鉄道転換BRTについて
1.はじめに
こんにちは。高校一年の○○です。今回は鉄道転換BRTについて書こうと思います。近年は災害被害が激甚化しており、鉄道路線も路盤・施設の流出や土砂崩れなど大きな被害を受けることも珍しくなくなりました。例えば平成29年に発生した九州北部豪雨で被災した日田彦山線の被災区間では現在でも運休が続いています。今年5月末、JR九州は日田彦山線の被災区間の復旧日を発表し、住民の交通手段の復旧は成し遂げられる見込みですが、鉄道としての復旧ではなく、BRTとしての復旧が予定されています。
2.BRTとは
Ⅰ.日本におけるBRT
そもそもBRTとはなんでしょうか。BRTは、「バス高速交通システム・・・Bus Rapid Transit」のことを指します。BRTの定義に明確なものはありませんが、日本では「バス専用道路を走行する区間があり、通常の路線バスより定時制・速達性に優れた交通システム」といったような定義づけがされています。その中でも、今回は鉄道をBRTに転換した事例を扱っていきます。
表に挙げたBRTの路線は、鉄道路線をBRTに転用した事例です。海外では都市内各地を結ぶ交通機関としてBRTが建設されていますが、土地や道路の狭い日本の都市では、そのような方向性においてBRTを建設するという手法がまだ一般的ではなく、路線の数が少ないです。日本のBRTはむしろ、大船渡線・気仙沼線のBRT化など、「廃線となった鉄道路線の代替手段」という性格が強いのではないかと思います。
写真1 大船渡線BRT
写真2 白棚線BRT
写真3 かしてつバス
写真4 ひたちBRT
Ⅱ.特徴
BRTは鉄道とバスの利点を併せ持った交通システムであり、一般の鉄道やバスとは異なった特徴があります。
・バス専用道を経由できる
通常の路線バスは一般道を経由するため、渋滞に巻き込まれるなど交通状況によって所要時間が大きく変動することがあります。そのため、廃線跡をバス専用道として利用することにより、通常の路線バスより定時制を確保できます。
・停留所の増設・ルートの変更が柔軟に行える
鉄道のルートを変更するには線路の移設が必要となり、多大な時間とお金が必要です。しかしBRTは、当然ながら道路があれば物理的にルート変更を行うことができます。例えば利便性向上のために従来よりも市街地寄りに停留所を設けることや、逆に渋滞が発生しやすい箇所は専用道路を経由するなど、実態に即した柔軟なルート変更が可能となります。
・維持費が安い
専用道の整備は当然JR東日本などの所有者が行わなければなりませんが、コストのかかる鉄道の保線作業を行う必要がなく、舗装など道路設備の維持管理だけでよいため、維持費は安くなります。また、鉄道車両よりバス車両のほうが一両当たりのコストが安く(気動車一両あたりの価格は約1億6000万円、バス一台は約4000万円)、当然維持費も少なくて済むので、増発を行いやすく、車両も保守しやすいです。
・鉄道よりも運行本数を増やしやすい
鉄道で運行本数を増やすには、線路容量の確保が必要です。特に単線では交換設備の確保やダイヤの煩雑化など課題も多く鉄道の増便は難しいです。しかしBRTは信号場などの高価な交換設備は不要ですし、なにより運行コストが鉄道よりも安いため、増便が行いやすいという利点があります。
・災害時の避難が容易
バスは鉄道と異なり道路を走ることができ、災害時にバスごと乗客の避難が出来るという利点があります。特に気仙沼線・大船渡線BRTが走る、地震が多く津波が発生しやすい東北地方沿岸部では、高台避難などのためにこの利点が生かされます。
写真5 各地に設置された待避所でバスどうしが離合する
3.疑問点
上のように、BRTは「バスでも鉄道でもない交通機関」としての利点があることが分かります。しかし、バスと鉄道の特徴を併せ持つということは、後に述べるような弊害も生み出してしまうのではないかと思います。
Ⅰ.バス専用道路の必要性
前述のように、諸外国では都市各地を結ぶ交通機関としてBRTが建設されています。交通量の多い都市内ではバスが渋滞に巻き込まれることとなり定時性が確保できないため、バス専用道路の利点が生かされます。しかし日本の鉄道転換BRTは地方の線区であるため、そもそも渋滞は生まれないのではないかという疑問が生まれます。
確かに、被災地の路線であれば復興工事車両が数多く走っており、一般道路の交通量は増加していたとは思います。しかし、そのような路線も復興工事が終わった場合はどうでしょうか。鉄道が被害を受けるほどの災害だと、多くの場合道路も被害を受けています。そうすると単に復旧するだけではなく道路の拡幅など、高規格化されることも多いです。工事が終わると工事用車両の交通量も減少するため、バス専用道路の利点である「定時性」は、一般道路を経由しても確保できるのではないでしょうか。
Ⅱ.路線のコンセプトが明確ではない
ひたちBRTやかしてつバスなど、もともと地方私鉄であり地元の利用客が主体であった路線は、当然地元の利用客を重視するという姿勢が明確になっています。
ところが大船渡線BRTなど、かつて都市間連絡の性格を持っていた路線は現状、交通機関が何を目指しているかのコンセプトが明確になっておらず、どっちつかずとも取れる運行を行っています。
Ⅲ.鉄道と比べて速達性は劣る
いくら鉄道のように専用道を設けても、法律でBRTの最高速度が時速60㎞と定められているため、鉄道に比べて速度が劣ることは明白です。また、鉄道の線形由来の遠回りを行うため、今まで鉄道が担ってきた都市間連絡としての役割が十分に果たせているのかが疑問です。
時速60㎞の制限はたとえ高速道路であろうと適用され、例えば大船渡線BRTが経由する三陸自動車道(旧唐桑道路)をBRTは必ず時速60㎞で走行しています。これは交通法規的な制約もありますが、BRTの車両は通常の路線バスと変わらないものを使っておりシートベルトが無く、安全面からも時速60㎞制限にせざるを得ないためです。一般道よりも高速で走ることができるのが高速道路と一般道との大きな差異であるにも関わらず、時速60㎞以上の速度を出すことができないというのは明確なデメリットではないでしょうか。
写真6 大船渡線BRTは時速80㎞制限である三陸道を経由するが、BRTは時速60㎞制限
また、鉄道と異なり、踏切通行の絶対的な優先権がBRTにはありません。つまり、BRT側が踏切の前で一般道側の信号が変わるまで待たなければならないのです。
写真7 大船渡線BRTの信号機
写真8 ひたちBRTの信号機
BRTでは、写真のような「感応式信号」と呼ばれる、バス車体を検知して一般道側の信号を赤に変えて、BRT側を青信号に変えるという仕組みの信号機を使用しています。この信号機はBRTが来ない時の交通の流れを阻害しないという利点がある一方、どうしてもバスの感知に時間がかかり、一時停止を行わなければならないという欠点もあります。この踏切の感応式信号がBRTのスムーズな走りを妨げている印象です。
Ⅳ.運行経路が分かりにくい
バス路線は鉄道路線に比べて運行経路が分かりにくく、旅行者などの初見の利用者に対して不親切であると言わざるを得ません。前述のかしてつバスやひたちBRTは、地元利用者のための路線としての性格が強いですが、特に大船渡線・気仙沼線BRTなどのような、鉄道廃止前に都市間交通の一翼を担っていた路線は、運行経路の案内を明確化するべきではないかと思います。
Ⅴ.整備不足
日立市と運行会社の茨城交通が一体となって整備を進めているひたちBRTのように、行政や路線所有者が専用道やそれを基にした交通整備に力を入れているのがBRTの運行形態の理想です。しかし、整備後数十年が経過した後までしっかりと専用道や駅の整備を行わなければ、現在の白棚線のように利用者が離れてしまうことも考えられます。良好な整備状態を後年まで保っていられるかがこれから重要な問題になってくると思います。
Ⅵ.踏切の安全性の問題
写真9 遮断機はBRTの通行を遮るように設置されている(大船渡線BRT)
写真10 ひたちBRTの遮断機も左と同様
写真のように、BRTの遮断機は鉄道の踏切とは異なり、遮断機が一般車の通行を遮るのではなく、BRTの通行を遮るように設置されています。この遮断機は、どちらかというと一般車の踏切内への侵入を遮るものではなく、むしろ専用道内の一般車の誤侵入を防ぐためのものであるようです。
ところが、普通鉄道のほとんどの踏切にある一般車を遮る遮断機がないことで無謀横断が多発しています。筆者が実地調査に赴いた時も自動車の無謀横断が発生し、BRT側が急停車した後に徐行で踏切を通過するという大変危険な状況になっていました。
通常の踏切は、遮断機が物理的に通行を阻害するため、無謀横断が発生しにくくなっていました。ところが、遮断機が無くなったことや、BRT車両の接近を知らせる警報音が鳴らなくなったことで、心理的にも無謀横断を行いやすくなってしまったと考えられます。
また、この遮断機はバスをセンサーで感知することで動作しています。しかしセンサーが誤作動を起こすことによって、おかしな挙動(上げ下げのタイミングがずれる・バスが近づいていないのに勝手に上がるなど)が頻発しています。これも一般車・BRT双方のドライバーの混乱を招いています。
4.疑問点の考察と改善方法
Ⅰ.バス専用道路の必要性
地方は都心に比べて人口が少ないといえども、車社会であるため絶対的な交通量は少なくなく、中心市街地ではしばしば渋滞が発生することがあります。例として、かしてつバスの走る石岡市では、石岡市の主要道路である国道355号の慢性的な渋滞を避けるために専用道を敷設したことで、「信号を避けることができるようになった」「渋滞を気にする必要が無くなった」と、以前から運行していた鹿島鉄道代替バスと比べて好評でした。
そのため、中心市街地や渋滞の発生しやすい場所ではバス専用道路の整備の効力があります。しかし、郊外の交通量が少ない地域ではバス専用道路を整備する必要が本当にあるのでしょうか。
図11 白棚線BRT運行経路図
新白河駅から専用道起点までの10㎞ほどは灰色で描かれた一般道を経由(地理院地図を加工して作成)
逆に白棚線のように、新白河駅付近の市街地で専用道を整備せず、信号が少なくあまり渋滞の起こらない郊外から専用道を利用するBRTすらあります。これは効果的に専用道を利用しているとはいえず、新白河駅付近では国道の渋滞に巻き込まれ、専用道では整備状態の悪い路面によって、並行する国道を通過するのとさほど違いが見られないという状態となっています。このように、専用道を利用することに対してメリットが大きくない場合は、寧ろ専用道を放棄してしまうという決断もありだと思います。専用道の維持費も鉄道の維持費と比べれば安いとはいえ、自社で整備する必要がない一般道よりもコストがかかりますし、実際災害復旧を諦めて専用道を廃止した区間も存在します。白棚線は開業が他BRTより相当早いこともあり、他BRTに比べてあまり行政の支援を受けられていません。官民一体となって整備を行わなければ必然的にBRTの施設は劣化し、専用道の優位性も次第に無くなっていってしまうのではないかと思います。
また道路は日々着々と改良され、渋滞を緩和する施策が日々行われています。大船渡線・気仙沼線BRTに並行し、BRTも通行する区間がある国道45号線は、三陸自動車道の開通によって、気仙沼市の混雑区間(時速20㎞以下で走る自動車が連続している区間)が8.4㎞から0.3㎞に緩和されているため、さらに専用道の建設意義の一つが薄まったといえるでしょう。
しかし、このような利点も注目されています。
◎自動運転の実証実験
バス専用道路を整備する目的として、「自動運転」が挙げられます。BRTは歩行者や自動車、自転車の流入がないため、自動運転の実証実験が非常に行いやすいです。これまで気仙沼線BRTやひたちBRTのバス専用道路を使用して、自動運転の実証実験が行われました。
A.車両の制御方法
図12 車両の制御方法 (気仙沼線BRTで行われた手法。JR東日本の資料を参考に作成)
上の図のように、道路に磁気マーカーを設置し発せられた磁気をバスが検知することで、車両の位置を正確に読み取り、位置がずれていた場合は修正するという手法で車両の制御を行っています。他の手法としてはGPSを利用したものなどもありますが、山間部では利用しにくい・精度があまり高くないという欠点もあり、道幅の狭いバス専用道で行うのは不向きといっていいでしょう。
また、バスに設置されたセンサーで読み取ることが難しい小さな障害物を検知するために、バス専用道側にセンサーを設けるという方法も試行されています。
B.交互通行の制御方法
一般の鉄道や道路のように地上に信号機は設置しません。無線通信を用いて信号情報を直接バスに送信し、離合を行います。
このように、歩行者や他車など外部からの影響が少ないバス専用道は、より高度な自動運転を行う(あるいは実験する)のに適しており、これがバス専用道を建設する明確な利点といえます。将来的な自動運転を見越すならば、なるべくバス専用道を経由するほうが他車との事故など不測の事態が減少し安全性も向上するため、十分意義があると考えられます。
Ⅱ.路線としての性格があまり明確でない
前述のように、「住民の足としてのBRT」というような方向性が定まっているかしてつバスやひたちBRTはともかく、大船渡線・気仙沼線BRTなどは「BRTという交通機関として何を重視するのか」というコンセプトがあまり定まっていない印象を受けます。
というのも、大船渡線・気仙沼線BRTは、住民の利便性向上のため停留所を増やし続けています。しかし当然停留所が増えるとその分停車時間も増え、鉄道時代は多少なりとも求められていた都市間連絡という性格が薄まってしまいました。このような方向性で行くならば、速達性を重視するBRTに転換する必要はそこまでなく、費用の安いバス転換でも十分ではないかと思います。地域住民の利便性を重視するのかあるいは速達性を重視するのか、そのコンセプトを明確にするべきです。
写真13 盛駅に掲示されている運行経路案内図
大船渡線BRTでは、快速と通常のバスが運行されています。写真13の案内図に描かれている通り、快速は高田病院・高田高校前・陸前今泉駅を経由していません。高田病院・高田高校前駅は、陸前矢作駅始発の便が停車するためまだ良いのですが、問題なのは陸前今泉駅です。気仙沼駅~盛駅を結ぶ快速の便と通常の便は大体半分ずつの割合であるため、陸前今泉駅に停車する便だけ他駅の半分の本数となっています。陸前今泉駅は東日本大震災の被災の影響で集団移転先となった団地の利便性向上を意図して2020年に新たに開業しました。しかし、陸前今泉駅の2020年度の一日平均乗車人員は2人と伸び悩んでおり、公共交通機関離れが進行することにもなりかねません。
さらに、気仙沼駅~盛駅間を全線乗り通した際の所要時間は快速便で約1時間17分、通常便で約1時間24分、その差はわずか7分(時間帯によって多少の変動はありますが、10分を超えることはありません)です。BRTに限った話ではありませんが、地方における公共交通機関の利用の主体は車を運転できない高齢者や高校生などの学生です。
都市間連絡の速達性か、地元利用者の利便性か、どちらを重視するかと言えばこの場合はやはり地元利用者の利便性でしょう。数少ない通しで利用する乗客と、毎日利用する地元の乗客、これからの公共交通機関の維持にとってどちらが重要であるかは火を見るよりも明らかです。
やはりこの場合行うべきなのは、快速を廃止して通常の便と一本化することでしょう。そこまで快速の速達性が発揮できていない現状では、一本化は案内の簡略化のためにも有用ですし、快速に通過されていた駅の利便性向上にも繋がります。
冒頭に述べたBRTの利点の一つに、停留所を増やしやすいという点がありました。当然停留所を増やした方が住民は利用しやすくなるわけですが、ではどこに停留所を増やすことを重視すべきでしょうか。並行している交通網の穴を埋める路線がないかしてつバスなどの路線は通常の路線バスと同様にまんべんなく停留所を増やしていけば良いと思います。しかし結局大船渡線・気仙沼線BRTは鉄道時代から変わらず二次交通である路線バスで交通網の穴を補完していることから(BRT化したことでBRT本線から取り残された上鹿折駅・陸前矢作駅利用者のために、ミヤコーバスというJR東日本とは別の地元のバス会社がBRT駅からの路線を運営しているなどの例があります)、市街地の交通は地元のバス会社に割り当てるべきではないかと思います。停留所を増やすならば、他のバス路線が走っていない山間部の集落沿いに停留所を作るべきです。その理由は、資金の限られた地元のバス会社に採算の取れない山間部の交通を任せるよりも、資金力があり、山間部を経由して都市と都市の間を結んでいるBRTが率先して山間部の交通を担うべきだと思います。山間部で利用者もそこまで多く見込めないので、そこまで速達性を阻害することも無いと思います。ぜひ地元のバス会社と協力して地域の交通網の衰退を防いでほしいものです。
Ⅲ.鉄道と比べて速達性が劣る
これは、鉄道とバスどちらがスピードを出せるかということを考えると仕方がありません。バス専用道にも道路交通法が適用され、制限速度が時速60㎞であるため、現状の交通法規のままでは速達化は難しいと言わざるを得ません。ただし大船渡線BRTの例のように、駅間距離の長い区間では高速道路やバイパスなどの高規格道路を経由して、所要時間を短縮するなどの工夫は出来るかと思います。大船渡線BRTの鹿折唐桑駅~唐桑大沢駅間は専用道でも一般道でもなく、三陸自動車道を経由しています。三陸自動車道内では、バスにシートベルトがないなど安全上の理由から速度が時速60㎞に制限されていますが、山間部区間をトンネルで抜けることができるため、所要時間の短縮が実現されています。
ただし、BRTの山間部区間は閑散区間であることが多く、並行する高規格道路があったとしても片側一車線など、追い越し設備が整っていないことも多いです。そうなるとBRTが渋滞の原因になることも考えられるため、利用するのは一般道があまりに整備されていない区間に限るなど、やはり極力一般道を走るという方向性で行くべきです。シートベルトもなく立ち客も出る可能性があるBRTだと、高速道路では特に追突時の危険も跳ね上がるため、安全性という観点からも高速道路はデメリットも大きいといえます。
Ⅳ.運行経路がわかりにくい
個人的に、この点が旅行者にとって最も不親切な点であると思います。
ほとんどの地図において、鉄道路線は駅だけではなく路線全体が表示されています。一方でバス路線は、運行経路や停留所を書いていないものも多く、旅行者にとっては非常に不便です。地域住民しか使わないならば問題にはなりませんが、鉄道の代替として運行している(つまり旅行者が利用する可能性がある)性質上、通常の路線バスよりも運行経路の周知が大切でしょう。
また大船渡線BRTの陸前高田駅~陸前矢作駅や、上鹿折駅~鹿折唐桑駅間など、BRT化したことで経路が複雑化した区間もあるため、よりしっかりとした案内が必要ではないでしょうか。
現状は、JR東日本の公式サイトやBRTの主要駅にすら駅と運行系統を大まかに表わした路線図しか載っておらず、駅の詳しい場所が載っていない状況です。一方Google Mapでは駅の位置は載っていますが、専用道が一般道と同じように表わされてしまい、どこを走っているのか区別がつきにくくなっている状態です。
具体的な改善策としては、JR東日本は地図上に運行経路と駅の位置をトレースしたような、利用者にとって分かりやすい地図をウェブサイト上に掲載するべきです。ウェブサイトにGoogle Mapなどの地図を埋め込めるAPIも開発されているので、そういったものを利用して作成するのが良いと思います。また、BRT路線が増えている現状、Google Mapなどの地図でも、一般道と同じように表示するのではなく、新たなBRT路線を表わす記号を作るべきではないでしょうか。
図14 Google Mapで表示した気仙沼市街 BRTの路線が一般道と同じように書かれている
(Google Mapより引用)
図15 陸前高田市街路線図(灰→通常便、黒→快速便、駅名は省略)
このように通常の地図に路線名と駅の位置のみ書いておくだけでも変わる
(地理院地図を加工して作成)
Ⅴ.整備不足
白棚線BRTは開業当時、専用道区間は全線舗装され(昭和30年代は国道ですら未舗装が当たり前であった)、鉄道よりも所要時間が15分短縮されたなど非常に画期的なものでした。しかし現在は経年劣化や、乗客の減少とそれに伴う収入減により舗装状態が悪化し、並行する国道289号が整備されたことで、バス専用道の多くが廃止され現在は一部区間を残すのみとなっています。バス専用道が持っていた「速達性」というアドバンテージを失ってしまったため、このような結果になってしまったといえます。収入が減少→専用道の劣化→バスの遅滞化・・・という負のスパイラルはこれからもとどまることはないでしょう。大型車一台の通過が舗装に与えるダメージは、普通の乗用車約1万台の通過ダメージに匹敵します。大型車しか通過しない専用道は他の道路と比べてなお劣化が早まるため、専用道は特に路面の整備が大事です。
つまり、未来にわたってしっかりとした整備が行えるか否か、これがBRTを維持できるかどうかに重要であるということです。これからは、人口減少や災害によりBRT転換などを行う路線が増加してくると予想されます。BRTという交通機関のカタチを未来まで保つには、専用道の整備も大切だということでしょう。
写真16 白棚線BRT専用道 舗装が著しく劣化していることがわかる
Ⅵ.踏切の安全性の問題
やはり比較的交通量の大きい道路の踏切からでも、一般車の通行を遮る遮断機を設置すべきです。バス車両は鉄道車両に比べ制動距離が大幅に短いとはいえ、現状のままではいつ接触事故が起きてもおかしくありません。通常の踏切用の遮断機は一本約50万円で、BRT用のものはそれよりも簡素な構造となっているのでそこまで導入費用も多額ではないと思います。
また、意外と危ないのが信号機のない小さな踏切です。信号機のある踏切では、その信号機を頼りに「BRTが通過するから停止しよう」という判断を一般車ドライバーが下すことが可能ですが、信号機も警報機もない踏切ではドライバーの左右確認だけが頼りで、むしろ事故が起きやすいです(私が目にした無謀横断も、信号機も警報機もない小さな踏切で起こりました)。一般の鉄道では車が通れるほどの踏切には大体警報機が付いているのでこのようなことにはならないはずですので、警報機の設置も前向きに検討すべきだと思います。
5.BRTが行うべきことのまとめ
・速達性と利便性どちらを重視するか明確にする
・地域の交通特性に合わせて停留所を作る
・自動運転を見据えるならば専用道の利用価値は大きい
・とはいえ、あまり専用道にこだわりすぎず柔軟にルートを選定すべき
・路面の整備を怠ってはならない
・踏切の安全性が非常に低いので、事故が起こる前に遮断機の設置などの対策が必須
・他地域からの利用者にも分かりやすい案内を運行会社がまず行う
6.これからのBRT~日田彦山線を例に~
今まで述べた考察をもとに、BRT化が予定されている日田彦山線を考察していきます。
九州北部、福岡県と大分県の山間部を走る日田彦山線は、久大本線との乗換駅である夜明駅から添田駅までの鉄道を廃止し、日田駅から夜明駅まで直通、添田駅まで運行するという運行系統となることが予定されています。もともと日田駅から添田駅まで12箇所あった駅が25箇所追加され、合わせて37駅となります。
山岳区間である彦山駅~宝珠山駅までは専用道を利用するため、次の図のように大きな距離の短縮が可能です。
図17 日田彦山線路線図 黒色の添田駅~日田駅間がBRT化される
(地理院地図を加工して作成)
図18 黒・・・一般道経由 灰・・・専用道経由
専用道を経由すると5㎞以上距離が短縮できる(地理院地図を加工して作成)
また、専用道区間ではない添田駅~彦山駅・宝珠山駅~夜明駅の区間も並行して国道・県道が走っているため、あえて専用道を利用する必要もそこまでないと思います。夜明駅~日田駅間は久大本線が並行して走っているため速達性はそちらに譲り、停留所の数を増やすべきでしょう(とはいえ、夜明駅~光岡駅間は集落が少ないのでJR九州が発表した2駅よりも増やす必要性は薄いですが)。BRT区間が短く事業を行いやすいことも相まって、全体的にうまくまとまった計画になっています。
写真19 めがね橋ライトアップ(©東峰村) 東峰村フォトライブラリーより引用
問題点は、専用道区間である筑前岩屋駅~大行司駅間は4㎞という駅間距離がありながら、途中に停留所を設けないというところです。並行道路からも専用道が他の専用道の区間と比べて離れており、利便性が損なわれているといえます。もともとJR九州の計画は専用道区間を彦山駅~筑前岩屋駅間に限定しており、福岡県が宝珠山駅まで延伸を求めたためこのようなことになったようです。理由としては、地元の東峰村が村内の主な観光名所である日田彦山線の「めがね橋」の存続を危惧したというものです。しかし、これでは並行道路沿線の集落から離れており地域の交通としては意味がありません。めがね橋の存続を危惧するのであれば、めがね橋単独で整備すればいいだけであり、めがね橋を守るという目的のためだけに筑前岩屋駅~大行司駅間の住民の利便性を犠牲にすることはあまり合理的とはいえません。それでもBRT区間を宝珠山駅まで延長するならば、筑前岩屋駅~大行司駅間の住民のためにもバスを運行すべきです。東峰村は福岡県で最も高齢化が進んでいる自治体です。前期高齢者が多数の割合を占めており、これから車が運転できないような年齢の住民がさらに増加していくと予想されます。高齢ドライバーの事故が取り沙汰されている中、公共交通機関の整備は急務です。BRTに接続する時間に運行するだけでも十分であるので、大船渡線BRT上鹿折駅・陸前矢作駅のように、BRT本線以外の交通空白地帯の補完を行うべきでしょう。
7.結論
これから収入の減少によってBRT化を検討する鉄道路線も多くなると思いますが、日田彦山線のように、いたずらに「専用道を整備すればいい」というわけでは決してありません。路線の通る地域の未来の姿をしっかりと見据え、その上でBRT化を行ってほしいものです。
8.おわりに
この場を借りてこの研究に関する反省をしたいと思います。まず、提出期限を2週間過ぎてしまったことをお詫びします。なかなかテーマが決まらず書き始めるのが遅くなってしまったことが原因です。今後はこのようなことがないよう、早めにテーマを決めて書き始めたいです。
他にも、BRTは鉄道より更に地域に密着した交通機関であるために、各地域を同列に語るのは非常に無理があると感じました。これが一番の反省点です。読んでいる中で自分でも分かるほど非常にまとまりのない研究となってしまったことも反省点です。
さて、文化祭が終わったら我々102期が最高学年です。正直しっかりしていない学年ではありますが、一丸となってやっていきたいところです。今後とも鉃研をよろしくお願いいたします。
拙い文ではありましたが、
最後までお読みいただきありがとうございました!
9.参考文献・サイト
・東洋経済オンライン https://toyokeizai.net/
・朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/
・JR東日本 https://www.jreast.co.jp/
・JR九州 https://www.jrkyushu.co.jp/
・地理院地図 https://maps.gsi.go.jp/
・Google Map https://www.google.co.jp/maps/
・東峰村 http://toho-info.com/
おことわり:Web公開のため一部表現を変更させていただきました。掲載されている情報は研究公開当時のものです。現在とは若干異なる場合があります。