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◇二人のゴール

2022.09.05 00:00

 2020年2月から週に一回通っていたカウンセリングの職場が勤務地変更のため、8月末が最終日になりました。

最後の日、盲導犬のシエルと一緒にこれまでを思い出しながら職場に向かって歩いていると、思い出の場所、場所で何度か胸が熱くなりました。

色々なことがあり、二人でいっぱい勉強をし、沢山の思い出のドラマが残りました。


シエルがやって来た次の日、

関西盲導犬協会のK先生と職場への行き方を練習しました。

地下鉄に乗り、降りてから地下街を歩き、エスカレーターに乗って地上に上がり、信号機のある交差点を渡り、しばらく歩いて目的地の職場のビルまでです。

何とかたどり着き、

「シエル、着いたねぇ~」

と、これから始まる二人の第一歩を喜びました。

K先生が

「もう一度、練習してみたい所はありますか?」

と訊いてくれたので、

「信号を渡るところからここまでを、もう一度やらせてもらえますか?」

と、お願いしました。

シエルと引き返そうとしたら、K先生が

「ちょっと一度、ビルの中に入って、一呼吸おきましょう」

とおっしゃって、ビルの中の応接用の席に座りました。

K先生が

「盲導犬も意味のないことはしたくないんです。ちゃんと達成感を喜ぶんです。仕事として目的地に着いたのに、何もしないですぐに引き返すというのは、犬にとっては‘せっかく頑張って来たのに…’と、やりたくないんです」

と教えてくれました。

このことが

「シエルの心を考える」

最初の勉強でした。


そして最後の日。

歩きながらシエルと一緒に苦労したことや、街中で助けてもらった多くのことなどが次々思い出されました。

目は見えていないのですが、その時の場面が映像で浮かんで来ます。

今は当たり前に出来るようになっているけど、この通路を覚えるまで苦労したなぁ。

このあたりでウンチが出てしまい、通る人が次々声を掛けてくれて助けてくれたなぁ。

車椅子の人が優しく声を掛けてくれ、涙がこぼれたこともあったなぁ。

工事で壁が立ち、シエルも方向が分らなくなって何度も迷ったなぁ。


大阪メトロの御堂筋線の中改札から北改札に通り抜けをさせてもらうのに、毎回駅員さんに声を掛けました。

駅員さんがすぐそこに居られないことが多いので、毎回、大きな声で

「おはようございまーす。通り抜けをさせてもらって良いですかー?」

と声を掛け、様子を伺います。

すると、駅員さんが

「どうぞぉ」と改札を開けてくれます。

私が

「いつも、ありがとぉございまぁーす」

と言いながらシエルと通してもらっていました。

今回もそう言いながら

「ここでもお世話になったなぁ」

と感謝しながら改札を通りました。


通勤の途中、会社の知り合いや、通りがかりの人など、沢山助けてもらいました。

雨の日、地下から地上に上がり、傘をリュックから出す間、会社の偉い人がずっと待ってくれていたのですが、私の手がシエルのハーネスと白状で手がふさがっているのを見て、会社まで私に傘を指して歩いてくれたこともありました。


職場のビルの警備員さんにも本当に沢山お世話になり、助けてもらいました。

シエルと通い始めて何カ月かした頃、いつも声を掛けてくれる警備員さんが

「ワンちゃん、随分大きくなりましたねぇ。

最初の頃は子供っぽかったけど、堂々として来て

、立派な大人になりましたねぇ」

と褒めてくれました。

私もシエルも知らない間に、成長出来ているんだと嬉しくなったのをよく覚えています。


目的地が近づき、これまで助けてくれた多くの人の優しさや、シエルと一緒に苦労したこと、そして寒い時も暑い時も頑張って私を連れて行ってくれたシエルに感謝をしていたら、自然に涙がこみ上げて来ました。

ちょうどそのタイミングでビルに到着し、警備員さんが声を掛けながら迎えに来てくれたので

「おはようございまぁす♪」

と笑顔で挨拶し、

シエルに「グッド、グッド」

と頭をポンポンしながら涙の目を伏せて最後の玄関を通り抜けました。

シエル、あの日から一緒に歩いてきた、二人のゴールやね。やったね。 

ありがとう…。  

亀ちゃん