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紅く色づく季節

ハンバーグの思い出

2022.09.08 06:05

【詳細】

比率:女1

現代・日常・ラブストーリー

時間:約10分


【あらすじ】

同棲して半年。

仕事から帰ってくる彼を温かい手料理で出迎えようとする彼女。

時刻は夕方の十八時ちょっと過ぎ。

キッチンに立ち、料理をしようとすると優しい彼との思い出が溢れ出す。


【登場人物】

華:同棲して半年の彼氏がいる。

  最初は料理が苦手だったが、最近はレパートリーも増え失敗も少なくなってきた。



●自宅・夕方

   仕事から帰ってくる華。


華 :

「ただいま~」


時間は平日の十八時

返事が返ってこないってわかっていても、つい外から帰ったら「ただいま」と言ってしまう


それはここ半年で新しく出来た私の癖

一人暮らしの時には感じることの出来なかった、『大切な場所』に帰ってきたと言う幸福感に一人でニヤニヤしてしまう

手には二人分の食材が入ったマイバック


「今日も頑張って作るぞ!」


玄関からキッチンまでの短い距離を年甲斐もなく小さくスキップをして移動してしまう

頭に浮かぶのは彼の暖かい笑顔と「美味しい」と言ってテーブルの上の料理を食べてくれる映像

料理がそんなに得意じゃなくて、レパートリーだって少ない私の料理をいつも美味しいと言って食べてくれる

それが例え失敗作だったとしても……


「……あぁ、アレは酷かったな…」


彼のことを思い出していたら、同棲し始めて一番最初にやらかした料理事件を思い出し苦笑が漏れる


忘れもしない、同棲三日目

引っ越しのバタバタも終わって、キッチン回りも片付けが終わった頃

今日はお家でゆっくりしようということになった

それならばと、お掃除を軽くして、これからお世話になるであろう近所のスーパーに足を運んだ

そこで調度やっていたお肉の割引セールとハンバーグの試食会

影響されやすい私たちが夕飯の献立にハンバーグを選ぶのに時間はかからなかった

必要な食材や飲み物、ついでに足りない日用品も買って、二人で楽しくおしゃべりしながら帰宅

重い荷物を自然とさらっと持ってくれる彼に再度ときめいたのはまた別のお話


だが、帰宅して食材をキッチンに運び終えて私は重要なことに気が付く

私はハンバーグを作ったことがなかったのだ

いや、正確に言うと、「一から作ったこと」がなかったのだ

そりゃ、私だって女の子だから、小さい頃や実家にいたときはお母さんの手伝いで料理はしたことはもちろんある

でも、それだって結構前の話で、一人暮らしをしてからはどうせ自分しか食べないのだからと簡単な炒め物や温めるだけの料理しか作ってない……

ハンバーグを作るなんてメニューの選択肢には上がったこともなかった


自分の置かれた状況を理解し、軽く固まる私の顔を彼が不思議そうに覗き込む

私はばれないように笑顔で彼をキッチンから追い出した

重い荷物を持ってくれたから休んでほしいっていうのももちろんあったけど、ハンバーグすら作れない女だと思われたくなかった

彼を追い出してからスマホで必死に調べながら作りはしたけれど、結果は火を見るより明らかで……

フライパンの上では形を形成できなかった可哀想な子がこちらを見ていた


「あれでふられてても不思議じゃないよね……」


あの現状を自分ではどうすることも出来なくて

私は彼に呆れられるのを覚悟でお皿に盛り付け、テーブルにハンバーグになる予定だったものを置いた

彼がまた不思議そうに私の顔を覗き込んで声をかけてくれる前に謝った

「ごめんなさい」と

彼は益々不思議な顔をした

それが申し訳なくて、私は泣きそうになりながら理由を話した

実はハンバーグを一から作ったことがないこと、レシピを見ながら作ってはみたが失敗してしまったこと

彼は私が全て言い終わるまで静かに聞いてくれていた

最後にもう一度、「ごめんなさい」と謝ると、彼は優しく微笑んで私をギュッと抱きしめてくれた

そして、頑張ってくれて「ありがとう」と頭を撫でてくれた

呆れられると思っていた私は事態が飲み込めなく、思わず「なんで?」と聞いてしまった

私の問いかけに彼は何故か嬉しそうに笑うと、「だって、華が俺のためにはじめての事に一人で挑戦してくれたんでしょ? だから、ありがとう」と言ってくれた


「あのあと、大泣きしちゃったんだよね」


彼の言葉が嬉しくて、私は彼の腕の中で大泣きしてしまった

私が泣き止んだのはそれからしばらくたってから

お料理も冷めちゃって、さらに食べられないものになってしまっていた

これはもう明日の私のご飯にまわそう

そう思ってお皿に手をかけようとすると、それより早く彼の手がお皿にのびていた

彼の行動にビックリして彼の顔を見上げるとにっこりと微笑まれた。

「温めて二人で食べよう」

彼の言葉に私はまた涙が溢れてきてしまった。こんな優しい人と出会えたことを神さまに感謝した。


「懐かしいな~」


あの日を思い出しながらマイバックから取り出すのは今日の夕飯の食材

予想通り、あれからずっとお世話になっているスーパーで買ってきたひき肉、そして、たまねぎ


「ふふふ、もうあの頃の私ではないのだ!」


あれから、彼に美味しいご飯が食べてほしくて必死に料理の勉強をした。私は成長したのだ

それを彼に伝えよう


「まぁ、伝えなくてもわかってくれてると思うけど」


それでもちゃんと伝えたい

時刻は十八時ちょっと過ぎ。彼が『ただいま』とドアを開けて帰ってくるまであと約一時間

最高のお料理でお迎えするんだ



―幕―



2020.11.17 ボイコネにて投稿

2022.09.08 加筆修正・HP投稿

お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)