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Botanical Muse

美しさのまとい方 エストロゲンと糖代謝

2018.02.12 07:51

【エストロゲンは糖代謝を改善する】

食事として摂取された糖分は、体内で糖(グルコース)に転換される。血液中にある糖が血糖である。血糖は、インスリンというホルモンの作用で各細胞に取り込まれ、エネルギー源として利用される。このような一連の仕組みを″糖代謝″と呼ぶ。身体のいかなる組織でも、糖代謝が正常に進行しないと、エネルギーを利用できないことで機能が低下する。

インスリンが分泌されなくなる、あるいは、インスリンは分泌されてもその作用が低下して血糖が利用されず、その結果、血糖が上昇する状態が糖尿病である。前者は1型糖尿病である、後者は中高年以降によくみられる2型糖尿病に相当する。糖尿病の90%~95%は2型糖尿病である。

エストロゲンの受容体が欠損しているため、エストロゲンがまったく作用しない男性や、エストロゲンが作られない男性は、糖尿病と似た状態となる。また、生まれつき卵巣が発達せずに、エストロゲンが分泌されない女性は、糖尿病の頻度が高いという報告がある。

エストロゲンは、インスリンの作用を高めていること以外のメカニズムによっても、糖尿病を防ぐ作用がある。例えば、インスリンは膵臓にあるβ細胞で産生され分泌されるが、正常な濃度範囲のエストロゲンは膵臓のβ細胞に直接作用して、インスリンの産生と分泌をともに高める。さらにエストロゲンは、β細胞の寿命を延ばすようにも作用している。

妊娠中は、胎児への糖を供給するために糖の需要が高まっている。妊娠中はエストロゲン分泌は亢進している。妊娠を継続するためには、エストロゲンのインスリン分泌促進効果、インスリンの作用の増強作用は好都合といえる。しかし、妊娠中には胎盤由来のホルモンなどの影響で、インスリンの作用はむしろ抑えられる。このため、妊娠中にのみ血糖値が上昇することがある。

最近のトピックとして、ダイオキシンなどの環境中に存在する弱いエストロゲン作用をもつ物質(いわゆる環境ホルモン)は、体内に取り込まれ身体が作るエストロゲンの作用を阻害することで、インスリンの作用を妨げて糖尿病の誘因となることがマウスで観察されている。

エストロゲンの低下は糖代謝異常を起こすが、逆に糖代謝異常がエストロゲンの分泌を低下させるという悪循環を引き起こすことがある。すなわち、エストロゲンが低下することでインスリン作用が低下すると、身体は懸命にインスリンを出そうとし、その結果インスリン濃度が高まる。インスリン値が上昇すると、卵巣のエストロゲン分泌が障害される。月経が不規則で不妊となる女性でしばしば糖代謝の異常がみられることがあるが、この背景には、エストロゲンとインスリンの分泌の双方向的な乱れが関係していると考えられる。


【閉経後には糖尿病のリスクが高まる】

エストロゲン分泌は、閉経の前後で急激に変化する。糖を負荷することで一過性に分泌されるインスリン量は閉経後では低下する。おそらく、エストロゲンがなくなると、インスリンの分泌も減少するのだろう。

糖尿病は閉経前の女性は比較的少なく、閉経後に発症することが多い。さらに、閉経年齢が早いほど糖尿病の発症率が高くなる。40歳未満で閉経を迎えた女性の糖尿病の発症リスクは、平均的な閉経年齢(50~54歳)の女性に比べて30%以上で、逆に閉経年齢(55歳以上)が遅くなると15%低くなる。

なお、糖尿病の発症には性差がある。男性の方が女性と比較して発症年齢が低く、また、年齢を問わず男性の糖尿病患者の割合は女性の約2倍である。しかし、女性の糖尿病の方が男性よりも深刻である。なぜなら、糖尿病があると心筋梗塞による死亡リスクが男性では約2倍に上昇するが、女性では3.5倍程度に跳ね上がるからだ。


【女性では男性ホルモンの増加、男性では低下に注意】

男性ホルモンは、糖代謝にどのような影響を及ぼすのであろうか。

女性では、テストステロンなどの男性ホルモンが過剰に分泌されることがある。このような女性は排卵がなくなり不妊となることがある。また、テストステロンが過剰の状態では、インスリンの利用が低下する。

一方男性では、中高年以降にテストステロン分泌は減少するが、特に減少が著しいとインスリンの作用が低下することがある。この場合にテストステロンを補充するとインスリン作用は改善する。しかしながら、テストステロンが正常に分泌されている男性に、さらにテストステロンを投与するとインスリン作用は低下する。すなわち、テストステロンは、多くても少なくても具合が悪いということになる。

なお、男性では適度なテストステロン濃度が正常な糖代謝に必須であるが、その機序として、少なくともテストステロンがエストロゲンに転換されて糖代謝を正常に保っている。なぜならば、前述したようにエストロゲンが産生できない、あるいはエストロゲン受容体を欠く男性では、糖代謝が障害されているからである。