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VF750F 1982y

2018.02.09 11:10

VF750F 1982y

 水冷V4・750ccエンジンがベールを脱いだのは、意外にもシャフトドライブのツーリングスポーツ・セイバーと、アメリカンバイクのマグナだった。どちらもハイテクの塊りであり、なおかつゴージャスな高級車なのは間違いないものの、どう考えても「速さ」と結びつけるには無理があった。案の定、セイバーもマグナも一部アダルトライダーに支持されはしたが、人気車に名を連ねるまでには至らなかった。しかし、真打ちは別にいたのだ。

 1982年のケルンショーに踊り出たVF750Fは、それまでの重量車としての750、国内最大排気量モデルとしての750のイメージを、粉々に打ち砕く革新的なモデルであった。国内量産モデル初の角型断面フレームに72psを発生するV4エンジンを搭載し、アンチノーズダイブシステムTRAC装備のフロントフォークとプロリンクリアサスペンションを装備。さらに、フロント16/リア18インチの小径ホイールとハイグリップタイヤという、旋回性重視の足まわりセッティングが施され、走りの鋭さのみを明確に追求していたのだ。それまでホンダビッグスポーツの旗艦であったCB750Fが、フロント19インチホイール(VF750F発表と同じケルンショーで、フロント18インチのFCがお目見えしてはいたが)と安定性重視のハンドリングを持っていたことから考えると、このセッティングは革命的な変化といえた。

 実際に走らせてみても、まるでミドルクラスかと思わせるほどの機敏さと、やや危うさが残るほどの斬れ味を持っていたのがVF750Fだった。強力なブレーキを駆使してコーナーの奥まで猛烈に突っ込み、一気に向きを変えて強大なトルクで立ち上がる。コーナーの速さは常識外れではあったものの、切れ込みながらグングンと向きを変えていくフロントタイヤのコントロールが難しく、意のままに走らせるにはかなりのテクニックが必要な性格には誰もが驚いた。

 指の入る隙間もないほどギッシリと詰め込まれたエンジンの存在感も、これまた一種独特だ。不連続なビートを奏でる低い排気音。圧倒的な中低速トルク。アイドリングからレッドゾーンまで一直線によどみなく吹け上がるフィーリング。いわゆる「カムに乗る」フィーリングがなく面白さは希薄なものの、スピード感を感じないまま猛烈な速度まで達してしまうため、ライダーは常に、一瞬たりとも気が抜けないマシンとの真剣勝負を要求された。つまり、諸刃の剣のようなビッグマシンというわけだ。

 もっとも、このような性格は、攻めて攻めて走った場合に見せる表情だ。乗ればどうしても攻めたくなってしまうマシンなのは確かだが、そこをグッとこらえてジェントルかつスムーズに流す場面では、さすがビッグバイクらしい余裕を感じさせてくれた。どんなエンジン回転数、どんなギアからでもスロットルをひねるだけで加速してくれるため、まるでオートマ車に乗っているかのようなズボラ運転もこなすのだ。これほどまでにフレキシブルなエンジン特性は、従来の常識では考えられないものだった。

 しかし、あまりにも過激すぎるという反省があったのだろうか。1986年に登場した後継モデル・VFR750F、さらに1990年のモデルチェンジ版と変身を続けるとともに、よりジェントルなスポーツツアラーへと洗練の度を深めることになる。絶対的な速さはVF750Fからさらに進化してはいたが、扱いやすく安定感のあるハンドリングと良好な乗り心地、アクの抜けたたたずまいなどを見るに、あえて最前線に出ることを避けようとした印象が感じられる。そして、一大レプリカブームの到来と終焉を横目で眺めながら、国内マーケットから姿を消していったのであった。


ホンダVF750 F 1982y.12

エンジン:水冷 4サイクルDOHC 4バルブV型 4気筒 排気量:748cc ボア&ストローク:70.0×48.6mm 圧縮比:10.5 最高出力:72.0ps/9,500rpm 最大トルク:6.10kg-m/7,500rpm 始動方式:セル ミッション: 5速 (㈰2.733 ㈪1.894 ㈫1.300 ㈬1.240㈭1.074 )全長:2,160 全幅:770 全高:1,215 軸距:1,495mm 地上高:155 重量:218kg タイヤ:F・120/80−16R・130/80−18最高速度:228km /h 価格:74万 8千円