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らての台本置き場

夢の泉動物公園 [0:0:2]

2022.09.07 11:26

0:ここは動物園の事務所。研修生が熱心にノートに何かを書き込んでいる。

研修生:えっと、切り方は・・・縦長のやつと、キャベツはざっくり切って・・・

研修生:あ、でもふれあいの所はコップだから、もうちょっと細くしないとな・・・

研修生:あれ?量ってどうやって調節してるんだろ・・・

研修生:コップ監視するのかな・・・

研修生:うーん・・・

0:と、そこに職員が入ってくる。

職員:手塚君

研修生:あ、坂田さん、お疲れ様です

職員:お疲れ様

職員:なに?勉強?

研修生:あ、まあ、はい、質問とかまとめておこうかと思って

職員:そっかそっか

職員:真面目なのはいいけど、結構きついから、休める時に休んでおいてね

研修生:あ、それは大丈夫です、もう十分、元気です

職員:ははは、若いっていいなあ

研修生:いやぁ

研修生:あ、そうだ坂田さん

職員:うん?

研修生:あの、動物のごはんってどうやって管理してるんですか?

職員:ごはん?

研修生:そうです

研修生:確かふれあいゲージってありましたよね、お客さんがあげられるやつ

職員:ああ、うん、そうだね

研修生:お客さんからどれだけごはん貰ったかで、僕らがあげる量も変わってきますよね

職員:おー、良いところに気が付いたね、さすが動物飼育専攻

研修生:ああ、いえ、どうも(苦笑)

職員:えっと、もう園内回ったんだっけ?

研修生:え?いえ、まだです、昨日は事務手続きとか諸々研修で

職員:あ、そう

職員:そっか

職員:じゃあ・・・うん、そろそろ休憩終わるし、行こうか

研修生:あ、はい

職員:とりあえず、私いろいろ準備あるから、時間になったら正門集合で、おっけー?

研修生:わかりました!

職員:よし、じゃあ、またあとでね

研修生:はい!ありがとうございます!

職員:あはは、元気でいいねぇ

0:職員、去る

0:シーン転換の間。正門前、待っている職員の所に研修生がやってくる。

研修生:坂田さん

職員:お、手塚君、お疲れ様ー

研修生:お疲れ様です

職員:じゃ、行こうか

研修生:はい、よろしくお願いします

職員:はーい

0:二人、歩き始める

研修生:いやーでも、なんだか不思議な感じですね

職員:不思議?

研修生:いやその、こう、誰もいないから

職員:休園日だからね

研修生:普段、私も好きでよく来てたんですけど、なんか人がいないとまた、雰囲気違ってわくわくしますね

職員:あはは、手塚くんは本当に動物が好きなんだねえ

研修生:ええ、なんかすいません

職員:なんで謝るの、いいじゃない、好きなものを職業に出来るなんて、幸せ者だ

研修生:動物園の職員って、みんな動物好きじゃないんですか?

職員:うーん、まあ、そういうわけでもないかな

職員:手塚くんみたいに、本当に動物が好きで勤めてる人もいれば、業界に入って、仕事がキツくて動物嫌いになっちゃう人もいるし

研修生:そうなんですか・・・

職員:あ、あー、これは今の君には言わない方がよかったかな・・・

研修生:いえ!僕ほんと、夢だったんで、なんでも聞きたいです!

職員:いいね、情熱、若さだね

研修生:あはは

0:少しの間

職員:さてと、とりあえず、メインストリートに来たわけだけど、手塚くんどこまで聞いてる?

研修生:えっと、どこまでって?

職員:いや仕事の・・・あー、えっと、ほらほら、こっち来て

研修生:はぁ

職員:えっと、今居るのがここね、メインストリート

研修生:はい

職員:で、ここから枝分かれになってて熱帯エリア、サバンナエリア、ジャングルエリアに併設されたトリの館(やかた)と、マンボウの部屋

研修生:ふむふむ

職員:そして、手塚君と私の持ち場はここ

研修生:なかよしストリート

職員:そ、なかよしストリート

職員:ここでは主に哺乳類、サルとか、ネコとか、そういうのね

職員:うち一番の人気者が居るのも、ここ

研修生:人気者?

職員:うん、えっと・・・いいや、とりあえず行ってみよう

研修生:あ、はい

職員:とはいえ、すぐそこなんだけど・・・はいついた

研修生:おお、近いですね

職員:はい、うちの一番人気、カピバラさんの檻でーす

研修生:おお、カピバラ

職員:そう、カピバラ

職員:あ、それで、さっきの質問だよね、ごはんの管理

職員:えっと、お客さんがあげる野菜はここにほら、さして置くのね

職員:で、まぁ基本的にはここからどれだけ無くなったかっていうのを、定期的に確認してるの

研修生:ああ、大体想像してた感じだ

職員:さすがだね

職員:たいていお客さんからもらうごはんで十分なんだけど、平日とかは私たちで調節することもあるから、まあそこの割り振りはあとでやろうね

研修生:はい!

職員:カピバラは南米の生き物で、川べりとかに生息してるからああやって水に入るのね

職員:世界最大のげっ歯類としても有名で、最近は温泉入ってる画像がSNSとかで流れてるよね

研修生:そうですね

職員:あれの影響で、カピバラ目的で来るお客さんが増えてね、今では園で一番人気者

研修生:へぇ・・・

職員:そんなとこかな・・・エサやりのタイミングとかはまあ、事務所でスケジュール渡すから

研修生:あ、はい

職員:じゃあ、次行こうか

研修生:あの、坂田さん

職員:ん?

研修生:あれ・・・?いやでも・・・ん?

研修生:え?カピバラってこんな感じでしたっけ?

職員:え?どういう事?

研修生:いや、僕の知ってるカピバラとちょっと違うなって

研修生:だって、カピバラってなんか、のそのそ動いて、もしゃもしゃ食べて、いっつも眠そうな感じの・・・

研修生:でも・・・なんか速くないですか?

職員:・・・

研修生:え?坂田さん?

研修生:いや、絶対速いですよねあれ!

研修生:だってもう、え、なんですかあれ、ミニ四駆と同じくらいのスピード出てますよ、え?あれほんとにカピバラですか!?

職員:・・・

研修生:あれ?坂田さん?

職員:・・・

研修生:え、ちょっと、坂田さん?

職員:・・・

研修生:坂田さん!!

職員:ん?どうかした?

研修生:いや、カピバラ・・・

職員:よし、じゃあ次の動物紹介するね

研修生:え・・・あはい

職員:うん、えっと次は、こっち

研修生:はぁ・・・

職員:えーっと、ここは、一応専門の職員さんが担当してるから私たちはノータッチなんだけど、一応ね

職員:ホワイトタイガーのランちゃんでーす!

研修生:・・・え、長くないすか?

職員:・・・

研修生:え?ホワイトタイガーってトラですよね・・・

研修生:ダックスフントみたいになってますよ?いや、ダックスフントっていうか、模様も相まってチンアナゴみたいになってますよ?

研修生:ほら、檻に収まりきらなくて胴体の途中とぐろ撒いちゃって・・・坂田さん?

職員:・・・

研修生:あれ?え?坂田さん?

職員:ホワイトタイガーのランちゃんです

研修生:え、あ、はい

職員:はい

研修生:え・・・いやいやいやいや

職員:どうしたの手塚君

研修生:どうしたのじゃないですよ、トラ長くなってますって、ほら

職員:そりゃ今は休園日だから長くもなるよ

研修生:え?あ、これそういうやつ?人に見られてない状況でしか発生しないレア習性みたいなこと?

職員:まあ、私たちにとってはレアじゃないけどね

研修生:え、えぇぇ・・・

職員:ほら、どんどん行くよ

研修生:はぁ・・・

職員:はい、じゃあ次はー

職員:ここね、マンドリルのドリちゃん

研修生:マンドリル・・・

職員:そう、オナガザル科、顔の模様が特徴的だね

研修生:え、どこにいます?

職員:ん?いるじゃないか、ここに

研修生:え?いや、これはピンクと青色の壁でしょ・・・

職員:いやいや、檻だよ、ガラスガラス

研修生:ガラス・・・?

研修生:あ、そういうことか、檻の中で膨らんだマンドリルがこう、中でパンパンになって・・・

職員:そうそうそう

研修生:そうそうそうじゃないですよ!!

職員:何を怒鳴っているんだ・・・

研修生:いや、え?坂田さん?え、異常ですって!

職員:通常だよ

研修生:だって、ここにいる動物、なんか変ですって!

職員:変じゃあないよ、これが普通なんだって

研修生:ええ・・・ミニ四駆と同じ速度で走るカピバラ?

職員:普通だ

研修生:伸び伸びホワイトタイガー?

職員:普通だね

研修生:すし詰めマンドリル?

職員:ああ普通だ

職員:加えていうならオットセイは輪切りだし、ラクダは液体だ

職員:アライグマは薄い膜(まく)だし、ヤマアラシは高密度

研修生:あ、あの・・・

職員:アメリカバイソンは和服だし、ワニは5頭(ごとう)で1匹(いっぴき)

研修生:坂田さん!

職員:うん?

研修生:坂田さん・・・僕、怖いです・・・

職員:・・・ああ、わかるよ

職員:私も最初は怖かったけど、今はこれが普通だって思ってる

研修生:坂田さん・・・

職員:手塚君

研修生:はい・・・

職員:君さ、何種類の動物に触ったことがある?

研修生:触ったこと?

職員:そう、実際に、自分の手で触れた事のある動物

研修生:ええと・・・犬とか、ネコとか・・・

研修生:あとは、実習で、牛とか、ヤギとか、ペンギンとか・・・

職員:何種類くらいかな

研修生:まぁ、どうですかね・・・

研修生:30種類くらい、ですか・・・?

職員:ふむ、さすがだね

職員:じゃあもうひとつ

職員:世界には何種類の生き物がいると思う?

研修生:それは、学校で習いました・・・

職員:いいね

研修生:140万種類・・・

職員:そう、おおよそ140万種類

職員:そのうち手塚君は、30種類しか触ったことがない

職員:今までにカピバラを触ったことあった?

研修生:ないです・・・

職員:ホワイトタイガーは?

研修生:ないです・・・

職員:マンドリルは

研修生:ない、です・・・

職員:つまりね、そういう事なんだよ

職員:人類は、この地球のほんの一部しか知覚していない

職員:いや、知覚していると思っているその事実さえ、本当はまやかしかもしれない

研修生:坂田さん・・・

職員:例えば、これ、動物園のガラスの檻

職員:これが実は、透明なガラスじゃなくて、ただのモニターだったら

職員:実際にはガラスの奥なんて存在してなくて、みんながそういう姿だと「思い込んでいる」動物の姿が映写されているだけだったら

研修生:坂田さん・・・

職員:だれがそれを証明できる?

職員:中にも入れない、触れもしない動物が、そこにいるという事を・・・

職員:その点で言うと、ここにいる奇妙な姿の動物たちも、もしかしたら

研修生:坂田さん!!

研修生:もう・・・やめてください・・・

研修生:もう、いいです・・・

0:その場にへたり込む研修生

0:職員は一度大きな深呼吸をして、再び話し始める

職員:そして、手塚君、君は、私にも、触れてない

職員:「目の前にいるから」「見えているから」「会話ができているから」

職員:盲信してはいけないんだよ

職員:どうぶつほど、危うい存在はない

職員:私たち人間だって、それは同じさ

研修生:・・・

職員:さぁ、園内ツアーはまだ途中だよ、立ちなさい、手塚君

研修生:坂田さん・・・

職員:ほら、私の手を掴んで、私に触れて、一緒に頑張ろう

研修生:僕、出来るかどうか・・・

職員:大丈夫、私がいろいろ教えてあげよう

研修生:動物が嫌いになるかも・・・

職員:慣れればかわいいもんさ

研修生:坂田さん・・・

職員:ほら、手を取って

研修生:・・・はいっ

0:研修生が手を掴むと、あたりの風景が一変する

0:そこは無機質な空間

0:研修生が患者衣で椅子に縛り付けられており、向かいには先ほどまで職員だった男が白衣で座っている。

職員:脈拍安定、お帰りなさい手塚さん

研修生:あれ・・・?

職員:うまくいってよかった、一時は危ない状態だったんだけど、よかった、本当に

職員:護送車が到着するまで、しばらく時間があるか・・・

職員:手塚さん、少し辛い姿勢かもしれないけど、それ、ほどく事はできないから、そのままでね

研修生:・・・

職員:私は次の患者さんの所に行くから、すこし外すけど、くれぐれも変な事考えないようにね

職員:監視カメラ、あるからね

研修生:坂田さん・・・

職員:それじゃ

0:間

研修生:あぁ・・・そうか・・・

研修生:坂田さんなんていないや・・・

研修生:動物も・・・別に・・・

研修生:はぁ・・・長い悪夢を、見ていたようだ・・・

0:がくりと肩を落とす研修生

0:幕