9月1日に
【詳細】
比率:男1:女1
現代・ラブストーリー
時間:約10分
【あらすじ】
9月1日は『防災の日』です。
夏輝が仕事から帰ってくると、リビングの机の上には和香が貰ってきたカンパンが。
懐かしいカンパンと昔話に花を咲かせながら、今日という日を思います。
日頃の備えって大事ですよね。
【登場人物】
夏輝:(なつき)
和香の夫。和香とは幼馴染。
和香:(のどか)
夏輝の妻。夏輝とは幼馴染。
●家・リビング・夜
仕事から帰ってくる夏輝。
夏輝:ただいま~
和香:(キッチンから顔を出して)あ、夏輝! おかえりなさ~い
夏輝:ただいま~(和香を抱きしめる)
和香:うわぁ! こら! 抱き締めるのはスーツ脱いでからっていつも言ってるでしょ?
夏輝:嫌?
和香:嫌じゃないけど……スーツに良くない……
夏輝:それなら大丈夫。今は夏仕様だから上着来てない、ね?
和香:もう……おかえりなさい
夏輝:うん。ただいま
和香:今日も一日お疲れ様でした
夏輝:和香も。今日も一日家のこととかしてくれてありがとう
和香:(微笑んで)ありがとう
二人、顔を見合わせて微笑む
夏輝:(机の上を見て)あれ? 珍しい
和香:え?
夏輝:カンパン
和香:あぁ
夏輝:買ってきたの?
和香:ううん。マンションの備蓄交換のやつ
夏輝:そっか、もうそんな時期か
和香:そうだよ。私も久々に見て懐かしくなっちゃった
夏輝:もう開けたの?
和香:まだ。賞味期限が近いって言ってもまだ期間あるし、どうやって一缶分消費するか考えてなかったから
夏輝:カンパンって一回に大量に消費出来ないしな
和香:固いからね
夏輝:だよなぁ……(ジッと缶を見つめる)
和香:(クスリと笑う)
夏輝:和香?
和香:夏輝、食べたいんでしょ?
夏輝:……バレた?
和香:バレました
夏輝:いや、見れば見るほど、懐かしくなってさ。最後にカンパン食べたの、小学校のイベントの時だった気がするし
和香:そうだね~。自分の家の備蓄ってなると、カンパンよりはレトルトのカレーとか缶詰とかだったし
夏輝:そうそう
和香:……じゃあ、ちょっと開けちゃおうか
夏輝:え? いいの?
和香:いいよ。私も久々に食べたくなっちゃったし。あ、でも、ちゃんと夕飯は食べてくれなきゃ嫌だからね!
夏輝:もちろんだよ
和香:ならよし! ってことで、開けてもらってもいいかな?
夏輝:うん。よいしょっと。はい
和香:ありがとう。うわ~、懐かしい。こんな形だった!
夏輝:だな。このサイズとか匂いとか
和香:ね!
夏輝:じゃあさ、さっそく……
和香:うん。いただきましょう!
夏輝:いただきます! (カンパンを一つ頬張って)あぁ、こんな味だったわ。硬っ!
和香:夏輝、よく一口で入るね
夏輝:あぁ、和香は口が小さいから頬張ったら大変そうだな
和香:そうそう。だから、いつも奥歯でこうやって……(カンパンを奥歯で半分にする)……頑張って半分にして食べてた
夏輝:おぉ、強い歯だ
和香:まぁね。昔から、おせんべいとか大好きだったし
夏輝:和香、おばあちゃん子だったもんな
和香:うん
夏輝:そっか……
和香:ん?
夏輝:……あの地震から随分経つんだな
和香:うん……そうだね
夏輝:忘れたわけじゃないけどさ
和香:……うん
夏輝:……ちょっと、苦しくなるな……
和香:……うん。でも、今日はその為の日だから……
夏輝:その為?
和香:そう、今日はそういうことについて考える為の日
夏輝:……そうだな。確か、今日が関東大震災があった日なんだっけ
和香:そう。日本で一番被害が大きかったって言われている震災が起こったのが今日。それに、このぐらいの時期って台風もまだ多かったから、「災害への備えを怠らないように」って戒めを込めて、『防災の日』が制定されたの
夏輝:だから、夏休み明けのこの時期って避難訓練とかいろいろしてたよな
和香:そうだね。……災害ってさ、防ぐことが出来ないことが多いじゃない?
夏輝:あぁ
和香:だから、いろいろ備えて、何か起きても被害を最小限にしましょうってことなんだよね
夏輝:そうだな。備蓄も知識もそのためのものだもんな
和香:うん……
少しの間
和香:あぁ、もう! なんかちょっと暗くなっちゃったね。ごめん
夏輝:大丈夫だよ
和香:過去を振り返ってしんみりしてばっかりじゃダメなのにね……
夏輝:(優しく微笑んで)和香らしいね
和香:え?
夏輝:そういうところ
和香:そういうところ?
夏輝:うん。それじゃあ、ちょっと楽しいこと考えよう
和香:え?
夏輝:和香、今週の休み、一緒にアウトドア用品のお店に行かない?
和香:アウトドア? いいけど……なんで? どっか行くの?
夏輝:違う違う! 非常食見に行こう!
和香:えぇ!
夏輝:今、非常食っていろんなのが出てるんだよ。ブルーベリーのパンとか、水だけで出来るシリーズとか
和香:そうなんだ。いろいろ変わってきてるんだね
夏輝:そうそう。同じ缶詰でもスーパーとかには無い種類のものがいっぱいあるし
和香:楽しそう
夏輝:きっと、見てるだけでも楽しいと思う
和香:見に行きたい!
夏輝:よし、今度の休みのデート先は決定だね
和香:(微笑んで)ありがとう
夏輝:どういたしまして。ねぇ、和香
和香:なに?
夏輝:きっと、この先何十回ってこの日を和香と迎えることになると思う
和香:うん
夏輝:この日が来て、また落ち込むこともちょっと暗くなっちゃうこともあると思う。でも、二人でいっぱいいろいろ考えよう。大切なことだから
和香:うん
夏輝:それじゃあ、カンパンは閉まって、和香のおいしい夕飯をいただきましょう
和香:うん!
夏輝:じゃあ、俺、着替えてくるね
和香:は~い。あ、夏輝!
夏輝:ん?
和香:本当にありがとう。大好きだよ
夏輝:こちらこそ、ありがとう。俺も、大好きだよ
―幕―
2021.09.01 ボイコネにて投稿
2022.08.07 加筆修正・HP投稿
お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)