやね。」
罪人二人を前にして、香乃は美しかった。碧も綺麗だが香乃には随分見劣りがした。家のことで、二人で温泉に逃げ込んでいたわけであるが、香乃は父を失った家を一人で切り盛りしていたわけであり、話がかみ合わない
「香乃さんて、良いひとだねえ、古都の川端の姿が見えるよ。」
有沢が言う。
大学の講師、博士号取得、名門の家、苦労は尋常でないことはさっしられた。香乃は人生というものと一緒に生きてきた女であった。苦労しているのは自分のほうだったが、あいての状況も並大抵のことではないと思った。それに、有沢の性格である、この性格では大学内部でも昇格のことで大変な目にあうは目に見えていた。家のことの事情も、確かにひどいものでその中に碧を招き入れるのは大変な覚悟だろうと思った。引きとめて見たくなっていたとき。
「こういう店を、やるのが夢だったんだよなあ、それを二十代でやっているのだから。」
と、有沢がもらした。
過酷な人生には丁度良いかもしれなかった。この店を切り回すことは、これからさらに至難にもできるのだ、いつでもその覚悟がなければやってはいけない。
「あんさん、ここで碧といっしょにくらすのがよいとおもうやて。」
言葉は優しかったが、意味は厳しかった。有沢の顔が緩んだのはこのときにである。厳しい言葉の裏が有沢には心地よかった。しかし、そうはできないといって、断ったので
「そいなら、しばらくお泊りになったらよいね。」
有沢がそうも行かないというのだが、困っている碧に方を見て
「それじゃあ、二、三日、ご厄介になろうかね。」
「それがよろしいよってに、別にそういわはって、いいやなあ。」
香乃がうれしそうに言ったので、多少の時間が足されて息をついた。
足袋屋の二階の一室の碧の部屋に入った。きちんと片付けられていて気持ちが良いし、一応のものは皆そろっている。碧に案内されていったのだが、二人で話しているところへ香乃が顔を出した。
「ごめんやす、いかがですか碧さんの部屋は。あれこれしてあげたいんやけどねえ、ここでお泊りなさいね、あまり気にせんといて。」
と、香乃が入ってきた。色々面倒を見てもらったことを礼を言うと。
「なんしろ、友達のことやなし、面倒ではありませんよってに、これでも、まだ足らんといて、いろいろそろえてあげないとねえ。」
「旅館というわけにはいかんけど、ゆっくりとしてくださいなし。」
碧とふたりきりになって、足袋屋の仕事について色々聞いてみたりしたが、有沢は想像つかなかった。
「大変なんだろうなあ、一年間どうだった、香乃さんでよかったよ、お前のことをこんな風にして、全くいう言葉もないが、事情が事情で、分かってくれとはいえないけれど、親のことはちょっと意外だったよ。」
「私のことについて、余りうるさく言わなかったけれど、本当は随分気にしてたんでしょうね、ご両親、作並のことはうまく話したみたいだけど、このことはねえ。手紙で最近のことは知ってます。いよいよ覚悟を決めないといけないんでしょうねえ、私、もう邪魔できませんから。」
「邪魔というわけではないけれど、話が込み入ってきているのは手紙に書いたとおりだ。君にとって厄介なだけだよ。」
碧が不思議と優しい目で有沢を見た。この一年で随分、大人っぽくなったと有沢は思った。
ひさしぶりに、ふたりでとこを並べて寝たのだが、碧が指を絡めてきた。
「有沢さん、こんままがいい。」
有沢は碧の手を自分の手で包んでいた。遠い、作並が3年も前に思えた。
三日後、有沢は東京へ戻ろうと、身支度をしていた。そこへ香乃が
「もう少し、いとるといいのにねえ。」
碧は暗い表情で、言葉少なくなっていた。当然である、男の様子は見送ってはいけないことを、誰かに言われてしまいそうで、怖かった。
「それでは、お世話になりました。碧のこと当分頼みます。」
玄関を出て、行こうとすると、碧が泣きそうな顔で見ている。手を振って行こうとすると、
香乃が手をかわし、高い声で声に出した。
「有沢さん、いけんよってに思ってるなら、おいていってはぎょうさん後悔やねん。もどらんと、わかっとるからな。」
「いや、これで、お世話になりました。」
「有沢さん、いかんといて、もう、ひとりじゃないきに、あかんことや。」
碧が一歩足を出そうとした有澤に、走ってきて、手をつかんだ。
「なあ、ここいいやねえ、いっしょにくらそう。あん人だって、そのほうがいいやおもってる。」
有沢は、事情に弱りきっていた、碧の言葉を振り切っていくことには、何の理由もなかった。
「香乃さん、それに碧。諦めようと思えるのか、自分でも。事情はよくないどころじゃない。」
香乃が頷いたように顔をゆっくりかしげた。
「うれしいこつ、あんたなあ、そう言う人や、初めて有沢さんと会ったときから、これでよいことだったし、思いもよらんかった。なあ、これからもずっとやね、願いの届くかは、運だけのことだし、もうじき、弥生祭りみていけそうやな。」
有沢は碧の肩に触れて。そして背を左手のかるくさわった感触を香乃に気づかせず、僅かの月日に在ったことを反復した。
「すみません、何度も済まないといったことで、お話できなかった。」
有沢は碧の肩を抱いたまま、言ったが、心痛は隠しおおせなかった。
結局戻ってしまったのだが、どういうものか、気が晴れたようで、二、三日ではすまなくなってしまうとは思っても見なかった、有沢だった。
こうして、かつての講師と親友との暮らしが香乃に転がり込むことに、特に抵抗はなく、通りの奥行きに目を投げるようにした。結果は許婚も親友もある様に居たことが、ないようなことになったのであるが、 仕事に例えれば熱心にもほどと言うものもあるように、善人のものだとは言え、情けのなさに、自分の中に入ってしまった。
有沢は、本当は二、三日で暇する気であったが、香乃の碧と有沢に対する扱いは、二人を新居とまではいかないまでも、部屋を大きなほうへと碧と有沢が一緒に暮らせるように心した扱いだった、そのように扱われてというか、全て暮らすための便宜を図ってくれる香乃の考えが、本当に言葉通りであることが分かってきて、有沢は戸惑っていた、ましてこのことで家に連絡するわけにも行かず、ますます香乃の思い通りここでの、自分のイニシアティブのなさに気づいてきた、今の有沢の立場は自分ではどうしようもないともいえたが、その年からいえば当然、許婚である碧を引き取って東京に行くのが筋である。簡単に部屋をもらって、そこに居座るほど消沈していたわけではなく、覚悟と決心から京都に来たのであった。しかし、碧の久しぶりの顔をみていると、随分変ったことが、香乃の気遣いから来るものが見て取れて、一種、厳しい顔の中にすでに決まってしまっている亭主との新しい生活を認めているようにも見えたが、会話は一年前と内容は変らずにお互いに愛し合っていることは事実だった、自分の一存を通すにはこの碧の顔の表情の意味を超えていかねばならないのは確かで、いくら人生の岐路にいるといっても、許婚の心は分かっていた、有沢家に入る覚悟はあったのだろうが、香乃とのことで自分の人生に目が向いていた、もう大人の年の二人にとって、人生の選択は香乃によって迫られていた。早めに決断して東京に帰る気であったが、厳しさの中に本当の優しさを見せる香乃を見ているうちに心が鈍り、碧のことではなく香乃のことですでに一週間経っていた。
水曜が来て、有沢が滞在してから10日経っていた。恭子の踊りの稽古に例によって二人で出かけることになった。先週は有沢が来たことで碧は稽古を休んでいた。有沢を残して午後2時に出かけた。恭子は有沢との事は全く知る由もなく、稽古をいつもどおりつけたが、碧はひさしぶりに有沢と別になったことで、少し息を抜いていた。そんな様子を香乃は気にも留めないでいたが、いつになく元気な碧に気づいた。そうなのかもしれないと思ってみたりしたが、本当のことは分からないもだとも思っていた。家に帰ると、有沢は暇そうに書き物をしていたが、踊りの稽古はどうだったのかと、碧に聞いていた。香乃に碧はどの程度の踊りができるのか聞くので、碧が香乃がすでに名取だということを教えると、有沢は多少でなく驚いて、いろいろ香乃に聞き出した。踊りが見たいと言い出したのだが、そろそろ都踊りがあることを思い出して、それを見たらば良いといった。有沢は都踊りでの京舞というのは名前だけしか知らず、どういうものかとたずねるので、香乃が説明した。各地にこうした踊りがあり、他に何々流といった流派があり自分たちの習っているのは都踊りの原型でもあるものでもあるといった。都踊りは京都の芸者の踊りであり発表会みたいなものでもある。地唄舞については、有沢も少し見たことがあり、聞いてみたのだが、上方舞というものについての説明になって、香乃が長々と話をしたので夜遅くまでになった。
香乃が足袋の生地について、それぞれの種類の数を揃えるように、注文書を書いていると、碧がキャラコが随分減っていると気づいて香乃に教えた。生地は何種類かありそれぞれ用途があるが最近の流行はレースや柄物だった、ただしこれらは履くのにコツが有り普通のものとは少し違っていた。最近の若い人は大抵レースをおしゃれで使っているようだと思っていたが、店としてはオーソドックスは物を売るのが旨で、それを崩すことはなかった。いま香乃は白の普通のものを履いているが、碧は今日は麻のものを使っている。
こはぜは香乃は五つのものを愛用していたが、普通は四つのものである。二人とも皺など一歳許されない履き方をしていた。
「総レースプリント柄、いくつありましたっけ。」
碧がきいている。
「それより桜ちらし、注文しておいて。」
足袋屋の仕事はいつでも数がそろっているのが必要なことであるがサイズの勘定と、足あわせで買う人のことを考えに入れると大変な量になる。足袋は皺がよってはダメなのである。綿平を履くことが普通であるが、二人は踊りの稽古のとき以外履かなかった。もちろん色が黄ばんだりしていては話にならない。
最近になって踊りの稽古には五枚こはぜのブロードを使うようになっていた。これはフォーマルなもので綿の平織りのことを言うもので、キャラコよりやや安かった。
「碧さん遊々庵ひとつもったらえええに。」
「ええ、遊々庵ですかあ。」
「有沢さん驚くかもなあ、あんひと着物のことうるさいよてに。」
「そおねえ、裄とか身丈のことえらいうるさいよってに。」
最近になって碧もきんちゃくを新調したが、これは有沢が買ったものだった。碧はバッグより巾着を愛用していたが香乃はバッグのことが多かった。
「遊々庵ってのが、似合いそうなのかい。」
有沢が勘定場に入ってきて、さっきの話を聞いたらしい
「麻の柄足袋、気持ちよいやねえ。」
碧はうれしそうに左足をすこしあげて見せた。有沢が笑いかける。足裁きも踊りを習うようになってから格段良くなってきているのに香乃は気づいていた。親友のことではあるが確かに良い女である。
「あそこの店、足袋カバーしておりやしたなあ。」
「時代というかそりゃ、合理的かもなあ。」
有沢が言う
「それに古いものをハーブ染めやら、コーヒー染めして使いよる人もいるやてに。」
「足袋は元の色に戻らんきに。」
最近は日光にさらされても変色や変質しないように加工されてきてはいるが、特に木綿のものは白さを保つのが難しかった。
「香乃さん。」
乾き少しハスキーになっている、碧の声で香乃は手を合わせると、庭のムクドリが飛び上がった。
「何え。」
「古いきんちゃく、しとうずにすよるのはどうな、もともと、そうやない。」
「何いっとるの。」
思わず香乃は笑ってしまった。
「巾着のしとうずかい、そりゃ面白い。僕にも一つくれよ。」
あまりいい話題ではないのが、有沢が合いの手を入れるので、その場をなんとかした。
しとうず、というのは上流階級の人たちが綿や絹の生地を袋にして履いて足首を紐で結ぶものである。いってみればひも付きの靴下である。平安時代から、のことだろうと想像するだけだ。
雨の日の稽古のドタバタは、昨日あったばかり、足袋を二つ持つのが常だった、目的地に着いたときに泥が跳ねたりして汚れていたりするからである。不可抗力で汚れていても「失格」してしまうのである。
足袋のサイズは5ミリ刻みに設定されているに過ぎず、足のサイズが左右違うといった場合でも揃えることはできず、コツは靴のサイズと同じか、少し小さ目を選ぶと良いらしい。
「ストレッチようでていきまへんんあ。」
やはりキャラコの白には代えられないらしく、ストレッチの白はあまり出ない。
「綿変り桜小紋、ようでてますなあ、わたしも一つ持っているだけやけど、履く機会があまりないよってに、つまりませんなあ。」
碧のあわせ線、よっていたので、香乃がなおしてやる。
着物姿が商売の足袋屋である、身だしなみにはうるさい。
あれこれ足袋の話ばかりしているわけであるが、商売上仕方がないわけである。
香乃が立っている、有沢はまぶしそうに見ていた。着物の前身ごろから足元の白足袋がまぶしく美しい、所作良く振舞うので見ているものには、日本舞踊を見ているような錯覚を与える。体をさばくときの身八つ口の動きにそのよさが表れるのである、碧に比べると掛け衿の納め方がきちんとしているのが特徴に見える。脇線もまっすぐで気持ちが良い。香乃の立ち姿のよさは、評判で着物のモデルになったら良いとも言われたくらいだったが、碧も最近ではなかなか姿が良くなっていた。こうなると、見栄えの良い女がやっている足袋屋と評判が立ちそうでもあるが、この業界そういうことはなかった。あくまでも商売は経営のうまさである。和装関係を一手に引き受けている、大白河屋との取引は重要で香乃としてはこのさききんちゃくなども置いてみたくなっていたが、和装というのは範囲が広く少し手を広げると収拾がつかなくなりそうで足袋のみに専念していた。特注の足形に合わせる足袋については代吉が担当で、店には特注のことが大きく書き出されていた。足の形は人それぞれかなり違うのでこういうことも必要というか、もともと足袋は足に合わせて造るものであった。メーカー製の色々な種類の足袋は全部そろっているが、このようなもともとの足袋屋の商売を怠るわけには行かない。いろんな道具が先代のときからそろえてあって代吉は、ずっとこの仕事をしている職人だった。いくら時代が新しくなっても足袋の需要は衰えることはなく商売は安泰であったが、すこしの拡大は必要で大白河屋との契約に取り付けたのであった。
珍しく有沢が新調した着物姿でいた。履いている足袋は足型を取って作ったもので、一様足袋屋の人間のようには見えていた。踊りのことについては都踊りを碧と香乃と一緒に見てから余りうるさく言わなかったが、やはり二人の踊りが見たいらしかった。折りよく水曜の稽古の日で、その姿を見て香乃が午後から稽古だけれども一緒にどうかと誘ったので、有沢も踊りの教室へ出向くことになった。
「どうですか、お二人の踊りは、よろしいおすやろ。」
と、恭子に尋ねられて、大変うまいように見えるとお世辞を言っていたが、本当に、わかる訳もなく、質問するのが悪いと言わんばかりで、恭子の美貌に視線を送ったりした。
「お世辞じゃなく、うまいんどすえ。」
「そうですか、どうも良くは分からないもので、貴方の様に、居たいような気分です。」
二人との関係は仕事の関係で出入りしている着物の扱いのものということになっていたが、恭子は
「作家さんどすか、そういった雰囲気しておるね。」
と、尋ねてみた。
このこともあって、香乃に世話になるようになってから書き物ばかりしていたことが大きく、作家ではないが書き物をしていると答えた。
「京の話っていうのは、なかなか面白いよって、文が書けるお人にを書いてもらいたいものですえ。」
恐縮している有沢に二人がそれが良いといって、恭子にそういうことならうまいのだと話た。都踊りを見たということを話したら、それなら、いろいろ京都にはあるから全部見たほうが良いと言い出して、京都のそういった催しの書留の写しを有沢に持ってきた。
「これ、わたしがこういう踊りの教室をしていることで手にはいるんやな、あー、これ、埃や。」
きちんとした筆で書かれたものだった。いわゆるパンフレットのコピーではない。
「京都の町は女だけの町やないえ、男はんもいよるよってになあ。」
有沢は京都というと寺を思い浮かべるほど、無関心だったが、凝る性質であるほうであったが、足袋屋に住むようになって考えは踊りの稽古に、都踊りそして大白河屋のような和装の店という風になっていて、いまも着物姿でいるわけではないが、他に格好の付けようもないのである。地唄舞というのはどういうものかと聞いてみると、恭子の教えているのとは随分違うといわれた。
「雪、というのを見たのですが。」
「あれは、おなごはんのものやてに。」
上方舞は能や文楽の表現も取り入れたもので、どちらかというとゆっくりとした動きになっている。
六月、日曜、梅雨の晴れ間になった。足袋屋の仕事は今日は一応なく、朝のうち香乃と碧が少し、おとといのたな卸しの後の伝票整理をしてから、大原の紫陽祭りに行くことにしていた。香乃は紺地にユリの花の浴衣で、碧は薄青の地に彼岸花の柄の浴衣姿に着替えていた。有沢は洋服で行こうと身支度を整えていたが。
「有沢さん、せっかく大原行くんやから、着物にしといて、なあ、いいかたわるいやけれど。」
と、碧にいわれて、それもそうだと、着物に着替えた。有沢としては浴衣の女ふたりと、着物姿で三千院に行くというのは、やや、照れがあって洋服で待っていたのだが。
碧はここまで来た日々を思いだしていた。いま浴衣姿で鏡の前に移る自分の姿を、まるで別人のように感じていた。あきらめないで着た日々を思う、良くなっていく方に捉えていたとき、いつか笑える日が来ると。そこに有沢が立っていた、碧は手を伸ばして有沢の心の雲間にいる光を信じてみた。そうしたら心配事が全部なくなるような気がして。
「これでもう大丈夫や」
支度が済んだようだった。香乃はもう支度が済んで、先に玄関のほうに行っていた。碧とは対照的に、生きてきたのではない、彼女も何度でも闇に立ち向かってきた人生だった。
「よう、眠れよったに、朝、苦手や。」
二人が、降りてくると、有沢に言った。
大原を代表する門跡寺の三千院の境内は、例年とは違って昨日行われた降魔折伏の大般若転読会の息災祈願の法会の後始末が続けられていた、採灯のあとの提灯の取り外された跡が境内に伺われる。今しがた大きな字板を三人の住職がかかえて運んでいった。閑静な境内の奥の紫陽花苑では三千株以上の紫陽花が可憐な花を咲かせ始めている、色はまだ薄く、水色をしている両脇に綱を張られた道を三人はゆっくり涼しい木陰をあるっていた、立ち木は背が高く葉はもう初夏を過ぎた濃いものに変っていた。左右に曲がっていく道すがら話が進んだ、期間中行われている墨蹟展の会場に入った。三人ともこうしたことは全く分からないのであるが、なんとはなく風情に良い気分になっていく。またひんやりとした露のかほりのする紫陽花の中の道に戻る、先を行く香乃と碧の浴衣の柄の白いユリと赤い彼岸花が、白と水の紫陽花の花を被った薄緑のこもれの間から見え隠れする。脇線が二人とも綺麗で、つまさきまでピシッとしていて気持ちが良い、静かな光景に有沢は今の自分を忘れてみたくなって。
「先を行く姿のいい女は紫陽花より清廉だね、それに、ちょっと待ってくれ。」
と、声に出した。二人は立ち止まると、振り返り微笑んでいたが、すぐにまた歩き出した。このあとすぐに食事になって、着物の清清しさについて雑談することになった。
「山吹色に麻車って、変わっているけれど、綺麗な人だったわね。」
すれ違った商い風の女についてであった。
家に帰ってきて、玄関に入ろうとすると、鍵がかかっている。代吉が出かけたようで、碧が困っていると、香乃が頭からヘアピンを取り外すと、錠の鍵穴に差し込んでくるくる回して錠を開けた。
「中に入ったら、買ってきた袱紗をみてみましょうよ、運が良かった、明日、雨になるから。」
紫陽花祭りで紫陽花をかかれた紫と灰色のことである。絹の生地に白抜きの絞りで染められた紫陽花という字が、良くは分からないが字体もよく書かれているように見えた。一枚八千円もしたのでこれから踊りの稽古のときなどにも使おうというつもりで買ったものだった。こういうものを買ってみるのも悪くはないと、碧は思った。なんか二枚を見ていると、いけそうな感じがするのである。余計なことを考えるより、久しぶりに三人で遊びに行ったのだから。誰にも気づかれないこんなものを持っている子とって良い、と香乃は思っていた。
紫陽花に守られながら、時の隙間を生めるる用に、罪を重ねていくだけだけだと碧は思っていた。週末の闇に隠れて、海風に吹かれながら、有沢に強く抱かれ、香乃のこともなく、何も見えなくなった時間の余韻に碧は、想像の中で指を絡めていた。答えのない恋だとははじめから分かっていた。心を深く重ねていつまでも、何も、見えなくなった、切なくて。たった一日の三人で過ごした休日の、お土産のことで、碧はそんな思いに浸っていた。
「碧さん、どっちがいいと思う、」
白とグレイの袱紗のどちらにしようかと迷っていた。
「白やないほうが良いね、多少年寄りじみているから、」
予算削減は商いでは、こんなことで、必要経費からは、その程度しか出ない。
香乃は、碧の選ぶのを待って、三万円のボーナスの結果を見た。
有沢が、このごろいろいろ見たこともあって、踊りに随分詳しくなってきていた。あいかわらず、香乃と碧の恭子の稽古は週一回続けられていた、京舞と上方舞では差があり、恭子の教室の京舞を有沢は地唄舞をどこが違うのだとしつこく聞くのだが、実際、ここというポイントに決定的な差はなく、しかし、見れば一目瞭然で、全く違う印象を受けたはずである。ぜひ、一度、香乃と碧の踊りを本当に見てみたいとは前から言っていたが、いつか恭子の稽古についていったときの、踊りの印象が薄くなっていたようである。間も無く、恭子の教室の発表会が近づいていたので、香乃がそれに誘ったので、一も二もなく有沢は見に行くと言い出した。香乃は困ったことに有沢がどうしても地唄舞を躍るのを見たいというので、ここしばらく恭子の紹介で地唄舞の教室にも通う羽目になっていた。香乃が恭子のところで名取であったため引き受けてもらえたのだが、碧は便乗組みであった。
そうして、半年がたった。かねてからの思惑通り、発表会では地唄舞を舞うことにしていたが、苦労して稽古に励んだおかげで恭子を通して向こうの先生から許可が下りた。もともと、踊りに許可などはないのだが格式の高いところなので仕方がなかった。発表会では地唄舞の「雪」を二人で踊ることにして稽古してきた。一つに絞ればなんとかなるものである。
「碧さんが奥州の雪を舞うみたいに思うけれど、ならば、わたしは六条の雪かなあ、全部、雪になったことあったっけなあ。」
有沢は碧との一年間の思い出の雪のように考えてしまいそうだったが、いまはもう遠い記憶だった、ただ京育ちの碧がいっしょにいたことに今の暮らしとの深いつながりを感じた。
もっとも、香乃は当然京育ちの京女であり、その点の格では碧より強いものを持っていた。
碧は、二度帰らない旅の末に今微笑んでいる。有沢は何か慕情のようなものが募り、ひときわ、端正なプロフィールの人格であり、その容姿も完璧な香乃の強く、それでいながらしとやかな京女の感性と対比の中にいつも言っていたことがある。
それは、二人の中にいられて幸せであるということだった。
「なあ、香乃さん、この発表会が終わったら、何か変るかなあ、いや、何か見つけたくてね。」
香乃は有沢の小説家としての成功で十分だと感じていた。もっとも、香乃の知りあいの紹介で京都の作家グループに加入できたからだった。
「有沢さんの書くものは陰影が深くて、そのうえ涼しいから好きや。男も妙に男くさいのに、きちんとしていて、女ははっきりいって馬鹿やけどしっかりしていて、女らしいもの。このさきんこと考えてなはるよってになあ、もしかしたらまとまった京都の解説資料作りなんか手がけてほしいわ、京都のことなんかやっておくれなし。」
碧も
「「庄内川」、もう七十万部やろ、前の「角紋」もよかったし、でも香乃さんのいうように京都のことなにかしてほしいわ、文化的なことしてるほうが似合ってるし、大学の研究のつもりでなあ。」
足袋屋の手伝いと書き物の暮らしがもう一年半も続いていた。
発表会で二人は「雪」を舞った、これには有沢はいたく感謝していた。しかし、やはり香乃の方に一日の長があり、有沢の眼にもそう見えたのは事実だった。違う流派とはいえ名取の実力は確かだった。とにかく、動きの静かさに差が出たように有沢には見えた。発表会後の評判にはならなかったが、皆の印象には残ったようだ。地唄の響きの美しさがよい印象を与えたようであったが、踊りを囃すためのものに過ぎないのも事実である。比較して碧の踊りは硬くぶれがあったりしたところで、いかにも発表会だったが、香乃の踊りは一つの型さえできたものであるようにもうつった。発表会ということでプロも出ていたが、それに遜色のないものだったが、髪は日本髪を結ったわけではなく、普段のアップを下ろしただけのものだった。キャラコの五つこはぜの白足袋が舞台に映えて見えたのは、足袋屋の仕事を手伝っているせいかもしれなかったが、汚れのない白がまぶしく見えた。
雪という本来音を持たないはずのものを女心と共に、切々と表現したこの曲は、地唄の代表曲として余りにも有名で、特に「心の遠き夜半の鐘」の後の合いの手は「雪の合い手」とよばれ、歌舞伎の下座音楽をはじめ、邦楽のさまざまな曲に使われている。大阪南地の芸子が出家した後に、かつて、来ぬ人を待ち焦がれ、雪の夜を独り寝に過ごしたわが身を回想し、煩悩を捨てかねて、おう悩した心情を切なく詠っているもので、谷崎潤一郎の「細雪」の中で、主人公 妙子が、山村流の「ゆき」を舞う姿が出てくるが、山村流では、大切に舞われているものである。冒頭「花も雪も払えば清き袂かな」という文句で始まる。その中の「雪」を曲名としたもので、地唄の声楽面での最高傑作である。のちに舞が振付けられ、地唄舞としてよく演じられる。その情緒のある曲調が、いかにも上方らしさを漂わせているので、東京でも曲名の「雪」を「ゆ」を高くする関西方言のアクセントで発音することが多い、曲の途中に、夜に響く鐘の音をあらわした三味線の合の手があり、雪を表現しているわけではないが、これが大変に美しく、その旋律断片は劇場三味線音楽にも取り入れられ、劇中、雪の場面を表す事にしばしば使われる。男に捨てられ出家した芸子が、雪の降る夜の一人寝に、浮世を思い出し涙する、という内容の艶物で、武原はん、の生涯の代表作として有名で、上方舞の曲目として広く知られるようになったのは彼女の名演によるところが大きい、白の着物に、白地の絹張りの傘、という演出方法も彼女が広めたものであり、独特の叙情的な色気の溢れる彼女の舞は、地唄になじみうすい東京で「雪」
の名を大いに高めた。日本画家 小倉遊亀は武原はんをモデルにした「雪」という絵を描いている。歌詞は
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