タイBLドラマ「I Told Sunset About You / 僕の愛を君の心で訳して」(2021年)超おすすめ!キャストとあらすじ
おすすめ度:★★★★★ 大人の階段を昇る少年たちの傑作BLドラマ!
U-NEXTでタイBLドラマ「I Told Sunset About You / 僕の愛を君の心で訳して」(2021年) を見ました!タイ南部のビーチリゾートで有名なプーケットの旧市街を舞台に、ノスタルジックな雰囲気のなか2人の幼なじみの揺れ動く心の変化を繊細かつ丁寧に描いた作品。タイBL史上最高傑作ではないかと思うほど秀逸なドラマ!
このドラマの主人公は、プーケットに暮らす高校3年生のテーと同級生で幼なじみのオーエウ。テー役をビルキン・プッティポン・アッサラッタナクン(Billkin Putthipong Assaratanakul)、オーエウをPPクリット・アンムアイデーチャコーン(PP Krit Amnuaydechkorn)が演じています。ふたりともタイのエンタメ界で歌手・俳優として大活躍していて、演技に加えてドラマで披露される歌声も素晴らしすぎる!
春節祭の中国語劇から演劇学科の推薦入試へ
ストーリーは子どもの頃から俳優を目指していたテーが、バンコクにあるアナンタサート大学演劇学科の推薦入試を受けるところから始まります。テーは憧れの中国俳優・勇健(ヨンジェン)の姿で中国語の歌劇を披露。応募書類に「友達がきっかけでこの役を選んだ」と書いたテーに、続く質疑応答で、面接官が「その友達に何か言いたいことはあるか」と質問をします。
その友達がオーエウ。中学校の合格発表の日に出会い、仲良しグループでいつも一緒だったテーとオーエウ。しかし、中学3年の春節祭に行われた中国語劇「剣月」を境に、何年も絶交状態が続いていたのでした。けんかのきっかけは、意図せず勇健役に選ばれたオーエウが、勇健みたいな俳優になることを夢見るテーにかけた何気ない言葉。
負けず嫌いで努力家のテーは、「演技が好きになった」「次もまたやりたい」と興奮するオーエウに、自分の夢を横取りされた気がして「どうせすぐに飽きる」と捨て台詞を吐いてしまい…。すぐにまた仲直りすると思っていたテーでしたが、そのまま時間は過ぎていき、別々の高校へと進学し、気づけば大学受験を迎える高校3年生になっていたのでした。
一般入試に向けて中国語の塾に通い始めたテーは、そこでオーエウと中学校からの仲間たちに再会するのですが、自分と同じ演劇学部を目指すオーエウのことが鼻について仕方なく、またも嫌味な言葉をぶつけてしまう…。そして、オンラインで行われた推薦入試の合格発表の日、テーは成績一番で合格。同じ日に同じ会場で推薦入試を受けていたオーエウの名前はありませんでした。
お前、試験はどうだった?
長い間、話してないな。
こんなはずじゃなかったんだ…。
合格を祈ってる。幸運を。
推薦入試の面接で、オーエウのことを思い、涙を浮かべながら、心の奥にある感情を言葉にしたテー。オーエウと仲直りしたいのに、素直になれずにただ時間が過ぎていましたが、合格発表を機にようやく思いを伝えられる瞬間が訪れます。
俺、謝りたいんだ。今までのこと全部。
けんかのきっかけも些細なことだったように、仲直りに必要な言葉もとてもシンプル。誰しも一度や二度は経験があると思いますが、そんな簡単な言葉でもなかなか素直に口にできないのが人間。そして、タイミングを逃せばなおさら…。
時間はかかりましたが、なんとか仲直りしたテーとオーエウは、失った時間を取り戻すように、中国語の勉強を通してまた少しずつ距離を縮めていきます。
福建麺、ココナッツの香り、ハイビスカス
第2話で、オーエウと仲直りしたテーがある日、転校前に着ていた古い制服を着てオーエウの通う高校に行き、廊下で2人きりで話をするシーン。このシーンのビルキンの演技が素晴らしい!
俺は好きじゃない。
お前が言った『みんな友達』ってやつ。
よくわかんないけど、俺、最初は親友に戻れたのかと。
だから俺、みんなと同じってのが…
なんて言えばいいのか。
けんかして長い間口を聞かずにいたのに、仲直りできたら今度はもっと親密でいたい。自分が感じるようにオーエウにも感じて欲しい。少し自分勝手だとわかっていても、言わずにはいられない。でもだからといって、どうして欲しいかなんてよくわからない、そんな純粋で複雑な感情が全部このシーンに詰まっています。
ドラマ全体は5話と短いものの、テーの「感情の変化」がストーリー展開の鍵を握っていて、それぞれのシリーズにポイントとなるシーンがあります。この廊下のシーンで見せるビルキンの子どもっぽい表情やしぐさはすごくいい!作品の世界観に引き込まれます。
そして、このまま変わらず時が過ぎていってほしい!と見ている方としては願うのですが、オーエウが「誰にも教えていない。テーだけにしか言わない」といってバスが好きだと打ち明けます。これがテーには次なる試練に。さらに同時進行で、2年間口説き続けている同級生の女の子ターンとの関係も、高校3年生で受験を控えているという状況で複雑になっていきます。おまけにフン兄さんの日本人の彼女のぞみさんまで登場し、ますますテーは自分の感情に混乱してしまう…。
オーエウとバスの仲の良さを見てモヤモヤしてしまったテーは、ボートで帰路に着くオーエウに、中国語の単語カードを使って「悲しい」の漢字の意味を伝えます。そして、自分との時間を誰にも邪魔されたくないと。歴史的に時間をかけてタイ社会に融合してきた中国文化が、なんとも美しく奥ゆかしい表現でドラマに取り入れられていて、静かな感動を覚えます。
自分の未来と周囲の期待
やっと元の関係に戻れたオーエウと、やっと距離を縮めることができたターン。第3話では、2人との関係に揺れる感情を抱えたテーが、オーエウのことで頭がいっぱいな自分を否定しようとするものの、なかなかうまくいかない。一方のオーエウはもっと大人で、はっきりと自分のことを理解しているし、テーが感情を否定しているのもきっとわかっている…。
悩みながら少年から大人へと成長する高校3年生。「自分の未来」と「周囲の期待」という両方を背負い、受験勉強という辛く苦しい道のりを自力で進んでいくしかないのです。
手作りの中国語慣用句ノート
第4話では、中国語の勉強が進んでいないオーエウのために、テーが手作りの慣用句ノートをつくり、自宅に届けるシーンがありますが、ここがまたドラマ全体を通しての大きな見どころのひとつ。
ノートだけ渡して帰ろうか、それとも… 答えが出せずに、家の前を行ったり来たりするテー。オーエウも会いたい気持ちが抑えられず、階段を静かに降りていくものの、どうしたらいいかわからず、テーを避けて階段裏へ…。このシーンで醸し出される雰囲気が、思春期の2人の切ない心の変化を繊細に表現しています。
そして2人で誰もいない海へ…。どこまでも広がる青い海に2人きり。海中では周囲の目もなければ、聞こえてくる雑音もない。オーエウだけしかいない世界でテーは迷うことはない。ここで初めてテーは自分の気持ちに素直に…。ビルキンとPPはこの難しいシーンを本当に見事に演じていて、深く感動。
それでも、陸に上がったテーは、オーエウにこれからのことを聞かれて、「今のままでいい」と言ってしまいます。遠くにいたのに近づいて、また離れて。やっとわかったのに、否定して。受け入れられずに、拒絶して…。そう、この世界は複雑すぎて、そんなに簡単には進んでいけないんですね…。
人生を賭けた選択は「余計なお世話」
テーとオーエウは受験生。受験勉強が2人の仲を再び繋いだ一方で、推薦入試に合格したテーは、補欠合格1位で一般入試には期待できないオーエウのことが気がかりでなりません。バンコクのアナンタサート大学での入学手続きの日、どうにかしてオーエウのことを応援したいテーがとった選択は、自分が推薦枠合格での入学を棄権するということ。そして、そこからまた歯車が大きく崩れていく…。
自ら裏切った家族の期待。バンコクから帰宅したテーの部屋には、お母さんが買ってくれた大学の制服とフン兄さんがお祝いの言葉とともに贈ってくれた2学期分の学費が入った預金通帳が。いつも自分のことを考えてくれる家族と、心配してメッセージをくれる友達の優しさに、止めどなく涙が溢れてきます。
自分が棄権してオーエウに譲った推薦合格枠。大切に想うがゆえの選択だったのに、当のオーエウは「余計なお世話」とインスタグラムのストーリーに乗せて言ってきます。どうしてこうなるのか、なぜ思うようにいかないのか。自分自身への苛立ちと、自分の人生を賭けた選択がオーエウに受け入れられなかった絶望感に襲われるテー。慣用句ノートを作るために切り刻んだ中国語の教科書に残っていた文字は「どうしようもない」。
一般入試はすべてをやり直すチャンスなのか
こんなにも繊細で丁寧に、思春期の少年の複雑な感情のを表現したドラマがあっただろうか。生きることはこんなにも難しく、辛く、悲しいものなのか。優しさまでもが時に仇となるこの世界。なぜもっと素直に、正直に、思いのままに進んでいけないのだろうか…。
人は失敗から多くを学んで成長していくというけれど、高校3年生のテーにはあまりにも過酷な現実。中国語の塾で、バスはオーエウに正々堂々と「ずっと好きだった」と告白。自分が人目を気にして言えなかった言葉をストレートに伝えるバスを見て、テーは深いショックを隠せない。
そんな中、迎えた一般入試の当日。バスとオーエウが付き合っていることを知ったテーは、集中しなければならない試験に、まったく集中できない。そう、こんなはずじゃなかった…。
誰のためでもない、すべては自分次第
雨上がりの真夜中、家の屋上で花に水をやるテー。様子を心配して、静かに話を聞いてくれるフン兄さんの言葉に涙が止まらない…。
もし愛してもない人と一緒になって
お前が幸せじゃなかったら
母さんも幸せじゃない
お前の人生だ
お前が幸せな道を選べばいい
誰を好きになっても変なことじゃない
「兄ちゃん、本当?誰を好きになってもいいの?」と聞くテーに、「ずっと前からそうだ」と答えるフン兄さん。「本気で好きなら、あいつに『好きだ』と言え」と。心の奥に押し殺してきた罪悪感にも似た気持ちが許されたような気がして、泣き崩れるテー。誰かを好きになるのって、誰のためでもない、自分次第なんだと…。
一般入試でやり直しを誓った第一志望のアナンタサート大学芸術学部には不合格となり、別の大学に進学せざるを得なくなったテーを、失意の底から救ってくれたのは2年間片想いしてきたターンでした。この時すでに、混乱しながらも自分の気持ちを前よりも理解していたテーは、ターンに「いい友達でいたい」と話します。
思っていたこととは逆のことを言われ、傷つくターン。でもそれをテーに気づかれぬよう、「私も友だちでいたい」「ずっと友だちだから」と必死で涙をこらえ、オーエウに合格のお祝いを伝えるように言う。人の心はなぜこうも行き違うんだろうかと、切なく苦しくなります…。
プロムテープ岬の夕日
アナンタサート大学の合格に向けて願掛けをしていたオーエウは、一般入試の合格のお礼参りにプロムテープの岬まで走ることに。「一緒に走る」と約束したテーと2人で、ココナッツをリュックに入れて、息を切らしながら岬を目指します。
プロムテープ岬までの長い道のり、これまでの2人の人生がそうであったように、長くて上りと下の繰り返す道を、とにかくがむしゃらに走って行く。そこにビルキンの透き通った歌声が優しく、ストーリーを投影した「スカイライン」の歌詞が見る人の心に深く響いてきます。
それが愛だと 誰が知っていただろう
プロローグでは他人でも 一度芽生えた感情は永遠に心に宿る
2人が出会った瞬間に 過ぎし傷は消え去った
僕が探し続けた真実の愛は君だった
だけど愛はおぼろげで 筋書き通りにはいかない
巡り合ってもなぜ僕らは離れ離れに
大空に引き離されても 僕は越えていく
険しい山に遮られても 僕は恐れない
時に隔たれても 僕は待つ
だけどそれが運命ならどうしようもない
そうだろう?
プロムテープの岬についた時、いつも見れなかった夕日が2人を包む。最後の最後に、テーは初めてオーエウに素直な気持ちを伝えることができたのでした。
ビルキンとPPクリット
わずか5話という決して長くはないドラマですが、オールドタウン・プーケットのノスタルジックな街並みの中に、テーの喜怒哀楽の感情の変化を映し出したまぎれもなく秀逸な作品です。これまで見たどのBLドラマよりも心に深く強く響くものがあり、久しぶりに目が覚めるような清々しい感動を覚えました。「見てよかった」と心から思えるドラマ。
ビルキンとPPクリットのコンビが別のドラマでヒットして、この2人を主人公に据えるためのドラマだったとメイキング映像にはありましたが、もともと歌手としても大活躍している2人だからこそ作り出せた映像と音楽のみごとなフュージョンだったのだと思います。感情をメロディに乗せて届けるチカラがすごい!
ビルキンとPPクリットが、サイアムにあるデパート・セントラルワールドで行われた「music heals 2021」というコンサートで披露したオーケストラバージョンの「Coming of Age」もおすすめです!こうしてひとつのドラマを通じて、これまで知らなかったタイの素晴らしい俳優さんを知り、馴染みのなかったタイ語の音楽を聴くのってすごくいいなぁと感じます。
というわけで、「I Told Sunset About You / 僕の愛を君の心で訳して」はタイのBLドラマの中でも間違いなしのおすすめの作品です。
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このドラマの続編「I Promised You The Moon / 僕の愛を君の心で訳して」(2022年)は、テーとオーエウがバンコクの大学に進学し、それぞれの夢に向かって歩き始めるところからストーリーが始まります。全編とは少し違った雰囲気で進んでいき、高校生から大学生、そして大人に成長していく姿が2人の「変化」を通して描かれています。