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らての台本置き場

帰郷 [1:2:0]

2022.09.07 11:29

三上はるか役の方は以下を担当

はるか

涼香

・三上泰明(父)役の方は以下を担当

泰明

慎吾

・三上由美(母)役の方は以下を担当

由美

医師

0:土曜の朝、一軒家のダイニング

0:母は朝ご飯を作り、父はテーブルに座り地方紙に目を通している

0:窓の外は白くホワイトアウトしており、その先からは朝の蝉の声が微かに聞こえてくる。

0:と、ドアを開けてはるかが登場する。

はるか:んー・・・おはよう

0:両親はそれぞれの手を止めて、少し驚いたような表情で娘を凝視する。

0:眠い目をこすって、ゆっくりとテーブルに座る娘

はるか:ん?おはよう

泰明:ああ・・・

はるか:ん、お父さんどうしたの?

由美:・・・

はるか:お母さん?

由美:あ、ええ、おはよう

はるか:うん、おはよう

泰明:遅かったな

はるか:えー、いいじゃん土曜日なんだし

泰明:いや、別に怒ってないよ

はるか:おかあさん、朝ご飯なにー?

由美:何って、普通よ

はるか:え、何普通って

由美:普通は普通よ

由美:ごはんと、お味噌汁と、コロッケ

はるか:コロッケ・・・え?コロッケ?

由美:そう、コロッケ

はるか:コロッケは普通じゃないよ

由美:普通よ

はるか:普通じゃないよ

由美:昨日揚げすぎちゃったのよ

はるか:なんかほかのないの?魚とか

由美:ないの、おいしいよ?コロッケ

はるか:いや、おいしいのはわかるけどさあ・・・

泰明:ふふっ

はるか:え、お父さん何笑ってるの

泰明:あ、いや・・・

はるか:普通じゃないよね?コロッケ

泰明:ん?

はるか:え?

泰明:何?どうしたの?

はるか:・・・もういいよ

泰明:えー、なんだよ

はるか:もういいよ、いいよコロッケで

由美:いいよもなにも、コロッケしかないからね

由美:ほらあなた、テーブル片付けて

泰明:ん、うん

由美:はるか、箸出して

はるか:はーい

泰明:母さん、ゴミのやつ

由美:ああ、冷蔵庫貼っといて

泰明:ん

由美:あーそっちじゃなくて

泰明:ん?

由美:クリップの方

泰明:こっち?

由美:そうそうそっち

泰明:あい

はるか:ねえねえ、お父さんの箸これだっけ?

泰明:ん?

はるか:いや、箸

泰明:ああ、それそれ、よく覚えてたな

はるか:え?だって毎朝これじゃん

泰明:ふふっ

はるか:え?なんで笑うの

泰明:いや、なんでもないよ

はるか:気持ち悪い

由美:ほら、食べるよ、座って

はるか:はーい

泰明:(コロッケを見て)・・・ええ?

由美:何よ

泰明:・・・朝からコロッケ?

はるか:お父さんもうそのくだり終わったから

泰明:なんだくだりって

はるか:はい、箸

泰明:ああ、ありがとう

由美:はいじゃあ、いただきます

泰明:いただきます

はるか:いただきまーす

0:もくもくと食べ始めるはるか

0:が、泰明と由美は箸を置いて、はるかが食べる姿を微笑んで見ている

はるか:あ、そうだ、お母さんあれ書いてくれた?

由美:うん?

はるか:面談の紙、月曜提出だからさ

由美:うん

はるか:(二人と目を合わせず、ひとりごとのように)毎回思うけどさ、面談ってあれみたいじゃない?

はるか:ほら、刑事さんがさ、かつ丼食えよってやるやつ

はるか:別に悪い事してないのにいろいろ聞かれて、こっちだって言いたいことあるのにさ

はるか:西村とか河村とかならわかるよ?あいつらは面談ってよりか逮捕だね、逮捕

はるか:いっつも悪さばっかりして

由美:でもその西村君と、結婚したんじゃない

はるか:え?

0:間

はるか:あれ?食べないの?

由美:うん、お腹すいてないから

はるか:でも、準備したのに・・・お父さんも?

泰明:まあな

はるか:そっか・・・てかなに?結婚?

由美:うん、西村君、いい子だったと思うわよ、ねぇ?

泰明:ああ、まあな

はるか:ええ・・・?そうかな・・・

泰明:嫌いなのか

はるか:んー・・・まあ、嫌なやつではあったけど・・・

泰明:ははは、嫌よ嫌よも好きのうちってか

はるか:そんなんじゃないって

泰明:でも告白、お前からしたんだろ

はるか:それは、それはさ、なんていうか

泰明:なんていうか?

はるか:・・・

泰明:あはは

泰明:まあほら、男の子はみんな悪いことをするもんさ

泰明:とくに中学生くらいだとさ、自分の中のこう、もやもやしたいろいろのバランスが取れなくなって、いろんなことしたくなっちゃうんだよ

はるか:お父さんもそうだったの?

泰明:ええ?

はるか:お父さんも悪い事した?

泰明:お父さんは・・・

はるか:した?

泰明:お父さんは真面目だったぞ

はるか:えー?

泰明:お父さんは生徒会長だったからな、模範的な生徒だったよ

はるか:へぇー

はるか:・・・お母さん

由美:裏山のボヤ騒ぎ、主犯格

泰明:ぐっ

由美:合唱コンクール、ボイコット

泰明:げっ

由美:給食の牛乳でヨーグルトを作ろうとして、異臭騒ぎ

泰明:ぐぎっ

はるか:ワルガキだ

泰明:母さーん、言うなよー

由美:馬鹿よねー

はるか:うん、馬鹿だね

泰明:だから、男の子っていうのはそういうもんなんだよ

はるか:ふーん

泰明:現に西村くんだっていい男になったじゃないか

はるか:ええ?

泰明:優しいし、男前だろ?

はるか:うーん・・・

はるか:まあね?

泰明:そういうもんなんだよ、男の子っていうのは

はるか:ふーん・・・

0:間

由美:ほら、はるか、あったかいうちに食べちゃいなさい

はるか:あ、うん・・・

0:食べ始めるはるか

泰明:でも、はるかも係長か、すごいよな

はるか:え?

由美:ほんとよね、泣き虫のはるかが

はるか:またそれいう、やめてよ

由美:ほんと泣き虫だったんだから

由美:ほら、昔釣りに行った時、あれどこだっけ?凍ってるとこ

泰明:諏訪湖

由美:そうだ長野だ

由美:はるか、テンション上がって、走っちゃいけないっていうのに走って、案の定転んで大泣き

はるか:そんなことあったっけ?

由美:泣いてばっかだったじゃないあんた

泰明:だな

はるか:むー・・・

泰明:そんなはるかが、係長だもんな

由美:信じられないわよね

はるか:お父さんはさ、いつまでも私が5歳だと思ってるでしょ

泰明:ええ?そんなことないよ

はるか:いっとくけど私、会社ではすごいからね

はるか:もうバリバリのキャリアウーマン

由美:あはは

はるか:なっ・・・なんで笑うの!

由美:いやーごめんごめん、やっぱおかしいわ

はるか:もー!

由美:ごめんって

0:間

由美:でもさ、はるか

はるか:うん?

由美:親っていうのはね、そういうもんなのよ

はるか:そういうもんって?

由美:親にとって、子供はいつまでも子供なの

由美:どんな職業について、どんな仕事をしてたって、子供は子供

はるか:そんなもんかなぁ

泰明:まあ、そんなもんかもしれないな

はるか:ふーん・・・

泰明:でもほんと、偉いよ

はるか:ん?

泰明:頑張ってて、お父さん誇らしい

はるか:なに急に

泰明:いい仕事ついて、そこで頑張って昇進して、ちゃんと生活して

はるか:うん

泰明:結婚して、子供もできて、育児しながら仕事して

はるか:そうだね

泰明:家も買って、車も買って、子供の学費もちゃんと払って

はるか:うん

泰明:自分でしっかり生活して、そして、ちゃんと、親を看取って

はるか:うん

泰明:立派な葬式開いてくれて、お墓もちゃんと、磨いてくれて

はるか:・・・

泰明:そのあとも、しっかり、幸せに、食べて、歯磨いて、寝て、起きて

泰明:偉かったな

はるか:うん・・・

0:と、玄関からチャイムが鳴る

はるか:あれ、誰か来た

泰明:はるかは本当に泣き虫だったなぁ

はるか:え?

由美:ええ、本当に泣き虫だったわねぇ

はるか:ちょっと、まだ言うのそれ

由美:でも、ここに来た時だけは、泣いてなかったわよね

泰明:ああ、そうだったな

はるか:ここに?

泰明:お前、いっつも泣いてたのに

泰明:その時は泣いてなくてさ

泰明:それどころか、眉間に皺よせて、俺らの事睨んで来てな

由美:不細工だったわね

泰明:ああ、不細工だったな

はるか:ちょっと・・・

泰明:あはは

泰明:でさ、じーっと俺らの事見てひとこと「もう大丈夫」って

由美:ええ・・・

泰明:かわいくてさー、俺、笑っちゃって

泰明:そっかー、もう大丈夫なのかーって

由美:ふふふ

泰明:はるかがもう大丈夫って言ってるんだったら、大丈夫なんだなって

泰明:そう思ってさ「がんばれよ」って、一言だけ

はるか:・・・もしかして、その時、お母さん泣いてた?

由美:な、泣いてないわよ

はるか:そっか・・・

泰明:いや、泣いてたぞ

由美:あなた

泰明:いいじゃないか

泰明:母さんは、ずっと泣いてて、なんか言おうとしてたけど、言葉にならなくてさ

泰明:もしかしたら、お前の泣き虫は、母さんの遺伝かもな

由美:もう・・・

はるか:うん、覚えてる・・・覚えてるよ私

0:再び玄関からチャイムが鳴る

由美:コロッケ、まだ冷蔵庫に入ってるからね

由美:食べたかったら、チンして食べなさいね

はるか:うん

泰明:暇だったら、お父さんのラジコン使っていいからな

はるか:使わないよ(笑)

泰明:そうか?お前好きだったじゃないか

はるか:それは小さいころの話でしょ、私ももう大人ですから

泰明:そうか・・・まぁでも、一応、ここ、置いとくからな

はるか:うん・・・ありがと

0:玄関からチャイムが鳴る

由美:お風呂、沸かしてあるから、入りたかったら入りなね

由美:エアコンのリモコンはここで、テレビのリモコンは・・・

はるか:自分の家だから大丈夫だって

由美:あら、そう

泰明:あはは

はるか:ふふ

0:玄関からチャイムが鳴る

由美:ほら、はるか

はるか:うん

0:玄関からチャイムが鳴る

泰明:出てあげなさい

はるか:・・・うん

0:はるか、扉まで歩いていく

はるか:お母さん、お父さん

はるか:ありがとう

0:扉を開けるはるか

0:と同時に、心電図の音が長く伸びる

医師:0時34分、西村さん、ご臨終です

慎吾:どうも、ありがとうございます

医師:お水、用意しますので、こちらで少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか?

慎吾:ええ、お願いします・・・

医師:はい、娘さんは来れそうですか?

慎吾:わかりませんが・・・

医師:わかりました、では、お待ちください

慎吾:はい

0:部屋を出ていく医者

慎吾:がんばったな、はるか

0:と、病室に入ってくる涼香(りょうか)

涼香:お父さん

慎吾:ああ、涼香

涼香:ごめん、電車鈍行しかなくて、疲れて寝ちゃってさ、そのまま乗り過ごして、折り返してたら時間かかって

慎吾:丁度今、心臓、止まった

涼香:えっ

慎吾:頑張ったけど、だめだった

涼香:え?だって、大丈夫って電話で

慎吾:ああ・・・

涼香:ちょっと倒れただけって、具合悪くて、それだけって、大丈夫って・・・

慎吾:・・・

涼香:なんで・・・わかってたらもっと急いだのに・・・

慎吾:お母さんが、心配させないようにって、倒れただけって、そう言って

涼香:そんな・・・

慎吾:すまん・・・

涼香:・・・夢

慎吾:ん?

涼香:夢見た、電車で

慎吾:夢?

涼香:そう、見た事もない家で、何回かチャイム鳴らしたらお母さんが出て、それで、なんか言ってたけど、あんまりよく覚えてなくて・・・

慎吾:うん

涼香:なんか笑ってて、それで、私ちっちゃいころに戻ったみたいで、懐かしい感じがしたけど、知らない家だから全然懐かしくなくて

慎吾:うん

涼香:それで・・・だから・・・お母さん・・・

0:涼香、やっと母に近づいて、取り付いて涙を流す。

0:慎吾はずっと、はるかの手を握っている

0:深夜の病院、窓の外の蛍光灯には、蛾が群がっている。