キャプテン アブ・ラーイド
キャプテン アブ・ラーイド
Captain Abu Raed
2009年10月25日 NHKみんなのふれあいホールにて
(2007年:ヨルダン:103分:監督 アミン・マタルカ)
第10回NHKアジア フィルム フェスティバル
ヨルダンという国で長編映画が作られたのは、50年ぶりなのだそうです。
監督は、アメリカで映画を学び、アメリカ在住とのことで、尊敬する監督はスティーブン・スピルバーグ監督なのだそうです。
映画を観てみると、なんとなくそれがわかるような。
大胆なクレーン撮影が、ひそかな見どころ。
いわゆるヨルダンという国の独自性・・・歴史、宗教、文化などにたよらず、どこの国でも通じるようなストーリー展開なのです。
ただ、アンマンという都市の風景は石造りの家が立ち並ぶ風景です。
これがヨルダンだっ、という力みのない映画。
どこの国でもありえる話なのです。
アンマン空港で、清掃員をしている老人、アブ・ラーイドをめぐる人々の物語。
ごみ箱から、古い機長の帽子を拾ったことで、近所の子供たちから「キャプテンでしょう?世界の話を聞かせて・・」とせがまれるのですが、アブ・ラーイドは、違うよ、と言うものの、本が好きで世界のことはすべて本から知っている・・・からそのことを子供たちに話すことになります。
でも子供は、皆、純粋に「信じるか」というと、となりの家の子供、ムーラドは、アブ・ラーイドは機長なんかじゃない・・・とひねくれています。
父が家庭内暴力をふるっていて、子供も大変な思い。
別にアブ・ラーイドは嘘をついているわけではないのですが、知っていることを子供に語る喜び、子供は話を聞く喜び・・・それだけだけれども、どうもひねくれモンは、気に食わない。
アブ・ラーイドという人は、そんなひねくれモノも差別せず、むしろ、暴力が絶えない家の子供を心配している。
本当は、清掃員なんだぜ・・・と、ほかの子供たちの夢をくじくようなことをしても、決して、ムーラドを責めたりしない。
女性パイロットのヌールという「本当の機長」とも知り合いになりますが、ヌールはヌールで、せっかくパイロットの仕事をしているのに、親は古風なしきたりの結婚を迫ってきてうんざり。ささ、婿候補だよ、というパパにつんけんつんけん・・・。
アブ・ラーイドは黙ってその話を聞く。
アブ・ラーイドは、子供たちに語る言葉を持つと同時に、黙って人の話の話を聞く・・・ということができて、それは、やはり人生いろいろなことがあったからこそなのだ、というのがよくわかる、アブ・ラーイドを演じたナディム・サワルハさんという人の顔のしわ。
本当にいい顔のしわをしてるんです。説教を言わず、何を言われても怒らず、受け入れて、責めたりしない、言い訳をしない、逃げない。
他人の家のことなど干渉しない・・・ということを、わきまえているけれども、それでも心配したらそれなりの行動をおこします。
他人の家に干渉する・・・というのはなかなか難しいのは日本だって同じことです。アブ・ラーイドのとる行動が実に謙虚であり、思慮深いのですね。
そういう「人生経験者の深さ」を浮き彫りにした映画ですね。