都市鉄道の未来
1.はじめに
文化祭にお越しいただきありがとうございます。研究班長の**です。月日の流れというものはとても早く、もう最後の研究となってしまいました。今回は都市鉄道の未来という非常に抽象的な題名になっています。つたない文章ですが、最後まで読んでいただけると幸いです。
2.都市鉄道の変化
2020年、新型コロナウイルスの流行により、鉄道業界は大きな打撃を受けました。テレワークの普及や外出自粛などで鉄道の利用客数が減少し、それに伴い多くの鉄道会社では様々な変化が起きました。
今回の研究では企業である鉄道会社が収益を上げるために必要な支出削減と収入維持の2つの観点から都市鉄道の未来を考えていきます。
3.支出削減策
(1)都市鉄道の支出の内訳
この章では支出削減について考えていきます。そもそも、支出は大きく固定費と変動費に分けられます。固定費とは、売上の増減にかかわらず必ず発生する一定額の費用のことで、変動費とは売上の増減によって変動する費用のことを指します。
【図1】関東の大手私鉄における支出の内訳①(参考:鉄道統計年報[令和元年度])
このグラフは関東の大手私鉄の支出の内訳を示しています。都市鉄道の場合、固定費に当たるのが車両やレールなどの減価償却費(注)や修繕費、また社員の人件費で、変動費に当たるのが運行にかかる動力費です。
【図2】関東の大手私鉄における支出の内訳②(参考:鉄道統計年報[令和元年度])
上の図は同じ支出を異なる視点から見た時のものです。図1と組み合わせて考えると、この保存費や運輸費・運転費の中に、人件費や修繕費がそれぞれ含まれているという形になります。保存費とは、線路保存費、電路保存費、車両保存費の合計で、線路などそれぞれの維持管理にかかる費用です。管理費とは、保守管理費と輸送管理費の合計で、保守や輸送の作業管理にかかる費用です。また、運輸費や運転費は列車の運行及びそのための入替などにかかる費用になっています。減価償却費を合わせたこれら4つのうち保存費と管理費は安全面を考えても大幅な削減はできず、減価償却費も先述の通り減らすことは難しいです。
そのため、この2つの支出内訳から考えると、比較的減らしやすい支出は運輸費や運転費のうちの人件費や動力費となります。これらの費用は車両や乗務員の運用の効率化や本数の削減によって多少ですが削減が可能であり、近年では多くの路線で減便などの運行整理が行われています。
(注)減価償却:固定資産の取得にかかった費用を取得した年の費用とせず、耐用年数(鉄道の場合は13年)に応じて配分し毎年の費用として計上する考え方です。仮に、車両を1億円で購入したときは、毎年約769万円(1億円の13分の1)の減価償却費がかかっているとして考えます。
(2)支出削減の方策
支出削減の方策は様々考えられますが、今回は列車の減便と駅窓口の削減について取り上げたいと思います。
A.減便と運行整理
①これまでの変化
列車の運行本数を減らすことで経費削減を狙う方法はすでに多くの鉄道会社が取り入れています。運行本数の削減は支出削減の面では適切な方策といえるでしょう。ただ、新型コロナウイルスの流行による利用客減少はあるものの、通勤電車の混雑は依然として問題であり、通勤時間帯の減便はほぼ不可能です。これまで都市鉄道において減便の対象となってきたのは終電間際と日中時間帯の列車でした。
しかし、終電間際に関しては、2021年の1月に国から終電繰り上げ要請があり、臨時的に終電が繰り上げられたのち、その年の3月のダイヤ改正の際に、多くの路線で正式に終電が繰り上げられ、運用も効率化されました。
また、日中時間帯においても多くの路線ですでに運行整理が行われています。では、日中時間帯の運行整理がどのように行われてきたのでしょうか。
日中時間帯の運行整理をする場合、2つの考え方があります。1つはパターンダイヤ内の本数を削減する方法で、もう1つは既存のダイヤをベースに1パターン当たりの時間を変更することです。前者は小田急小田原線や東急東横線、後者は西武新宿線などで実施されています。また、京阪本線のようにパターンダイヤの間隔を広げつつも一部列車の増発を行うことによって、利便性の低下を最小限にとどめている路線もあります。
【表1】小田急小田原線の日中時間帯の運行本数(上が2018年、下が2022年)
先述した小田急小田原線の例について詳しく見ていきたいと思います。上の表が2018年、下の表が2022年の日中1時間当たりの運行本数です。4年間で明確に本数が減少しているのが分かると思います。
しかし、本数が大幅に減少している準急は減便しても影響が少ない列車でした。2018年に運行されていた準急は代々木上原駅で急行に接続しており、その急行は成城学園前駅で各駅停車に接続するため、実質的に有効列車として準急を利用できる駅は千歳船橋駅と祖師ヶ谷大蔵駅の2駅しかありませんでした。有効列車とは「ある目的地に行くのに実際に使うことができる、先着列車」のことです。2018年のダイヤで千代田線方面から狛江駅へ向かう際、代々木上原駅で急行に乗車し、成城学園前駅で各駅停車に乗り換えた方が、千代田線方面から準急のみを利用して向かうよりも早く到着することができます。そのため、千代田線方面から代々木上原駅からの有効列車は急行のみとなり、準急は有効列車にはカウントされません。
この準急列車が設定されていた理由は世田谷エリアと千代田線方面の結びつきを強めるためだったと考えられます。このような利用促進や利便性向上のために設定され、運行を取りやめても影響の少ない列車が、新型コロナウイルスによる利用客減少を受けて減便されることも少なくありません。
他にも、一部の急行列車の運転区間が変更され、町田駅以南を6両編成かつ新松田駅~小田原駅間で各駅停車に種別変更を行う形での運行に変更されました。以前は新宿駅~新松田駅間で10両編成の急行が、新松田駅~小田原駅間で6両編成の各駅停車が運行され、両列車が新松田駅で引き上げ線を用いた折り返しを行っていました。6両編成しか停車することが出来ない栢山駅から足柄駅までの各駅に、新松田駅以北からの急行が停車できるようにしたことで、新松田駅での系統分離の必要がなくなったため、折り返しの手間と経費が削減されました。
【写真1】小田急小田原線を走行する小田急8000形(前)と3000形(後)
②減便策の課題
今後の減便策の課題となる点として、当然利便性の低下があげられます。適正な運行本数の場合は列車の本数を減らすことはできません。また混雑の激しい通勤時間帯の減便は現実的ではなく、通勤時間帯以外はすでに多くの路線で運行整理が行われているという点もあります。
③減便策の今後
都市鉄道においては、今まで目立った減便のなかった路線については列車の減便がさらに行われていくと予想します。利便性の課題に対しては、工夫されたダイヤや小田急のような無駄を省く形での運行整理であれば大きな問題にはなりません。また、今までに運行整理が行われた路線に関しては、これ以上の減便は混雑やそれに伴う遅延、利便性の大幅な低下を引き起こす恐れがあります。そのため、ダイヤに無駄のある、まだ運行整理が行われていない路線でのみ列車の減便を行っていくべきだと考えます。
④今後の減便策の具体例
筆者が、日中時間帯の運行整理が今後行われても良いと考えているのが西武池袋線です。
【表2・3】2022年3月ダイヤ改正の西武池袋線の日中のダイヤ(上)と
一時間当たりの区間別運行本数(下)
上の時刻表は現在の西武池袋線の日中のダイヤで、下の表は日中時間帯のダイヤの区間別の本数の内訳を表した表になります。西武池袋線は1時間のパターンダイヤで運行されています。西武池袋線の日中のダイヤは石神井公園駅以遠で各駅に停車する準急と各駅停車の本数が多く、石神井公園駅から保谷駅の間では上記の2種別だけでも毎時11本の列車が運行されています。しかし、西武池袋線の池袋駅からの保谷駅への有効本数は毎時7本しかありません。有効本数とは「有効列車の本数」のことです。基本的には有効本数と運行本数の差が大きいダイヤは、それだけ無駄が多いということになります。一方で、運行本数が減少しても有効本数が減少していなければ、利便性が極端に損なわれることはありません。
また、減便とは直接関係ありませんが、一部優等列車の所要時間が長いというのもこのダイヤの課題です。特に池袋駅12時31分発の準急は小手指駅まで先着しますが、準急は石神井公園駅から各駅に停車するため、所沢駅以西の遠距離区間への所要時間が長くなってしまいます。
【表4・5】西武池袋線の日中の減便ダイヤ(上)と区間別運行本数(下)
この改善ダイヤでは全体的な各駅停車の減便を行い、特急に続行する準急をより停車駅の少ない快速に変更することで速達性を確保しました。一部の豊島園駅発着の各駅停車は練馬駅で快速からの乗り換えが可能になっており、有効列車の間隔を調整しています。また、各駅停車の全列車において東長崎駅で優等列車の退避を行うことによって運行間隔を揃え、毎時6本に減便することで運行間隔が開くものの、利便性が損なわれないようになっています。
【写真2】西武池袋線を走る30000系
B.駅窓口の削減
①現在の状況
他の支出の削減策として駅窓口の削減があげられます。駅員や窓口の係員の人件費は 167ページの②の表のうち、その他の費用の一般管理費のなかに含まれます。実際にJR各社ではみどりの窓口の削減が進んでいますが、窓口の削減は券売機で購入できない切符を購入する際や券売機の操作に抵抗がある利用客にとっては利便性の低下につながってしまう、という課題もあります。
その駅窓口削減による利便性低下の対策としては通話可能な指定席券売機の設置が挙げられます。JR北海道では「話せる券売機」、JR九州では「なんでも私に聞いてください!『ど~ぞ』」などと、各社異なる名前で設置されています。このような券売機ではカメラとオペレーターとの会話によって窓口と同じように切符を購入することができます。しかし、通話可能な指定席券売機はJR北海道やJR西日本でしか普及しておらず、それ以外の会社ではごく一部の駅に設置されているのみとなっています。
【写真3】古淵駅の廃止されたみどりの窓口の跡地
古淵駅には通話不可能な指定席券売機が設置されている
②今後の予想
駅窓口の削減は人件費削減に一定の効果があり、支出削減策として今後も実施されていくと予想します。その上で利便性の課題を改善するために、対策を施していく必要があると考えます。
対策としては、通話可能な指定席券売機を普及させていくべきでしょう。ただ、この通話可能な指定席券売機にもいくつかの課題があります。1つめはJR東日本の「話せる指定席券売機」やJR西日本の「みどりの券売機プラス」は通常の指定席券売機やみどりの券売機と見た目がほとんど変わらず、通話可能であることが分かりにくいという点です。一方で、JR北海道の話せる券売機はオレンジ色で大きく「話せる券売機」と書かれており、通話可能ということがわかりやすくなっています。みどりの窓口が廃止された駅を中心に、話せる指定席券売機をJR北海道の話せる券売機のような分かりやすいデザインにして普及させるべきだと考えます。
2つめの課題としてはオペレーターに繋ぐ際に時間がかかることがあるという点です。筆者が菊名駅に設置されている話せる指定席券売機の調査に行った際、利用客の多い時間帯ということもあってか、前に並んでいた人がオペレーターと繋ごうとしても繋がらず、何分も待たされるという事態が発生していました。これは、担当者の数を減らし、同じ担当者が複数の駅の券売機を担当することによって生じてしまう問題です。この問題の対策として、券売機が混む時間帯に限りオペレーターの人数を増やすべきだと考えます。時間帯によって人数を変えることによって、人件費の削減と利便性の低下の抑止の両立が可能になります。
【写真4】菊名駅の話せる指定席券売機
通常の指定席券売機との違いが
分かりにくくなっている
【写真5】話せる券売機(JR北海道HPより引用)
「話せる券売機」の文字の背景は
オレンジ色になっている
(3)支出削減の方策から考えた都市鉄道の今後
これまでの傾向から、都市鉄道においては列車の減便と駅窓口の削減は進んでいくと考えます。その中で課題となる利便性という点に関しては、ダイヤの工夫や通話可能な指定席券売機の普及によって対応していくべきでしょう。また、今後の列車の減便は、西武池袋線で行われる可能性が高いと考えます。
4.収入増加策
ここからは、話が大きく変わって収入増加策について考えていきます。
そもそも、収入は基本的に客数と客単価の積で表されます。このどちらか、あるいは両方を維持・増加させることが重要です。それぞれについて考えていきます。
(1)客数の維持
鉄道の利用は大きく二つに分類されます。一つは通勤通学や業務上、日常生活上での利用で、もう一方は娯楽などの利用です。
A.日常生活の利用の維持
①これまでの方策
日常生活上の利用の特徴としては、利用が安定しているという点が挙げられます。また、定期券での利用も多く、客単価が低い傾向にあります。鉄道会社が関与する施設の利用などを除いて鉄道会社が利用を促進することができない部分が多いため、客数を増やす上では沿線人口の増加が重要になります。沿線人口を増加させる方策は様々ありますが、まず大切になってくるのがブランドイメージだと筆者は考えます。例えば、筆者の主観ではありますが、「総武線や東西線=混雑が激しい」というイメージや「阪急や東急=上品」というイメージがあります。居住地を選ぶ際に、この潜在的なイメージは大きく影響すると考えられるため、路線に対してプラスのイメージを持ってもらうことが大切です。
ではどのようなイメージを持ってもらうのが良いのでしょうか。他路線よりも住みやすい路線だと思ってもらうためには、筆者は「子育てしやすい路線」というイメージが大切だと考えます。
【表6】小田急の「子育てしやすい沿線」の実現に向けた取り組み(一部)
上記の表は小田急が行っている「子育てしやすい沿線」の実現に向けた取り組みの例です。子育て応援トレインと子育て見守り車両については「今後もより良い形で、プロジェクトの取組を継続していきたいと考えています。(小田急エージェンシーの2021/10/29の記事より)」とあるように小田急として前向きな姿勢を示しています。また、都営大江戸線でも優先席のある車端部に子育て応援スペースを設けるなど同様の方策が行われています。
このほかにも保育園の整備はに各会社が力を入れています。JR東日本では2000年代初頭から保育園の整備に力を入れ、2004年には東北・上越新幹線の建設に際して発生した空きスペースに保育園を整備しました。
②今後の展開予想
子育てしやすい路線というイメージを持ってもらうための方策は今後も進めていくべきだと考えます。理由としては、子育てを始めるタイミングで家を購入することが多いという点や通勤と通学の両方で安定した収益を得ることができるという点などがあげられます。これらは、路線ごとで考えると、対抗路線との競争力向上を図ることができます。
また、都市鉄道および都市全体で考えると、子育てのしやすい環境が整備されることによって、沿線住民への住み心地が向上されます。今後も子育てしやすい路線というイメージを持ってもらうための様々な方策が展開されていくでしょう。
その中でも、今回は保育園整備の具体例を考えてみます。現在、小田急多摩線の黒川駅の駅前には小田急が管理していると思われる広大な土地があり、この土地を子育て支援の場として整備するべきだと考えます。小田急系列の保育園「小田急こどもみらいクラブ」は、現在、梅ヶ丘駅、経堂駅、千歳船橋駅、喜多見駅と世田谷エリアに集中しており、多摩線沿線にはないため、多摩線の印象に対して与える影響も大きくなると思います。
【写真6】黒川駅前の空きスペース
B.娯楽・観光などの利用の促進
鉄道のもう1つの利用目的である、娯楽・観光などでの利用についても考えていきます。観光や娯楽は通勤や通学と違い、日常生活上で必須になるわけではありません。日常生活上で必須になる通勤や通学での利用は、鉄道会社側が利用を促進しても利用客増加には大きくつながりません。一方で観光や娯楽は日常生活上で必須ではないため、鉄道会社側でも十分に利用促進が可能ということになります。
では、観光客を増やすためにはどのような方策が考えられるのでしょうか。現状でも小田急であれば箱根や江ノ島、京王であれば高尾山、東武であれば日光・鬼怒川やスカイツリー・川越などの観光地開発に力を入れています。新たな観光資源の開発や現地における交通手段の整備など方策としてはいろいろと考えることが出来ますが、ここでは各社間の連携強化による利用促進について着目していきたいと思います。
各社間の連携強化とは、具体的には「他社の観光地をお互いに利用しやすくする」ということです。例を用いて考えていきます。他社線の観光地に向けた切符の発売は先例がいくつもあり、この方策は十分に実現が可能です。先例としては、西武鉄道沿線での箱根フリーパスの発売や、関西私鉄の多くの駅から利用することが出来る奈良・斑鳩1dayチケットなどがあげられます。
一方で、連携ができていない例もあります。東武鉄道は沿線の一大観光地である日光・鬼怒川エリアには当然力を入れて開発しており、もちろん日光・鬼怒川エリアを周遊するための切符も数多く発売されています。しかし、それらのほとんどが東武線の各駅でしか発売されていません。日光・鬼怒川エリアを観光する人が、必ずしも東武線沿線に住んでいるとは限らないため、発売場所が限られていると利用しづらいということになります。
こういった不便さを解消するために、他社の観光地へ向かう際に利用できる切符をお互いに発売することによって、双方の観光地の利用を促進するという狙いです。他社線沿線の観光地の利用を促進するということは、自社線沿線の観光地の来訪の減少に繋がりかねません。しかし、相互で切符の発売を行い、デメリットを低減することによって切符が発売しやすくなると考えます。
また、このような切符を駅や車内で宣伝することによって、利用を促進する策も考えられます。効果は未知数ですが、宣伝のみであれば支出を少なく抑えることが可能なため、積極的に実施していくべきでしょう。
鬼怒川エリアを通る特急リバティ会津に
充当されている東武500系
奈良・斑鳩1dayチケット
筆者は大阪メトロから利用した
(2)客単価の向上
次に客単価向上策について考えていきます。まず、一般的に客単価とは、「消費者一人当たりが一度の購買時に支払う平均額」のことを指します。鉄道の場合、「1回の乗車で利用客が支払う平均額」となります。定期券が普及していることなどから具体的な計算は難しくなりますが、「利用客が払う金額を増加させる」ことが大切だということに変わりはありません。その客単価を向上させるには以下の方法があります。
A.料金改定
①運賃の値上げ
運賃の値上げは客単価を向上させる最も簡単な方法です。大手私鉄でも、東急電鉄や近畿日本鉄道などが2023年4月からの運賃・定期券の値上げを申請しています。また、そのほかの鉄道会社についても値上げを検討している会社が多くあります。ただ、運賃の値上げは競合他社との競争力低下やそれに伴う客数の減少などの懸念点があるため、慎重にならなければなりません。
②今後の予測
筆者は、先述の懸念材料があるものの、運賃の値上げは進んでいくと考えます。理由としては、都市鉄道全体で値上げが進む場合、鉄道会社間での競争力に大きな影響を与えないからと、運賃値上げの収入増加と利用客減少による収入減少を比較したときに、収入増加のほうが大きいと予想できるからです。例えば、東急電鉄の運賃改定率は12.9%増加ですが、値上げの影響で輸送人員が10%以上減少することはおそらくないでしょう。また、通勤定期は定期券代が会社から支給されている場合も多く、家計への影響が少ないという点もあります。以上の理由から鉄道会社は運賃の値上げをしても問題はないと考えます。
③運賃値上げへのハードル
ここまでは、運賃値上げによる影響とそれに伴う課題について考えてきましたが、運賃の値上げそのものにもハードルがあります。それは現在の運賃制度です。現在の鉄道の運賃制度は「上限認可制」が採用されています。これは、鉄道会社に不当な高額料料金を設定されることを防ぐために、鉄道会社は国土交通大臣に運賃の上限価格を認可してもらい、その上限以内で運賃を設定するという方式です。料金の上限は、「ヤードスティック方式を加味した総括原価方式」をベースにして決定されます。ヤードスティック方式とは複数の事業者を比較して原価を定める方式です。総括原価方式とは、原価(鉄道であれば人件費、経費、減価償却費などの総コスト)に適正利潤を上乗せして料金を決定する方式であり、鉄道以外では電力・ガス・水道などの料金設定で採用されています。詳しいことは省略しますが、ヤードスティック方式を加味した総括原価方式によって、過去の投資や経営効率化を反映した適正な基準を設けることができるようになっています。
総括原価方式による運賃設定には、たしかに一定の合理性が認められるものの、現在の状況に適していない点も多くあります。1つは認可に時間がかかるという点です。東急電鉄の値上げを参考にすると、日本で新型コロナウイルスが流行し始めたのは2020年3月からですが、運賃の値上げは2023年3月からになっています。このような輸送人員が大幅に減少するという事象は今までなかったため仕方のないことではありますが、3年間適切な収入を得ることができないというのは鉄道会社にとって致命傷になりかねません。
2つ目の問題としては、総括原価方式による上限が平年度の需要予測をもとに設定されているという点です。鉄道の輸送人員は「予期せぬ」新型コロナウイルスの流行により急激に減少しました。また、今後に関してもワクチンや新たな変異種の発生などの不確定要素も多いため、鉄道会社が今後の需要を予測するのはほぼ不可能と言えます。
そのような課題に対して、国土交通省は2022年2月に鉄道運賃・料金制度のあり方に関する小委員会を設置し、鉄道の運賃制度の見直しを検討しています。
④運賃制度の改革
私は、以上の課題を解決するために運賃制度を改正するべきだと考えています。まず、基本運賃の設定の方法ですが、利用状況が大幅に変化した場合は、前年度の利用状況をもとにすぐ認可・運賃改定ができるようにするべきだと考えています。運賃改定の難易度が下がることによって改定の頻度が増加し利用客の混乱を招くという懸念もありますが、運賃の改定には券売機のシステムの改修など多額の費用がかかるため、何度も連続してできるものではありません。そのため、認可をより速やかに行えるようにしても問題はないと考えます。
どのように運賃制度を改正するかはさらに議論を重ねる必要がありますが、確実に改正するべきだと考えています。
B.追加サービスの利用増加
運賃の値上げ以外にも客単価向上策は存在します。それは追加サービスの利用増加です。鉄道においては運賃以外に料金を必要とする有料特急や座席指定列車、グリーン車などの利用を増加させることです。特に都市鉄道においては通勤時間帯の着席保障の需要が大きいため、多くの鉄道会社で着席サービスを提供しています。近年でも2018年に京王ライナーが、2020年にはTHライナーが運行を開始しました。
5.着席サービス
この章ではこの着席サービスに焦点を当てていきます。なお、今後は「都市鉄道における有料特急などを含めた着席保証を伴うサービス」を着席サービスとして考えていきます。
(1)着席サービスの現在
着席サービスの提供は、近年のサービス拡大からもわかるように、都市鉄道においては客単価増加のための方策として適切であり、今後もサービスの導入・拡大をする路線が増えていくと予想します。
ただ、着席サービスが拡大していく中には、サービスが失敗する例も発生してしまうでしょう。着席サービスは各路線の実態に応じて適切な導入が必要になります。そのため、その路線の実態と合わない形で導入されてしまうと、かえって損失になってしまいます。ここからは、そのような例に対してどのような対応が求められるのかを考えていきます。
(2)着席サービスの区分
全国の鉄道会社で実施されている着席サービスですが、大きく2つに分けることができます。1つは列車全体で座席指定を必要とする「座席指定列車」を運転する方法で、もう1つは一般列車の一部座席を指定席にするという方法です。
前者の特徴としては、1列車で多くの乗客にサービスを提供することができる点や、無料の最上位種別よりも停車駅を絞ることで明確な遠近分離や速達化を図ることができる点が挙げられます。具体例はJRの特急や京王ライナーなどです。ただ、通勤時間帯に座席指定列車を運行することにより前後の列車の間隔が開いてしまう点や、新しく車両を導入する費用が掛かる場合があるという点が欠点として挙げられます。
後者の特徴としては、多くの本数を確保できる点や少ない数からの座席設定が可能という点があります。JR東日本の普通列車グリーン車は着席保証こそされていませんが、全ての普通列車に連結されているため、待たずに利用することができます。しかし、無料の一般車両の両数が少なくなることにより一般車両の混雑が激しくなる点や、誤乗が発生しやすくなるという点があげられます。
またTJライナーやQSEATのように、デュアルシートと呼ばれる一般車と同じロングシートと、座席指定列車で用いるクロスシートの両方で使用することが可能な設備を持った車両を使用している列車もあります。
京王ライナーでも運用される京王5000系
プレミアムカーを連結した京阪8000系
着席サービスは各路線で大きく仕様が異なります。そのため、都市鉄道全体に向けていえることは、先述の通り「着席サービスは各路線の実態に即して導入していかなければならない」ということだけです。ここからは具体例を用いて、様々な要因によりそれが出来ず、利用が低迷しているサービスについて考えていきます。
(3)Aシートの概要と課題
AシートはJR神戸線や京都線などの新快速で行われている着席サービスです。12両編成の新快速のうち米原寄り4両編成の一番大阪寄りの車両である9号車を改造し、有料座席を設けました。一般車両にはないリクライニング設備や荷物置き場、コンセントなどが設置されています。2019年の運行当初は車内で乗車整理券を購入するという形式をとっていましたが2020年より試験的に指定席の運用が開始され、2022年からは完全指定制になり、混雑する新快速でも着席サービスを受けることができるようになっています。
ただ、Aシートは、2019年の登場から運行本数は1日2往復のままで、とても利用しやすいとは言える本数ではありません。増発されない理由は、利用客が伸び悩んでいるからだと推測できます。実際に筆者が確認したところ、新快速2号の大阪駅発車時点では10人程度しか乗車していませんでした。筆者は、利用客が伸び悩んでいる理由は以下のとおりだと考えています。
①本数の少なさと知名度の低さ
先述の通りAシートの運行本数は運行開始から1日2往復しかありません。運行本数は利便性に直結します。長時間待ってでも着席して移動したい乗客以外は間違いなく他の特急や新幹線、前後の新快速などを利用するでしょう。また、運行本数の少なさは列車を認識する機会が減少するため、知名度の低さにもつながります。
②同区間を走る特急・新幹線・京阪特急の存在
Aシートを連結した新快速は網干駅から野洲駅の間で運行されていますが、京都駅から姫路駅の間では東海道・山陽新幹線が、京都エリアから大阪エリア間では特急サンダーバードやスーパーはくと、プレミアムカーを連結した京阪特急が、阪神間や姫路方面では特急スーパーはくとや特急はまかぜ、特急らくラクはりまが運行されており、わざわざAシートを利用しなくても着席サービスを受けることができます。このことがAシートの利用客低迷につながっていると考えられます。
③無料座席との差別化ができていない
関東圏の多くの車両はロングシートが採用されているため、着席できるというサービスに座席のグレード向上という付加価値が付きます。また、一般車両がロングシートではない場合でも、例えば京阪特急に充当されている車両である8000系では、プレミアムカーは3列シートになっており差別化が図られています。しかし、新快速に充当されている223系や225系は一般車両でも転換クロスシートが採用されており、Aシートはプレミアムカーよりもグレードの低い4列シートとなっているため、Aシートと一般車両の座席のグレードの差が小さく、付加価値が下がってしまいます。
④チケット購入の手間
Aシートの料金は840円となっていますが、e5489という、JR西日本が提供しているオンラインネット予約システムでチケットレス指定席券を購入すれば600円(3号のみ450円)で利用することができます。つまり、基本的にe5489での購入しか想定されていないということです。鉄道会社としては切符発売の手間と人件費を省くことができるため、インターネットでの切符購入やチケットレス化は推進するべきだと筆者は考えます。しかし、ネットでの切符購入には利用客側の手間がかかります。チケットレスの特急券を購入する場合、検索エンジンからe5489を開き、ログインするなどの作業をする必要があり、券売機で購入するよりも手間がかかってしまいます。また、e5489に登録していない人の乗車機会を失ってしまうという欠点もあります。
⑤ブランドイメージの相違
Aシートは、ブランドイメージを確立できていないという問題もあります。新快速は昔から私鉄対抗のために速達性を重視してきました。そのため、新快速=速いというイメージが先行してしまい、Aシートが快適であるというイメージの確立が出来ていないのではないかと思います。逆に並行する京阪電車の特急は速達性では優位に立てないため、快適で特別感のある車両を運行することでブランドイメージを確立してきたという例もあります。
(4)Aシートの展望
先述した6つの課題に対して今後の展望を考えていきます。
(A)日中時間の運行形態の改善(①②)
課題点②から京阪プレミアムカーなど様々なサービスがAシートと競合する形で実施されていることがわかります。そのため、Aシートの運行を取りやめる、あるいは減便するといった選択肢も出てくるでしょう。しかし、今後、Aシートの周囲の環境が大きく変わる機会があり、それを上手く利用することで、Aシートの需要を増加させることができると考えます。その変化とは、北陸新幹線の延伸によるサンダーバードの運行形態変更と新型コロナウイルスによる輸送量減少によるサンダーバードの運行本数の減少です。
前者については、北陸新幹線は現在金沢駅が終着となっていますが、2024年春には敦賀駅まで延伸される予定になっており、それに伴いAシートの競合相手のサンダーバードも敦賀駅までの運転に変更されます。後者については、新型コロナウイルスによる輸送量減少により一部の特急が平日を中心に運休になっています。これら二つの要因と北陸新幹線の開業によって、輸送形態が大きく変化するでしょう。ここからは北陸新幹線とサンダーバードや京阪神間の列車の輸送形態を予想していきます。
特急サンダーバードで運用される683系
現在の北陸エリアの時刻表(一部駅・普通列車など一部列車は省略)
これは、現在の北陸エリアの列車の一部を抜粋して表した時刻表です。現在は湖西線経由の新快速が敦賀駅まで毎時1本、大阪駅発着の特急サンダーバード号が毎時1-2本、名古屋駅または米原駅発着の特急しらさぎ号が毎時1本程度、そのほか毎時1-3本程度の普通列車が運行されています。特急サンダーバード号は新型コロナウイルスの流行による利用客減少によって平日日中は毎時1本が基本となっていますが、それ以外の時間帯では毎時2本運転されることも少なくありません。北陸新幹線内は基本的に各駅に停車するはくたか号と富山駅始発のつるぎ号がそれぞれ毎時1本程度あり、利用客の多い時間帯は速達タイプのかがやき号が追加されるというダイヤになっています。
北陸本線内の特急の運行本数を考えると、北陸新幹線が延伸された際は、北陸新幹線の列車が敦賀駅まで毎時2本以上運転されると考えられます。また、つるぎ号は富山駅発着のサンダーバードの代替として設定された経緯があるため、つるぎ号を含めたほぼ全ての新幹線が敦賀駅まで延長運転されると予測します。そうした時に考えられることは大阪方面への輸送過剰です。
毎時2-3本程度ある新幹線すべてに大阪方面行きの特急を接続させる場合、現在の本数よりも多くなり輸送過剰になることが予想されます。そのため、新幹線が大阪方面行きの特急に接続しない場合が発生します。そこで接続を取る列車がAシートを連結した新快速です。
北陸新幹線延伸後の想定ダイヤ
(一部駅・普通列車など一部列車は省略/新幹線の所要時間は推定)
こちらが想定ダイヤです。新幹線の時刻はJR東日本区間のダイヤの兼ね合いがあるため時刻を変えず、そのまま延長する形で時刻を設定しました。所要時間は推定で、新幹線と特急の接続を重視し、一部つるぎ号の時刻を変更して接続を改善しました。日中時間帯は湖西線を中心にAシートを運用し、北陸方面とのアクセスの選択肢の一つに加えます。利用客の少ない日中時間帯において、敦賀駅発着の新快速の時刻が30分変更になっていますが、新快速はほぼ京都駅以西はほぼ15分間隔で運転されていることから30分の時間の変更はそこまで大きな影響ではないと考えます。
また、後述する通勤時間帯の本数増加のために車両を増備するので、湖西線方面の毎時1本の運行のみでは余剰編成が発生します。そのため、毎時1本のペースで野洲駅発着の列車も運行するべきだと考えます。
(B)通勤時間帯の本数増加(①②)
通勤時間帯については着席サービスの需要と、北陸方面への需要の両方が増加するため、新幹線への接続をすべて特急列車で行うべきだと考えます。また、琵琶湖線沿線は京都・大阪方面に向かう通勤客が多く住むベッドタウンとなっており、特急びわこエクスプレスの運行や特急はるかの延長運転が行われており、通勤時間帯のAシートは比較的乗車率も高くなっています。そのことからも琵琶湖線沿線は着席サービスの需要が伺えます。そのため、通勤時間帯は湖西線方面ではなく琵琶湖線方面に運行するべきでしょう。
以下の表は滋賀県内の乗降客数の10位までの駅を表示していますが、これらの駅はすべて琵琶湖線に位置する駅であり、山科駅と近江塩津駅を除いた全ての湖西線の駅の1日平均利用客数の合計が10万人程度であることからも、湖西線沿線よりも琵琶湖線沿線がベッドタウンとして発達していることが分かります。
参考 湖西線各駅の合計:100190人(データはすべて2020年度)
また、運行本数は最低でも毎時2本程度確保するべきだと考えています。課題点①で挙げた通り、運行本数は利便性に直結します。東海道・山陽本線では通勤時間帯に着席サービスとしてらくラクはりまなどの特急列車が運行されていますが、運行本数は決して多いとは言い切れないからです。
京都駅米原方面と大阪駅姫路方面の時刻表(新快速と特急のみ)
(斜字のみがAシート・太字斜字が特急・下線が始発列車)
この表は夕ラッシュ時間帯の京都駅の米原方面と大阪駅の姫路方面の新快速及び特急の時刻表です。米原方面は20時台半ばまで着席サービスがなく、姫路方面は18時台の始発列車を除けば毎時1本程度しか着席サービスがないことが分かります。これでは潜在需要を最大限取り込むことはできません。改造編成数と運行本数のバランスを考え、Aシートを毎時2本のペースでこの特急の間合いや着席サービスのない時間帯に運行するのが良いと思います。そして、認知度が上がり、ある程度定期利用が増えて収益が確保できた段階でAシート仕様の編成数を増やし、最終的には全列車での運行を目指すのが良いと考えます。
(C)Aシート仕様編成の増備(①)
Aシートが連結されている新快速を増発するためには、車両の増備は必須です。現在、新快速には基本的に網干総合車両所所属の223系または225系が充当されています。網干総合車両所には計73本の4両編成の223・225系が在籍しており、そのうちAシート仕様に改造された編成は2本しかありません。前述した ①本数の少なさと知名度の低さ を改善するためには本数の増加は必須ですが、そのためにはAシート仕様の編成数を増やさなければなりません。しかし、増備の際には車両運用上の問題も発生します。網干総合車両所所属の4両編成は新快速の他にも京阪神間の快速でも運用されています。すべての編成をAシート仕様に改造する場合、多額の費用がかかるのはもちろんですが、快速列車のAシートをどのような扱いにするかという問題も発生します。また、一部の編成のみ改造を施す場合でも、快速やAシートを連結しない新快速との運用の調整が難しくなってしまうという懸念点があります。
その上で、何編成増備するかという点に関しては、筆者は、先述した運行形態の必要本数よりも余裕を持った本数を改造するべきだと考えます。というのも、普通列車で有料座席を無料開放する先例が存在するからです。新千歳空港へのアクセスを担っている快速エアポートでは、Uシートと呼ばれる着席サービスが行われています。この快速エアポートに充当されている731系や733系は普通列車でも運行されており、普通列車ではUシートの車両が無料で開放されています。Aシートの場合でも新快速以外で運用される場合は無料開放に設定することで運用を柔軟化することが出来ます。また、この点に関連してドア横に特急列車のような表示機を設置することで、無料開放中かAシートとして運用中かどちらであるか表示し、誤乗を減らすことが出来ます。
快速エアポートで運用されている733系
(D)Aシート仕様編成の仕様変更(③⑤)
また、現在のAシート仕様の編成は2編成しかないため、課題点③や⑤を改善するための仕様変更も容易に可能です。そのため、いくつかの仕様変更をするべきだと考えています。
まず、外装に関しては、ラッピングの変更をするべきだと考えています。Aシートの外装は黒と青の帯がベースになっていて、京阪のプレミアムカーやQSEATと比較しても地味な部類に入ります。運行中に目に入る機会を増やすために、帯の幅を太くしたり、Aシートのロゴを大きくしたりするなど、より目立つラッピングに変更するべきだと考えます。
Aシートの外装
京阪プレミアムカーの外装
左写真のAシートの方が地味なことがわかる
そして、内装に関してですが、課題点⑤の改善のため、ドア付近の立席スペースと車内を完全に仕切るべきだと考えます。というのも、新快速はやはり「速い」というイメージが先行してしまうことを考えると、AシートはJRの特急のように速さと快適性を両立した存在であることを認知させるべきだと考えています。
そのため、車内を出来る限りJRの特急に似せることで、印象のアップデートを狙うべきでしょう。また、ドア付近の立席スペースは追加料金不要で誰でも利用することが可能なため、客席からドア付近の立ち席スペースを完全に見えなくすることで快適性をより高めることが出来ます。実際に、快速エアポートで運用されている733系のUシートは、特急と同様に客席のあるスペースとドア付近のスペースが完全に遮断されており、快適性が非常に高くなっています。
(E)発売体制と運賃形態の変更(④)
発売体制はJR東日本の普通列車グリーン車を参考に変更するのがよいと考えます。JR東日本のシステムの利点は潜在需要を逃さず、なおかつ乗客と乗務員両方の負担を軽減する点にあります。グリーン車を利用できるほぼ全ての駅のホームに券売機を設置することで、乗りたいときにすぐにグリーン券を購入することが出来るようにし、潜在需要の掘り起こしを狙っています。また、車内料金と車外料金を設定することによって事前の切符購入を促し、カードタッチだけで検札処理をし、アテンダントによる検札を省略することで、乗務員の負担を減らしつつ、乗客の快適性を高めることが出来ます。Aシートでもこの例を参考にして、ホームへの券売機設置や事前料金と車内料金の設定、またICカードや2023年春に開始が予定されているモバイルICOCAで利用することが出来るようにするべきだと考えます。
グリーン車を連結した
JR東日本の東海道線を走行するE231系
ホームに設置されたsuicaグリーン券券売機
Aシート関連ではここまであげた(A)から(E)までの5つの改善案を実行し、収益増加に繋げる必要があると考えます。
(5)着席サービスの今後
都市鉄道全体を見ると、着席サービスは今後も拡大していくと考えられます。そのサービスは各路線の実態に則している必要があります。しかし、そんな中でも実態に則していない、課題の多いサービスが出てきてしまいます。具体的にはAシートがあげられます。そのような場合では、各路線の実態に則したサービスへと改善するべきでしょう。
6.総括
ここまで、様々な具体例を用いて都市鉄道の未来について考えてきました。ここまでの内容を総括します。
7.おわりに
いかがだったでしょうか。新型コロナウイルスの流行によって経営が厳しくなっている鉄道会社ですが、様々な戦略を持って日本の経済を支えていってほしいと思います。
都市鉄道という広い範囲を扱う研究は久しぶりだったので書くことがまとまらない時期もありましたがなんとか完成させることが出来ました。また、研究班長という役職にありながら、仕事を部下に丸投げするなど、助けてもらってばかりのリーダーでしたが、このような私でもついてきてくれた班員の皆には感謝しかありません。
最後の研究ということでもう少し書かせていただきます。研究班長として1年間やってきましたが、同輩や後輩に支えられてばかりであったということは先述の通りですが、それでもやはり組織のリーダーというものは重責で、それに応じてやりがいのある立場でした。この1年間も含めた鉃道研究部で過ごした5年間は非常に楽しく、また人として成長させてくれた場でもあります。Prime planner(旅行委員長)という立場でありながら部としての旅行をほとんどできなかったことなど、心残りがないと言えば嘘にはなりますが、それでも後悔はありません。読者の皆さん、班員、顧問の先生方、そして鉃道研究部そのものに感謝を申し上げて、この研究を終わりたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
8.参考
国土交通省
https://www.mlit.go.jp
小田急電鉄
https://www.odakyu.jp
京王電鉄
https://www.keio.co.jp
西武鉄道
https://www.seiburailway.jp
JR北海道
https://www.jrhokkaido.co.jp
京阪電車
https://www.keihan.co.jp
JR東日本
https://www.jreast.co.jp
JR西日本
https://www.westjr.co.jp
Merkmal
https://merkmal-biz.jp
東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net
東京時刻表
令和元年度鉄道統計年報
おことわり:Web公開のため一部表現を変更させていただきました。掲載されている情報は研究公開当時のものです。現在とは若干異なる場合があります。