#158.クレッシェンドについて
楽曲には必ずと言っていいほど出現するクレッシェンド。記号だけでなく「cresc.」とか「crescendo」と文字で書かれることもあります。
クレッシェンドは教科書的には「しだいに強く」と解釈することが多いです。要は音量を大きくしていく指示なのですが、「じゃあでっかい音にしてけばいいんだ」と一本調子で演奏しては表現として寂しく思います。
そこで今回はクレッシェンドについて考えてみましょう。
クレッシェンド本来の意味
楽譜に書かれている文字の多くはイタリア語です。音楽に出てくる言葉だけを辞典としてまとめた「音楽用語辞典」というものがあり、大変便利なのですが、私がオススメするのはイタリア語辞典です。
クレッシェンドもイタリア語なのでひいてみますと、このような意味が書かれていました(実際はcrescereとひいた場合)。
・成長する
・育つ
・大人になる
・増える
・上がる
・高くなる
英語で言うところの「grow」でしょう。それにしてもたくさんの意味があります。
こうなってくると音量だけ「しだいに強く」すれば良いとは思えなくなりませんか?
音量以外のイメージを持つ
音楽は音によって様々な物事や感情、情景、現象などを表現します。それが具体的か抽象的かは別として、機械的に無機質に演奏することを求められない限り、演奏者はそれぞれの場面で何かしらのイメージを持つことが大切です。以下にイメージ例として挙げてみます。
・感情の変化(喜怒哀楽など)
・規模の変化(成長、建設)
・温度の変化
・質の変化(硬軟)
・色彩の変化(色の強さ、色の変化)
・距離の変化
少し補足します。
[感情の変化]
喜怒哀楽の変化。例えばフツフツと怒りが湧いてくるとか、笑いが込み上げてくる、悲しさがこらえきれずに大泣きしてしまうなどの変化。また、精神的変化なども考えられます。ラヴェル作曲「ボレロ」は、まったく同じリズムとコードとメロディが延々と続く中で、半ばトランス状態のようになる作品です。
[規模の変化]
時間の経過とともに何かが成長する様子をクレッシェンドで表現する可能性もあります。狭い洞窟を抜けたそこには広大な大地が現れた!とかもクレッシェンド要素になりますね。子どもが大人になるとか。ミヨーという作曲家のバレエ音楽「世界の創造」は、地球が誕生して生命が生まれる様子を音楽にしています。音楽って何でも題材にできるんですね。
[温度の変化]
水がお湯になって沸騰する。これもクレッシェンドでしょう。実際の温度に限らず、先程挙げた感情の温度というものもあります。
[質の変化]
柔らかいものが固くなるなど。これも感情に置き換えることができるかもしれませんね。
[色彩の変化]
薄いピンクが真っ赤になるとか、白が黒くなるとか、色の変化に例えることもできます。
[距離の変化]
遠くから接近してくる。レスピーギ作曲、交響詩「ローマの松」の最後「アッピア街道の松」は軍隊の凱旋のシーンで、徐々に近づいてくる様子をクレッシェンドで表現しています。
このように、様々なものがクレッシェンドで表現できるわけですが、大切なのはクレッシェンドはこれらの変化を促した存在である点。要するに音量が変化する途中がクレッシェンドであり、その変化には必ず前と後ろがあるのです。
クレッシェンドをする行為こそが目的になってしまう演奏をたびたび耳にするのですが、クレッシェンドは途中経過ですから、必ずその先に結果が待っていることを忘れないようにしてください。
また、その結果が必ずしもf(フォルテ)であるとは限りません。p(ピアノ)がクレッシェンドしてmp(メッツォ・ピアノ)になることだって十分考えられますし、pが十分クレッシェンドして、しかし結果はsub.p(スービート・ピアノ=突然pで)になるかもしれないのです。
クレッシェンド記号の前後が何であるかは必ず把握するようにしてください。
ということで、今回はクレッシェンドについてのお話でした。
また次回です!
荻原明(おぎわらあきら)
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