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#159.デクレッシェンド/ディミヌエンドについて

2022.10.07 22:10

前回の記事ではクレッシェンドについてのお話をしましたので、今回はその対照的な存在である「デクレッシェンド」についてのお話です。


前回の記事はこちらからご覧いただけます。ぜひ合わせてお読みください。


デクレッシェンドの ”デ”

クレッシェンドは crescendo(cresc.)

このように書き、デクレッシェンドは decrescendo(decresc.)こうなります。


クレッシェンドに対してデクレッシェンドは「デ」が付いているだけの違いですが、この「de」には「否定」とか「低下」などの意味があります。クレッデェンドは「成長する」「増える」などの意味でしたので、「減少」「衰退」などの意味になります。


したがって、音楽用語としては「だんだん弱く」となるわけです。

ちなみに記号ではこのように書かれます。

大変わかりやすい。 


音量以外のイメージを持つ

前回のクレッシェンドの記事でも書きましたが、単に耳に伝わるデシベル的な音量、オーディオのボリューム変化のような感覚だけで演奏しないようにしましょう。「強い」とか「弱い」といった印象を与える方法は音量以外にもたくさんあります。例えば以下の3つの言葉、どのように受け取りますか?


「行ってらっしゃい」

「行ってこい」

「行け」


意味が同じでも言葉遣いで印象が変わります。さらにこれを声色や圧力を変化させれば、さらに与える印象は様々に変化します。これを音楽表現で言い換えるなら、タンギング(アタック)、音の持続や密度(コア)、語尾(リリース)、テンポ感やフレーズ感などになるわけです。


デクレッシェンドは途中経過

これも前回のクレッシェンドの時にも書きましたが、デクレッシェンドという指示は途中経過です。


A → decresc. → B


Aという状態(感情、物体など)がデクレッシェンドによってBになった。ではAはどんな状態であって、Bはどうなったのか、演奏前にこれらを設定する必要があります。ちなみにこの記号が目に入ると、急に音を弱くしてしまう演奏に出会うことが多いのですが、デクレッシェンドの記号が出現した瞬間はまだ変化前ですので注意しましょう。


diminuendo

デクレッシェンドよりもdiminuendo(ディミヌエンド)という文字のほうが楽譜で見る頻度が高いです。ディミヌエンドもデクレシェンドと同じように「減少」という意味があり、楽譜上ではほぼ同じように使われます。

ディミヌエンドのほうが楽譜の出現率が高いのは、dim.と3文字で略することができることと、一方でdecresc.は一瞬クレッシェンドに見間違えそうになるからかもしれません。ちなみにイタリアの人はデクレッシェンドという言葉はあまり使われないと聞いたこともあります。


また、あまりないと思うのですが、万が一楽譜に「decresc.」と「dim.」が混在して書かれていた場合は、作曲者がそれぞれの言葉に対し何か意図している可能性もありますので、そうした視点で譜読みをする必要があります。



トランペットにおける音量変化の仕組み

では最後にトランペットで音量を変化させるにはどうしたらよいか、解説します。

トランペットをはじめとした金管楽器は体内の空気圧によって音量が変化します。空気圧が高ければ音量は大きくなります。


そのために必要なのが腹筋です。腹筋に力がかかれば、お腹の内臓をひとつに収めている腹腔という、例えるならビーチボールのようなものを外側から押す状態になります。ビーチボールは押されれば変形し、それが腹腔のすぐ上にある横隔膜を押し上げる形になります。すると、肺から口の中まで存在している空気の圧力が高まるわけなのですが、ここでひとつ大切なことがあります。


「出口が大きかったら圧力が高まらない」という点です。どれだけ腹筋に力をこめても、楽器の中に空気がどんどん流れてしまえば圧力は高まりません。圧力を高めたければ、出口もできるだけ狭くする必要があるのです。


しかし、アパチュアを小さくしてしまえば、唇の振動を制御してしまい、ノイズまじりのくぐもった音になってしまうかもしれません。ですので、アパチュアはしっかりと用意して、上顎と舌で空気の通り道を大胆に閉ざしてしまうことが、最も効率的なのです。


そしてもうひとつ。体内の空気圧が高まると音量だけでなくピッチが高くなります。クレッシェンドする時にピッチ変化に無関心だと、どんどん上ずったピッチになってしまうので、耳をしっかりつかって意識的に調整することが必要です。


デクレッシェンドの際は、あまりお腹の力を抜こうとしすぎると体内の空気圧バランスが急激に変化し、口周辺に力をこめてアパチュアをすぼめてしまう方がとても多いのですが、これは良い方向性ではありません。注意してください。


こういったお話はこれまでにもしてきましたし、長くなるのでまたの機会にしたいと思います。



ということで、クレッシェンド、デクレッシェンドについて2回に渡ってお話しました。大切なことは、オーディオのボリューム変化のようにデシベル的音量だけで表現しないことです。


イマジネーションを発揮して、相手に音量だけでないダイナミクスを伝えられる演奏を研究してください。


ということで、今回はここまでです。

また次回!



荻原明(おぎわらあきら)

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