鳥たちのアオ(朗読台本)
【朗読台本/演者性別不問】
【所要時間:10~15分程度】
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●上記イメージ画像は、ツイキャスで生声劇する際のキャス画にお使い頂いても構いません。(配役等の文字入れ可)
↓生声劇等でご使用の際の張り付け用
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『鳥たちのアオ』
作:レイフロ
朗読:
https://reifuro12daihon.amebaownd.com/posts/36863187
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以下、台本です。
ある晴れた日、大きな木の太い枝には、鳥の巣がありました。
そこには小さな卵が5つありましたが、4つはすでに孵(かえ)っており、
雛たちがピィピィと元気に鳴いています。
兄妹(きょうだい)たちの声が聞こえたのでしょうか。
最後の一つの卵からも、ようやくコツコツと内側からつつく音がしてきました。
やがて卵にはヒビが入り、母鳥(ははどり)に
ほんの少しだけ殻を割るのを手伝ってもらいながら、雛が生まれました。
兄妹の中で一番からだが小さかったその雛は、
「アオ」と名づけられました。
アオは、少しぼーっとしたところがありました。
兄妹たちが母鳥に必死にご飯をねだっている時も、
ひとり、抜けるような青い空をじっと見上げています。
「どうしてお空はずっと青色じゃないのかなぁ」
アオは、青い空の日が大好きでした。
でも空はとても気まぐれで、ずっと青色では居てくれません。
アオは、空が不思議で不思議で仕方ありませんでした。
中でも、特に不思議なのは夜です。
兄妹たちとケンカした日も、
母鳥がご飯を少ししか取ってこられなかった空腹の日も、
みんなで笑いあった楽しい日も、
どんなことがあった日でも、夜は必ず毎日訪れて、
全てを真っ黒に覆いつくしてしまいます。
ですが、最初は怖かった夜も、よく観察すると、
夜が来る前には、橙色(だいだいいろ)や濃い赤色が広がり、
だんだんと暗くなっていく様は美しくも物悲しく、
夜が朝と交代するときは、柔らかい黄金色が地平線を徐々に照らし、
その眩しさで皆(みな)を起こしてくれました。
空が色を変えるのは、それだけではありません。
太陽の出ている間でも、灰色のモクモクが青色をゆっくりと隠したかと思うと、
たくさんの水がザーザー落ちてくる日もありました。
それに加えて、白い光を放ってドーンと恐ろしい音を立てることもあります。
でもその後には、大きくて素敵な七色のアーチを見せてくれる時もありました。
アオは、コロコロと色を変える空を
面白いと思う反面、恐ろしくなる時もありました。
そんな時は、母鳥のお腹の下に潜り込めば、すぐに安心出来ました。
やがて雛たちはすくすくと育ち、羽が生えそろいました。
いよいよ巣立ちの時です。
アオは毎日空を見てきて、ずっと考えていました。
青い空が色を変える境界線は一体どこにあるのだろう、と。
でも結局、その境界線を見つけることは出来ませんでした。
空は毎日違っていて、とても気分屋なのです。
兄妹たちが次々と巣を飛び立つ中、末っ子のアオだけがどうしても飛び立てません。
飛び立った瞬間、今はすっきりと晴れた青い空の色が、
突然、暗い漆黒の色に変わるかもしれない。
そう思うと、どうしても足が震えてしまいました。
そんなアオを見かねた母鳥(ははどり)は、こう言いました。
「アオ。お水がザーザー降り続いた後に見える青空は素敵でしょう?
真っ暗闇を徐々に明るく染める太陽は美しいでしょう?
お空が色を変えるのはね、辛いことも悲しいこともあるから、
嬉しいことも楽しいこともあることを、
私たちに教えてくれているからなのよ。」
アオは言いました。
「辛いことや悲しいことがなければ、嬉しいことや楽しいことは来ないの?」
と。
母鳥は小さく笑って、巣から飛び立って見せます。
「そんなことはないわ。
暗い色の空の日だって、そのもっともっと上の方には
いつだって青色が広がっているのよ。
ただ見えないだけ。嬉しいことや楽しいことはいつだってそこにあるのよ。」
アオは、青い空を見上げて目を細めました。
母鳥の広げた羽の色は、暗い灰色でしたが、
陽の光が透けて、空の青色に生える美しい銀色に輝いていました。
アオは、空の青色が「自由の色」なのだと気が付きました。
アオは意を決して、居慣れた巣の縁(フチ)に足をかけます。
母鳥と同じ色の羽をゆっくりと広げ、
自由への第一歩を、踏み出しました。
終わり。
あとがき。
鳥は、人間とは視界が異なっていて、人間には見えない「紫外線」が見えているそうです。
それは、エサを見つけるため、または外敵から身を守るため、物の形をよりはっきり見るためなのですが、私たちが見えている色と鳥が見えている色は、多分違うということです。
タイトルの「鳥たちのアオ」で、「アオ」をカタカナにしたのは、
私たちの思う「青色」は、鳥から見たら「青色」じゃないかもしれないからです。
でも空の「アオ」は、鳥にとっても自由の色であったらいいなと思います。