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富士の高嶺から見渡せば

子が親を遺棄する韓国、人口縮減社会で進む家族の崩壊

2022.08.27 15:33

娘によってマンションから追い出された母親

韓国で、80代の母親が実の娘から部屋を追い出され、マンションの廊下に布団もなしで暮らしていることがテレビ・新聞で報道され、大きな話題になっている。

<朝鮮日報8/22「保証金も貸したのに、追い出して暗証番号を変えた娘」… マンションの廊下に住む80代の母の事情」>

50代の娘は、兄・姉との財産分与の不満から、母親がゴミ出しでマンションの部屋を出た隙に、ドアの暗証番号を変更し、母親が部屋に入れないようにしたのだという。

母親は亡き夫とともにソウル東大門市場では名の知れた靴工場の経営者で、夫の死後、3人の子どものうち息子と長女には数十億ウォンの建物一棟づつを与え、末娘には家賃600万ウォンを受け取ることができる受験生用賃貸ホテルの権利を譲った。さらに、母親はそれまで一人で暮らしていたマンションを処分して、2年前から末娘と一緒に暮らし始めた。その際、母親は娘のマンションの保証金(チョンセと呼ぶ一括払いの預かり金)を積んでマンションの賃貸契約を結んだ。さらに、残りの財産を長男に譲ろうとしたところ、末娘が反発し、「兄は金持ちなのになぜ兄だけに財産を与えるのか」と、兄妹間の争いになったという。

親の介護を放棄しても恥じない子供世代

末娘はマンションの2年の契約期間を終えるとその保証金(チョンセ)を手にして、自分だけ引っ越した、というのが事の顛末である。

この2年間、末娘は母親と一緒に食事をするわけでもなく、いっさいの面倒をみることはなかった。また兄や姉も、母親のことを気に掛けて訪ねてくることもなく、何の援助もなかったという。

韓国の刑法第271条では、老人や子供など保護すべき法律上の義務がある者が、直系の尊属を遺棄した場合は「尊続遺棄」に該当するとし、十年以下の懲役または1500万ウォン以下の罰金に処されると規定している。

今回は遺産相続と財産分与をめぐる家族内のトラブルから発展した、介護放棄、尊続遺棄に当たるケースで、こうした家庭内トラブルは急増しているらしい。

最高裁にあたる大法院が6月に発表した司法年鑑によると、両親の死亡後、遺産の分配をめぐって家族間の衝突が発生し、相続財産分割審判請求が提起された件数は2020年には2095件に上り、この5年間で2倍近く増加したという。なかでも、今回のケースと同じく、長男への相続に対して娘たちが不満を感じて訴訟を起すケースが多いという。

相続税を払うより生前分与のほうが有利?

今回のケースは、遺産相続とは別に、親が生前に子どもに財産を分与する「生前贈与」という形の中で起きたトラブルだった。相続税を払うよりましだとして、親が生前に財産を分与するケースは増えていて、親が子のマンションのローンを肩代わりしたり、親が子どもに銀行のクレジットカードを渡し、生活費の面倒をみたりするケースもあるという。

相続税といっても、不動産など課税対象となる資産の合計から5億ウォン(5000万円)は基礎控除されるので、それ以上の額の資産を所有し、それを相続した人が対象ということになる。(因みに日本の場合の基礎控除額は3000万円プラス法定相続人1人につき600万円)。

従ってすべての人が相続税の問題を抱えているわけではないが、韓国経済人連合会は、韓国の相続税の最高税率は60%で、OECD加盟38か国のうち最も高いとし、これが企業の経営意欲を削ぎ、経営活力や競争力低下の要因になっているとして、改善を求めている。とりわけ、中小企業など親の家業を子が引き継いだ場合には、相続税を減免する家業相続控除制度の対象拡大をもとめている。そもそもOECD加盟38か国のうち20か国は直系の子や孫には相続税を課していない。

少子化がもたらした伝統的な家族像の崩壊

しかし、娘が自分の母親をマンションから追い出したという今回のケースは、ただ単に相続税や生前贈与だけの問題ではないようだ。

韓国の住民登録人口は、2020年、21年と2年連続減少し、すでに人口縮小社会に転じている。2021年末の住民登録人口は5164万人で前年より0.37%(19万人)減少した。その一方で、住民登録世帯数は2347万世帯で、前年より1.6%増加したという。

人口が減少に転じた一方で、住民登録世帯数が過去10年間、増加が続いている背景には、1人世帯や2人世帯が増えたためで、1人世帯は去年946万あまりに達し、初めて40%を超えた。

出生率はついに0.81 過去最低を更新

さらに韓国統計庁の24日の発表によると、2021年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)は0.81で、前年から0.03低下し、過去最低を更新した。結婚や出産に何のメリットも感じないという若者の多くは出生率の低下や少子化で将来、国の存続が危うくなっても自分には関係ないと考えているという。伝統的な「親に孝」という儒教的家族像が維持できなくなっているのは当然で、少子化、親の孤立化の次にはどういう社会が待っているのだろうか。