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超人ザオタル(80)捨てる覚悟

2022.08.12 00:39

岩山の上に涼し気な風が吹いている。

その風に吹かれていると、幸せな気持ちが満ちてくる。

ずっとそのままでいたいと願いたくなる。

アジタは私の言葉を消化しているのか、しばらくそこで黙っていた。


「ありがとうございます、ザオタル殿。

言葉というものは不完全で、紛らわしさを含んでいますが、

何かを気づかせてくれるものですな。

個我への執着、たしかにそれがあるのです。


個我も自分であっていいと言って欲しかったのかもしれません。

ザオタル殿がそんなことを言うはずもないと知っているのですが。

これも個我が自分として残され、延命したいという願いからなのでしょう。

分かってはいるのです。


分かっているということに改めて気づきました。

あとは私の覚悟なのですな。

その線を超えて行くのか、それとも慣れた世界にとどまるのか。

結局、私はその線を超えていきたいのです。


…、覚悟ができました。

私はアジタを捨てましょう。

そして、その先を見てみましょう。

まだ、道はその先にも続いているようですから」


そう言って私を見たアジタは清々しい笑顔をしていた。

私も黙って笑顔を返した。

日が陰るように草原の光が失われていった。

そこは夜の闇になり、私は深海のような静寂の瞑想に戻っていた。


頭上にゆらめく光を感じて、そこへと浮上していった。

あの宿の食堂の湿気を含んだ空気を感じた。

私はひとつ深呼吸をするとゆっくり目を開けた。

硬い木の椅子の感触がある。


食堂の白い壁が目に入る。

人々がいて、静かに私たちを見守っている。

私はここにいてずっと座っていたと思い起こした。

あの清々しい草原にいたことは夢だったか。


こちらの現実に合ってくると、草原は記憶の奥へと遠ざかっていく。

目の前にはアジタがいて目を閉じていた。

しばらくすると、アジタは何度か深呼吸をして瞑想から出てきた。

ゆっくりと目を開けて、まぶしそうに部屋を見回した。


私はアジタに声をかけた。

「さて、瞑想はどうでしたか、アジタ殿」

アジタは目を閉じて眉間にシワを寄せた。

そして目を開くと私を見て話し始めた。