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紅く色づく季節

少し早く起きた朝

2022.08.09 00:07

【詳細】

比率:男1

現代・ラブストーリー

時間:約10分


【あらすじ】

彼女が家に来てくれた日の翌朝。

いつもより少しだけ早く目が覚めると……


*こちらは、『少し遅く起きた朝』の彼視点のお話です

 こちらだけでもお読みいただけます


【登場人物】

あなた:彼女が家に来てくれた男性。




●自分の家・寝室


あなた:

「……ん」


腕にあった心地よい重みがスッと軽くなったことに気が付いて、まだ眠い目をうっすらと目を開ける

目の前には可愛い可愛い彼女の顔……というよりおでこがある

きっと体勢を変えたときに腕から落ちてしまったのだろう


「ふふふ、かわいいな」


口から自然と言葉が漏れる

起きている時の彼女も十分に可愛いが、寝ている彼女はもっと可愛い

この寝顔を見られるのは俺だけだから余計に特別感があって可愛いのだろう

自然と口元が緩んで、心も温かくなる


「あ、何時だ?」


窓から入る日の光の明るさからして、いつも起きる時間を過ぎているということはないだろうが……

念のため時間を確認する

時計の針はいつも起きる時間よりも三十分も前を指していた


「おぉ、今日は早い」


いつもなら目覚ましと共に起きることしか出来ないのに、彼女が家に来てくれる日は何故か早く起きてしまう


「理由は、きっとこの寝顔を見たいからだよな」


いつもなら偶然早く起きてしまっても、目覚ましに起こされるまで二度寝を決め込むのに、彼女が隣にいるとそんな選択肢は一瞬にして消えてしまう

だって、こんな可愛い表情を朝から見られるのだから、寝てしまうなんてもったいない

自分も休みならば、いつまでもこの寝顔を見て、彼女が起きたらキスをして、おはようの挨拶を交わすのに


「最近、休み被らないもんな……」


何のいじめか、最近は休みが被ることがない

だから、彼女の寝顔を見続けることも、デートをすることも、一緒に食事をすることも出来ない

それでも、ちゃんとお互いを尊重しあえるのは付き合いの長さと彼女の気遣いのおかげだろう

次の日が休みの時は必ず俺の家に来てくれる

でも、逆に俺がそんなことしようものなら、『せっかくの休みなんだからゆっくり休みなさい』なんて言って意地でも譲らないくせに……


「……いっそ、一緒に住んじゃえばいいんだけど……」


前にちらっとそんな話をしたら、『えぇ……』と何とも言えない顔で返事をされた

理由を聞いたら、『ここから職場が遠いから』なんて言ってたけど、本当は違うって知ってる

だって、そんな問題はいくらでも解決のしようがあるから……


「昨日も無理させちゃってごめんね」


眠っている彼女の頭をそっと撫でる

一緒に住んだら俺はどうなってしまうんだろうか

愛しい人が常に傍にいる

この状況に俺は耐えられるのだろうか……


「いや、難しいだろうな」


自分の弱さに苦笑がもれる

仕方がない

こんなに愛おしくて、大切にしたいって思う人は彼女が初めてだから

口に出したらいろいろ語弊が生まれそうだからこんなことは言えないが……


「初めてなんだよ、こんなに守りたいって思えるの……」


口に出したらまた愛おしいという気持ちが抑えられなくて

眠る彼女の唇にキスを落とす


「はぁ……、ダメだな……さぁ、ご飯の用意しよう」

これ以上一緒にいたら自分を抑えられる自信がない

名残惜しさを感じつつも俺はそっと寝室を後にした



●リビング


あなた:

「よっと……」


リビングに入り、キッチンの電子ケトルに水を入れスイッチを入れる

そして、そのまま身体を反転させて冷蔵庫の扉を開ける


「今日の朝ごはんは何がいいかな」


冷蔵庫に入っている食材と常備食

それらを見ながら寝室で眠る彼女のことを考える

料理も得意でレパートリーも多いのに自分の食に関して無関心な彼女

放っておくと一日何も食べないなんてざらだ


「きっと遅く起きてくるだろうから、ちょっとだけ量を多く作るかな」


朝とお昼が一緒になっちゃう時間に彼女が起きても食べやすそうなものを俺の少ないレパートリーから引っ張り出してきて作る

彼女と付き合う前まで、朝ごはんなんて食べられればいいや位にしか思ってなかったけど、彼女と一緒に食べるようになってから変わった

ご飯を食べて、おいしいって心が落ち着くきっかけを作れるようになりたいと思った

頑張り屋の彼女の一日の始まりがちょっとでも幸せであってほしい


「よし、出来た!」


出来上がった彼女の分の朝ごはんをお皿に盛りつけて粗熱を取る

自分の分も皿に乗せて、沸かしたお湯でコーヒーを淹れ朝ごはんを食べる


「あ……」


ふとメモ帳が目に入った


「ふふふ、たまにはこういうのもいいよね」


俺はメモ帳を開き、リビングに置きっぱなしだった鞄からペンを取り出して彼女への短い手紙をしたためる

気持ちを言葉として文字で表す度に彼女への愛おしい気持ちが溢れていく


「……はぁ……」


手紙を書き終えると自然とため息が零れる

今日仕事から帰ってきて、彼女とご飯を食べたら彼女のことを家まで送っていかなくてはいけない


「なんで俺の休みは明日なんだ……」


誰に言っても仕方がないことだと分かっているが愚痴が零れる

でも……


「俺がもっと大人になって、早く一緒に住めるようになろう!」


うん

それが一番手っ取り早い解決法だ

俺は決意と共にコーヒーを一気に飲み干した

少し早めに起きた朝

彼女の存在と寝顔に癒されて更に愛おしく、自分の守りたい存在は何なのか再確認できた

でも、もっと自分が大人にならなくてはと思わされた

そんな朝



―幕―




2020.09.05 ボイコネにて投稿

2022.08.09 加筆修正・HP投稿

お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)