「ローマの魅力まるかじり ―巡礼ルート⑥―」
いよいよティベレ川を渡る。そこに架かっているのはサン・タンジェロ橋。最終目的地サン・ピエトロ大聖堂を前にして、長い巡礼の旅で疲れ切った巡礼者の信仰心をもう一度高揚させるためにベルニーニが行った演出が見られる。
17世紀、教皇クレメンス7世から橋の装飾を依頼されたベルニーニは2体の天使像を彫る。そのあまりの見事さに、教皇は自分の手元に置き(現在は、スペイン広場近くのサン・タンドレア・デッレ・フラッテ教会にある)、橋にはコピーを据えさせた。さらに8体がベルニーニの工房で制作され、計10体の天使像が橋の欄干を飾っている。天使たちはそれぞれある持ち物を手にしている。それらは何か?十字架、荊の冠などイエスの受難の象徴である。イエスはゲッセマネで逮捕され、十字架刑を宣告されてから十字架上で死ぬまで様々な苦難を味わった。「柱」に縛られ「笞」でうたれた。「茨」の冠をかぶせられ、重い「十字架」を背負わされ刑場まで歩かされた。途中ヴェロニカに布で汗をぬぐってもらった。(この「ヴェロニカの聖顔布」の記述は聖書にはない)ゴルゴダの丘で手足を「釘」で打たれ、「INRI」(「ユダヤ人の王、ナザレのイエス」)の銘をつけた十字架に架けられた。兵士たちはくじ(「サイコロ」)を引いてイエスの服を分け合った。兵士は「海綿」に酸いブドウ酒を含ませイエスに飲ませようとし、また「槍」でイエスの脇腹を突いた。ベルニーニはこれらの受難具を持った天使たちをサン・タンジェロ橋に配置し、橋を渡る巡礼者たちが、イエスの受難を想起しながら進むように演出したのだ。
橋を渡ってすぐに左折するとサン・ピエトロ大聖堂の威容が目に飛び込んでくる。あと最終目的地まで残り500メートル。
(ベルニーニのオリジナルの2体の天使像)サン・タンドレア・デッレ・フラッテ教会