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とある冒険者の手記

V.紅蓮祭2022

2022.08.26 00:05

不滅隊の任務が終わり、ラベンダーベッドへ帰還したヴァル。

シェアをさせてもらっているハウスの玄関前に着くと、家の中からは楽しそうな話し声が微かに聞こえる。

たしか、今日はアリスとヘリオが来ると言っていたか…と思い出し、扉を開けた。


「ただいま」

「おかえり!」


リビングの方から、ガウラが姿を現した。

ガウラの後を着いて行き、リビングへ向かうと、少し目を見開いたヘリオと、口をあんぐり開けたアリスがこちらを見ていた。


「なんだ?」

「あ、いや。ヴァルさん、幻想薬使ったんですか?」


そういえば、男になってからコイツらと顔を合わせてなかったなと気付く。


「あぁ。冒険者として行動するには、以前のままだと支障があるからな」

「な、なるほど…」


軽く事情を話せば、納得していつもの無表情になるヘリオ。

対照的に少し戸惑ったままのアリス。

構わずガウラの隣に座ると、アリスは我に返り、思い出したかのように口を開いた。


「そうだ!ヴァルさんが帰ってきたら話そうと思ってたんですけど、もうすぐ紅蓮祭の時期じゃないですか!」

「そういえば、もうそんな時期だったか…」


アリスの言葉に、ガウラは月日が経つのは早いなと零す。


「それでなんですけど、紅蓮祭を皆で行きたいなって思ってるんですけど、どうですか?新しい水着も出るらしいんで、皆でそれ着て!」


水着の言葉に、微妙な表情をするガウラ。

十中八九、火傷の痕を気にしている。

だが、それを気にせずヴァルは答えた。


「たまには良いかもな」

「なっ!?」

「でしょ!じゃあ、紅蓮祭当日に、コスタ集合で!」

「承知した」


要件が済んだのか、アリス達は話が終わると「お邪魔しました!」と帰って行った。

2人が居なくなると、眉間に皺を寄せたガウラが口を開いた。


「おい。どういうつもりだい」

「なにが?」

「水着って…私の状態を知らない訳じゃないだろ」

「その事に関しては心配するな。ちゃんと対策は出来てる」

「対策?」


首を傾げるガウラに、特殊メイクの話をした。


「戦おうが、砂の上を転げようが、海を泳ごうが剥がれない特殊メイク。ザナに実験台になってもらって習得済みだ」

「ザナって…前に家に来た?」

「あぁ」


ザナの名前を出した途端、ガウラの表情が曇る。

それを見たヴァルは、少し口角が上がった。


「どうした?嫉妬かい?」

「はあっ!?ば、馬鹿なこと言ってないでさっさとシャワー浴びて来いっ!!」


顔を真っ赤にしてヴァルの背中をグイグイと押す。

その反応に思わず「くくっ」と小さく笑いが零れると、「何笑ってんだいっ!!」と背中をバシッと叩かれたのだった。



************



紅蓮祭当日。

ヴァルとガウラは特殊メイクの為、早朝から準備をしていた。

上半身下着姿で化粧台の前に座るガウラに、メイクを施していくと、ガウラの表情は驚きが隠せなくなっていく。

メイクが終わると、鏡の前で見えていなかった背中を見るように身体を動かす。


「凄いな…本物の肌みたいだ…」

「肩を回したりしてみてくれ」

「あぁ」


最初は恐る恐る左肩を回す。

だが、取れる様子が無いと分かると、普通に回し始めた。


「これ、本当に凄いな!」

「問題ないみたいで良かった」


ガウラは鏡に釘付けになる。

その様子に、ヴァルは小さく笑った。


「さぁ、着替えやすい服に着替えて行こう」

「うん!」


2人は服を着替え、アリス達が待つコスタへと向かった。



************



「義姉さーん!こっちです!」

「ガウラお姉ちゃーん!」


コスタに到着すると、そこにはアリス、ヘリオ、リリンとアリシラの4人がおり、アリスとリリンが声をかけてきた。


「おや、私等が最後か」

「5分前位に着いたばかりなので大丈夫ですよ」

「そうかい。リリンとアリシラも久しぶり!」

「久しぶり!」

「お久しぶりです!」


軽く挨拶を済ませるガウラ。

すると、リリンはヴァルに気がついた。


「ヴァルお姉ちゃんも久しぶり!…あ、今はお兄ちゃんになってるんだね!」

「あぁ」

「アリシラちゃん!この人がこの前話したヴァルお姉ちゃんだよ!今はお兄ちゃんだけど!」

「そうなんだ!ヴァルさん、お話は伺ってます!私はアリス·シラユキと言います。リリンちゃん共々、よろしくお願いします!」

「オレはヴァル·ブラックだ。よろしく」


初対面のアリシラとも、軽く自己紹介と挨拶を交わすヴァル。

挨拶が終わると、アリスの“行きましょう!“の声で皆が紅蓮祭の会場へと移動した。

紅蓮祭実行委員会から新しい水着を貰い、各々着替えていく。

そして、ヴァルは着替え終えたガウラの姿を見て、一瞬眉を顰めた。


「ヴァル、どうしたんだい?」

「………」


ヴァルはガウラに歩み寄り、セットになっていた上着の前を閉めた。


「変な輩が絡んでくるかもしれないからな…」

「心配しすぎだって!…まぁ、私も際どいなとは思ったけど…」


ガウラは少し考えて、荷物を漁ると、パレオを出し、腰に巻いた。


「これで安心かい?」

「あぁ、それなら多少は…」

「よし!」


そんな2人のやり取りを見て、呆然とするアリス。

アリシラとリリンはガウラの姿を見て“その組み合わせ可愛い!“とキャッキャしている。

ヘリオはいつも通りに無表情だ。

アリスはそんな2人を見てボソリと呟いた。


「…なんか、恋人同士みたいだ…」


それをガウラが聞き逃さないはずもなく、アリスはガウラに後頭部をバシッと叩かれた。


「なにアホなこと言ってんだいっ!」

「いったぁー!!叩くことないじゃないですかっ!!」


そんなガウラの反応を見て、ヴァルは肩を震わせながら笑いを堪えている。

普段のガウラなら、呆れた顔をして“そんな訳あるか!“と言う筈だ。

それが、今は頬を赤らめ、誤魔化すようにムキになっている。

ガウラの反応が、自分を少なからず意識している反応だと思うと、嬉しくて堪らなかった。


そんなアリスとガウラをヘリオが宥め、常夏の魔城を各々攻略し始める。

今年は新しいルートも出来、なかなかにスリリングなアスレチックとなっていた。

全員夢中になって攻略をしていると、あっという間に日が暮れた。

すると、アリスが口を開いた。


「そろそろ花火の時間ですね!」

「あ、アリスさん!私とリリンちゃんはあっちで花火見てきますね!」

「え?皆で見ないの?」

「だって、パートナーになってから初めての紅蓮祭ですから、2人で見たいんです」

「そっか、それもそうだよなぁ。分かった!じゃあ、また!」

「はい!リリンちゃん!行こ!」

「うんっ!!」


アリシラとリリンは、仲良く2人で去っていった。


「じゃあ、4人で花火見ましょう!あっちに小舟があるからそこで!」


そう言って小舟の方へと歩き出すアリス。

それに着いていくヘリオ。

ガウラも着いて行こうとした時、ヴァルに腕を掴まれた。


「どうした?」

「ガウラ、オレ等も別の場所で見よう」

「へ?なんで?」


キョトンとするガウラ。

ヴァルはアリス等の後ろ姿を見て言った。


「彼奴らだってパートナー同士だ。本当なら2人きりで見たいだろう」

「あー…でも、4人でって言ってたぞ?」

「いいから。あっちの船で2人で見よう」

「え!あっ!ちょっと?!」


ヴァルに腕を引っ張られる形で連れていかれるガウラ。

その2人の様子に、アリスとヘリオは気づく様子はなかった。



紅蓮祭会場の沖に浮かぶ大きな船の上に連れていかれたガウラ。

意外と人がおらず、穴場と言ってもいい程だ。


「本当に良かったのか?」

「大丈夫だろ」

「後でアリスがうるさそうだ…」

「そんなの気にするな。ほら、花火が上がり始めたぞ」


溜め息を吐くガウラに、花火を見るように促すヴァル。

仕方なく花火の方に顔を向けるガウラ。

その横顔を見て、ヴァルはまた小さく笑う。

そして、ヴァルも花火を見る。


去年、ガウラと花火を見たのはラベンダーベッドだった。

その時は本来の女の姿で、気持ちを伝える前の事。


だが、今年は違う。


気持ちを伝えてから、普段と変わらない関係ではあったが、少なからずガウラが自分を意識している事に気づいていた。

たぶん、本人はその意識している感情が何なのか分かって居ないとは思うが…。

いや、もしかしたら、そう思ってることすらヴァル自身の自惚れかもしれない。


だが、明らかにこれまでとは違う反応を見せる事が増えてきたガウラに、淡い期待を抱いているのは事実だ。


「…ガウラ」

「ん?なんだい?」


呼ばれて振り向くガウラ。

ヴァルの顔を見てハッとした表情をする。

愛おしそうに見つめられ、ヴァルの気持ちを思い出す。

ヴァルはガウラの頬に右手を添えた。

顔が少しずつ近づいているのに気が付き、ガウラはギュッと目を瞑った。

額に柔らかい感触がした瞬間。


「ぴゃっ!?」


小さく悲鳴を上げ、驚きのあまりにしっぽはピンと立ち上がった。

額にキスをされ、思わず1歩後退し、真っ赤な顔をしながら額を抑えるガウラ。

ヴァルはと言うと、愛おしそうに微笑んでいる。

額を抑えたまま固まるガウラと、ガウラを見つめるヴァルの背景には、花火が上がり続けていた。



************



「もーっ!義姉さん達、どこに行ってたんですかっ!?4人で花火見たかったのにーっ!!」


膨れっ面で文句を言うアリス。

花火を見終え、再び6人で合流したのだが、案の定であった。


「別に良いだろ。お前もパートナーと2人きりの方が良いんじゃないかと思ったから、オレ等は気を回したつもりだが?」

「うぅっ……」


ヴァルにキッパリと言われ、唸るアリス。


「だ、だからって、何も言わずに居なくなることないでしょう?!」

「何か不都合でもあったのか?ん?」

「むぅー!!」


ギャンギャンと吠えるアリスに、それをあしらうヴァル。

その後ろで、考え込んでいるガウラに気がついたヘリオが、彼女の元に歩み寄った。


「姉さん、どうした?」

「へっ?!あ、いや、ちょっと考え事を…な」

「歯切れが悪いな。何かあったのか?」

「うん…まぁ、あったと言えば、あったかな…」


珍しく煮え切らないガウラに、首を傾げるヘリオ。

すると、ガウラは重い口を開いた。


「なぁ、お前がアリスを意識するきっかけはなんだった?」

「は?突然なんだ?」

「いや、なにか参考になればと思って…」


もにょもにょと言いにくそうにしているガウラに、何となく察したヘリオは小さく溜め息を吐いた。


「その話は今度、姉さんの家でな」

「あ、あぁ。すまないね。話しずらいよな、ここじゃ…」


そんな2人のやり取りも知らず、ヴァルとアリスは変わらずやり合っている。

それをリリンが“ケンカはダメだよ!“と割って入り、なんとかその場は収まったのだった。