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らての台本置き場

啓太・オブ・ザ・デッド [2:1:0]

2022.09.07 11:33

0:荒れたコンビニの店内。男女が息を切らして入ってくる。

0:二人は入ってくるやいなやドアにバリケードを築いて行く。

大原:そっち持て!

春香:う、うん!

大原:押すぞ、せーのっ

0:棚が引きずられる音。

大原:(息も絶え絶えに)とりあえず、これでしばらくはしのげるだろ・・・

春香:うん・・・

大原:大丈夫?噛まれてない?

春香:大丈夫・・・大原くんは?

大原:うん、俺も、多分、ちょっと足痛めたけど

春香:え?大丈夫?見せて?

大原:ああいや、本当に大丈夫だから。

春香:そう・・・

大原:うん・・・

0:間

春香:はぁ・・・

大原:春香?

春香:うん

大原:どうした

春香:いやさ、なんでこんなんになっちゃったんだろうなって・・・

大原:ああ、うん・・・

春香:大原くん、昨日の夜なにしてた?

大原:えっと、普通に飯食ってた

春香:晩ごはん、なんだったの?

大原:え?

大原:えっと・・・オムライス

春香:いいね、オムライス

大原:うん

春香:私はね、学校から帰ってきて、お風呂入って、ご飯食べて・・・

春香:ちなみに私はアジフライ、お母さんが買ってきてくれたやつ

大原:(お腹をさすって)アジフライかぁ・・・いいなぁ・・・

春香:うちさ、御飯食べる時テレビつけちゃいけないんだけどさ

大原:うん

春香:ご飯よそって、アジフライに醤油かけてさ

大原:え、アジフライに醤油かけるの?

春香:アジフライは醤油でしょ

大原:アジフライはソースだろ

春香:いやでも・・・まぁ、うん

春香:私は醤油かけるんだけどさ

大原:うん

春香:醤油かけて、頂きますって時に、スマホが鳴って

春香:それで、見たら啓太でさ、テレビつけろって言われて

春香:それからはもう一瞬。

春香:窓ガラスが割れて、家めちゃくちゃになって、お父さんともお母さんともハグレて

春香:携帯もつながらないし、とりあえず学校にって思って、そしたら大原くんが居て

春香:でも、お父さんもお母さんも、啓太も、見つからなくて・・・もう・・・(泣き出す)

大原:春香・・・

0:しばらく女のすすりなく声が店内に寂しく響く。

大原:少なくとも、啓太は大丈夫、だろ

春香:え?

大原:だってさ、考えても見ろよ、あの啓太だぜ?

春香:うん・・・

大原:走りも早いしさ、あいつ、ふとした時に機転きくじゃん

大原:だから、きっと大丈夫だろ

大原:だって、想像できるか?あいつが右も左もわからないでウロウロ歩き回る様子

大原:よだれ垂らして、言葉も話せなくなるあいつの姿、想像できないだろ?

春香:うん、たしかに・・・

大原:だから、大丈夫だよ

大原:探そう、二人で、お父さんも、お母さんも、啓太もさ

春香:(涙を拭って)うん、そう、そうだよね

大原:めそめそすんなって、そんなブサイクな顔、啓太に見せんのか?

春香:(少し元気を取り戻して)ブサイクって、ひどいなあ大原くんは・・・

大原:振られちゃうぞ?そんなグシャグシャの顔見られたら

春香:啓太は大原くんみたいに心狭くないから大丈夫ですー!

大原:はははっ

0:すこしの間

大原:っていうか、今気づいたけど、ここ、コンビニだな

春香:え?

春香:・・・ほんとだ

大原:缶詰とか、まだあるかも

春香:缶詰!

大原:探そう

春香:うん

大原:俺、裏の在庫見るから、春香は店の中を・・・

0:と、店の奥から一人のゾンビが現れる

0:(※ゾンビ役の人は口にできるだけ多くのティッシュを詰め込んでください)

啓太:うう・・・

大原:!?

春香:え!?

啓太:うう・・・

大原:春香、裏からだ!

春香:店の中にいたってこと!?

大原:ライトで照らして!カウンターの裏にいろ!

大原:・・・俺がやる。

春香:う、うん、わかった・・・!

啓太:うう・・・

大原:くそ・・・もう何度もやってきたのに、やっぱり震えるな

春香:だ、大丈夫?

大原:大丈夫、ライト、照らしておいてくれよ

春香:うん・・・

啓太:うううう・・・

大原:よし、鬼さんこっちだ、こっちだぞー・・・

啓太:うう?

大原:そうだ、ゆっくり、ゆっくり来いよ

啓太:ううー・・・

大原:引き付けて、引き付けて・・・

啓太:うううう・・・

大原:まだだ、まだ・・・

春香:啓太・・・?

大原:え?

春香:大原くん!よく見て!啓太!啓太だよ!

大原:啓太・・・?

春香:啓太!私よ!春香!啓太!!

大原:春香、諦めろ・・・啓太はもう・・・

春香:いや!啓太は生きてるもん!だってほら!まだ動いて・・・

大原:春香!

春香:やだ!やだよそんなの!

大原:春香!ライト照らしてくれ!

春香:啓太ぁ!啓太ぁ!

大原:春香ぁぁぁぁ!!

0:場面転換

0:ゾンビになった啓太は柱に縛り付けられもぞもぞと動いている。

大原:で、どうすんだよこれ

春香:啓太、元気だった?

啓太:ううう・・・・

大原:なぁ春香・・・

春香:私と大原くんね、ずっと二人だったの

春香:啓太は一人だったの?連絡くれたの啓太だったもんね、寂しかったよね

啓太:ううう・・・

大原:春香、お前もわかってるだろ、こうなったらもう啓太は・・・

春香:いや!絶対いや!だって、こんなの病気みたいなもんでしょ?

春香:風邪とかインフルエンザみたいに、一通り終わったらケロッと治るかもしれないじゃない!

春香:元にこうして動いてるわけだし、一時的にこうなってるだけで・・・

大原:春香・・・気持ちはわかるけどさ、冷静に見てみろよ

啓太:うううう・・・

大原:血色もおかしいし、目だってどこ見てるかわからない

大原:こうなった人間が、ケロッと良くなるなんてこと・・・

春香:(泣き始める)やだ・・・やだよそんなの・・・

大原:・・・

春香:ねえ啓太、すぐ治るよね?

春香:だって、約束したもんね、滝川市のオリエンタルパーク、イルミネーション見に行くって

春香:おとなになって啓太が車買ったら温泉行こうって、言ったもんね

春香:お金稼いでさ、啓太海好きだから、海辺にお家買って、それで、それで・・・

春香:啓太ぁ・・・

啓太:ううう・・・

0:二人が絶望に打ちひしがれる間。

啓太:海・・・

春香:え?

大原:啓太?

啓太:うーーーみーーー

0:二人、顔を見合わせる

春香:啓太・・・?

啓太:うみ

春香:うみ・・・?海って言ったの?

啓太:うみべのおうち

春香:そう、そうよ啓太!海辺にお家買って、家族みんなで暮らすの!

啓太:かぞく

大原:嘘だろ・・・?

春香:大原くん!やっぱり啓太はまだ助かるんだよ!

大原:いやでも・・・

0:少しの間

大原:なぁ啓太、お前、啓太だよな

啓太:啓太

大原:啓太、お前の彼女は誰だ?

啓太:知るか!

大原:・・・!

大原:お前の部活は?

啓太:○○(なにかしらの部活をいう)

大原:そう!そうだよ啓太!お前は○○部だ!

大原:春香・・・

春香:うん

大原:これは、本当にまだ希望があるかもしれないぞ

春香:でしょう!

啓太:うううう・・・

大原:おそらく、啓太は今戦ってるんだ

大原:意識を徐々に蝕むウイルスと戦ってるんだ!

春香:ねえ啓太!どうすればいい?どうすれば元気になる・・・?

啓太:・・・おなか、すいた

春香:(聞き取れたら)おなか、すいた・・・?

大原:そうか・・・春香、ウイルスと戦うにはエネルギーが必要なんだ

春香:エネルギーって言われても・・・

大原:食べ物だよ食べ物!

春香:でも、私食べ物なんか持ってないし!

大原:バカ!ここはコンビニだぞ、なんでもあるよ

大原:幸いまだ電気も通ってるみたいだし、俺なんか持ってくる!

春香:う、うん、わかった!

0:大原、退場。間。

春香:啓太、私、啓太のことすごい探したんだ

啓太:へぇ、俺は探してないけど

春香:でもさ、なかなか見つからなくて

啓太:まぁ、ずっとここに隠れてたからね

春香:啓太がメッセージくれたから、私生きてるようなもんなんだ

啓太:うん、全員に一斉送信したやつね

春香:啓太が、私のこと守ってくれたんだよ

啓太:顔近いって、顔近いしお前ちょっと変な匂いするぞ

春香:うふふ、嬉しい

啓太:うれしいのかよ

春香:啓太が治ったら、海辺で一緒に暮らそうね

0:大原、戻ってくる。

大原:春香!

春香:大原くん!なんかだいぶ意識戻ってきたみたい!

啓太:ううう・・・

大原:適当にかき集めてきたけど、お弁当とかはあらかたダメっぽい・・・

春香:ありがとう大原くん、これだけあれば、私でもお腹いっぱいになるし

大原:そうだよな・・・

春香:ただ・・・

大原:ただ?

春香:啓太偏食だから、食べてくれるかな・・・

大原:はぁ?

春香:嫌いなもの、テコでも食べなかったし

大原:この期に及んで好き嫌いなんて気にしてる場合かよ!

春香:でも・・・

大原:ほら啓太、アンパンだ!糖分だぞ!

啓太:つぶあん無理

大原:どうした啓太!ほら!栄養取らないと治らないぞ!

啓太:コンビニのパンって添加物とか入ってるし、そもそもつぶあん嫌い

大原:啓太・・・

春香:やっぱり・・・

大原:啓太、そしたらこれ!これだったらいいだろ!アイス!

大原:糖分だぞ!エネルギーだぞ!

啓太:バニラ無理

大原:ん?なんだ?

啓太:白いバニラアイスの中に入ってる黒いつぶつぶが虫みたいで気持ち悪くてむり

大原:ほら、食べろって!

春香:大原くん、啓太は嫌なもの、絶対食べないよ

大原:そんなこと言ってる場合かよ・・・

春香:うーん・・・

大原:啓太の好きなものって、一体なんなんだよ

春香:私が知ってるのは、タイの姿造りとか、あん肝とか?

啓太:あんきもー!!!あん肝いぇーい!!!

大原:コンビニねぇよそんなもん!

春香:そうだよね・・・

春香:ねぇ啓太、今食べたいものってなに?

啓太:・・・

春香:啓太?

啓太:○○(コンビニにありそうな食べ物)

大原:そうか!○○が好きなのか!

春香:○○だったらさっき奥の棚にあったよ!

大原:おお!すまん春香、取ってきてくれ!!

春香:わ、わかった!

0:春香退出。

大原:ふう

啓太:ううううう・・・

大原:なぁ啓太

啓太:ん?

大原:お前がこんな状況になって、治ったとしても覚えてないだろうから言うけどさ

啓太:聞こえてるし覚えてるけどなに?

大原:俺、春香のことが好きなんだ

啓太:知ってたよ

大原:お前は知らなかっただろうけどさ

啓太:知ってたよ

大原:でも、俺、お前と春香が付き合ってるの、さっき知ってさ、素直に応援しようって思った

啓太:いや、付き合ってないよ、あいつが勝手に言ってるだけだよ

大原:お前も春香もいいやつだし、お互い幼なじみだし、ほんと、お似合いだと思うよ

啓太:勝手にお似合いにすんなよ、俺ほぼ喋ったことないよあいつと

大原:(伸びをしながら)お前が治ったら、俺も、新しい恋探さなきゃなぁ

啓太:いいよ探さなくて

0:春香、戻ってくる

春香:大原くん!

大原:お、おおう!春香!

啓太:ううううう・・・

春香:あったよ!○○!

大原:おう!でかした春香!

春香:ほんとに、ほんとにこれ食べれば治るかな!

大原:わからないけど、ウイルスと戦う力にはなるはずだ!

啓太:ううう

大原:春香、噛まれると危ないから、下がってて

啓太:はやく食わせろー!

大原:ほーら、啓太ぁー、○○だぞー・・・

啓太:○○!○○いぇーーーい!!

春香:啓太、お願い、食べて

啓太:食べるって言ってんだろ!よこせー!はやくよこせー!

大原:ほら!

啓太:うぐっ!

春香:食べた!

啓太:うおおお!!

啓太:(○○の食レポ)

春香:苦しんでる!

大原:啓太しっかりしろ!

啓太:(○○の食レポ)

大原:春香!押さえて!

春香:う、うん!

啓太:(○○の食レポ)

大原:くそ!頼む!啓太!治ってくれえええ!

啓太:(○○の食レポ)

啓太:うおおおおおお!!

春香:きゃあああああ!!

大原:啓太ああああああああああああああ!

0:現場は騒然となる。

0:長い間。切れそうな蛍光灯が定期的に音を立てる。

0:(この間を使って啓太役の人は口の中のティッシュを吐き出してゴミ箱に捨ててください。)

啓太:ううん・・・

春香:け、啓太・・・?

大原:啓太、おい、大丈夫か啓太

啓太:うん

大原:啓太、意識が、戻ったのか・・・?

啓太:戻ったよ

春香:啓太ぁ!

啓太:痛い痛い、痛いって

春香:啓太ぁ!よかった!啓太ぁ!

啓太:痛いから、とりあえずこのロープ解いてくれ

春香:ああ・・・

大原:そ、そうだよな、春香、そっち解いてくれ!

春香:う、うん!

0:ロープが解かれる

啓太:はぁ・・・

大原:啓太、ほんとにお前、なんともないのか?

啓太:うん、なんともないよ、むしろいつもより調子いい

大原:そ、そうか

春香:啓太ぁ!

啓太:だから!近いって

春香:えっ

0:短い間

啓太:岸本さん

春香:え・・・?

春香:あ、はい

啓太:あなたとは別に恋人じゃありませんから

春香:え?

啓太:え?じゃなくて、恋人でもないし、なんなら喋ったことも何回かしかないじゃないですか

大原:そ、そうなの?

啓太:あと、毎朝家来るのやめてください、土日まで待ち伏せされてて怖いんですけど

春香:あ、はい、すいません

啓太:はい

啓太:あと大原

大原:はい

啓太:俺はアンパンこしあん派だし、バニラアイスも嫌いだから

大原:あ、そうなんだ

啓太:それに、いくら食べないからって食べ物人の顔に押し付けないでください

啓太:ベタベタするし、そういう悪ノリみたいなの社会に出たら通用しないので

大原:あ、え、いやでも・・・すいません

啓太:はい

啓太:じゃあ俺、海目指すんで、このへんで

大原:はい・・・

啓太:(去り際に)あ、そうだ岸本さん

春香:はい

啓太:そいつ、あなたのこと好きですんで、付き合ってあげてください

春香:え?

大原:あ、お前それは、あの、えっと

啓太:それじゃ

0:啓太、退場

0:長い間

大原:あのーー

春香:はい

大原:えっと、とりあえずその

春香:ええ

大原:付き合いますか

春香:無理です

0:暗転