秋の夜長に声を
【詳細】
比率:性別不問1
現代・その他
時間:約5分
【あらすじ】
「……また聞こえた」
夜。
ベランダで煙草を吸うときにたまに聞こえる音。
俺はこの音の主を知っている。
*こちらのシナリオは男性口調で書いておりますが、性別不問とさせていただきます
女性の方が読まれる際には、一人称等の変更をお願いいたします
*こちらのシナリオは、『秋の夜長に思う』と対のシナリオとなっております
【登場人物】
俺:独り身。
ベランダでよく煙草を吸う人。
●自宅のベランダ
ぼんやりと空を眺めながら煙草を吸っている。
俺:
「……また聞こえた」
夜、煙草を吸うためにベランダに出るとたまに聞こえてくる音
静かに声を殺して泣き、鼻をすする音
それは決して大きくはないが、深夜の静かな時間にははっきりと音となって響く
なにをそんなに静かに泣く必要があるのだろうか
時折、消え入りそうな声で聞こえる「大丈夫」の呟きは何のための言葉なのだろうか
声の主に直接その理由を問いかけてやりたくなる衝動をグッと堪える
それはあいつの思いを否定してしまうような気がするから
俺はこの音の主を知っている
前に一度、音の主に悟られないようにソッと隣を覗いて見たことがある
別に何もやましい気持ちなんてなかった
それだけは胸を張って言える
ただ、隣の部屋が何かあって事故物件になるのが嫌だったんだ
あの日、覗いた先にいたのは同じ部署の後輩だった
いつも笑顔でみんなから慕われている後輩。会社での彼女のイメージはそれだった
だから心底驚いた
そりゃあ、多少は我慢してるものもあるだろうとは思っていたが、これほどまでとは思っていなかった
だからと言って、俺に出来ることってなんだ?
会社で「大丈夫か」と声をかけることは間違っている気がする
それはあいつの頑張りを無碍にしてしまうことになる
第一、なんて声を掛ければいい……
……会社じゃなければいいのか?
ベランダ越しに話しかけるだけなら許されるか?
声を掛けるだけなら誰かなんてバレないだろう
万が一顔を見られたとしても、幸い会社と家では服装もスタイルも全く違う
俺が誰かなんてバレることなんてないだろう
……声を掛けてみようか
一人で何を抱え込んでいるのかは知らないがそこまで抱え込むなと
最初は直接的には言えないだろうから、何でもいいから一言
きっかけの言葉を
それこそ、「寒くなりましたね」なんて世間話でもいい
ただ、今この瞬間の自分は一人じゃないんだと感じてもらえればいい
誰かと他愛のない話が出来る。それだけで少しは気持ちが楽になるはずだから
そこから先のことは後で考えよう。そう、まずは一言
「こんばんは」
―幕―
2021.10.09 ボイコネにて投稿
2022.09.08 加筆修正・HP投稿
お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)