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瀬川夏帆

【後編】「小学生だった私が『好き』を仕事にするまで」

2022.08.22 04:23

※こちらの記事は【後編】です。

【前編】はこちらより







トークコーナー開始から30分ほど経過。










フリーターなのか、アーティストなのか。




瀬川: 作品作りとアルバイトを掛け持ちしていると、「お仕事は何をしてるんですか?」と聞かれたときに、作家をしているとかアートをしているっていうふうに胸を張って言えない事がありました。



橋本: そうですね。私の知っているアーティストも「作家をしてます」って言うと訝しげな目で見られることが多いと聞きます。



瀬川 :私が胸をはって「アーティストです」と言えなかったのは、自分に自信が持てなかったからだとおもいます。

 その頃、進路に悩んでいた10代を思い返し、将来に対する不安をテーマに『Where I am.』という作品を作りました。人が行き交う群衆の中で自分の居場所がわからず迷子になる感覚を表現した作品です。


※2019制作 Where I am.シリーズより抜粋



橋本: その時の瀬川さんの心情が現れた作品だったんですね。



瀬川: 20代前半は悩んでいましたね。本当に自分にできるのかなって不安でした。

当時『Where I am.』を石川県金沢市にある二十一世紀美術館という美術館で展示する機会がありました。



橋本 :有名な美術館ですが、展示するにあたって何か縁があったんですか?



瀬川 :その前年に、石川県に一人旅に行きました。そこで二十一世紀美術館に立ち寄ったらグループ展をやっており、石川県の大学の教授の主催なんですが、彫刻の方もいれば油絵の方もいて作品内容が多種多様だったので、「これはどうゆうグループ展なんですか?」と受付の方に聞いたら代表の方をご紹介していただけました。



橋本: 偶然、ご挨拶できたんですね。 



瀬川 :そうなんです!

代表の教授の先生に「描くの?」と聞かれたので「縫います」とお話ししました(笑)

スマホで作品を見ていただくと興味を持ってくださり、その場で翌年の参加が決まったんです。



橋本 :出会いを引き寄せましたね!



瀬川: ラッキーでした!そして、ここで3つめのターニングポイントとになる出会いがあります。




※2019年 21世紀美術館 石川県















転機となるアドバイスとの出会い、
そして生活の変化。




瀬川:21世紀美術館での初日が終わったあと打ち上げに呼んでもらいました。アーティスト同士の語らいの場に参加するのは初めてで、とても楽しい時間でした。金沢で活躍される大森さんというアーティストの方と話をしていたときに「私は人から、何で食べているの?アートで食べているの? と聞かれたときに、何て返事をすればいいか分からなくなる」とポロっと自分の悩みを聞いてもらいました。

 そしたら大森さんが「何で食べているかなんて何だっていい。大事なのは‘‘何で自分が生きているかだ‘‘」って。「何で食べているのかっていうのはツールの一つであって、私はこれで生きてますって言えれば、それ以上もそれ以下も言う必要はない。」って答えてくれたんです。



橋本 :素敵な言葉ですね。鳥肌立っちゃった。



瀬川: そうですね。当時の私にはすごく大きな助言になりました。

いつか私のように悩んでいる人にであったら教えてあげようとも思いました。



橋本: 良かったですねぇ。そういう考えに巡り会えて。



瀬川 :はい、金沢市で展示ができたことも含めて、とても良い出会いでした。







橋本:二年前に瀬川さんはご結婚されますが、何か制作環境は変わりましたか?




瀬川:一番はアルバイトをする必要がなくなったことですね。

環境が変わったことで生活が安定し、アルバイトをやめたことで作品に向き合う時間が格段に増えました。制作のスピードも上がり、今のようなタイトなスケジュールの会期でも個展を開催できるようになりました。

 それから自分のことを理解してくれる人がそばにいることが、気持ちのゆとりに繋がっているようにも感じます。今回のように新しいプロジェクトも時間と気持ちの余裕があるから挑戦できたと思っています。




橋本: 夏帆さんにとって結婚はとても良い方向に向かいましたね。



瀬川 :そうですね。これからも人生の中で変化が起これば、制作スタイルは変化していくのだとおもいます。その時の自分にとってベストな形で続けていれたらと思っています。










子ども達の作品とプロジェクトの願い




橋本:今回立ち上げた『ハママツKeep on Lovingプロジェクト』はどのようなものを考えているんですか?



瀬川: 私が10歳の時にパッチワークに出会い縫う事が好きになったので、小学生向けにワークショップを開催して、新しいことに紹介するキッカケになったらいいなぁって思いました。子供たちがワークショップで作った作品はこちら(展示作品と一緒に飾られる子供たちの作品を指す)に展示しているんです。






橋本: わぁ、すばらしい。いろいろな発想がうまれていますね!



瀬川 :みんな同じ材料を用意しているのに、こうも違うものが完成するって面白いですね。

参加した子供達に感想を書いてもらったんですが、「思ったより簡単だった」って子もいて、かわいいですよね~(笑)



橋本: それではせっかくの機会ですので、瀬川さんに聞いてみたいことがある方はいらっしゃいますか。







質問者 :これから挑戦したいこととかはありますか?



瀬川 :「辞めない」っていうことを目標にして挑戦しています。ペースが落ちてもずっと好きを続けていきたいなって思います。

あと、大型のオブジェとか、見る人も参加型の大きな作品を作るのが出来たらいいなと思っています。

制作の目標でいうと、茶色とかベージュの配色がちょっと苦手なので、ツイードの生地とか毛糸っぽいなども作品に取り込むことで、これまで敬遠していた色合いのものにも挑戦できればいいなって思っています。



質問者: 12月の個展のやる場所はどこなんですか?



瀬川: 田町にあるmei coffee&Galleryさんです。ギャラリーが2階にあるカフェで開催します。



橋本: どなたか何か質問ありますかねぇ…。

(特に客席からは手が上がらず)私、質問していいですか?

何か思い入れのある布とか、そういったものはおありなんですか?



瀬川 :自分が小さいときに母がワンピースを作ってくれた布のハギレがまだ残ってて、今も使ったりしています。他にも旅行に行った旅先で買ったハギレとか、そういうのは手に取った時に旅先の景色を思い出しますね。



橋本 :思い入れのあるお洋服とかを処分する時に、その一部だけを切り取ってこんなふうにアートにするっていうのもいいですね。



瀬川 :本来、パッチワークはそういうところから発祥しているんです。

大事にしているものを再生する文化が広まるといいですね。私の作品をよく見ていただくと、同じ布がいろんなところに使われているので、そういう楽しみ方で見ていただけてもいいかもしれないですね!



橋本: 瀬川さんの作品を拝見してみると、メインの刺繍以外にも余白にも意味があるように感じるんです。

余白があることで、自分もその絵の世界に入っていける気がして。このソファの刺繍も「ここに座りなよ」って、何か絵が話を聞いてくれるような気がしています。



瀬川 :制作している間は私自身の中にメッセージや答えのようなものはありますが、皆さんにはそれぞれの見方で楽しんで頂ければと思います。橋本さんのように作品から自由なイメージを受け取って、楽しんでいただけるとすごいうれしいです。



橋本 :それではそろそろお時間になので最後にぜひ瀬川さんから一言…








瀬川:そうですね。


『ハママツKeep on Lovingプロジェクト』は好きを続けるというメッセージを皆さんにお届けしたいと思い立ち上げました。


 これまで個展を開催し皆さんからの感想で最も多いのは「これはどうやって縫っているの?」という質問です。そして「私も縫うのが好きでね」とか「昔やっててね」というようにお話していただくことが多く、年齢に関係なく好きな事を続けることや、新しい分野に興味関心をもつことは、人にエネルギーやパワーを与えてくれると常々感じています。


 好きを続けるといっても、好きな事との付き合い方は人それぞれだと思います。


 今日お話した私のこれまでのように、仕事にすることを目標にしたからこそ生まれた悩みや葛藤、そして喜びや生きがいを感じることもあれば、何かしらの理由で好きな事を表現できない状況に立っている方もいるかもしれません。ただ、そうした状況は周りの環境で少しづつでも、変えることはできると感じています。


 私が子供の頃に周りの家族や先生、その他大勢の人たちに、好きなことを応援してもらった様に、大人同士であってもお互いの好きな事の表現を認め合う事について、今日のこのトークコーナーをきっかけに、皆さんにも意識していただけるようになれば嬉しいです。

 

 年齢や性別に関係なく、好きな物を好きと言えることや、その表現を楽しむ人が増えることで、すべての人がその人らしく生きていけると信じています。



橋本 :そうですね。ステキなプロジェクトだと思います。



瀬川 :私も、自分らしい「好きを続ける」の表現を皆さんに届けられるようにがんばりますので、どうぞ今後もよろしくお願いします。





瀬川 :橋本さん、ありがとうございました。

慣れないイベントでしたが、皆さんありがとうございました。以上になります。








ライティング / タテイシヒロシ

グラフィックデザイナーの傍ら、街で起こることを観察し文章にすることをライフワークとしている。

その他にアングラ芝居の誘致、町ブラ観光イベントの開催などを企画・制作。

ウェブサイトJimottomall管理人(https://www.jimottomall.com/)

https://www.instagram.com/tateishihiroshi/


カメラマン  /   福長ひろき https://instagram.com/fkch_jp?igshid=YmMyMTA2M2Y=