銀行職員の窓口対応 [1:1:0]
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0:平日の昼。銀行の窓口。人はまばらである。
来栖:振り込み
職員:え?
来栖:振り込み
職員:あ、ええ、番号札お持ちですか?
来栖:持ってないよ
職員:えっと・・・あちらで、番号札取って、こちらでお呼びしますので
来栖:そうなの
職員:ええ
来栖:(深いため息)
職員:・・・
0:男、番号札を持って戻ってくる
来栖:ん
職員:へ?
来栖:番号札
職員:えっと・・・
来栖:42番
職員:ええ、あのー
来栖:なに
職員:こちらでお呼びしますので
来栖:そうなの
職員:ええ
来栖:時間ないんだけど
職員:いや、でも
来栖:お姉さん番号札あればいいって言ったじゃん
職員:あー、えっと、少々お待ちくださいね
来栖:ん
0:間
職員:お待たせしましたお客様
来栖:来栖(くるす)だけど
職員:はいっ?
来栖:来栖、俺の名前
職員:あ、ああ、来栖様
来栖:うん
職員:ええ、来栖様、えっとご用件は・・・
来栖:振り込みだって
職員:あ、かしこまりました、そしたら、えっと、こちら、番号札になりますので
来栖:ん・・・
職員:はい?
来栖:番号札持ってるけど
職員:え?
来栖:さっきの、ほらこれ、42番
職員:あ、ああ、ええ、はい
来栖:振り込み
職員:はい・・・あいや、ですから、こちらの番号札を
来栖:だから番号札持ってるって
職員:いやですから、そちらの番号札は一次受付の物で、こちらの番号札で、ご用件お伺いしますので
来栖:そうなの
職員:はい・・・
来栖:急いでるんだけど
職員:申し訳ございません
来栖:ダメなの
職員:はぁ・・・
来栖:そう、じゃあ、はい
職員:ええ、60番で、すぐお呼びしますので
来栖:頼むよ
職員:はい、少々お待ちください・・・
職員:えーっと・・・
職員:71番でお待ちの方、1番窓口までどうぞー
来栖:ちょいちょいちょい
職員:はい?
来栖:なんでなの
職員:な、なにがですか?
来栖:いやだから、俺、60番なんだけど
職員:え、えぇ・・・
来栖:なんでなの
職員:いや、それはその・・・
来栖:ちょ、番号1から数えてみ
職員:はい?
来栖:いいから
職員:えっと・・・1、2、3、4・・・
来栖:おそいよ
職員:え?
来栖:おそいよ数えるのが
職員:はぁ・・・
来栖:もっとこう、イチィサシッて数えてくんないと
来栖:イチィサシゴッキュジュッて
職員:あの、お客様
来栖:来栖だけど
職員:・・・来栖様
来栖:なに
職員:順番でお呼びしますので、ご協力いただけますでしょうか・・・?
来栖:いやそれがおかしいでしょって
職員:えっと・・・それ?
来栖:いやだからさ
来栖:順番だったら71より60の俺の方が先っしょ
職員:あ、いえ
来栖:どっちの方が番号若いの
職員:え?
来栖:71と60、どっちの方が若いのって
職員:えっと・・・60ですが・・・
来栖:しょ?
来栖:じゃあ俺のほうが先じゃんって
職員:あ、あのお客・・・来栖様
来栖:ん
職員:少々お待ちくださいね?
来栖:時間ないんだけど
職員:え、ええ、あの、少しだけ、お待ちください
来栖:急いでるんだけど
職員:失礼します
来栖:(深いため息)
0:間
職員:お待たせしました来栖様
来栖:ん
職員:それでは、先にご対応させていただきますので、ご用件をお伺いしますね
来栖:振り込みだって
職員:はい、お振込みで・・・えーっと、キャッシュカードはございますでしょうか?
来栖:え
職員:はい?
来栖:キャッシュカードいるの
職員:え、ええ・・・振り込みにはキャッシュカードと、印鑑と念のため身分証をいただいておりますが・・・
来栖:直(ちょく)で入れらんないの
職員:直(ちょく)・・・?
来栖:そうそうそう、お金、相手の口座に、直で
職員:・・・すみません意味が
来栖:・・・いるの、キャッシュカード
職員:お持ちでないですか?
来栖:持ってるよ
職員:えっ?
来栖:持ってるよ
職員:持ってるんですか
来栖:うん、持ってるよ
職員:じゃあ、はい、ご提出ください
来栖:はい・・・(キャッシュカードを出して)はい
職員:ありがとうございます
職員:お通帳と印鑑はございますか?
来栖:あるよ
職員:免許証は?
来栖:お姉さん、俺が運転できそうに見えんの
職員:えっと・・・
来栖:できるよ
職員:え?
来栖:できるよ、運転、トラクターとか、ドリフトしちゃったりなんかして
来栖:んははは
職員:あははは
来栖:急いでるんだけど
職員:申し訳ございません・・・
来栖:はい、免許証
職員:ありがとうございます・・・
来栖:ん
0:間
職員:はい、では、お振込みなんですけど
職員:こちらの書類にお振込み先の口座をご入力いただいて・・・おいくらお振込みされますか?
来栖:1千万
職員:はいはい、1千万・・・
職員:1千万!?
来栖:うん、1千万
職員:か、かしこまりました
来栖:すごいっしょ
職員:え、ええ
来栖:当選したの
職員:当選・・・?
来栖:うん、当選、メールでね
職員:はぁ・・・
0:職員、少し考えて
職員:あの、失礼ですがお客様、当選というのは・・・
来栖:ん
職員:当選ってどういった当選ですか?
来栖:購入権
職員:こうにゅうけん・・・?
来栖:そ、メールでね
来栖:あなたは1万人の中から選ばれましたって
職員:それで、1千万円?
来栖:そうそう、15時までに振り込まないと無効になるんだって
職員:はぁ・・・
来栖:だから急いでよ、もう30分もないから
0:間
職員:あの、失礼ですが・・・それ、詐欺じゃないですか?
来栖:え?
職員:いやですから、そういうメールって、詐欺なんじゃないかなって
来栖:いやいやいや
来栖:詐欺じゃないよ
職員:そうですか?
来栖:そうだよ、写真もついてたし
職員:写真?
来栖:うん、ちゃんと商品の写真もついてたから、詐欺じゃないよ
職員:ちなみに、何をご購入されたんですか?
来栖:なんでそんなの言わなきゃいけないの
職員:申し訳ありません、高額の入金をされるお客様には確認していますので
来栖:そうなの
職員:メールや電話による詐欺被害を抑えるためなので、ご協力いただければと思います・・・
来栖:そっか
職員:ええ・・・
来栖:うん
職員:はい
0:間
職員:何をご購入されるんですか?
来栖:(ごにょごにょと)・・・アン
職員:はい?
来栖:(ごにょごにょと)ニアン
職員:あの、すみませんもう一度
来栖:ポメラニアン
職員:え?
来栖:お姉さん耳悪いね
職員:いやいやいや、え?ポメラニアン?
来栖:なんだ聞こえてたの
職員:え?ポメラニアンですか?
来栖:急いで、1千万
職員:いやいやいやあの、お客様
来栖:来栖だって
職員:え?ポメラニアンってあの?犬の?
来栖:犬以外にポメラニアンってあるの
職員:いや、ないですけど
来栖:はやく
職員:・・・え?詐欺ですって
来栖:え
職員:いや、詐欺っていうか、なんですかそれ、もはや詐欺としても成り立ってませんって
来栖:どういうこと
職員:いやだって、ポメラニアン一匹1千万って、どれだけ天然記念ポメラニアンでもそんな値段しませんって
来栖:1匹じゃないよ
職員:え?
来栖:1匹じゃないって
職員:・・・なんひき?
来栖:1千万匹
職員:いっせんまんびき!!!!!!!!!!!!!!
来栖:ちょ、お姉さん、声デカいよ
職員:あ、すみません
職員:(後ろのブースに向かって)あー!失礼しましたーなんでもありませーん!大丈夫でーす!
0:間
来栖:大丈夫?
職員:来栖さん
来栖:なに
職員:詐欺ですって
来栖:詐欺じゃないって、写真もあるし
職員:いや、1千万匹のポメラニアンって、そんな取引聞いたことありませんって・・・ん?写真?
来栖:そうそう、メールに添付されてたの、えーっと
職員:どれですか
来栖:これ
0:間
職員:いやこれ・・・
来栖:なに?
職員:合成ですって!詐欺ですって!
来栖:ええ?合成なのこれ
職員:合成ですって!だってほら、みんな同じ顔してるし、向きとかも一緒じゃないですか
来栖:え、ポメラニアンの習性なんじゃないの、集団でいるとシンクロする的な
職員:ないですよそんな習性
来栖:えええ・・・
職員:来栖さん、悪い事は言いませんから、振り込まない方がいいですよ、騙されてますから
来栖:でもなぁ
職員:それに、たとえこれが詐欺じゃなかったとして、どうするんですか、ポメラニアン1千万匹も
来栖:いや、それは、かわいいじゃん、たくさんいたら
職員:いやかわいいですけど
来栖:しょ?
職員:でも、そんなたくさんのポメラニアン、どこで飼うんですか
来栖:え・・・?
来栖:家?
職員:家そんな大きいんですか
来栖:ううん、ワンルーム
職員:入りませんよ・・・
来栖:そう?
職員:入りませんって、ポメラニアン一匹でも(手で形を作って)このくらいはありますよ?
来栖:そう・・・じゃあ、まぁ、外で飼うよ、マンションの前の公園で
職員:逃げますよ
来栖:あ、そうか
職員:それに餌とかも、お金かかりますよ?そんなお金あるんですか?
来栖:いや、そんなないよ
職員:でしょう?だから、悪い事は言いませんから・・・ん?来栖さん?
来栖:ん?
職員:え?お金・・・
職員:少々お待ちくださいね?
0:間。職員は来栖の通帳を確認する。
職員:差引残高・・・5万円・・・
職員:足りないじゃないですか
来栖:え?なにが?
職員:いや、お金、ポメラニアン1千万円なんでしょ?
来栖:うん
職員:で、来栖さんの口座残高が5万円
来栖:うん
職員:足りないじゃないですか
来栖:え?
職員:ええ?
来栖:足りなくないよ
職員:・・・どうしてですか?
来栖:だから、直で、銀行から
職員:・・・は?
来栖:銀行から、1千万直で振り込もうと思ったの
職員:えっと・・・銀行のお金をってことですか?
来栖:そうそうそう
職員:・・・え、無理ですよ?
来栖:そうなの?
職員:ええ・・・
来栖:そっか
職員:あの、来栖さん、もうよろしいでしょうか
来栖:うん
職員:はい、じゃあ、こちら
職員:通帳とカード、印鑑と免許証、お返ししますね
来栖:あ、そうだ、もう一つ当選してるんだけど、そっちは振り込める?
職員:えっと・・・直で?
来栖:ううん、それは俺の口座からでいいよ
職員:あ、はい、できますよ
来栖:よかった、じゃあそっちよろしく
職員:えっと、お取引、おいくらになりますか?
来栖:3万円
職員:はいはい、3万円ね
職員:ちなみに今度は何にご当選されたんでしょうか?
来栖:ツル
職員:へ?
来栖:ツル
職員:ツル?
来栖:そうそう、ツル
来栖:ツルの肉、食べていいですよって、3万円で
職員:えっと、鶴の肉って、それこそ天然記念物で、下手したらそれ、犯罪になるんじゃあ・・・
来栖:いやでも、当選したから
職員:うーん・・・
来栖:写真もあるよ、見る?
職員:ええ、じゃあ一応
来栖:今度はね、一羽なんだけど、ほら
来栖:すらっとした長い首に凛々しい佇まい、たくましい翼と鋭く伸びたクチバシ・・・
職員:来栖さん、これ・・・
来栖:ん・・・
0:間
職員:詐欺ですって!
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