【蒐集家蒐集】音を楽しむ
「第九の呪い」はご存じだろうか。
『交響曲第九を作ると死ぬ』クラッシック音楽家の間で常に囁かれていた言葉だ。
マーラーに始まりベートーヴェンまでその呪いは続き、33人中18人を殺した。
それ以降作る人はおらず、20世紀になりまた作り出す頃に、やっと呪いはおさまったと言う。
僕は今、とある蒐集家の家に来ている。
蓄音機にパイプオルガンが一台、チェンバロが2台、ヴァイオリンが2台、そして額縁に入った楽譜が15枚という、なんともシンプルな蒐集部屋だった。
「この楽譜ね、全部第九なんだ。」
「第九の呪いは知ってるかい?作った人は死んでしまうんだ。
しかしね、音楽家という奴は命よりも音楽を作ることにしたんだ。生より死!無よりも有を選んだのさ。もちろんみんながそういう訳ではないがね。第九とは付けずに作ったり、誤魔化して世に出したり。誰ひとり作らないという事はしなかった。」
「そんな命を張った大一番の第九。面白いだろ……」
突然、口を閉ざし呆けた顔をしたかと思うと彼はピアノの椅子に座った。
盤を開け、ダァン!と大きな音を鳴らす。
「あっ!!」目が覚めたようだった。
「…やぁすまないね。なんとも、どれかはわからんが蒐集したものの中に本物があったようでね。
…幽霊は信じるかい?まぁ、古い物にはよくあることだろう。」
「おいおいそう焦るなって…。あぁ、ちょっと演奏を聴いてくれないか。久々に僕以外が来たから聴かせたいみたいだ。」
是非!と言う前にすでに演奏は始まっていた。
軽いタップにはねるリズム。
これは…ジャズ?
「いやね、音楽家なら好きかろうと色々なレコードを聴かせたんだ。
最初はクラッシックばかり弾かされたんだが、次第にブルース、タンゴ、今はジャズが気に入っているようなんだ。次は演歌でも聞かせようかな?」はははと軽く笑う。
奇妙な演奏会はその後2時間続いた。
「また来てくれってさ!僕もそう思ってるよ!」
ピロン。奥の部屋でピアノが鳴った。