とある冒険者の手記

V.久しぶりの達成感

2022.04.22 02:06

枷が外れてすぐ、ルナは消え、アリスが戻った。

そのアリスに、ヴァルは頼みがあると言って外に連れ出した。


「ヴァルさん、頼みって?」


アリスの言葉に、ヴァルは目を見据えて答えた。


「あたいに、白魔法を教えて欲しい」


ルナを通して話を聞いていたアリスは、なるほどと納得した。

ヴァルのその気持ちは、痛い程理解出来た。

アリスも、白魔道士を始めたきっかけは“ヘリオを護りたい“と言う気持ちからだったから…。


「分かりました。じゃあ、基本から始めましょう」


アリスはそう言うと、手早く幻具を作りヴァルに手渡す。

そして、白魔道士にジョブチェンジした。


「白魔法を使う基本は知ってます?」

「精霊の力を借りるんだろ?」

「さすがヴァルさんですね!そうです、精霊の声を聞き、力を借りて浄化や癒しの力を使うのが白魔法の基本です。能力の高い人は精霊の声を聞けるらしいですけど、そういった人は極稀だそうです」


アリスが簡単な説明をすると、ヴァルが口を開いた。


「グリダニアの角尊がその例か…」

「そうです。彼等は特別らしいですね。では、声を聞けない人達はどうするか?意識を集中して環境エーテルに感覚を研ぎ澄ませば、精霊の存在は感じられます」

「なるほど、精霊の存在を感じて力を使うのか」

「はい。まぁ、俺達の祖先であるニアが精霊の声が聞けた事を考えると、存在を認識するのは簡単に出来ると思います」


アリスの言葉に、ヴァルは顎に手を当てた。


「ふむ。お前の時は簡単に認識出来たのか?」

「はい。不思議と“あ、いるな“って感じで直ぐに…」

「そうか…」

「ただ、ヴァルさんは枷が外れたばかりなので、どう感じるかは分かりませんけど…。でも、エーテルを見ることに特化しているなら、意外とすんなりイケるかもしれません」

「…やってみるか…」


ヴァルは意識を集中させる。

環境エーテルの中に、何か普段と違うモノを感じた瞬間、一瞬だが右の内腿に焼けるような痛みを感じ、顔を顰めた。


「っ!?」

「ヴァルさん?!どうかしました?!」

「……なんでもない……」


ヴァルは平気だと言うように首を横に振った。

アリスは心配な表情をしていたが、追求したところで彼女が答えない事は分かっていた。


「じゃあ、続けましょう。何か感じられました?」

「あぁ、何となくそれっぽいものは感じた」

「そしたら、イメージをしてください。魔法の発動の基本はイメージです」


そう言って、アリスはナイフを手に取り、人差し指に小さな傷を作った。


「まず、ケアルを使ってみましょう」

「分かった」


アリスの人差し指に片手をかざし、ヴァルは目を閉じた。

先程と同じ様に意識を研ぎ澄まし、存在を認識する。

そして、イメージをした。

その時、ガレマルドの地で決意した想いが溢れた。


必ず護り抜く!

ガウラも

彼女の心も

彼女と共に戦う者達も!


その想いと、傷が治るイメージが重なり、ヴァルの手のひらから緑色の光が発せられた。

みるみる塞がる指先の傷。

そして、傷が完全に塞がると同時に、左内腿に焼けるような痛みが襲う。

先程よりも少し長い痛みだった。


「ぐっ………」


思わず痛む右内腿を抑える。


「ヴァルさん!?大丈夫ですか!?」

「……平気……だ………っ」


痛みが引き、脂汗を浮かべながら立ち上がる。


「おそらく、痣に変化が起きてる。お前の痣が白く染ったように」

「え?白く?」

「…そうか、お前、あの時気絶して、それから痣を確認してないのか」


ヴァルはアリスに、脇腹を確認してみろと促す。

言われた通りに服を捲り、脇腹を見ると、痣は白くなっていた。


「あの時、お前は熱いとのた打ち回ってただろ?」

「えぇ。物凄い熱さで焼けるんじゃないかと思うぐらいの感覚でした」

「痣が白く染まり切った時、お前が苦しんでるのが止まった。そのことから、あたいの痣も今、少しずつ白く染まって来ているはずだ」

「なるほど」


ヴァルの説明に納得するアリス。

そして、治った指先を見て、アリスは話を戻した。


「それにしても、凄いですね。初めてなのに、ちゃんとケアルが発動しました!」

「簡単に出来ないもんなのか?」

「人によっては、イメージするのが苦手だったりすると、発動しないことがあるそうです」

「ふーん、そうなのか…」

「あとは、明確な強い意思も関係するそうです」

「………」

「それより、体調はどうですか?倦怠感とかないですか?」

「それは大丈夫だ。枷が外れ始めているお陰だと思う」

「なら良かった!」


初めてのケアルを成功させ、体調にも変化がない事が、嬉しかった。

その達成感は、懐かしい感じだった。