マニアであるという自覚
「全てのジャンルはマニアが潰す」
と言ったのは、新日本プロレスの親会社ブシロードの木谷高明・元社長。元はカードゲーム業界の雄、コンテンツ制作・プロモーションのプロフェッショナル。
調べたところによると、「プロレスもキャラクターコンテンツだ」と唱えて、超低迷していた新日本プロレスの業績をV字回復させた立役者らしい。
この木谷氏の言葉に関して、非常に的を射た解説を見つけたので紹介しよう。
ゲイレスラーの男色ディーノさんのブログ。
新規とマニア
これだけ長年プロレスをヤっていると,もう分からなくなってしまうことがあるの。感覚がマヒしてしまうというか。何がって,初めて見る人の感覚が。私はスレてしまったのよ。
ブシロードの代表取締役社長で,かつ新日本プロレスの元会長でもある木谷高明氏が,以前「週刊プロレス」のインタビューで語っていたことがあってね。
これすなわち「すべてのジャンルはマニアが潰す」。私も同意なのよ。広い意味において,そのとおりだと思う。
誤解のないよう先に言っておくと,ジャンルを支えるのもマニアなの。これに関しては間違いない。実際に多大なお金や労力を費やしてくれるのは,マニアだけだから。ただ,それは現状を維持する場合のみね。ビジネス,とくにエンターテイメントビジネスって,現状維持をしようという志だけでは,現状維持すらできないものが多いのね。なぜなら,生活に必ず必要なものとは違って,お客さんの入れ替わりが発生するから。
エンターテイメントって,人生における優先順位が低いわけ。例えば1万円しか持っていないとき,食糧とエンターテイメントのどちらにお金を投じるかとなると,普通に考えたら食糧でしょう。もちろん,そこで食費を削ってエンターテイメントに投じる人もいるんだけど,それこそがマニアなわけで。一般的には娯楽の前にまずは生活ありき。
で,入れ替わりなんだけど,お客さんの側にも娯楽にお金をかけられなくなる事情が出てくるケースもある。失業だったり,結婚だったり,出産だったり,もっとシンプルに,別の娯楽に心変わりしたり。だから,新規で入ってくる人と離れてしまう人,その足し算と引き算が常に行われている世界なのね。
そこで現状維持を志すと,新規を増やすための方策を施さないことになるから,だいたいの場合は離れていく人のほうが多くなる。だから,大きくするために努力をして,ようやく現状維持っていうのが現実的に最も多いパターンなの。つまり,エンターテイメントビジネスは,どうしてもご新規さんを意識し続けなければならないというわけ。
するとここで,マニアと新規の摩擦が問題になってくるの。マニアって,基本的には排他的なのよ。それこそ,よりマニアックな知識を持っているほうがランク上位とされる,よく分からないピラミッド世界でもあるから。
もちろん,それ自体は構わないと思うのよ。実際のところ,深く知ることで楽しみ方もより深くなる面があるから。ただ,「○○を知らないくせに」「そんなことも知らないの?」的な空気が出ると,新規はもう入っていけない雰囲気になる。ここで足し算と引き算のバランスが崩れて,縮小していく。ここまでは,顧客レベルの話ね。
提供する側に立ってみると,これもまたマニアがジャンルを潰す一面があるの。マニアが潰すというよりも,マニアに向けるっていう意味だけど。
例えば,もうすでにみんなが知っている前提でそのエンターテイメントが披露されたとしましょう。マニアは知っているから,その出されたものを理解できますわな。でも,初めて見た人は当然知らないから,意味が分からなくて温度差を感じる。
結果,新規がリピーターにならない。足し引きのバランスが崩れる。そういうこと。かといって,新規だけに向けたら,マニアが離れるのが加速してしまう。
一番理想的なエンターテイメントは,マニアが去らずに新規が入って来やすい,それでいてリピートしてもらえるようなコンテンツなんだけど,それはまず不可能に近い。でも,それに近いものを目指す必要はあると思うの。もちろん,ビジネスとして考えた場合,の話よ。作家性だとか作品性だとかの志向の話ではなく。もちろんビジネスにも,その要素は含まれているんだけどね。
で,結局のところ何が言いたいかというと,今いる顧客だけに向けたエンターテイメントは,先細るしかないっていう考え方が,私の根底にはあるってこと。
付け足すことは何もない、完璧な解説ですね。そのまま、同じくエンターテインメント・ビジネスであるダンス界の現状に置き換えることができる。
新規、マニア、提供者、それぞれの立場において。
消費者の健全なピラミッド構造はきれいな三角形。底辺が広く上が狭い。底辺とは新規・ライト層であり、上はコア層・マニア。
言うまでもなく今のダンス界のピラミッドは、まるでその形を成していない。
問題となる「マニアと新規の摩擦」。
今現在ダンス界に片足でも突っ込んでいて、「そんなものは無い」という人がいたら、それはあまりに認識不足というものだろう。何十年にわたり新規がほとんど入ってこなかった事実は動かしがたい。そしてその原因は、業界のとってきたまさにマニア偏重の教育方針にあると、おいちゃんは信じて疑わない。
お金や時間を使ってくれるのはマニアで、彼らが業界を支えてくれている。それは間違いない。が、そのマニアは新規・ライト層の中から育つのだ。
そのまま廃れていくのも道だが、何とかしたいと考えるならば、ディーノさんの言葉を借りれば「マニアが去らずに新規が入って来やすい,それでいてリピートしてもらえるようなコンテンツ」を作る必要がある。
思うに、マニアは三種類。
●競技系
戦って順位付けるの好き
●デモ系
人前できらびやかな衣装着て踊るの好き
●職人系
単に身体のことを掘り下げるの好き
ソーシャル派です、てきとーダンス万歳と言って憚らぬおいちゃんだって、実は三つ目、職人系のマニア。「その一歩」にこだわる屁理屈に付き合ってくれる人、大好きだもんね♪
長くやってりゃ、たいていどこかしらマニアックなもんだ(笑)
どのタイプのマニアであっても、
気をつけていないと初心を忘れる。
これは間違いない。
あなたがダンス界を盛り上げたいなら。
競技会にも
ホテルのパーティにも
市井のダンスホールにも、
いっぱい人がいた方が楽しいと思うなら、
自分のふるまいが初心者やライト層に
プレッシャーを与えていないか
折に触れ自問してみることは
マイナスにはならんと思う。